雷霆使いの欠陥魔術師 ─「強化」以外ロクに魔術が使えない身体なので、自滅覚悟で神の力を振るいたいと思います─

樹木

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第三章 階級昇格編

64話『状況開始/新たに加わる執行者』

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 翌日、アウラ一行は朝方に集合し出発した。
 目的地はイェレドから南西に進み、森を抜けた先にある古城の周辺。盗賊たちの根城を、この少数精鋭で一気に叩く。
城の外には

 地図を片手に進むミズハを先頭に、彼らは獣道を突き進む。
 今回の相手は数十人。いくら一人一人の戦力が十分であるとはいえ、これから相手取る人数を考えると自然と緊張感も漲っていく。

「んで、今回のメンバーの振り分けはどうするんだ。アウラから聞いたが、連中の拠点はいくつかあるんだろう?」

「あぁ。だから制圧に入る前に、拠点の場所と数を把握してから攻め込むことにする。簡単な使い魔とかで上から状況を確認出来れば一番良いんだけど」

「それなら私がやりましょう。カラスを二匹程度飛ばしておけば十分ですか?」

「あぁ、助かる」

 クロノが自ら立候補し、地面に簡単な陣を描く。
 続いて、親指の腹を噛んで皮を食い破り、滴る手を陣の中心に翳した。

「──汝は戦場を駆ける神の御使い。死と冥界の導き手。我が血に従い、我が申命に応えよ──」

 クロノの血が魔法陣に滴り落ちると、黒に覆われた二羽のカラスが陣から出現し、空に飛んでいった。
 初歩的な召喚魔術である。
 使い魔たるカラスが鳴き声を挙げ、それぞれ異なる方角へと飛び立ったことを見届けると、彼女はアウラに頷く。
 指から滴る血には全く意識を向けていないことから、普段から扱っている魔術であることが伺える。

「カラスを使い魔……私たちの国でいう、アマテラスが地上に遣わしたヤタガラスのようなモノですか。魔術師の方は随分と器用なのですね」

「俺たち魔術師は、扱える魔術が多ければ多いほど手数の多さに繋がるからな。言ってしまえば、一人でも幾つか使えるだけで対応できる幅が増えるのってワケだ────あ」

 ミズハの呟き対してロアがそう付け加えるが、話しながら気付いたのか。
 アウラは少し気まずそうに眼を逸らし、

「いや、俺が「強化」しか扱えないこととか気にしてませんから。ほら、一応他にも雷霆とか使えるようになりましたし……」

(気にしてるわね)

(気にしてますね)

 何気ない一言が刺さったのだろう。
 掌でバチバチと紫電を発生させつつも、うつむき加減でボソボソと零すアウラであった。
 口では気にしていないと言い張っているが、彼と長く付き合っているカレンとアウラにはバレている。

「……それで、肝心のグループ分けなんだけど、俺とカレン、それからロアさんとクロノたちで組んで欲しいんだ」

「二人って、大丈夫なのか? お前、マナが取り込めない身体なんだろ?」

「流石に、皆の足手纏いになるような真似はしないよ。今の俺がどれだけ戦えるかは、俺が一番理解してる」

「そこは安心しなさいな。いくら体内のオドしか扱えないアウラでも、前よりかは戦えるようにはなってるから。それに、ただの盗賊如きに後れを取るほど、私も彼もヤワじゃないわよ」

「流石は「羅刹」の二つ名を取るカレン殿。随分と自身があるようで……もし良ければ、今度手合わせでもしてみたいですね」

「機会があれば受けて立つわ。……それと、うちのアウラも司教相手に渡り合うぐらいには根性あるから、私たちの方は心配しなくて良いわ。そっちにクロノがいれば、単独での戦闘と支援を同時にこなせるから、何かあっても大丈夫でしょう。つまり────」

 言うと、カレンは人差し指をロアの胸辺りに当てた。 
 そして一呼吸置き、

「────私と同じ「熾天」の魔術師として、うちのクロノを預けるから。宜しくお願いします」

 普段ラフな口調のカレンが、珍しく敬語で言い放った。
 教皇のような地位の人間であれば敬語になるのも当然だが、ロアとカレンの階級自体はこのメンバーの中でも最も高い。
 エドムを代表する同格の魔術師として、クロノの背中を任せていた。

「……あぁ。前回はちょっとばかし格好悪いところを見せちまったが、今回はきっちり仕事するさ。エイルのヤツに付き合わされる面倒な依頼より、よっぽどやる気はあるしな」

「そっか。ロアさんはエイルさんとよく一緒に依頼に出てるんだっけ」

「俺はこんなんでも『アンスール』……つまり四大ギルドの主力ってことになってるからな。アウラたちみたいに、色んなところに飛ばされるんだよ。尤も、こないだのお前らほどハードな事件に巻き込まれたことはないがね」

「私たち『アトラス』と違って、そっちは最高位の剣士が常駐してるものね。アルカナの第三位がいれば、解決できない依頼に出くわす方が難しいでしょ」

「まあな。いくら危険度の高い魔獣だろうが戦場だろうが、アイツが出向いてしくじったことは知る限りでは一度も無い」

「エイル殿ほどの剣客が手こずる相手など、遥かな神代かみよに生きた神獣か、こちら側で巷を騒がす邪教徒たちの幹部ぐらいしか考えられませんね」

 森の中を突き進みながら、一行はそんな会話を繰り広げる。
 緊張感を解き、数時間後に訪れるであろう戦いに向け、精神状態を整える。
 一神教国家の騎士団長──ゼデク・ディオニュシオスに並ぶ実力を誇る剣士、エイル。
 間違いなく西の大陸で最強を誇る、人界に身を置きながら、人を遥かに逸脱した者。
 それほどの人材と対等に渡り合えるのは、同じく人間という規格を超えた者でなければありえない話だ。

「全く、うちの「神位アレフ」は一体どこで何やってんだか……」

「まだ連絡付かないのか?」

「この間、東の大陸でバチカル派の司教の十二位を仕留めたって情報があるだけよ。ロアさんたちの方じゃ何か聞いてない?」

「いや、俺たちのところにも何も情報は入ってきてないな。せいぜい、近々四大ギルドの定例会議が開催されるってぐらいだな」

「定例会議……そっか、去年もこれぐらいの時期でしたね。今年は一体誰が選抜されるんでしょうか」

「どうせお前ら3人組は殆ど内定みたいなもんだろ。ラグナもレイズもいないんなら、現状の主力のお前たち以外に考えられないと思うが」

「確かに……って、俺ももうカウントされてるの?」

「勿論です。アウラ殿の活躍は既に我らのグランドマスターの耳にも届いていますし、ギルド対抗戦でどんな成長を見せてくれるのかと、エイル殿も言ってましたよ」

「最高位の剣士にそこまで言って貰えるのは嬉しいけど。なんだか複雑だな……」

 アウラの表情はあまり芳しくない。
 確かに、エクレシアでバチカル派の司教を退けたのは事実。しかし、それは言わば火事場の馬鹿力。
 テウルギア──つまり、自滅覚悟で神の力を振るった上でようやくマトモに戦えるという状況だったのだ。
 成長といっても、常時あれだけのパフォーマンスが出せる訳ではない。

「それだけ期待してるってことさ。同じ「四大」に属する冒険者として、色々とお前らのことは気にかけてるんだろうよ」

「そういうことなら、期待に沿えるような結果を出さないとね」

 ロアが腕を組み、そう推測する。
 カレンの応答は力強く、ギルドの主戦力として、盗賊制圧程度の依頼で躓く訳にはいかない。

 気を引き締め、一行は制圧に向けて準備を整える。



 ※※※※



「……ロギアさん、この大量の書類は一体」

 アウラたちが盗賊の拠点の近くにいるのと同時刻頃。
 エリュシオンの高台にある教会の一室。そのテーブルに広げられた書類を手に取って捲るのは、紺色の法衣を纏う一組の男女だった。
 男の方は、清潔感を感じさせる黒髪に端正な顔立ちをした青年。もう片方は、雪のように白い肌に白髪、そして藍色の瞳を持つ少女。

 エクレシアでのバチカル派の襲撃事件以降、特例でエリュシオンの教会に赴任した「使徒」。ロギアとセシリアの姿がそこにあった。

「エリュシオンの近隣諸国で行動してる使徒たちの記録もあるが、大体は教皇庁から送られてきたものだな。……えーと、ガナン王国の教会は特に問題無し、と……」

 セシリアに目もくれず、ロギアはひたすらに書類をチェックしていく。
 教会所属の人間として、今では司祭の補佐という仕事もある。しかし前提として、彼らは教会の情報、信徒の推移などを本部である教皇庁に報告する「使徒」だ。
 場合によっては出向き、もう一つの「使徒」の仕事──汚職を働いた聖職者の粛清、あるいはバチカル派の掃討に当たらなければならない。

「そういえば、前に捉えた例の司教代理は何か吐いたんですか? 結局、後のことは本部の機関長とか使徒たちに任せる形になってしまいましたが」

「あぁ、ラザロとかいう幻術使いか。有益な情報は……まぁ、辛うじてな」

「上手くいかなかったので?」

「いや、アイツが知りうる情報の大方は教会が既に把握してるものだったみたいでな。司教たちの能力や素性について目新しいものは多くはなかった。だが、「司教の一人が西の大陸を中心に活動している」って情報はあったらしい」

 ロギアの一言に、セシリアは表情を険しくする。
 書類を置いて、ロギアは続けた。 

「序列は最低位の十三位。名前はヴェヘイア・ベーリット。教会が記録している中ではここ数十年で司教になった新参だが、先代の十三位を倒して成り上がった強者だな」

「先代の司教を、倒して……?」

「バチカル派の司教は、何も選出されるだけじゃない。一般の信徒が既にいる司教を倒してその地位に就くこともあるんだよ。討伐報告もないのに司教が変わっている場合、殆どがこのケースだ」

「十分に強力な司教の上に、更に強い司教が成り代わる。戦力を次々と増強できると考えれば合理的ですね」

「それが連中の厄介なところなんだ。序列が下位だろうが、実力自体は手練れの相当なもんだろう。使徒で対抗できるとすれば、機関長や機関長補佐……あとは、教会が保存している聖遺物の保持者ぐらいか」

「使徒の交戦報告はないんですか?」

 セシリアがそう聞くと、ロギアはかぶりを降った。

「何人かの司教とやり合ったゼデクですら、交戦経験は無いそうだ。既に数百人規模の被害を出してるってことで、教会の優先討伐対象に認定されてたよ」

「そんなヤツが西の大陸に……なら私たちも出向いた方が良いのでは」

「いや、調査は俺が受け持つよ。荒事になっても、下位の司教程度なら俺でも相手出来る」

「なんですかその自信は。使徒なら真っ先に死ぬ人間が言うセリフですよ。──こと戦場において、己の実力を過信することほど愚かなことはありませんし」

「バケモノの相手なら散々してきたから、大丈夫だよ」

 そう語るロギアの口調は決して己の力を過信したものではなく、淡々としていた。
 彼はただ、事実を述べているに過ぎない。
 使徒としてこれまで無事に生き抜き、異端派との戦いに身を置いてきたからこそ出る言葉。

 嘘は言っていない、というのはセシリアも察していた。
 故に──部屋を出るロギアを止めようとはしなかった。

「それじゃ、司祭の補佐は頼んだぞ。セシリア」

 ガチャリという音と共に、ドアが閉まる。
 エリュシオンの国境付近で繰り広げられる事件に、一人の狩人が加わるのだった。
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