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43話 守るべきだったのは
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治療を終えたと医師はテントから出てきた。そして、状態を説明する為に中へと促す。
リュシアンとジョエルは一旦離れ、この場は休戦となった。互いに睨み合いながらも二人でテントに入っていく。
簡易ベッドに寝かされたシオンは眠っているようだった。肩に包帯を巻かれていて、顔色も悪く、グッタリした様子がとても痛々しい。
「左肩に引っ掻かれた痕があり、それが出血の原因となっております。同時に火傷も負われています。傷自体は深くないのですが、傷と火傷が合わさって、完治するのに時間はかかるかと……」
「そうか……」
「今後は火傷の治療に専念した方が良いですね。感染症に気を付けなければなりません。それと……」
「それと、なんだ?」
「奥様はかなりお痩せになられています。栄養が足りていないと思われます。栄養のある物を毎食摂らせてください」
「そう、なのか?」
「栄養失調と言ってもいい程の状態でしたから、まずは体力を付けて回復力を上げないといけません」
「栄養失調だと?」
公爵夫人が栄養失調とは、それは恥ずべき事である。と同時に、そんな事に気づかなかったのもまた恥ずべき事だ。情けなさからリュシアンなギリッと唇を噛んだ。
「そうです。あと、ですね」
「他にもあるのか?」
「はい……奥様の体には古傷が至る所にございました。今までキチンとした治療は受けられていないと思われますが……」
「なに……?」
「あの傷では生活するのにも苦労されたんじゃないでしょうか。古傷なので、今から治療するのも限度がございますが、できる事はこちらでさせて頂きます」
「そう、か。頼んだ」
ペコリと頭を下げて医師はテントから出ていった。眠っているシオンのそばには、見守るように控えていたメリエルが涙ぐんでいる。
ジョエルは眠っているシオンに駆け寄り、右手を両手で握った。
リュシアンは医師に言われた事に少なからずショックを受けていて、そこから微動だに出来ずにいた。
知らなかった。栄養失調と言われる程に痩せていた事も、体に古傷があった事も。
さっきジョエルに言われた事をリュシアンは思い出す。
『噂だけを信じて真実を知ろうとせず!』
確かそう言っていた。
贅沢三昧でルストスレーム家を没落寸前にまで貶めた悪女であり、男娼を侍らすふしだらな令嬢。そんな噂であったが、シオンがフィグネリアの娘だからこそ、その噂を疑う事なく真実であるとリュシアンは思い込んでいた。
『何も知らず分かろうとせず!』
ジョエルの悲痛な叫びとも言えるような苛立ちと悲しみの顔を思い出す。
シオンは噂のような悪女ではなかったのか……?
まともに話した事もない。フィグネリアに似た顔を見るのも苦痛を覚える程だったから、キチンと見た事もない。痩せていることすら気づかない程、その姿を気にも止めなかった。そして噂だけを信じ、ジョエルの言うとおり真実を知ろうともしなかった。
今更ながら自分の至らなさと浅慮さに情けなくなってくる。
「クソ……っ!」
ジョエルに言われた事が頭を巡る。アイツの言う事を鵜呑みにはしない。だが、だからこそ、これからは自分の目で見て感じて真実とやらを見つけてやる。そうリュシアンは心に決めたのであった。
魔物が出現した事で、狩猟大会は中止となった。
シオンの他に魔物の被害を受けた者はいなかったが、恐怖で動けなくなった者や気を失った者等、精神的に打撃を受けた者が何人もいたからだ。それに戸惑い逃げ出した人々と魔物によって広場は荒れてしまったし、何よりまだ魔物が出没する可能性もある。
国王陛下は魔道士を何人も呼び寄せ、森を囲うように強力な結界を張らせた。
そして何故この森にはいないとされていた魔物が現れたのかを調べる為、調査隊が結成された。
国王は魔物を討伐した褒賞を授与させようとしたが、それをリュシアンは頑なに断った。夫として守らなければならなかった存在である妻のシオンに怪我を負わせてしまったのは不甲斐ないからだと、自分を責める事はあれど褒められる事ではないと考えたからだった。
公爵家に戻ったシオンは、本邸で療養する事になった。
別邸では行き届かないところが多々あるだろうし、人員もすぐには確保できないという事からだった。
以前のようにメリエルが苛められないように、侍女長とセヴランに目を光らせるように言い伝えておく。
シオン用の部屋として最初にあてがう筈だった二階の部屋で、シオンは療養生活を送る事になった。
元より右手は麻痺で上手く使えない状態であるのに、今回は左肩の怪我だ。食事をするのも一苦労しているシオンに、ジョエルは付きっきりで世話をしようとする。
だけどそれをシオンは断って、なるべく何でも自分でしようと試みる。
まだベッドから出られない状態ではあるが、この部屋は充分な広さがあって窓が大きく、ベッドからでも外の様子がよく見えた。
綺麗な花々が咲き誇り、丁寧に刈られた木々が美しく立ち並んでいるのを見るのがシオンは好きだ。
だけどシオンはそれよりも別邸の庭が気になっていた。だからジョエルに引き続き庭の手入れを頼んだ。
シオンの世話は主にメリエルがする。
あの時……アウルベアが炎に燃えながらも一撃を加えようとした時、なぜ自分がリュシアンに守られたのかがメリエルには分からなかった。
だが、それがシオンに怪我を負わせた要因となったのは明白であると考えていて、その事を申し訳なく感じて、メリエルはシオンの世話を一生懸命するのだった。
そして本邸に移り住んでから一日に一度は必ず、リュシアンが見舞いにやってくるようになったのだった。
リュシアンとジョエルは一旦離れ、この場は休戦となった。互いに睨み合いながらも二人でテントに入っていく。
簡易ベッドに寝かされたシオンは眠っているようだった。肩に包帯を巻かれていて、顔色も悪く、グッタリした様子がとても痛々しい。
「左肩に引っ掻かれた痕があり、それが出血の原因となっております。同時に火傷も負われています。傷自体は深くないのですが、傷と火傷が合わさって、完治するのに時間はかかるかと……」
「そうか……」
「今後は火傷の治療に専念した方が良いですね。感染症に気を付けなければなりません。それと……」
「それと、なんだ?」
「奥様はかなりお痩せになられています。栄養が足りていないと思われます。栄養のある物を毎食摂らせてください」
「そう、なのか?」
「栄養失調と言ってもいい程の状態でしたから、まずは体力を付けて回復力を上げないといけません」
「栄養失調だと?」
公爵夫人が栄養失調とは、それは恥ずべき事である。と同時に、そんな事に気づかなかったのもまた恥ずべき事だ。情けなさからリュシアンなギリッと唇を噛んだ。
「そうです。あと、ですね」
「他にもあるのか?」
「はい……奥様の体には古傷が至る所にございました。今までキチンとした治療は受けられていないと思われますが……」
「なに……?」
「あの傷では生活するのにも苦労されたんじゃないでしょうか。古傷なので、今から治療するのも限度がございますが、できる事はこちらでさせて頂きます」
「そう、か。頼んだ」
ペコリと頭を下げて医師はテントから出ていった。眠っているシオンのそばには、見守るように控えていたメリエルが涙ぐんでいる。
ジョエルは眠っているシオンに駆け寄り、右手を両手で握った。
リュシアンは医師に言われた事に少なからずショックを受けていて、そこから微動だに出来ずにいた。
知らなかった。栄養失調と言われる程に痩せていた事も、体に古傷があった事も。
さっきジョエルに言われた事をリュシアンは思い出す。
『噂だけを信じて真実を知ろうとせず!』
確かそう言っていた。
贅沢三昧でルストスレーム家を没落寸前にまで貶めた悪女であり、男娼を侍らすふしだらな令嬢。そんな噂であったが、シオンがフィグネリアの娘だからこそ、その噂を疑う事なく真実であるとリュシアンは思い込んでいた。
『何も知らず分かろうとせず!』
ジョエルの悲痛な叫びとも言えるような苛立ちと悲しみの顔を思い出す。
シオンは噂のような悪女ではなかったのか……?
まともに話した事もない。フィグネリアに似た顔を見るのも苦痛を覚える程だったから、キチンと見た事もない。痩せていることすら気づかない程、その姿を気にも止めなかった。そして噂だけを信じ、ジョエルの言うとおり真実を知ろうともしなかった。
今更ながら自分の至らなさと浅慮さに情けなくなってくる。
「クソ……っ!」
ジョエルに言われた事が頭を巡る。アイツの言う事を鵜呑みにはしない。だが、だからこそ、これからは自分の目で見て感じて真実とやらを見つけてやる。そうリュシアンは心に決めたのであった。
魔物が出現した事で、狩猟大会は中止となった。
シオンの他に魔物の被害を受けた者はいなかったが、恐怖で動けなくなった者や気を失った者等、精神的に打撃を受けた者が何人もいたからだ。それに戸惑い逃げ出した人々と魔物によって広場は荒れてしまったし、何よりまだ魔物が出没する可能性もある。
国王陛下は魔道士を何人も呼び寄せ、森を囲うように強力な結界を張らせた。
そして何故この森にはいないとされていた魔物が現れたのかを調べる為、調査隊が結成された。
国王は魔物を討伐した褒賞を授与させようとしたが、それをリュシアンは頑なに断った。夫として守らなければならなかった存在である妻のシオンに怪我を負わせてしまったのは不甲斐ないからだと、自分を責める事はあれど褒められる事ではないと考えたからだった。
公爵家に戻ったシオンは、本邸で療養する事になった。
別邸では行き届かないところが多々あるだろうし、人員もすぐには確保できないという事からだった。
以前のようにメリエルが苛められないように、侍女長とセヴランに目を光らせるように言い伝えておく。
シオン用の部屋として最初にあてがう筈だった二階の部屋で、シオンは療養生活を送る事になった。
元より右手は麻痺で上手く使えない状態であるのに、今回は左肩の怪我だ。食事をするのも一苦労しているシオンに、ジョエルは付きっきりで世話をしようとする。
だけどそれをシオンは断って、なるべく何でも自分でしようと試みる。
まだベッドから出られない状態ではあるが、この部屋は充分な広さがあって窓が大きく、ベッドからでも外の様子がよく見えた。
綺麗な花々が咲き誇り、丁寧に刈られた木々が美しく立ち並んでいるのを見るのがシオンは好きだ。
だけどシオンはそれよりも別邸の庭が気になっていた。だからジョエルに引き続き庭の手入れを頼んだ。
シオンの世話は主にメリエルがする。
あの時……アウルベアが炎に燃えながらも一撃を加えようとした時、なぜ自分がリュシアンに守られたのかがメリエルには分からなかった。
だが、それがシオンに怪我を負わせた要因となったのは明白であると考えていて、その事を申し訳なく感じて、メリエルはシオンの世話を一生懸命するのだった。
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