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後日談 我慢はほどほどに④
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「実は、実家の出資で開業したレストランなんです。町外れにもう一店舗、系列店があるんですが」
「まあ!そうだったのね」
「オーナーが父の友人なんです」
まさか女性と来たりしていないわよね?と微かな不安があったが、どうやら杞憂だったようだ。
ほっと一安心するシャルロット。
出資は父の趣味ですね、と言うアラン。
アランの実家は侯爵家である。
お互いの実家の家業についてや、アランが幼い頃から騎士を目指した話、騎士学校に通った話まで、次から次へと話題が変わる。
楽しく会話しながら、サーブされる料理を堪能する。
野菜の旨味が濃縮されたスープも、王都では珍しい魚料理もとびきり美味しい。
どれを食べても感激しながら食べるシャルロットに、アランも笑みが溢れる。
たっぷりと時間をかけて料理を平らげたあとは、食後の紅茶をいただく。
「城下町に下りて、カフェに入ったときのこと、覚えてるかしら」
「はい、もちろん覚えてますよ」
まだ花嫁修行をしていた時の話だ。
「あの時は、絶対に座ってくれなかったじゃない?」
「そうですね」
「あの日があったおかげで、今こうして向かい合って紅茶を飲めることが、これ以上ないくらい幸せだわ」
あの日、アランは騎士として、同じ立場でお茶を飲むことは許されなかった。
令嬢に言われたためと理由をつければ、座ることもできたかもしれないが、既にどうしようもなくシャルロットに惹かれていたアランはせめてもの抵抗として、その一線を越えることはできなかった。
あの日のアランを責めることなく、今のこの時間を幸せと感じるシャルロットにアランは心が洗われるようだった。
「あの時は既に惚れていましたからね」
「まあ!詳しく聞きたいわ!」
先ほどまで完璧なマナーで食事をしていたというのに、途端に前のめりになるシャルロットが面白く可愛い。
「何が聞きたいですか?」
「いつ、好きになってくれた、とか?」
アランはフリード殿下への嫉妬心が薄れてきた頃合いであった為、もういいかと観念した。
「……強く自覚したのはフリード殿下と一度目の面会をされた時ですね。それまで気を張っている様子だったあなたが、あの時間はフリード殿下に気を許していた」
「よく見ていたわね?」
確かにシャルロットは王城に上がって最初は随分気を張っていた。
「私はあなたを全然守れていないと思い、悔しい思いをしました」
「そんなに早くから想ってくれていたなんて」
「では、シャルロットは?いつから想ってくれてたのですか?」
「ええっと、……恥ずかしいのだけど、伝えても嫌いにならないでくれる?」
「何を言われても嫌いになどなりませんよ」
「実はね……顔が」
「……顔?」
「とっ……ても、好みなの」
両手で顔を隠すシャルロットに、呆気に取られるアラン。
まさか、シャルロットからそんなことを言われるとは露ほども考えていなかった。
「こんな女で、嫌いになっちゃったかしら……」
「嬉しいです。自分でもびっくりしているのですが、女性から好みだと言われて人生で初めて嬉しい気持ちになりました」
何度も格好良い、好みだ、などと言われたことはあるが、全く嬉しいと思ったことがなかった。
好きな女性から顔が好みだと言われてこれほど嬉しいとは。
「本当?」
「気を悪くしないでほしいのですが、女性に外見を褒められて嬉しいと思ったことがなかったのですが……シャルロットの好みと言われて正直舞い上がっています」
「あのね、好きなのは顔だけじゃないのよ?でも、まずはなんて格好良いのだろうって思ったの、ハンカチーフを貸してくれたときに」
「そんなこともありましたね」
「気になりだした理由はそれだけど、そこからはあなたと共に過ごす度に、優しくしてくれるあなたに、ずっとそばで守ってくれたあなたに、どんどん惹かれたの」
テーブルの上でアランがシャルロットの手を握る。
二人はお互いに照れ臭くなり口数が減ったが、なんとも甘ったるい空気の中、しばらく景色を見て過ごした。
会計を済ませたアランが店からでると、店の計らいで軽食とデザートを包んでくれた。
お礼を伝え、二人は再び馬車に乗り込む。
「この後は、どうするの?今日はもう帰るのかしら?」
「実は行きたい所があるので、連れていってもいいですか?」
「ええ、もちろん。どこに行くかは内緒なの?」
「そうですね、着いてからのお楽しみということにしましょう」
小高い丘をゆっくりと下ると、馬車の窓が見慣れた街を映す。
街の中心部を逸れると高級住宅街に入っていく。
「あら、うちの近くね?」
「もう着きますよ」
馬車が止まると、区画は違うがスラットレイ伯爵家のタウンハウスと同じ住宅街だ。
シャルロットは手を引かれて馬車から降りると、目の前の大きな家を見上げる。
スラットレイ伯爵家のタウンハウスと同程度の規模である。
エスコートされて、門を通る。
アランがノッカーを鳴らすことなく、玄関を開けた。
不思議に思いながら中に入ると、まだ新しい木材の香りがシャルロットを迎えた。
「わあ!素敵なお家ね!アランのご実家のお宅かしら?それともご兄弟?」
その割には家人も侍女も現れない。
「私の家です」
「まあ!そうだったのね」
「オーナーが父の友人なんです」
まさか女性と来たりしていないわよね?と微かな不安があったが、どうやら杞憂だったようだ。
ほっと一安心するシャルロット。
出資は父の趣味ですね、と言うアラン。
アランの実家は侯爵家である。
お互いの実家の家業についてや、アランが幼い頃から騎士を目指した話、騎士学校に通った話まで、次から次へと話題が変わる。
楽しく会話しながら、サーブされる料理を堪能する。
野菜の旨味が濃縮されたスープも、王都では珍しい魚料理もとびきり美味しい。
どれを食べても感激しながら食べるシャルロットに、アランも笑みが溢れる。
たっぷりと時間をかけて料理を平らげたあとは、食後の紅茶をいただく。
「城下町に下りて、カフェに入ったときのこと、覚えてるかしら」
「はい、もちろん覚えてますよ」
まだ花嫁修行をしていた時の話だ。
「あの時は、絶対に座ってくれなかったじゃない?」
「そうですね」
「あの日があったおかげで、今こうして向かい合って紅茶を飲めることが、これ以上ないくらい幸せだわ」
あの日、アランは騎士として、同じ立場でお茶を飲むことは許されなかった。
令嬢に言われたためと理由をつければ、座ることもできたかもしれないが、既にどうしようもなくシャルロットに惹かれていたアランはせめてもの抵抗として、その一線を越えることはできなかった。
あの日のアランを責めることなく、今のこの時間を幸せと感じるシャルロットにアランは心が洗われるようだった。
「あの時は既に惚れていましたからね」
「まあ!詳しく聞きたいわ!」
先ほどまで完璧なマナーで食事をしていたというのに、途端に前のめりになるシャルロットが面白く可愛い。
「何が聞きたいですか?」
「いつ、好きになってくれた、とか?」
アランはフリード殿下への嫉妬心が薄れてきた頃合いであった為、もういいかと観念した。
「……強く自覚したのはフリード殿下と一度目の面会をされた時ですね。それまで気を張っている様子だったあなたが、あの時間はフリード殿下に気を許していた」
「よく見ていたわね?」
確かにシャルロットは王城に上がって最初は随分気を張っていた。
「私はあなたを全然守れていないと思い、悔しい思いをしました」
「そんなに早くから想ってくれていたなんて」
「では、シャルロットは?いつから想ってくれてたのですか?」
「ええっと、……恥ずかしいのだけど、伝えても嫌いにならないでくれる?」
「何を言われても嫌いになどなりませんよ」
「実はね……顔が」
「……顔?」
「とっ……ても、好みなの」
両手で顔を隠すシャルロットに、呆気に取られるアラン。
まさか、シャルロットからそんなことを言われるとは露ほども考えていなかった。
「こんな女で、嫌いになっちゃったかしら……」
「嬉しいです。自分でもびっくりしているのですが、女性から好みだと言われて人生で初めて嬉しい気持ちになりました」
何度も格好良い、好みだ、などと言われたことはあるが、全く嬉しいと思ったことがなかった。
好きな女性から顔が好みだと言われてこれほど嬉しいとは。
「本当?」
「気を悪くしないでほしいのですが、女性に外見を褒められて嬉しいと思ったことがなかったのですが……シャルロットの好みと言われて正直舞い上がっています」
「あのね、好きなのは顔だけじゃないのよ?でも、まずはなんて格好良いのだろうって思ったの、ハンカチーフを貸してくれたときに」
「そんなこともありましたね」
「気になりだした理由はそれだけど、そこからはあなたと共に過ごす度に、優しくしてくれるあなたに、ずっとそばで守ってくれたあなたに、どんどん惹かれたの」
テーブルの上でアランがシャルロットの手を握る。
二人はお互いに照れ臭くなり口数が減ったが、なんとも甘ったるい空気の中、しばらく景色を見て過ごした。
会計を済ませたアランが店からでると、店の計らいで軽食とデザートを包んでくれた。
お礼を伝え、二人は再び馬車に乗り込む。
「この後は、どうするの?今日はもう帰るのかしら?」
「実は行きたい所があるので、連れていってもいいですか?」
「ええ、もちろん。どこに行くかは内緒なの?」
「そうですね、着いてからのお楽しみということにしましょう」
小高い丘をゆっくりと下ると、馬車の窓が見慣れた街を映す。
街の中心部を逸れると高級住宅街に入っていく。
「あら、うちの近くね?」
「もう着きますよ」
馬車が止まると、区画は違うがスラットレイ伯爵家のタウンハウスと同じ住宅街だ。
シャルロットは手を引かれて馬車から降りると、目の前の大きな家を見上げる。
スラットレイ伯爵家のタウンハウスと同程度の規模である。
エスコートされて、門を通る。
アランがノッカーを鳴らすことなく、玄関を開けた。
不思議に思いながら中に入ると、まだ新しい木材の香りがシャルロットを迎えた。
「わあ!素敵なお家ね!アランのご実家のお宅かしら?それともご兄弟?」
その割には家人も侍女も現れない。
「私の家です」
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