魔王メーカー

壱元

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第二章 後編

第三十七話 後編

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 あらゆる物質に魔力の伝導に対する抵抗が存在している。

魔力は直接触れ合っている物体の間を伝わるものであり、対象となる物体の密度が高いほど抵抗が減り、魔力より伝わりやすくなる。

そう、伝わる魔力はより膨大になってゆくのだ。空気、水、土、木(杖や剣の鞘の材料)、そして金属へと…


「はあ…はあ…」

乱れ切った呼吸音と、有機物の燃える音、その二音だけが廊下に響いていた。

グレアは苦しげに呻きながらも身体を起こし、地面に座り込んだ。

刹那、真っ黒な灰塵の山がむくっと起き上がり、グレアの腹の中心に風穴を開けた。

「くっ…」

「派手に暴れてくれたな。評価を改めよう」

ゼゼゾームは立ち上がり、掌を向けた。

「だが惜しいな。もうこれで終わりだ」

次の瞬間、その下半身が闇に呑まれて消滅する。

「…なんだと?」

見ると、ゼゼゾームの遥か後方に汚らしい恰好をした男が佇んでいた。

「おい、お前」

半分の身長になったゼゼゾームが、青色の血だまりを広げながら新たな敵を視界に捉える。

「シーゾを…伯爵をどうした?」

「殺した」

ホーバは無機質に答えた。

それを聞いた「契約守護魔ゼゼゾーム」の口角がV字に裂けて開く。

「はっはっはっはっは!!!」

割れんばかりの高笑いが廊下全体を揺らす。

「よくやった! 私は自由だ! もう私はあのくだらない男の為に戦う必要などないのだ! お前とも! この小娘どもとも!」

次の瞬間、喧しい歓声は、無音に飲み込まれる。

首を失った肉体が、どさりと地面に落ち、ぼろぼろと崩れる。

「おい」

男は這いつくばる娘に声を掛けた。

「本来であれば、お前はわが同胞の敵である。だが、お前を使役していた者にこそ真に罰は与えらるるべきである。そしてそれは先ほど私が請け負った。お前のことは見逃してやろう」

ホーバは踵を返し、どこかへと歩いていった。


 地面には三つの身体が横たわっていた。

一つは既に心停止・呼吸停止に陥った「秘密のラーラ」。

一つは脇腹、肩、大腿部、腹部を負傷し、じきに死亡するであろう魔法近衛兵:グレア

そしてもう一つは、純黒の灰になって形を失ったかつてのレイホーン家の「契約守護魔」ゼゼゾーム。

 窓から差し込む無神経な程に明るい昼の太陽が、黄金色の髪の上に降り注いでいた。

肌や髪は徐々に温まり、遂にはそれらが自ら光を発しているかのようにさえ、見えてくる。

そのうち、彼女の傷は全て消え、心臓は再び跳ね出し、呼吸器が再び稼働する。

「うう…」

少女は眠い目をこすりながら起き上がった。

グレアはしばらくその場で目をぱちくりさせているだけだったが、そのうち静かに盟友の傍に座った。

腹部には催眠にかかったグレアの「光槍グシャルボーレアス」によって空けられた穴、口元と前髪には血と吐瀉物、目元には涙。

安らかであどけない表情は、この英雄が未だ年端もいかない少女であることを思い出させた。

グレアはその身体に手を伸ばし、持ち上げた。

思った以上に軽く、そこから伝わる振動や魔力などなかった。

「感謝」、「諦念」、「無力感」、「罪悪」…

多様な言葉が当てはまる玉虫色の想いを胸に、グレアはラーラの小さな体を強く、優しく抱き締めた。

グレアは目を丸くした。

黄金の光がラーラの身体全体から溢れ出したのだ。

傷が徐々に癒え、呼吸と脈動が戻っていく。

大粒のアメジストのような目が、瞼の下からゆっくりと現れる。

「…泣いているのですか? グレア様」

グレアはラーラをより固く抱き締めた。

ラーラも抱き締め返し、彼女の頭を優しく撫でた。

少女二人は、いつまでも、いつまでも、互いを離そうとしなかった。


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