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閑話 崩壊 2
しおりを挟む王城の王族が住まう一角にアマディスの自室はあった。
真夜中、眠っているアマディスの耳に何やら騒がしい音が聞こえ、何事かと目を覚ます。
その時バタバタと急ぎ走る足音が聞こえ、扉をノックもせずに勢いよく開け騎士がやって来た。
「アマディス陛下っ! お逃げくださいっ! もうこの城は……っ!」
最後まで言える事なく、騎士は討たれてその場に崩れた。
その傍に立っていたのはロヴィーだった。
「ロヴィー、どうした?! 何が起こっている?!」
「下剋上ですよ。アマディス陛下」
「なに……?」
「アマディス様っ! お逃げくださいませっ!」
「ユスティーナっ!」
ロヴィーは王妃ユスティーナを後ろ手にして捕らえていて、ナイフを首に当てていた。
その後には、幼い王女と王子も捕らえられており、涙でガタガタ震える子供達にも容赦なくナイフは突き付けられていた。
「抵抗しないでくださいよ? ユスティーナ王妃や貴方の大切なお子様達がどうなってもよろしいので?」
「なぜだ……なぜこんな事をする! ロヴィーっ!」
「孤児に与えられたお恵みに、私が満足していたとお思いですか? 私は一生そうやって貴方に飼い慣らされていくのみでしか無かったのですか?」
「それが不満だったのか?!」
「ユスティーナ様を愛しております」
「な、に……?」
「自分の物にしたくて、毎日恋焦がれましたよ。決して手の届かない、美しいユスティーナ様……それが今は私の腕の中にいる……」
「貴様……っ! ユスティーナにそれ以上触れるなっ!」
「ハハハハっ! アマディス陛下、ご自分の立場を分かっておいでですか? 今、この城の中は貴方の命令を聞く者等誰もいないのですよ! 私が有志を集い、結束を固めました。貴方は平民と貴族とを分け隔てなく扱ってくれていましたが、貴族からすれば屈辱的だったようでしてね。それはそれは私達平民の使用人はいたぶられましたよ」
「そんな事が理由なのか……?!」
「それが理由で何が悪いのですか? どれ程の事をされてきたのか分かりもせずに容易くそんな事が言える等っ! そういう所が許せなかったのですよ!」
既にアマディスは反逆者に拘束されていて、魔道具で魔力を封じ込まれていた。
騎士や貴族の食事に毒を盛り、平民である兵士や使用人達を誘導したのはロヴィーだった。
「やっと貴方に目にものを見せてやれる……」
「何を……っ!!」
ロヴィーはニヤリと笑い、ユスティーナを襲いだす。それには流石にユスティーナは抵抗するが、アマディスも捕らえられ剣を向けられていて、子供達もいつ殺されるか分からない状態で、それ以上抗う事ができなかった。
ナイフで服を破られていき、アマディスと子供達がいる目の前でユスティーナはロヴィーに凌辱されてしまう。
「いやぁぁぁぁっ!!」
「ハハ、ハ……ずっとこうしたかった……!」
「やめろっ! ロヴィーっ! やめてくれ!!」
「こんな事をやめる訳ないでしょ……ハハハ、ユスティーナ様は……もう俺のモノだ……」
「誰が……お前のものに等っ……!」
「こんな事をされて……まだ抵抗するなんて……いつまでそうしてられるのか」
抵抗するユスティーナにロヴィーは容赦なくその体を自分の好きなようにしていった。
涙を流しながら、抵抗虚しくユスティーナは汚されていく。それを何も出来ずにアマディスは見ているしかできなかった。
さんざん弄び、自分の思うがままにした後、ロヴィーは想いを遂げられたからか満足したからか、他の者にもユスティーナを襲わせた。
高貴で多くの知識を持ち、誰からも好かれ愛されたユスティーナは、そうやって下賤の男達に弄ばれていったのだ。
ことが終わると、ロヴィーはユスティーナを殺害した。
そして、王女と王子を解放し、逃げ惑う姿を楽しみながら追いかけ、剣で貫いて殺害した。
もう動けなくなっているにも関わらず、何度も何度も笑いながらロヴィーは小さな子供に剣を突き刺していった。
裕福に、なに不自由ない生活をし、誰からも愛されたこの子供達がロヴィーには許せなかった。だから絶命するまで何度も何度も恐怖を与えながら殺していったのだ。
目の前で最愛の妻と子供を殺されたアマディスは我を失う程に叫び喚いた。
城の様子がおかしい事に気づき、ウルスラがアマディスの傍に現れた時には既に王妃と子供達は殺害されていた。
女神の加護である力を使うことは出来ず、今ウルスラに出来るのは浄化と呪いの力だけだった。
浄化の力を使い、何とか心根を正そうと試みたけれど、根底にある屈折した性格に届く事はなかった。
呪いの力を使った事はなく、ましてや使い方も分からなかったウルスラは、ただ狼狽えるようにアマディスに寄り添うしか出来なかったのだ。
アマディスはその後、牢獄へと幽閉される事となった。
ロヴィー率いる反逆者達は、城にあった宝を探すべく奔走する。
しかし、それは簡単に見つからないのだと思い知らされた。
異変を感じた魔術師は、こういう時の為にある訓練を受けていて、それを即座に実行に移した。
文献や希少な宝を守る為、魔法陣を展開し、そこに踏み込んだ際には魔物が召喚されるという仕組みにしたのだ。
それからすぐに魔術師は殺される事になってしまったのだが。
これにより、文献や宝は守られることとなった。
しかし、想定していたよりも得られる物が僅かとなってしまった事に憤ったロヴィーは、魔法陣の解除方法を聞き出す為にアマディスを拷問した。
迂闊に魔術師を殺してしまったが為に、魔法陣を解除する方法が分からなくなり、出現した凶暴な魔物を倒す事も出来ず、そうするしか方法がないと思ったロヴィーは、アマディスに酷い拷問を施し、口を割らせようとした。
だが、術者でないのに解除方法が分かるわけもなく、アマディスはいたぶられるのみとなってしまったのだ。
あまりに酷い拷問が続き、アマディスは正気を失いかけた頃、それまでどうにかしたくても出来ず、耐えてその状況を見ていたウルスラは我慢が出来なくなる。
その頃にはアマディスは、全身が傷だらけで顔も原型を失う程に腫れ上がり、立っているのもやっとな程となっていた。
それでも絶えず拷問を続けるロヴィー達反逆者達に、ウルスラは初めて怒りを覚えたのだ。
その怒りが呪いを発動させる事となった。
全身からどす黒い紫の霧がウルスラの全身から滲み出てくる。それは広範囲に渡って漂い広がっていった。
そして自身を守るように、ウルスラは水晶に覆われていく。それは奇しくも呪いとは正反対の、浄化の力だった。この怒りを誰にも邪魔されないようにする為にウルスラはそうしてしまったのだ。
人であった頃から怒りとは無縁だったウルスラにはそれをどうおさめるか、その方法が分からなかったのだ。
その呪いを受けた者は全身真っ黒になり、苦しむようにして生き絶えていく。
それを見てアマディスは、この呪いが広がると城内だけでなく、王都にいる人達にも被害が及ぶと考えた。
「ウルスラ……怒りを鎮めてくれないか……頼む、ウルスラ……」
しかし水晶に覆われ、中に閉じ籠ってしまったウルスラにはアマディスの声さえも届かなかった。
これ以上呪いが広がると大変な事になると分かっているアマディスは、自身も呪いに侵されながらもウルスラを覆う水晶に封印を施した。
その頃には呪いで魔力を封じる魔道具も使い物にならなくなっていた。
そうしてから、水晶の中にいるウルスラを抱きしめるようにしてアマディスは、呪いにより体を真っ黒に染めてその場から動かなくなった。
そのままアマディスは絶命してしまったのだ。
目の前の水晶に阻まれて、だけど自分を抱きしめるようにして呪いに屈したアマディスの姿を見たウルスラは、そうなってからやっと正気を取り戻した。
しかし時既に遅く、その場にいた者は全てが真っ黒になり生き絶えた状態だった。
自分がアマディスを殺してしまった。
その事実に気づいた時、ウルスラは堪えられずに泣き叫んだ。
「いやあぁぁぁぁっ! アマディスっ! あぁぁぁっっーー!!」
自分のしてしまった事が許せなくて、ウルスラは我を忘れて泣き続けた。
深い悲しみに耐えられる事はなく、悲しみと後悔と涙は止まる事なくウルスラの心を苦しめた。
その時、天変地異が起こる。
穏やかに聳え立っていた、この国を守るように存在していた山が噴火したのだ。
地震が起きたように激しく揺れ、噴火したマグマは周辺を焼き、大量の火山灰は広く降り注ぐ。それは一瞬にして王都を、近隣の街や村を覆いつくしていったのだ。
そうして一夜にしてボタメミア国は消失した。
火山灰に覆われ、その存在ごとが封じられてしまったのだ。
何処よりも大きく、何処よりも煌びやで、何処よりも活気があったボタメミア国、王都メイヴァインは呆気なくその姿を消した。
それがウルスラが悲しんだ結果だったのかどうなのかは誰にも分からない。
輝かしく何処よりも栄えたボタメミア国。
それは歴史に大きく名を残す。
天変地異により姿を消したボタメミアは、最も美しい国であったと後世に語り継がれる事となっていった。
今は鬱蒼と生い茂る森の中にその城の遺跡は佇むだけ。
ただそこに佇むだけ……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
これにて完結です。
この話は前々作の『黒龍の娘』に登場する、精霊ウルスラの話を描いたものでした。
悲しい終わり方になってしまいましたが、もしその後のウルスラが気になった場合は、『黒龍の娘』の100話辺りを読んで頂くと分かって頂けるかと思われます。
ここまでお読みくださった方、本当にありがとうございました!
(* >ω<)"
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