雷霆使いの欠陥魔術師 ─「強化」以外ロクに魔術が使えない身体なので、自滅覚悟で神の力を振るいたいと思います─

樹木

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第三章 階級昇格編

61話『意外な助っ人』

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 人が行き交う夕暮れ時のエリュシオンの街を歩く、アウラとカレン。
 クロノとは一足先に別れ、今は二人だけだ。

「いや~、まさかあのセシリアがこんなに料理が上手だったなんて思いもしなかったわ。……今度レシピ教えて貰おうかしら」

 カレンは小さな紙袋からクッキーのような焼き菓子を取り出し、まじまじと見つめてから口に運ぶ。
 教会に寄ったついでに礼拝に参加した帰り。街の子供たちに配る焼き菓子の「試作品」を、彼女は至極真面目な表情で食べていた
 傍らで歩くアウラはその様子を見て、 

「カレンって甘い物が好きなのか? 普段からあんまり食べるところ見た事ないけど」

「疲れた時にはよく食べるわね。やっぱり頭にも栄養を入れないとだし、まぁ、シンプルに好きなのもあるけどね」

 言って、最後の一つを口に放り込む。

「……なんか、初めてお前の女子らしい一面を見た気がするな」

「女の子らしくなくて悪かったわね。じゃあ何、私が綺麗に着飾ってフリフリのドレス着て、貴方に全力で媚びて色仕掛けでもすれば満足かしら?」

「いや、誰もそこまで言ってねぇよ。極端!!」

「冗談よ、冗談。……ま、私の貧相な身体で欲情するヤツの方が少ないか。私は貴方のお眼鏡にかなうほど発育がよくないようだし。ねぇアウラ?」

「うっ……お前、エクレシアでのことまだ気にしてたのか。勢いとはいえ、あんなこと言って悪かったよ」

「もし次に私の胸部装甲のことバカにしたら知り合いの娼館で一日働いて貰うから。アウラって割と中性的な見た目してるし、案外人気出るかもね?」

「人気って、どっちにだよ」

「言わなくても分かるでしょ。……いや、いっそ両刀っていうのもあるわね……」

 口元に手を当て、不敵に嗤うカレン。
 彼女は基本的に容赦がない。それは戦いにおいては勿論、普段の振る舞いの中でも同じだ。
 やると言ったらやる。それがカレン・アルティミウスという女である。
 男子としての貞操を賭けられれば、アウラもそう易々と口には出来ないというもの。

「──そうだ、アウラに話しておくことがあるんだった。前に言った盗賊云々の話なんだけど」

「あぁ、エリュシオン近辺で暴れてる輩がいるって話だろ。行くんだったら準備は出来ているけど、それがどうかしたのか?」

「何やら、制圧対象の盗賊団の動きがここ数週間で活発になっているらしくてね。別のギルドが討伐隊を組んだみたいだけど、心配だから私たちも早急に解決にあたって欲しいってさ」

「参加するメンツは?」

「私とアウラとクロノの三人に、他のギルドから助っ人が二人ほど来るみたい。──それで、一応今日顔合わせする予定なんだけど……どうやら、丁度来たみたいね」

 二人がいたのは、エリュシオンの街の中央広場。
 女神の像が安置された噴水が目印の、人々が特に密集するエリアだった。場所が分かりやすいためか、待ち合わせ場所として使われることも多い。
 丁度、アウラとカレンが到着したタイミングで、見覚えのある顔が目についた。
 全体的に覇気のない雰囲気を纏う長身の男性。地味めな緑色の外套を羽織り、ややダボっとした出で立ちをした茶色交じりの黒髪の「魔術師」だ。
 彼はアウラ達に気付くと、軽く手を振って

「──お、ようやく来たな。お二人さん」

「助っ人って、ロアさんのことだったのか……!」

 アウラの視線の先にいたのは、最高位の「神位」の剣士を擁する隣国のギルド──「アンスール」所属の魔術師ロアだった。
 以前、クロノが危うく殺しかけてしまった同業者である。

「少年と会うのはケシェル山の時以来だな。聞いたよ、エクレシアで大暴れしてきたんだって?」

「暴れたってことなら、こっちのカレンも結構好き放題暴れまわってましたけどね。ってかこの話、そっちの方まで届いてたんですか……」

「当然だろ。司教を退けるなんざ並の冒険者じゃまず無理な話だ。エイルのヤツも、噂を聞いて嬉しそうにしてたよ。……んで、一緒にいるってことは、お前さんがカレン・アルティミウスで間違い無いかな?」

「えぇ、こうしてちゃんと話すのは初めてになるかしら。「糸使い」の魔術師さん」

「その言い方、前にも会ったことがあるみたいだな?」

「前回の定例会議の対抗戦の時に、ね。あぁでも、あの時はロアさんはウチのレイズさんと戦ってっけか。一言挨拶しに行こうとしたら、試合が終わってから控え室で落ち込んでるって聞いて行けなかったのよ」

「勘弁してくれよ……ただの朗らかな姉さんかと思ったら、闘技場を覆うほどの業火と氷柱を殆ど無詠唱で成立させる魔術師なんて、出鱈目にも程度があるだろ。あんなのを相手にすりゃトラウマになるのは当然だろ」

(レイズさん、もしかしなくても普通にバケモノでは)

 横で話を聞き、そう心の中で零すアウラ。
 大家として比較的親しい間柄のレイズだが、魔術師としての力量については知らない部分が大半だった。
 自分が来るまでの主力だった人物。その実力の一端を、アウラはここで初めて知った。

「レイズって、「幽冥の魔術師」って呼ばれてる、あの?」

「レイズ・オファニム殿ですか。──えぇ、あの方の烈火の如き魔術と、反撃の隙を与えない猛攻。「攻撃は最大の防御」を正に体現していました」

 アウラの問いに答える形で、会話にまた新たな声が加わる。
 黒髪を後ろで結った、白を基調とした装束を身に纏い、足首ほどの丈の袴を履いた少女。
 その装いはアウラにとって非常に見慣れた物で、端的に言うのであれば──「和装」だった。
 顔立ちはキリッとしており、全体的に清楚な印象を抱かせる。
 腰には細い一本の刀が刺さっており、彼女の武器であることは明白だ。

「ミズハ、お前何処ほっつき歩いてたんだ?」

「申し訳ない、ロア殿。少しばかり迷ってしまって……流石はエリュシオン。少しでも気を抜けば人混みに飲まれてしまいますね」

「和服……」

 目の前に現れた少女を見て、アウラは思わず呟いた。
 その一言が聞こえていたのか、彼女は金色の瞳を向けて、

「おや、そちらの御仁は私のような装いに見覚えがあるようで。もしかして同郷でしたか?」

「そういう訳ではないけど、ちょっと俺も縁があってね。ところで、ロアさんと知り合いってことは」

「はい、エドム王国のギルド『アンスール』所属のミズハと申します。冒険者の階級は第二階級の「天位」デュナミス。今回はこっちのロア殿と一緒に、盗賊の制圧依頼とやらの助太刀に参った次第です」

「その装いに腰の剣。貴方、もしかしなくても極東出身?」

「よくお分かりで、カレン殿。大海を渡り、東の大陸の更に東──ヤシマの地から遠路はるばるやって来ました。確かに、こちら側では些か珍しい人種かもしれませんな」

 腰に手を当て、笑顔でミズハは語る。 
 
「ヤシマって……確か、創世の女神イザナミが兄イザナギと交わって産み落とした国土の名前だったよな。俗に言う「国産み」の伝承の」

「よくご存知で。流石は西方に名を轟かせる魔術師、遥か遠くの異国の伝承にも通じているとは。アウラ殿の言う通り、我らの国は一人の女神より産み落とされたモノ。作物も人も豊かな、穏やかな国です」

(……やっぱ、凡その伝承は同じか)

 顎に手を当てて、そう心の中で零す。
 ミズハの言葉を聞き、己が慣れ親しんだ神話。そして、神々が存在していたことを確信する。
 曰く、国土を産んだイザナミは多くの神々の母となったが、火の神を産んだ際の火傷が原因で死亡──死の国たる黄泉の国へと赴き、冥府の神になったのだという。

「私たちのギルドのグランドマスターから直々に派遣された以上、此度の依頼には全力で協力させて頂く所存です。そうですね……何か不手際があれば、私が腹を切って詫びましょう」

「腹を、切る……? え? 本気で言ってるの?」

「本気も何も、ヤシマの国においてはよくあった事ですよ。何か不始末があれば、その責任を腹を切って取る。基本的には白装束を着て正座、短刀を自分の横腹の辺りにこのように突き立てて────」

「良い良い!! 大体把握してるから全部話さなくて大丈夫だから!!」

 やけに細やかに説明するミズハを、慌ててアウラが止める。
 日本人特有の習俗である切腹。彼が現代人として生きていた頃には既に廃れていた文化だが、こちら側ではまだ生きている文化だった。
 あまりにも躊躇いなく切腹を約束するその性分は冒険者というよりも「武士」である。 
 
 苦笑いするロアとカレン。
 異国より来訪した協力者二人。『アンスール』を統べるグランドマスターから派遣された以上、実力は信頼できる。
 
 使徒の二人に続く再会と、新たな出会い。
 確かな戦力を加えたアウラ達は、遂に当面の目標だった依頼へと繰り出していく。
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