64 / 79
戻ってきた
しおりを挟むフューリズはローランと再会した。
ローランは騎士の格好をしていて、自分の邸で働いていた頃とは様相が違っていた。
その慣れない姿に、フューリズは少しの間目を奪われたのだ。
そしてローランもまたフューリズの容姿が変わっていたことに驚きを隠せなかった。
髪と瞳は赤くなっていて、以前はドレスのシミやシワ一つ気にしていたと言うのに、今着ている物は街娘が着るような服で、それも返り血などで汚れていたりする。
今までのフューリズを思うとそれはあり得ない姿だった。
そして何より、ローランに対して礼を言ったのだ。
幼少の頃から仕えていたローランは、フューリズから礼を言われた事など一度も無かったのに、だ。
何があってそうなったのか……気にはなったが、今はそんな事を確認している場合ではなかった。
「フューリズ様、王城へお連れ致します。私の後ろを離れないでください」
「あ、ローラン! 私は王城へは戻らないわ!」
「では邸へ行かれるのですか?」
「いえ……王都を出るわ」
「何故です?! 何かあったのですか?!」
「……やっぱり呪いは効かないのね……」
「え? 何ですか?」
「何でもないわ。とにかく、私はここから離れるの。貴方は私を放っておいても良いのよ?」
「それは……」
「手を……貸してくれるのなら……一緒に来ても良いのだけれど……」
「手を貸す? どういう事なんでしょうか?」
「良いの。では私は行きます」
「あ、お待ちください、フューリズ様っ!」
いつになく弱々しく見えたフューリズが気になって、ローランは後を追った。その時、魔物がフューリズに襲いかかった。しかしそれは一瞬で胴体と首が分断され、魔物はあっという間に絶命した。
ローランは何があったのか、はじめは理解できなかった。今までフューリズの元で働いていた頃は、何かあればそれに対応するのはローランの役目だった。それで手をかけた人々はかなりの数になる。
命令するだけで、自分では何も出来ない子だと思っていた。人を良いように動かすだけで、他にはなんの力もない子だと。
それがどうした事か。一瞬にして凶悪な魔物を斬り伏せる事が出来る力を持っていたとは……
見たところ、風魔法で鋭利な刃を作りだして斬り込んだのと推測できる。しかも詠唱もせずに瞬時に魔法を繰り出したのだ。
自分とは明らかな力の差を見せつけられたように感じて、ローランは暫く呆然としてしまった。
しかしすぐにハッとして、去っていくフューリズの後を追って駆けて行った。
そのままフューリズの前に出て、守るように進んで行ったのだ。
それを見てフューリズは驚きと同時に嬉しさが込み上げてきた。
慈愛の女神の生まれ変わりではないとされ、地下に幽閉されてから、誰も自分の元へ来ようとはしなかった。
唯一来てくれたのは父親のブルクハルトだけだった。
しかし、それも自分を拒否した事でこの手にかけてしまった。それは仕方がない。愛を裏切ったのだから。
それからはずっと一人だ。
何とか逃げ出し、街道を走る行商人の馬車の前に飛び出し馭者と乗っていた商人を操り、近くの村へ行き村人全員を操り、その後また近くの村や街へ行き操っていき、自分の配下を増やしていった。
多くなっていく配下に満足はしても、心は満たされなかった。
いつも虚しさが胸に渦巻いていて、腹いせに意味もなく殺し合いをさせたりもした。それでも満たされなかった。
これは自分をこんな目に合わせた者に罰を下していないからだと悟った。だから王都を襲った。しかしそれも失敗に終わった。
王都を襲った大勢いた配下の者達は、皆が何故か魔物になってしまった。そしてあろうことか自分にも攻撃してきた。これが腹立たしく思わない訳がない。
そんな状況下で唯一、自分が操ってもいないのに守ろうとしてくれる存在に、フューリズは心が絆されてしまったのだ。
「ローラン……私を守ってくれるの?」
「それが私の役目でしたからね。今はもう違いますが……」
「そうね……でも……嬉しいわ……」
「え?」
「私は王城へは戻らない。私を蔑ろにした王家に仕返しをするの。罰を与えるのよ。その為の力をこれからもっと身に付けるわ。貴方はどうするの? こんな事を言っている私を、不敬罪で捕らえるのかしら?」
「フューリズ様……」
話してる途中でも関係なく魔物は襲ってくる。それを剣で往なしていく。
今までローランには、ほぼ無抵抗の者を斬り伏せるよう命令してきた。だからこうやって攻撃してくる者に剣で立ち向かう姿をフューリズは初めて見たのだ。
自分を守ってくれる騎士の姿のローランに、フューリズは呆気なく心が動いてしまった。
あっという間に魔物を倒したローランの姿を何も言えずに見続けるしか出来ずにいたフューリズに、ローランは優しく笑いかけた。
「不敬罪と言われれば私もそうかも知れません。命令に従っていたのに責任を取らされ爵位を剥奪され、理不尽に思っているのは不敬ではありませんか?」
「それも不敬にあたるのかもね?」
「では私とフューリズ様は同じ立場かも知れませんね」
そう言って微笑むローランの言葉がフューリズは嬉しかった。何もかも無くした自分にただ一人、微笑みかけてくれたローランに心を寄せるのは仕方のない事かも知れなかった。
そうしてローランとフューリズは二人で王都を後にしたのだった。
一方ウルスラは、王都を出てから一人フラフラとさ迷うように森へと入っていった。
王都の近くには森があり、街道はキチンと整備されていて、この森では獣が出る事も少なく実りも多い事から人の出入りも多く、安全な場所とされていた。
しかし今は王都で起こった暴動の後処理等で、誰もそこにはいなかった。
あんな事があった後だけれど、森の中は澄んだ空気に充たされていて、陽射しは暖かくとても心地が良い。
幼い頃から森は慣れ親しんだ場所。やっぱり安心する。
そんなふうに感じながら、ウルスラは花を抱えて当てもなくさ迷う。
少し進むと、目の前に小さな妖精が見えた。
妖精は興味深く、ウルスラの周りをパタパタと飛んでいて、それがとても可愛く感じて嬉しくなった。
気づくと妖精は段々と増えてきて、至る所に様々な妖精がいるのが見えた。
何か話し掛けられてる。けれど何を言われているのか聞き取りにくくなってきた。何故か目の前が段々暗くなってくる……
疲れがたまっていたからか、体力が底をついたか、木を背にしてウルスラは、しっかり花を手にした状態で安心したように眠りについた。
暫くして……ザワザワ声がして、何だろうと思って目を開ける。
そこにはさっきもいた妖精達がいて、ウルスラを心配そうに見ていた。
辺りを見ると、そこはさっきの場所ではなくて見覚えのある場所だった。
そこは幼い頃にいた森の中で、目の前にはあの小屋があった。
ウルスラは帰りたかったこの場所に、ようやく戻ってくる事が出来たのだった。
0
あなたにおすすめの小説
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~
ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。
王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。
15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。
国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。
これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる