魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

第三十一話

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    待ち構えていたのは、バセリアだった。

「蒼風流」の基本的な構えを取り、鷹のような鋭い目付きでかつての弟子を見据えている。

「貴方がいるということは、この先に伯爵が居るんですね、師匠?」

「黙れ」

バセリアに凄まれ、グレアも覚悟を決めて剣の柄に手を掛けた。

「師匠、最後の稽古をつけてもらいます」

「なんのつもりだ、裏切り者。お前は私の弟子ではない」

突き放され、僅かにグレアの目が揺れ動いた。

「分かりました」

贈り物の剣を抜き、腰を落としてしっかりと構える。

全てが無音になった。

次の瞬間、大量の魔力を発しながら、バセリアが神速で斬り掛かる。

刹那、バセリアは逆方向に大きく吹き飛ばされ、見るも無惨な姿で地面に倒れた。

グレアは予め魔力を溜めていた右手を剣から離し、その掌から「穹砲スラーヴォルト」を発射したのだ。

ただでさえ神速に見紛う程であるのに、「回生」によってさらに速度を増した「駿馬」と、地面を抉る程強力な「穹砲」。

それらの正面衝突によって発生する破壊は計り知れない。

「呆気ないな」

グレアはそう寂しげに呟いて、沈黙している敵に近付こうとした。

その時、その手がぴくりと動き、剣を取って立ち上がったのだ。

その全身からはこれまでグレアが観測したことの無い程高密度な魔力が溢れていた。

敵は身体を揺らして激しく咳き込んで吐血し、震えながら再度剣を構えた。

「まだ…終わらない。私の剣は…折れていない」

「…それでこそ貴方です。これが最初で最後の真剣勝負なのですから、そう簡単に終わらせられては困ります」

二人は再度剣を構えて対峙した。

数秒の沈黙を挟む。

今度もバセリアの方から仕掛けた。

穴を開けるほどの力で石製の床を蹴り、全神経を集中させ、光線よりも真っ直ぐにグレアへと突き刺さる。

全身の全ての魔力を消費し、自らの恩人の為に命の全てを捧げて放つ、バセリアの人生最後にして最高の一撃ーー



バセリアは宙を舞い、力無く後方に落下する。

「穹砲」を至近距離で受けた腹部はくしゃくしゃに凹み、脊椎は切断されていた。

「バセリア」

グレアがゆっくりと、かつての師の元に立った。

グレアの服の右肩の生地は消滅し、その周りは黒く焦げ、そこから覗いた素肌には深い切り傷があり、静かに流血していた。

グレアには「結界」展開が一度も間に合わなかったことのない、「腕輪」があるにも関わらず。

「貴方は、本当にすごい剣士ですね」

「はは…」

バセリアが笑う。いつも通りの豪快な笑い方で。だがいつもよりずっと弱々しく、虫が囁くように。

「すごくなんか…ない。大事なものを、また、守れなかった…」

その瞳の中に殺意や憎悪はもはや無かった。そこにあったのはただ運命を受け入れようという諦念だった。

「やってくれ、グレア」

「…はい」

グレアは剣の柄を両手でしっかり握ると、その首に刃を近付けた。

「なあ、グレア」

「何ですか?」

「人生最期の相手がお前で、良かったよ…」

「…」

グレアの手が震え出した。

「どうして、そんなことを、今更…」

「剣士として、どんな形でも…手塩にかけて育てた…たった一人の『弟子』に討ち取られるなら、誇らしい…」

グレアは黙っていた。

その目には涙が溜まっていく。

「…命乞いのつもりですか?    …時間稼ぎのつもりですか?」

遂に涙は溢れ、バセリアの頬の上に一粒の甘雨のように落ちた。

「何度も期待させて、裏切って…死ぬ間際でも期待させて…本当の裏切り者は、貴方ですよ…!     私が貴方を殺すのがどんなに大変だったか、分かりますか!?    ほんっとうにどうしようもない人です…!」

刃に力が篭もり、持ち上がる。

「『師匠』」

運命を悟って、バセリアは目を閉じた。

「許しませんから」

剣は下ろされた。

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