194 / 206
第四章
第四十八話
しおりを挟む
「僕は今から君たちを殺す。キリカも、リレラも、僕の大事な人は君たちが原因で死んだ。僕には、君たちを許すことが出来ない」
交渉は不可能。
「…動けますか? ラーラ様」
「ご心配なく。貴女こそ、『太陽』をあんなに使って今も動けるのですか?」
「大丈夫です」
私は笑って答えた。
実際のところ「大丈夫」ではない。
「太陽」の過去最多使用に加え、「駿馬」や「理識」の継続使用のせいで魔力はもう半分も残っていない。
ラーラもマギクも経験値と魔力探知によって本当はそれを分かっているはずだ。
だからこそ、この状況を利用する。
マギクが両手に魔力を溜める。
私達は左右に素早く分かれて「呑」を回避した。
敵の狙いはやはり私だった。
「蟻の花火」が私を追い掛けて来る。
回避できる速度と弾数ではない。かといって剣で防げば爆発に巻き込まれ、魔力で負けている以上魔法での防御も不可能。
ラーラがこちらを向き、その手に魔力を込める。でもそれでは敵の思うつぼ。
「一手で二人を制する」のが「天才魔術師様」のお考え。
私は笑顔で首を横に振り、覚悟を決めて地面を蹴り上げた。
「駿馬」を使った跳躍、「穹砲」で駄目押ししてさらに高く飛び上がると、大きく軌道をうねらせながら「雷弾」が飛び出してくる。
「ぐあっ…!」
これは回避しきれず両足の膝から下を持っていかれる。
それでも傷は治る。そして、今作り出したこの瞬間にはそれに見合う価値がある。
ノーマークになったラーラは敵に「影渡り」で接近すると、その首を「星滅刀」で斬り付けた。
「正統派」の魔法使いが最も嫌う近接戦闘。
しかし、直後にマギクは傷を負いながらもラーラを後方へと弾き飛ばした。
「地龍」戦で一度だけ見せた、エネルギーを純粋な魔力に変換して自分のものとして打ち出す魔法。魔力の負けているマギクはラーラの「星滅刀」全てを変換することはできなかったが、特に危険な部分だけに狙いを絞り、その結果、首は完全には切断されず動脈の一部を損傷するにとどまっている。
「分かっている…」
魔法で傷口を焼きながら、マギクはラーラに対する一撃を準備していた。
「分かっているんだ…君たちを殺したって意味ないって」
ラーラが立ち上がるよりも早く、「雷弾」が放たれようとする。
「でも、それじゃ僕は…前に進めないんだ」
直後、マギクの身体が岩山の方へ突如として引き寄せられる。
想定外の事態に「雷弾」の軌道は逸れ、ラーラの真横を通過していった。
私の「死天」は役に立ったようだ。
両足を再生し、立ち上がって剣を構える。
ラーラも戦闘態勢を取った。
マギクは頭から血を流しながら目を丸くし、私の方を見ている。
そうか、そういえばマギクに「太陽」以外の魔法をはっきりと見せたことはなかったな。
見せて欲しいと言ってくれたこともなかった。訓練が始まってからもマギクはラーラに付きっきりで…
あれ?
刹那、私達は二人同時に「喰」に襲われる。
回避しても、さらにその先の軌道を読んで間髪入れず何度も「喰」を発動してくる。
気付けば私は肩や太腿の一部に被弾していた。
ラーラは「獣」の姿になり、その柔軟な肉体を存分に活かして「喰」の嵐の中を潜り抜けながらマギクに近付いていく。
マギクはその様子にまたも目を丸くしながら「蟻の花火」を放った。
空中に漂う「闇」の隙間を埋めるように飛ぶ火球たち。
しかし「確実性」を代償にした結果、私に対する攻撃は一瞬手薄になった。
その一瞬を使って「駿馬」を使い、一気に距離を詰める。
こちらに気付いた敵は上空に魔力を解き放つと、鉄杭を降らせる魔法:「鉄雨」をラーラも含まれる広範囲に発動した。
ふとラーラの方に目をやると、「醒魂歌」で作り上げた霊体によって全身を保護していた。
彼女は無事だが、同時にこの絶望的な状況下でも救援は期待できないことも示される。
剣を使って「鉄雨」を弾く私に対し、敵は案の定、追撃を準備している。
次の瞬間「理識」が捉えたのは、回避不可能の「呑」。
防御しながらではその範囲から抜け出すことは出来ない。
ならば、と私は剣に魔力を込め、防御の動きに織り交ぜてマギク本体に撃ち放った。
「光槍」を応用させて作った私の唯一のオリジナル魔法:「紅い光刃」が、結界展開の遅れたマギクの左腕を斬り落とす。
「があッ…!」
マギクは魔法を発動することも忘れ、私に真ん丸な双眸を向けていた。
「マギク様」
私は剣を下ろして語りかけた。
「夜明けの旅団」という私の「かけがえのない居場所」に何となく感じられていた違和感。(「君たちの力を伸ばして伸ばして、僕たち以上の冒険者にしたい」)
「パーティの一員とか、鍛え上げたいとか言う割に、貴方は私のこと、全然『見て』いなかったですよね」
私だって「本業」は魔法使いだ。
ラーラのことは魔法使いとして見て、どころかあんなにべったりだった癖に、私の魔法については一貫して無関心だった。
(「…確かに魔力はラーラさんに及ばない。でもグレアさんにはリレラを唸らせるくらいの剣術と不利な状況を打開する発想力がある。知っての通り魔法使いは接近戦に弱い。剣術でその弱点を補うことが出来るだけでどちらか一方しか使えない敵に対しては実力差があろうと自動的に有利になる。そして、相手が人間の場合はその『どちらか一方しか使えない敵』が殆どになる。加えてその発想力で数値化出来る能力以上の脅威を与えることができる」)
そう、私のことを分かったような口をきいていながら。
「今の“魔法”に反応できなかったのも、さっきの“魔法”にまんまと不意を突かれたのも、私が攻撃を魔法に使うなんて考えなかったから。さっきのトロール相手に魔法を使ったけど、どうせ貴方は見ていなかったんでしょう? 私には全く興味ないですもんね、マギク様」
マギクは私の言葉には応じず、ただ黙って私に対する攻撃を充填した。
その刹那、死角から飛び出す神速の平手打ちにマギクは弾き飛ばされた。
「避けられないですよね」
マギクは地面に倒れたまま、自らを見下ろす紫色の獣に掌を向け、魔力を充填した。
しかし攻撃は回避され、咄嗟に行った片腕での防御も虚しくラーラに蹴り飛ばされる。
「避けられないですよね。だって魔法じゃないなら、魔力が無くて『視え』ないから。貴男は私に執着してばかりでグレア様のことをちゃんと見ていなかった。じゃあ私についてはどうでしょうか」
たちまちラーラの周囲数メートルで電撃が暴れ出し、巨大なドームを形成する。
その規模と生成速度故に「影渡り」では抜け出せない、「獣」を捕らえる為の「雷包」。
しかし「獣」は己の脚力で「完成間近」なドームの縁へと走り出し、十分に距離を稼いでから「影渡り」を使った。
そして間一髪のところで「雷包」からの脱出に成功する。
マギクはラーラが「魔法使い」でありながら同時に「獣」でもあるという想定外の事象に思考回路の更新が追い付かず、ラーラの行動を予測することも叶わない。
ラーラが追撃を躱しながら接近し、結界の隙間から鋭い蹴りを命中させる。
「貴男はグレア様のことをあれだけ蔑ろにしながら、私のことも大して見ていなかった。だからこうなるのです」
さらに頭部に見舞った一撃。
しかし、マギクはその足を掴むと、そのまま手から魔力を吹き出した。
バキバキと骨を砕く音が聞こえ、追うようにラーラの悲鳴が響く。
先程からラーラの殴打を受けていながら無事だったのは、一方的にやられているように見せかけ、受けた衝撃の一部を魔力に変換して体内にため込んでいたからだ。
そしてこの瞬間に攻撃手段として転用した。
次の瞬間、怯むラーラに対し、マギクが「喰」を使用する未来がはっきりと視えた。
ラーラに気を取られている間に密かに敵に接近していた私は「駿馬」を使って速度を上げ、その勢いのままマギクに突きを放った。
刹那、マギクの顔と手がこちらに向く。
私の頭の周りに魔力が充ちる。
駄目だ。死ぬ。
ーーしかし、爆ぜたのはマギクの頭だった。
何かがマギクの頭を横から撃ち抜く。
マギクは力なく倒れ、その身体は痙攣し、嫌になるほど鮮やかな赤色がゆっくりと地面に広がっていく。
呆気にとられていると、
「グレア様」
「獣化」を解除したラーラが苦痛に顔を歪めながら声を掛けて来た。
「治せますか?」
ラーラに案内されるまま森の奥へ入っていき、目的地に着いて驚いた。
そこには馬車があり、なんとウロとジールバードが待ち構えていた。
「まずは森を抜けろ」
ラーラがそう指示すると、二人は何も言わず馬を走らせた。
「散々な目に遭いましたね」
車内でふとラーラが話し掛けて来る。
その様子はあまりにも平常で、むしろ異様に感じられた。
「そうですね」
空返事にも似た私の一言に、彼女はしばし黙った後、
「マギク様とリレラ様については残念でした」
とさっきよりは幾ばくか悲しげな調子で言った。
しかし私は分かっていた。
「さっきの」
マギクの頭を撃ち抜いた物体。
「ジールバードの弾ですよね。貴方が『指示』したんですよね?」
「はい」
ラーラは静かに答えた。
マギクから認められ、本格的に訓練が始まってからのある夜のこと。
そう、昼はマギクとの訓練で忙しく、夜は滅多に起きてこないラーラと久しぶりにちゃんと話せたあの夜のことだった。
ログラマトの『精神干渉魔法について』を二人で読んでいる時、ラーラが言った。
「以前に話したことを覚えていますか?」
ラーラは私と二人きりで外出し、私に「黒い狼」であることを問い詰められたあの日のことをふと話題に出した。
「あの時、私は昏睡状態の時に催眠魔法を完成させて、マギク以外のパーティメンバーにかけ続けていることは話しましたね」
「はい。あの時は…そのびっくりしました」
「無理もありません。むしろ私を赦してくださってありがとうございました。でも、今夜また赦してもらわないといけないかもしれませんね」
本には魔法によって脳構造を変化させた対象に行動を強制する方法が事細かに書かれていた。
「これは『保険』です。私たちが不測の事態に陥った時に身を守るための。それに、これまでの催眠魔法と同じで、『トリガー』が引かれない限り本人たちは今までと何も変わりませんから」
どこかもやもやする。でももはや認めるほかない。
「本当に何もかも貴方の言う通りでしたね。マギクの精神は元々不安定で、きっかけがあれば崩れると。まさかマギク相手に使うことになるとは思いませんでしたけど、結局『保険』に命を救われもした訳ですし」
「私にとっても流石にこの事態は予想外でした。でも、パーティに愛着のあった貴女にとってはきっともっと衝撃的だったことでしょう」
「…どこか引っかかるところはあったんです。でも雰囲気に流される感じで、いつしか完全にパーティの一員になったように思いこんでいました。ラーラ様は冷静でしたね」
「私は一緒に過ごす時間が少なかったからか、最初から『ここに居場所はない』と思っていました」
冷徹な思考、「他人を服従させる魔法」、そして捕縛された立場でありながら、最終的には自らの力でパーティを乗っ取り、自らのものとしてしまうしたたかさと品格。
「つくづく『魔王』ですね、ラーラ様」
馬車は静かに進んでいた。
交渉は不可能。
「…動けますか? ラーラ様」
「ご心配なく。貴女こそ、『太陽』をあんなに使って今も動けるのですか?」
「大丈夫です」
私は笑って答えた。
実際のところ「大丈夫」ではない。
「太陽」の過去最多使用に加え、「駿馬」や「理識」の継続使用のせいで魔力はもう半分も残っていない。
ラーラもマギクも経験値と魔力探知によって本当はそれを分かっているはずだ。
だからこそ、この状況を利用する。
マギクが両手に魔力を溜める。
私達は左右に素早く分かれて「呑」を回避した。
敵の狙いはやはり私だった。
「蟻の花火」が私を追い掛けて来る。
回避できる速度と弾数ではない。かといって剣で防げば爆発に巻き込まれ、魔力で負けている以上魔法での防御も不可能。
ラーラがこちらを向き、その手に魔力を込める。でもそれでは敵の思うつぼ。
「一手で二人を制する」のが「天才魔術師様」のお考え。
私は笑顔で首を横に振り、覚悟を決めて地面を蹴り上げた。
「駿馬」を使った跳躍、「穹砲」で駄目押ししてさらに高く飛び上がると、大きく軌道をうねらせながら「雷弾」が飛び出してくる。
「ぐあっ…!」
これは回避しきれず両足の膝から下を持っていかれる。
それでも傷は治る。そして、今作り出したこの瞬間にはそれに見合う価値がある。
ノーマークになったラーラは敵に「影渡り」で接近すると、その首を「星滅刀」で斬り付けた。
「正統派」の魔法使いが最も嫌う近接戦闘。
しかし、直後にマギクは傷を負いながらもラーラを後方へと弾き飛ばした。
「地龍」戦で一度だけ見せた、エネルギーを純粋な魔力に変換して自分のものとして打ち出す魔法。魔力の負けているマギクはラーラの「星滅刀」全てを変換することはできなかったが、特に危険な部分だけに狙いを絞り、その結果、首は完全には切断されず動脈の一部を損傷するにとどまっている。
「分かっている…」
魔法で傷口を焼きながら、マギクはラーラに対する一撃を準備していた。
「分かっているんだ…君たちを殺したって意味ないって」
ラーラが立ち上がるよりも早く、「雷弾」が放たれようとする。
「でも、それじゃ僕は…前に進めないんだ」
直後、マギクの身体が岩山の方へ突如として引き寄せられる。
想定外の事態に「雷弾」の軌道は逸れ、ラーラの真横を通過していった。
私の「死天」は役に立ったようだ。
両足を再生し、立ち上がって剣を構える。
ラーラも戦闘態勢を取った。
マギクは頭から血を流しながら目を丸くし、私の方を見ている。
そうか、そういえばマギクに「太陽」以外の魔法をはっきりと見せたことはなかったな。
見せて欲しいと言ってくれたこともなかった。訓練が始まってからもマギクはラーラに付きっきりで…
あれ?
刹那、私達は二人同時に「喰」に襲われる。
回避しても、さらにその先の軌道を読んで間髪入れず何度も「喰」を発動してくる。
気付けば私は肩や太腿の一部に被弾していた。
ラーラは「獣」の姿になり、その柔軟な肉体を存分に活かして「喰」の嵐の中を潜り抜けながらマギクに近付いていく。
マギクはその様子にまたも目を丸くしながら「蟻の花火」を放った。
空中に漂う「闇」の隙間を埋めるように飛ぶ火球たち。
しかし「確実性」を代償にした結果、私に対する攻撃は一瞬手薄になった。
その一瞬を使って「駿馬」を使い、一気に距離を詰める。
こちらに気付いた敵は上空に魔力を解き放つと、鉄杭を降らせる魔法:「鉄雨」をラーラも含まれる広範囲に発動した。
ふとラーラの方に目をやると、「醒魂歌」で作り上げた霊体によって全身を保護していた。
彼女は無事だが、同時にこの絶望的な状況下でも救援は期待できないことも示される。
剣を使って「鉄雨」を弾く私に対し、敵は案の定、追撃を準備している。
次の瞬間「理識」が捉えたのは、回避不可能の「呑」。
防御しながらではその範囲から抜け出すことは出来ない。
ならば、と私は剣に魔力を込め、防御の動きに織り交ぜてマギク本体に撃ち放った。
「光槍」を応用させて作った私の唯一のオリジナル魔法:「紅い光刃」が、結界展開の遅れたマギクの左腕を斬り落とす。
「があッ…!」
マギクは魔法を発動することも忘れ、私に真ん丸な双眸を向けていた。
「マギク様」
私は剣を下ろして語りかけた。
「夜明けの旅団」という私の「かけがえのない居場所」に何となく感じられていた違和感。(「君たちの力を伸ばして伸ばして、僕たち以上の冒険者にしたい」)
「パーティの一員とか、鍛え上げたいとか言う割に、貴方は私のこと、全然『見て』いなかったですよね」
私だって「本業」は魔法使いだ。
ラーラのことは魔法使いとして見て、どころかあんなにべったりだった癖に、私の魔法については一貫して無関心だった。
(「…確かに魔力はラーラさんに及ばない。でもグレアさんにはリレラを唸らせるくらいの剣術と不利な状況を打開する発想力がある。知っての通り魔法使いは接近戦に弱い。剣術でその弱点を補うことが出来るだけでどちらか一方しか使えない敵に対しては実力差があろうと自動的に有利になる。そして、相手が人間の場合はその『どちらか一方しか使えない敵』が殆どになる。加えてその発想力で数値化出来る能力以上の脅威を与えることができる」)
そう、私のことを分かったような口をきいていながら。
「今の“魔法”に反応できなかったのも、さっきの“魔法”にまんまと不意を突かれたのも、私が攻撃を魔法に使うなんて考えなかったから。さっきのトロール相手に魔法を使ったけど、どうせ貴方は見ていなかったんでしょう? 私には全く興味ないですもんね、マギク様」
マギクは私の言葉には応じず、ただ黙って私に対する攻撃を充填した。
その刹那、死角から飛び出す神速の平手打ちにマギクは弾き飛ばされた。
「避けられないですよね」
マギクは地面に倒れたまま、自らを見下ろす紫色の獣に掌を向け、魔力を充填した。
しかし攻撃は回避され、咄嗟に行った片腕での防御も虚しくラーラに蹴り飛ばされる。
「避けられないですよね。だって魔法じゃないなら、魔力が無くて『視え』ないから。貴男は私に執着してばかりでグレア様のことをちゃんと見ていなかった。じゃあ私についてはどうでしょうか」
たちまちラーラの周囲数メートルで電撃が暴れ出し、巨大なドームを形成する。
その規模と生成速度故に「影渡り」では抜け出せない、「獣」を捕らえる為の「雷包」。
しかし「獣」は己の脚力で「完成間近」なドームの縁へと走り出し、十分に距離を稼いでから「影渡り」を使った。
そして間一髪のところで「雷包」からの脱出に成功する。
マギクはラーラが「魔法使い」でありながら同時に「獣」でもあるという想定外の事象に思考回路の更新が追い付かず、ラーラの行動を予測することも叶わない。
ラーラが追撃を躱しながら接近し、結界の隙間から鋭い蹴りを命中させる。
「貴男はグレア様のことをあれだけ蔑ろにしながら、私のことも大して見ていなかった。だからこうなるのです」
さらに頭部に見舞った一撃。
しかし、マギクはその足を掴むと、そのまま手から魔力を吹き出した。
バキバキと骨を砕く音が聞こえ、追うようにラーラの悲鳴が響く。
先程からラーラの殴打を受けていながら無事だったのは、一方的にやられているように見せかけ、受けた衝撃の一部を魔力に変換して体内にため込んでいたからだ。
そしてこの瞬間に攻撃手段として転用した。
次の瞬間、怯むラーラに対し、マギクが「喰」を使用する未来がはっきりと視えた。
ラーラに気を取られている間に密かに敵に接近していた私は「駿馬」を使って速度を上げ、その勢いのままマギクに突きを放った。
刹那、マギクの顔と手がこちらに向く。
私の頭の周りに魔力が充ちる。
駄目だ。死ぬ。
ーーしかし、爆ぜたのはマギクの頭だった。
何かがマギクの頭を横から撃ち抜く。
マギクは力なく倒れ、その身体は痙攣し、嫌になるほど鮮やかな赤色がゆっくりと地面に広がっていく。
呆気にとられていると、
「グレア様」
「獣化」を解除したラーラが苦痛に顔を歪めながら声を掛けて来た。
「治せますか?」
ラーラに案内されるまま森の奥へ入っていき、目的地に着いて驚いた。
そこには馬車があり、なんとウロとジールバードが待ち構えていた。
「まずは森を抜けろ」
ラーラがそう指示すると、二人は何も言わず馬を走らせた。
「散々な目に遭いましたね」
車内でふとラーラが話し掛けて来る。
その様子はあまりにも平常で、むしろ異様に感じられた。
「そうですね」
空返事にも似た私の一言に、彼女はしばし黙った後、
「マギク様とリレラ様については残念でした」
とさっきよりは幾ばくか悲しげな調子で言った。
しかし私は分かっていた。
「さっきの」
マギクの頭を撃ち抜いた物体。
「ジールバードの弾ですよね。貴方が『指示』したんですよね?」
「はい」
ラーラは静かに答えた。
マギクから認められ、本格的に訓練が始まってからのある夜のこと。
そう、昼はマギクとの訓練で忙しく、夜は滅多に起きてこないラーラと久しぶりにちゃんと話せたあの夜のことだった。
ログラマトの『精神干渉魔法について』を二人で読んでいる時、ラーラが言った。
「以前に話したことを覚えていますか?」
ラーラは私と二人きりで外出し、私に「黒い狼」であることを問い詰められたあの日のことをふと話題に出した。
「あの時、私は昏睡状態の時に催眠魔法を完成させて、マギク以外のパーティメンバーにかけ続けていることは話しましたね」
「はい。あの時は…そのびっくりしました」
「無理もありません。むしろ私を赦してくださってありがとうございました。でも、今夜また赦してもらわないといけないかもしれませんね」
本には魔法によって脳構造を変化させた対象に行動を強制する方法が事細かに書かれていた。
「これは『保険』です。私たちが不測の事態に陥った時に身を守るための。それに、これまでの催眠魔法と同じで、『トリガー』が引かれない限り本人たちは今までと何も変わりませんから」
どこかもやもやする。でももはや認めるほかない。
「本当に何もかも貴方の言う通りでしたね。マギクの精神は元々不安定で、きっかけがあれば崩れると。まさかマギク相手に使うことになるとは思いませんでしたけど、結局『保険』に命を救われもした訳ですし」
「私にとっても流石にこの事態は予想外でした。でも、パーティに愛着のあった貴女にとってはきっともっと衝撃的だったことでしょう」
「…どこか引っかかるところはあったんです。でも雰囲気に流される感じで、いつしか完全にパーティの一員になったように思いこんでいました。ラーラ様は冷静でしたね」
「私は一緒に過ごす時間が少なかったからか、最初から『ここに居場所はない』と思っていました」
冷徹な思考、「他人を服従させる魔法」、そして捕縛された立場でありながら、最終的には自らの力でパーティを乗っ取り、自らのものとしてしまうしたたかさと品格。
「つくづく『魔王』ですね、ラーラ様」
馬車は静かに進んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
『召喚ニートの異世界草原記』
KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。
ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。
剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。
――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。
面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。
そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。
「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。
昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。
……だから、今度は俺が――。
現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。
少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。
引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。
※こんな物も召喚して欲しいなって
言うのがあればリクエストして下さい。
出せるか分かりませんがやってみます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる