叶えられた前世の願い

レクフル

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45話 気になる事

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 本邸で過ごすようになって、リュシアンからは対応を改善されて、シオンは随分と心が穏やかになっていた。

 まだ肩の痛みはあるが、ベッドから出て歩き回る事は可能となった。

 一日に一度、リュシアンが午後に見舞いにやってくる。もうお見舞いと言うほどベッドから出られない訳でもないのに、それを言うのは憚られてしまう。なぜならシオンはリュシアンに会いたいのだから。

 リュシアンは毎日のように手土産を持ってくる。

 それは街で人気の菓子であったり、小さな花束だったりした。

 側にはいつもメリエルがいて、腕が上手く使えないシオンの代わりに受け取っては
「今日はチーズケーキですよ! 奥様!」
と、嬉しそうに箱を空けて見せるのだ。

 その度に驚いたような顔をし瞳をキラキラさせるシオンを、リュシアンは不思議そうに見つめていた。
 何がそんなに嬉しいのか、驚く事があるのか、女性とはそんなものなのか、よく分からないからだった。

 3日に一度、医師はシオンの元へやって来る。

 肩の傷は少しずつ回復しているが、それだけではなく数ヶ月前に右腕に負った傷も診てくれていた。

 怪我の治り具合をリュシアンに報告しなければならないが、古傷に関してはシオンは何も言わないようにと医師に口止めをしていた。
 あまり自分を可哀想な子だと言う目で見られたくなかったし、何処にどんな傷があるか分かればリュシアンはどういう経緯でシオンに傷が出来たのか気づくかも知れないと思ったからだった。

 動き回れるようになったとは言え、シオンは部屋からは出ていなかった。部屋にはバス、レストルームもあるから、用がなければ出ていく必要はないからだが、そろそろ外出してもいいのでは? と考えるようになる。

 別邸の庭が気になるのだ。

 三人で拙いながらも少しずつ手入れしてきた庭だから、本邸の立派な庭園よりも思い入れがある。
 ジョエルが今も手入れしてくれているし、進行具合も毎日言ってくれているが、やはり自分の目で確かめたいのだ。

 だからリュシアンに聞いてみた。以前、何をするのも許可が必要だと言われていたからだ。


「ダメだ」

「え? なぜですか?」

「まだ傷も癒えていない。医師は感染症に気を付けるように言っていたし、外の空気に触れたらどうなるか分からないからだ」

「ですが窓はいつも空いてます。少し見てすぐに帰って来ますから……」

「しかし、悪化してしまったらどうするんだ? また熱が出たら大変だ」

「大丈夫です。わたくしはそんなに弱くありませんし……」

「そんな細いのに、弱くないわけがないだろう?!」

「え……?」

「と、とにかく! まだ外はダメだ!」

「では何処ならいいんですか?」

「それは……そうだな、まずは食堂で食事を共にしよう。それが出来るなら問題はないとみなすが」

「一緒に食事を……」

 
 それは出来ない、とシオンは唇を噛んだ。右腕は今も麻痺で上手く動かせない。左肩の怪我で、左手も痛みが響いて上手にフォークも操れない。
 それをリュシアンに知られたくは無かった。

 下を向いて何も言わなくなったシオンを見て、リュシアンは自分と一緒に食事を摂る事が嫌なのだと受け取った。

 それはそうか。今まで夫として接してこなかったし、会うたびに睨みつけて顔を見ないように目を背けてきたのだし、優しい言葉ひとつ掛けてやる事なく、酷い言葉を浴びせた事もあったのだから。

 俯いたシオンは悲しそうな顔をしている。その顔をさせているのは自分なのかと思うとまた自分が悪人のように感じて、リュシアンは良心の呵責の苛まれてしまう。

 
「では……医師に聞いてから、それで問題無ければ少しだけなら許す事にしよう」

「本当ですか?!」 


 パッと顔を上げ、嬉しそうににっこり微笑むシオンに、リュシアンは思わず動揺してしまう。
 この人はこんなに美しく笑う人だったのかと、今更ながらリュシアンは知ったのだ。

 シオンが喜んでいるのを見て、メリエルも
「奥様、良かったですね!」
と、同じように喜ぶ。二人の様子を見て、リュシアンも微笑ましい気持ちになっていく。

 いつしかそんな二人の姿を見守る事に癒しを感じている自分がいた。
 二人はいつも穏やかに、ゆっくりとした時間を過ごしているように感じる。それを見ているだけでもリュシアンの心は満たされていくのだ。

 しかし、気になる事がある。

 ノアは治癒魔法を使えていた。メリエルから貰った御守りにも、僅かながらもその効果は付与されている。
 それなのに、こんなに仲の良い二人なのに、メリエルはシオンに治癒魔法を使ってはいない。それは何故なのか……

 出来るならば治癒魔法は使わない方が良い。そのような希少な力があると知れ渡れば、また良いように利用されてしまうかも知れないからだ。
 だが、ノアはフィグネリアに傷を負わされたリアムに、毎夜治癒魔法で痛みを取り除いてくれたのだ。
 それはフィグネリアに悟られない程の微量なものだったが、それでも少しでも早く回復するようにと。

 これだけ仲の良い二人であれば、バレない程度に治癒魔法を施すのではないか。だが、シオンにそんな様子は見られない。毎回診察終わりで医師から報告を受けているが、なんなら回復は遅い方だと言っていた。医師は栄養がまだ巡っておらず、体に抵抗力があまり無いからだと言っていたが……

 そんな事を考えながらメリエルを見ているリュシアンを見るシオンは、あの日の事を思い出していた。

 アウルベアの攻撃から守るために、リュシアンがメリエルを抱き締めていたあの日の事を……




 
 
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