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5話 元聖女フィグネリア
しおりを挟むシオンの母親フィグネリアはその昔、聖女と呼ばれていた。しかし、モリエール公爵領であるレサスク領を浄化し病を根絶させた事により、その力を失ったとされた。
そして力を無くしたフィグネリアを身請けたのがルストスレーム伯爵家だった。
ルストスレーム伯爵家は田舎に広大な領土を構えていた。そこに希少な鉱石が採れる鉱山が見つかったことにより財を成したルストスレーム家は、力を失ったフィグネリアを身請けする事により知名度の向上を図り、王都に居を構える事を目的とした。
フィグネリアは元は男爵家の令嬢であり、然程裕福ではなかったが5人兄妹の末っ子で唯一の娘であった事から、誰からも愛され甘やかされて育った。
それでも男爵家という低い身分が自分には不適合と感じ、誰よりも特別な存在でいたいと、今以上に贅沢ができるようになりたいと、幼い頃よりそう思っていた。
そんな時に得た、人を癒やすという力。それを利用しない筈もなく、フィグネリアは高位の貴族や王族相手にその力を惜しみなく使っていった。
程なくしてフィグネリアは聖女という称号を与えられた。それはフィグネリアが15歳の頃だった。
力を得てから失うまでの間、フィグネリアはその美しい容姿からも女神のように崇められ続けた。こうして幼い頃より願っていたように裕福で特別な存在になれたのだ。
力を失ってからはルストスレーム伯爵家に嫁ぎ、尊敬し敬うフィグネリアに頭が上がらない夫は、言われるがままにフィグネリアに贅沢をさせた。
力を失うことがなければ、聖女は皇太子と婚姻を結んでいた筈だったのだ。フィグネリアはそれをいつまでも悔しく思っていたし、夫も自分に嫁いでくれた事を申し訳なく思っていた。
だからフィグネリアの思うようにさせ続けた。それはシオンと弟アルトゥルが生まれても変わることはなかった。
しかし、順調だったルストスレーム家の経営は次第に傾いていくことになる。所有していた鉱山から鉱石が僅かにしか採れなくなっていったのだ。その為人員を増加し、無理な作業を強いたのだがその結果、大規模な崩壊事故を引き起こしてしまう事となる。
多くの作業員が生き埋めとなり、近くの村や街にも被害が及んだ。加えて大雨による災害にも見舞われ、ルストスレーム家が抱えるメロトノール領は大打撃を受けた。
復興作業も上手く進まず、多大なる費用が必要となるなか、そんな事は関係ないとばかりにフィグネリアは以前と変わりなく贅沢をする。少しでも苦言を呈しようものなら激怒し、暴れ、物を投げては部屋中を無茶苦茶にする。
そんな状態のフィグネリアに夫は何も言うことが出来なくなった。
復興作業の為に領地に帰った夫の不在中、フィグネリアは若い男を邸に呼び閨を共にした。
美容に贅を尽くしたフィグネリアは変わらず美しく、魅力的な女性のままだったのだ。
領地から帰ってきた夫に不義の現場を見られても、フィグネリアは当然の事だとばかりに悪びれる事は一切なかった。
そして悪いことは重なるもので、夫が手を出した巨額の投資が詐欺だった事も判明。
なす術が無くなったルストスレーム家は没落の一途を辿るしかなかったのだが、夫はシオンの婚約の話を思い出す。
そうしてシオンは汚名を着せられたまま、支援金目当てで持参金もほぼ無い状態で、モリエール公爵家へと無理矢理送り出されたのだった。
そんな状況でシオンが快く受け入れられる等ある筈はない。加えて悪評もある令嬢なのだ。そしてその事をシオンは痛いほど分かっていた。
だからどんな扱いを受けても何も言えなかったし、言うつもりも無かった。
ただ、ジョエルにはそれが許せなかった。
シオンは幼い頃より心優しい女の子だった。
ジョエルはルストスレーム家に奴隷として買われてきた。それはまだシオンが5歳で、ジョエルが7歳の頃だった。
この国には僅かだが、まだ奴隷制度が残っている。昔は貧困で仕方なく親が子供を売ったり、戦争孤児や拐われて売られたりした事が多々あり、売られた先では家畜のように扱われるのが当然とされていたのだが、今は奴隷となっても生活保障はされるべきと制度は改善された。
とは言え、悪しき慣習をやめられない人達がいるのも事実で、フィグネリアもその一人であった。
フィグネリアの奴隷に対しての扱いは昔と変わることはなく酷いものだった。
それを救ったのがシオンだったのだ。
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