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決戦にて 歪さと変形
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砕けて広がった空中の穴からはい出てきた奴が、空中でバッと羽を広げた。…………見た目だけで判断するなら、ギリギリ蛾と言えない事もないかなって感じだね。
「うっ……」
あいつを見上げていると、誰かの吐きそうな声が聞こえてくる。まあ、あいつの見た目が左右で足の本数も長さも羽の形も違うという歪さこの上ないのに加えて、羽や身体中に魔石のニタニタ笑う顔が張り付いるから吐きたくなる気持ちはわかるよ。
『ヨクモ……ヨクモ……ワレノカラダヲ……』
「何だ……? 頭の中に声が……」
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う遮断膜」
この歪さは僕達の魔法で重傷を負ってた事が原因だったらしい。それはそれとして僕はあいつの声が聞こえてきたため世界樹を中心にした遮断膜を張り、あいつの声を聞こえないようにした。
「ヤート?」
「芋虫や蛹の状態だったあいつは、まだ大きさや硬さっていう物理的な面倒くささしかなかったけど、あそこまで気持ち悪い状態になったあいつは絶対にいろんな悪影響を周りに与えるはずだから、とりあえず僕達が正常にいられる空間を作ったんだ」
「そういう事か。ヤート、ありがとな」
「うん」
あいつの声を聞き続けたら意識が戻らなくなったり、あいつを見てると目が腐るなんて事が起きてもおかしくないから用心するに越した事はない。
「あと問題なのは、あいつの動きか」
「芋虫と蛹の時は突っ込んでくる速さが、かなりのものだったな」
「あんな歪な羽ですばやく飛べるのか?」
「当然できると考えておくべきね」
みんながあいつを見上げながら意見を言っていると、あいつの羽の周りの魔力や空気がおかしな動きを始めたのを感知したため僕は別の魔法を発動する。
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う加護」
ドゥンッ‼︎
あいつが羽ばたくと遮断膜の外側に作った加護の層がギシギシと軋んでいく。…………あんな不自然な体形で飛んでるから何かしらの力はあるとは考えてたけど、なかなかに厄介だね。
「景色が歪んで見える……?」
「あいつは、あの大きくて気持ち悪い形の身体を浮かせるだけの力を持っていて、今のはその力を羽ばたきとともに僕達へ放ってきたんだよ」
「それは……何とかできるものなのか?」
父さんが見上げたまま厳しい声でつぶやいたので、実証の意味を込めて僕は魔弾を生み出し発射する。でも、魔弾はどれ一つまともな軌道で進まず、あいつに近づいた魔弾は歪んだりねじれたり擦りつぶれたりと全く魔弾としての役割を果たせなかった。
攻防一体の力で覆われたデカくて異常な見た目の蛾か。さて、どう倒そうかな。……うん? あいつが羽を広げたまま震え始めた? 僕は嫌な予感がしたため、あいつに近い面の加護の厚さを倍にした。次の瞬間、あいつは消え。
ガゴンッ‼︎ ギギギギギギギギギギギ……。
分厚くした加護にあいつが衝突し、そのまま加護の表面を擦りながら別方向の空へ弾き飛んでいった。ふー……、加護が遮断膜の沿った曲面になってたおかげで、あいつの突進をそらす事ができたね。もし、単純な壁としてあったら突き破られてたかもしれない速さだった。でも、問題なのは速さだけじゃない。
「クソッ‼︎ こっちから攻撃ができない……」
「上を取られる事がここまで厄介だとは思わなかったな……」
そう、あいつが突進してくる時や羽ばたきで攻撃してくる以外は、常に一定の高さに滞空してヒュンヒュン移動しているせいで単純にあいつへ届く攻撃手段が限られているのが問題だ。射程で言えば僕の魔法で対抗できるけど、例えば魔弾の数をそろえて撃ち込んだとしても、あいつの速度なら避けられてしまう。逆にあいつの速さに対抗できるのは強化したみんなの接近戦だけど、当然圧倒的に射程距離が足りない。
「…………やるしかないかな」
「ヤート、何か方法があるのか⁉︎」
「あるにはある。でも、ものすごく世界樹に負担をかけるからできればやりたくなかった……」
『構わんよ。ようやく安定したところだ。我を好きに使え』
「安定したばかりだから、そのままいてほしかったんだけど他に手がないからしょうがないか」
『その通りだ。もう一度言おう。我を好きに使え』
「うん、覚悟は決まったからそうさせてもらう」
僕は世界樹のすぐそばまで移動して世界樹の幹に世界樹の杖を触れさせ目を閉じる。…………あいつの視線を感じるね。僕の邪魔をしてこようといろいろやってきそうだけど、加護に最大限の魔力を込めて維持しておく。
「シール、いける?」
『はい、いつでもどうぞ』
「ありがとう。それじゃあ、やるね。緑よ。緑よ。牙をここに。爪をここに。鱗をここに。翼をここに。我の望む姿をここに。緑盛魔法・超育成・世界樹竜化」
『オオオオオオオオオオオオッ‼︎』
詠唱が終わり僕の魔法が発動すると、世界樹が深緑色の光に包まれ地面から抵抗なく根が抜けて、世界樹の杖で触れてる僕ごと浮かんでいった。そして、あいつが滞空している高さまで上がった後、決定的な変化が始まる。
まず下からだと空が見えなくなるほど広がっていた枝葉はまとまり羽となり、一切の歪みなく太く高い幹は形を変えて頭部や胴体に腕となり、残りの根もまとまり足と尾になった。なお、この世界樹が変形している間も、あいつは執拗に羽ばたきや突進で僕を叩き潰そうとしてきたけど、全てを加護で防げたから良かったよ。
今の僕の魔法は世界樹の力を源にしてるため、その世界樹に大きな変化が起きたら魔法も不安定になるかもって注意してたのに、なぜか世界樹が竜に近づくほど魔法が強力になっていった。よくわからない事が起きてるけど、僕達にとって良い変化なら素直に受け取っておく。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
『…………』
雄叫びを上げる世界樹の変形をどうしても止められずにいたら、あいつの身体中にある魔石の顔が怒りに歪んでいく。あの身体中にある顔は模様じゃなかったんだって少し驚いてると世界樹の変形が終わる。
『…………ふう』
「ずいぶん高ぶってたね」
『長い事生きているが、変形は初めて仕方ないだろう。それよりも新しい我はどうだ?』
「僕の感覚がズレてないならカッコいいと思うよ」
『そうか。まあ、これであのものと高さは同等になったのだ。存分に戦うとしよう』
「うん、初めて動いて戦うから、いろいろ戸惑うかもしれないけど僕とシールが全力で補助するから安心して」
『お任せを』
『うむ、頼むぞ。オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
もう一度世界樹が雄叫びを上げると、僕・シール・世界樹対あいつの空中戦が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
「うっ……」
あいつを見上げていると、誰かの吐きそうな声が聞こえてくる。まあ、あいつの見た目が左右で足の本数も長さも羽の形も違うという歪さこの上ないのに加えて、羽や身体中に魔石のニタニタ笑う顔が張り付いるから吐きたくなる気持ちはわかるよ。
『ヨクモ……ヨクモ……ワレノカラダヲ……』
「何だ……? 頭の中に声が……」
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う遮断膜」
この歪さは僕達の魔法で重傷を負ってた事が原因だったらしい。それはそれとして僕はあいつの声が聞こえてきたため世界樹を中心にした遮断膜を張り、あいつの声を聞こえないようにした。
「ヤート?」
「芋虫や蛹の状態だったあいつは、まだ大きさや硬さっていう物理的な面倒くささしかなかったけど、あそこまで気持ち悪い状態になったあいつは絶対にいろんな悪影響を周りに与えるはずだから、とりあえず僕達が正常にいられる空間を作ったんだ」
「そういう事か。ヤート、ありがとな」
「うん」
あいつの声を聞き続けたら意識が戻らなくなったり、あいつを見てると目が腐るなんて事が起きてもおかしくないから用心するに越した事はない。
「あと問題なのは、あいつの動きか」
「芋虫と蛹の時は突っ込んでくる速さが、かなりのものだったな」
「あんな歪な羽ですばやく飛べるのか?」
「当然できると考えておくべきね」
みんながあいつを見上げながら意見を言っていると、あいつの羽の周りの魔力や空気がおかしな動きを始めたのを感知したため僕は別の魔法を発動する。
「緑盛魔法・純粋なる深緑を纏う加護」
ドゥンッ‼︎
あいつが羽ばたくと遮断膜の外側に作った加護の層がギシギシと軋んでいく。…………あんな不自然な体形で飛んでるから何かしらの力はあるとは考えてたけど、なかなかに厄介だね。
「景色が歪んで見える……?」
「あいつは、あの大きくて気持ち悪い形の身体を浮かせるだけの力を持っていて、今のはその力を羽ばたきとともに僕達へ放ってきたんだよ」
「それは……何とかできるものなのか?」
父さんが見上げたまま厳しい声でつぶやいたので、実証の意味を込めて僕は魔弾を生み出し発射する。でも、魔弾はどれ一つまともな軌道で進まず、あいつに近づいた魔弾は歪んだりねじれたり擦りつぶれたりと全く魔弾としての役割を果たせなかった。
攻防一体の力で覆われたデカくて異常な見た目の蛾か。さて、どう倒そうかな。……うん? あいつが羽を広げたまま震え始めた? 僕は嫌な予感がしたため、あいつに近い面の加護の厚さを倍にした。次の瞬間、あいつは消え。
ガゴンッ‼︎ ギギギギギギギギギギギ……。
分厚くした加護にあいつが衝突し、そのまま加護の表面を擦りながら別方向の空へ弾き飛んでいった。ふー……、加護が遮断膜の沿った曲面になってたおかげで、あいつの突進をそらす事ができたね。もし、単純な壁としてあったら突き破られてたかもしれない速さだった。でも、問題なのは速さだけじゃない。
「クソッ‼︎ こっちから攻撃ができない……」
「上を取られる事がここまで厄介だとは思わなかったな……」
そう、あいつが突進してくる時や羽ばたきで攻撃してくる以外は、常に一定の高さに滞空してヒュンヒュン移動しているせいで単純にあいつへ届く攻撃手段が限られているのが問題だ。射程で言えば僕の魔法で対抗できるけど、例えば魔弾の数をそろえて撃ち込んだとしても、あいつの速度なら避けられてしまう。逆にあいつの速さに対抗できるのは強化したみんなの接近戦だけど、当然圧倒的に射程距離が足りない。
「…………やるしかないかな」
「ヤート、何か方法があるのか⁉︎」
「あるにはある。でも、ものすごく世界樹に負担をかけるからできればやりたくなかった……」
『構わんよ。ようやく安定したところだ。我を好きに使え』
「安定したばかりだから、そのままいてほしかったんだけど他に手がないからしょうがないか」
『その通りだ。もう一度言おう。我を好きに使え』
「うん、覚悟は決まったからそうさせてもらう」
僕は世界樹のすぐそばまで移動して世界樹の幹に世界樹の杖を触れさせ目を閉じる。…………あいつの視線を感じるね。僕の邪魔をしてこようといろいろやってきそうだけど、加護に最大限の魔力を込めて維持しておく。
「シール、いける?」
『はい、いつでもどうぞ』
「ありがとう。それじゃあ、やるね。緑よ。緑よ。牙をここに。爪をここに。鱗をここに。翼をここに。我の望む姿をここに。緑盛魔法・超育成・世界樹竜化」
『オオオオオオオオオオオオッ‼︎』
詠唱が終わり僕の魔法が発動すると、世界樹が深緑色の光に包まれ地面から抵抗なく根が抜けて、世界樹の杖で触れてる僕ごと浮かんでいった。そして、あいつが滞空している高さまで上がった後、決定的な変化が始まる。
まず下からだと空が見えなくなるほど広がっていた枝葉はまとまり羽となり、一切の歪みなく太く高い幹は形を変えて頭部や胴体に腕となり、残りの根もまとまり足と尾になった。なお、この世界樹が変形している間も、あいつは執拗に羽ばたきや突進で僕を叩き潰そうとしてきたけど、全てを加護で防げたから良かったよ。
今の僕の魔法は世界樹の力を源にしてるため、その世界樹に大きな変化が起きたら魔法も不安定になるかもって注意してたのに、なぜか世界樹が竜に近づくほど魔法が強力になっていった。よくわからない事が起きてるけど、僕達にとって良い変化なら素直に受け取っておく。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
『…………』
雄叫びを上げる世界樹の変形をどうしても止められずにいたら、あいつの身体中にある魔石の顔が怒りに歪んでいく。あの身体中にある顔は模様じゃなかったんだって少し驚いてると世界樹の変形が終わる。
『…………ふう』
「ずいぶん高ぶってたね」
『長い事生きているが、変形は初めて仕方ないだろう。それよりも新しい我はどうだ?』
「僕の感覚がズレてないならカッコいいと思うよ」
『そうか。まあ、これであのものと高さは同等になったのだ。存分に戦うとしよう』
「うん、初めて動いて戦うから、いろいろ戸惑うかもしれないけど僕とシールが全力で補助するから安心して」
『お任せを』
『うむ、頼むぞ。オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ‼︎』
もう一度世界樹が雄叫びを上げると、僕・シール・世界樹対あいつの空中戦が始まった。
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◎後書き
最後まで読んでいただきありがとうございます。
注意はしていますが誤字・脱字がありましたら教えてもらえるとうれしいです。
感想や評価もお待ちしています。
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