叶えられた前世の願い

レクフル

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47話 実情

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 医師の診察を受けたシオンは、嬉しくてワクワクしていた。
 長時間でなければ外出しても問題ないと言って貰えたからだ。

 昼過ぎにお見舞いに来たリュシアンに、早速その事を報告すると渋々了承してくれた。

 
「これから行くのか?」

「はい。ジョエルが来たら一緒に行くつもりです」

「どうせなら明日にすれば……」

「明日も行きます。これからはリハビリも兼ねて、毎日行こうと思っています」

「毎日?! それは流石に体に負担が掛かるのではないか?!」

「大丈夫ですよ。最近体調が良いんです。美味しい食事を頂けているから元気になりました」

「それでもかなり少食だと聞く。何か食べたい物があれば言って貰えれば用意するが……」

「充分です。贅沢をさせて頂いてます」

「そう、か……?」


 前よりは少し肌艶も良くなってるように思うし、ふっくらしてきたようにも見える。
 だがまだまだ細い。ちょっと強い風が吹けば飛ばされるんじゃないかと、リュシアンは心配になる。

 
「お嬢様! お迎えに上がりました!」


 意気揚々とやって来たのはジョエルだ。リュシアンがいるのを見て、ピクリと眉を動かし軽く礼をした。リュシアンもジョエルを見据えてグッと眉間にシワが寄る。

 
「奥様と呼ぶようにと言った筈だが?」

「そうでしたか? 申し訳ありません。記憶力が乏しいもので。では行きましょう。お嬢様・・・!」


 今度はリュシアンの眉がピクリと動いた。どうもコイツとはそりが合わないと、リュシアンは機嫌の悪さをあらわにする。

 ソファーに座っていたシオンがゆっくりと腰を上げようとすると、すかさずジョエルがそれを支える。そしてシオンはジョエルの腕に右腕を絡ませて部屋から出て行こうとする。
 二人の様子は仲睦まじい恋人のように見えて、シオンをエスコートするジョエルは紳士の如く完璧な立ち居振る舞いをしていた。

 それは本来夫であるリュシアンの役割なのに、未だシオンに触れた事もなく、こうして部外者のようにただ見ているだけしか出来ない事が歯痒く感じてしまう。

 はじめて会った時、シオンに
「貴女を愛することはない」
と言い放ったのはリュシアンだ。それを思い出すと、何も言えなくなってしまうのだ。

 しかし、出て行こうとするシオンを見て思わず声を掛けてしまう。


「ちょっと待て。その格好で行くのか?」

「え……? 何か可笑しいでしょうか……?」

「着替えないのか?」

「着替え、たんですが……」

「それで、か?」


 リュシアンに言われて、シオンは途端に恥ずかしくなって俯いてしまう。

 リュシアンにはシオンの着ている物が部屋着に見えたのだろう。しかし、これは数少ない外出用のドレスなのだ。流行遅れでシンプル過ぎるかも知れないが、シオンにとってこれは部屋着ではないのだ。

 リュシアンに悪気は毛頭ない。なぜ部屋着で、敷地内とは言えドレスに着替えないのかと気になったに過ぎなかったのだ。
 
 恥ずかしくて下を向いてしまったシオンに代わり、ジョエルが抗議のように言い返す。
 
「お嬢様の着られているのは外出用のドレスで、部屋着ではありません。他に適切なドレスをお持ちではないのです」

「なに? なぜだ? 無いのならなぜ購入しない?」

「あの、それは……」

「お金がないからです」

「は? そんな筈はない。公爵夫人用として毎月渡している金がある筈だ」

「さぁ。そんな物は一度も受け取った事はございません。ですからこれまで私達……シオン様は質素に慎ましく生活していたんです。夫である筈の方からは一度もプレゼントも頂いた事はございませんでしたしね」

「……っ!」

「ジョエルっ! 言い過ぎです!」

「申し訳ありません。お嬢様。さぁ、行きましょう。」


 そう言われて、リュシアンは何も言えなくなってしまった。

 シオンも何も言えずにいた。着替えたくとも他に外出できるドレスも似たり寄ったりのものなのだ。
 嫁いで来た時と、以前リュシアンに会う為に着ていったドレスがまだマシで、それも半端な生地で作ったストールと花の形に作った留め具で誤魔化していたに過ぎなかった。
 なので実質変わり映えしないドレスばかりで、結局は着替える事なくそのまま行く事しか出來なかった。
  
 毎月シオンには公爵夫人が使う金として、結構な金額を渡している筈なのだ。そう言えばセヴランがルストスレーム家から使いの者が毎月来ていて、その者に渡していたと言っていた事を思い出す。

 シオンには一切金が手渡されていなかった、という事だったのかと、リュシアンはこの時シオン達の置かれていた現状をはじめて知ったのだ。

 興味がなかった。どうでもよかった。自分には関係の無い事だと思っていた。
 だがそうではいけないのだと、このままではいけないのだと考えを改めなければと思ったのだ。


「ユーリ」

「はい」


 呼ぶと何処からかすぐに姿を現したのは暗部のユーリだ。
 

「あれからルストスレーム家の事は調べているか」

「現在、調査中でございます」

「早急に頼む」

「御意に」


 そう言うと、直ぐ様ユーリはまた姿を消した。

 ハァ……と、大きなため息が口から漏れ出る。シオンの部屋から出て執務室に戻る途中にある階段をふと見ると、ジョエルがシオンを抱き上げて降りている姿が見えた。

 シオンの噂の真実はまだ分からないが、やはり二人はそういう関係なのではと疑ってしまう。

 もし仮にそうであれば、今自分がこうやって思い悩んでいるのはなんて滑稽なんだろうか。
 結局あの二人の邪魔をしているのは自分であって、今まで干渉していなかった事は二人にとって都合が良かったのではないだろうか。

 
「ハハ……何をしているんだか……」


 自分が道化のように思えてきて、知らず笑いが込み上げてきた。
  
 それでもシオンの泣き出しそうな笑みを思い出すと、胸が苦しくなってくる。

 なぜそうなるのか。それが一体なんなのか。

 今のリュシアンにはまだ分からなかったのだった。
 

 

 
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