叶えられた前世の願い

レクフル

文字の大きさ
85 / 86

85話 執行

しおりを挟む

 ペグシルダム国 王都セルノーグ

 この国一番広い街であり人々の往来も多く、美しい店や宿屋が建ち並ぶ。劇場や美術館、大図書館と大神殿があり、観光客も多く賑わっている。

 ここはこの国で何処よりも繁栄していて、どこよりも煌びやかな街である。
 
 その街の中心部分には広場があり、本来であればそこに露店が並び、休憩に来る人々が集う憩いの場として活用されているのだが、今日はそこに簡易的な舞台が設置されていた。

 時折こうやって舞台が設置されるのだが、それは大概が罪人を公開処刑する為に用意される。

 そして本日も公開処刑が行われるとあって、朝から見物人が多く集まっていた。

 シオンは被害者として観覧席を用意されていたのだが、それは拒否し、遠くでリュシアン、ジョエル、メリエルと共に人々に紛れて様子を見守っていた。

 
「シオン、大丈夫か? 顔色が良くない。引き上げようか?」

「大丈夫……あの人の最後を見届けないといけない気がするの。だからここにいる」

「見て気持ちの良いものじゃないだろうに、凄い人だな。前に行こうとする人達が多い」

「私はもう少し後ろでも……」

「そうだな。そうしよう」


 四人は人混みから遠ざかるようにして舞台から更に遠くへ行き、道路脇に置かれてあったベンチに腰を下ろした。


「ジョエル、君もフィグネリアの被害者だ。アイブラー嬢も。だが、見たくなければ無理をする必要はない。この場を離れても、職務放棄にはしない」

「いえ。私もあの女の最後を見届けたいです。ここに、お嬢様の近くにいさせてください」

「わ、私もここにいます! 目は背けちゃうかもしれないんですけど、奥様の側にいます!」

「ありがとう、二人共。なんだか心強いわ。リュシアンもいてくれるし、私は一人じゃないんだものね?」

「当然だ。一人になんかしてやるものか。シオンが嫌だと言っても傍に居続けてやる」

「公爵様、それってもはやストーカーですよ」

「うるさいぞ、ジョエル」

「ふふ……相変わらずですよね。あ……始まるみたいですよ」


 今まで聞こえていた喧騒が、波を打ったように静かになった。

 舞台に役人と思われる人物が何人か上がってきて整列して立つ。
 その次に後ろ手に縛られた女性と男性が壇上へと上げられる。

 フィグネリアとルストスレーム伯爵だ。

 フィグネリアの艷やかで美しかった銀の髪はボサボサでくすんでいて、顔は頬もコケて顔色も悪く、贅を尽くして美しさを保っていた時の姿とは見る影もなかった。

 ルストスレーム伯爵も同様であり、虚ろな目をして下を向いていた。


「これより、この罪人共の公開処刑を行う!」


 声たかだかに執行役員が言い放つと、静寂に包まれていた群衆が一気に
「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉーーーーーっ!!」」」」」」
と声を上げた。

 次に罪状が並べられ、ルストスレーム伯爵は前に出され跪かされる。
 
 ガタガタと震えながら、膝を付き頭を下にすると、斧を持った執行人が一気に振り上げた斧を首目掛けて振り下ろす。
 それはあっと言う間の出来事であり、ゴトリと首が体から離れて落ちた瞬間、群衆のボルテージは更に上がっていった。

 遠目に見ていても気持ちの良いものではなく、思わずシオンは下を向いた。父親だったルストスレーム伯爵の記憶はほぼない。愛された記憶も虐げられた記憶も何もなく、父親に対しての感情もシオンからは沸き起こってはこなかった。

 だけど求めたかった。愛されたかった。そんな感情だけがシオンから受け取れて、それが胸を締め付けた。

 次に舞台中央に連れて来られたのはフィグネリアだ。


「この者、フィグネリア・ルストスレームは幼い少女の類稀なる能力を奪い、その能力を我が物とし聖女の称号を得た! 治癒、転移陣の設置を行ったが、それらはこの者の力ではなかった! 国王を騙し、我々を騙したその罪は大きい! また当時蔓延した疫病を抑える為に、その少女を無理やり街へ送り込み、死に追いやった! 聖女が疫病からこの国を救ったと言うのは大嘘であり、これまで得た聖女としての恩恵は全てその少女のものだったのだ!    
 加えて娘に対しての育児放棄! 自分が行っていた散財、男娼を部屋に呼び入れる、使用人達に暴力を振るう、等は全てこの者のした事であるにも関わらず娘に擦り付けた! 次に国王より鉱山崩落の援助金をーー」


 罪状が読み上げられると、聞いていた人々は怒りを露わに口々にフィグネリアを罵った。


「聖女じゃなかったんだな?!」

「幼い子供の能力を奪っておいて、何が聖女だ!」

「最低な女だな!」

「死ね! お前こそ死が相応しい!」


 フィグネリアを蔑む言葉があちらこちらから聞こえてくる。それを聞いているシオンは手で胸をおさえて心を鎮めようとしていた。

 リュシアンはシオンの両肩に手を置き、この様子を見守っている。


「うるさいわねぇ! わたくしのお陰でアンタたちも楽して遠くに行けてんのよ! それは全部わたくしのお陰なのよ! ここまで言われる筋合いなんてないのよ!」


 髪を振り乱して、フィグネリアは楯突くように民衆に向かって言い放つが、それを聞いた人々は更に憤り罵った。


「やっぱりアイツは、アイツこそが悪女だ!」

「うるさい!」

「死んで償え! この悪女!」

「わたくしは悪くない! わたくしは悪くない! わたくしは悪くないーーっ!!」


 今にも暴れ出そうとするフィグネリアを執行人が制する。力づくでフィグネリアを跪かせ、頭を押さえつける。そうされても尚、フィグネリアは怒りで自分は悪くないと叫び続けた。

 押さえつけられる頭をググッと持ち上げ、民衆へと目を向ける。遠くで固唾をのんで見ていたシオンと、思わず目が合ったような気がした。フィグネリアの恨むような目に、思わずシオンは肩を竦める。


「シオン……許さない……お前を許さないから……っ!」


 フィグネリアがこちらを見て口を動かし、そう言っているように思えた。

 ブルッと震えたのを、リュシアンが後ろから抱き締める。

 次の瞬間、執行人が斧を振り下ろす。

 フィグネリアの首は体から引き離され、ゴロゴロと転がった。

 それと共に、また群衆が勝利したように喝采をあげた。

 シオンは涙が溢れて止まらなかった。終わったのだ。ようやく終わったのだ。だけどそれだけじゃない感情が胸を締め付ける。


「シオンの気持ちは私にもよく分かるよ。だけどもう終わったんだ。もう大丈夫なんだ」

「うん……」

「きっとこれから良くなっていく。何にも縛られずに自由になれたんだ。シオン。私がついている。一緒に乗り越えて行こう」

「うん……ありがとう、リュシアン」


 抱き合った二人を見守るジョエルとメリエルも泣いていた。

 こうしてようやくフィグネリアという呪縛から開放されたのだ。

 新たな一歩を踏み出していけるのだ。

 それから四人はしばらくの間何も言わず、それそれの思いを胸に舞台の方を見つめ続けたのだった。

 
 
 

 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

【完結】離縁王妃アデリアは故郷で聖姫と崇められています ~冤罪で捨てられた王妃、地元に戻ったら領民に愛され「聖姫」と呼ばれていました~

猫燕
恋愛
「――そなたとの婚姻を破棄する。即刻、王宮を去れ」 王妃としての5年間、私はただ国を支えていただけだった。 王妃アデリアは、側妃ラウラの嘘と王の独断により、「毒を盛った」という冤罪で突然の離縁を言い渡された。「ただちに城を去れ」と宣告されたアデリアは静かに王宮を去り、生まれ故郷・ターヴァへと向かう。 しかし、領地の国境を越えた彼女を待っていたのは、驚くべき光景だった。 迎えに来たのは何百もの領民、兄、彼女の帰還に歓喜する侍女たち。 かつて王宮で軽んじられ続けたアデリアの政策は、故郷では“奇跡”として受け継がれ、領地を繁栄へ導いていたのだ。実際は薬学・医療・農政・内政の天才で、治癒魔法まで操る超有能王妃だった。 故郷の温かさに癒やされ、彼女の有能さが改めて証明されると、その評判は瞬く間に近隣諸国へ広がり── “冷徹の皇帝”と恐れられる隣国の若き皇帝・カリオンが現れる。 皇帝は彼女の才覚と優しさに心を奪われ、「私はあなたを守りたい」と静かに誓う。 冷徹と恐れられる彼が、なぜかターヴァ領に何度も通うようになり――「君の価値を、誰よりも私が知っている」「アデリア・ターヴァ。君の全てを、私のものにしたい」 一方その頃――アデリアを失った王国は急速に荒れ、疫病、飢饉、魔物被害が連鎖し、内政は崩壊。国王はようやく“失ったものの価値”を理解し始めるが、もう遅い。 追放された王妃は、故郷で神と崇められ、最強の溺愛皇帝に娶られる!「あなたが望むなら、帝国も全部君のものだ」――これは、誰からも理解されなかった“本物の聖女”が、 ようやく正当に愛され、報われる物語。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

処理中です...