魔王メーカー

壱元

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第四章

第七話

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 四人は眼前に現れた新たな敵と対峙しながらも、背後に残した「伯爵殺し」二人を意識していた。

「夜明けの旅団」は互いに素早く目配せし合った。直後、マギクが静かに頷き、先陣を切る。

リーダーに続いて他メンバーもそれぞれ戦闘を開始する。

リレラとウロは敵との戦闘の中で森の奥へと移動していった。

岩陰に隠れて弓を構えていた青年は自分の横を通っていくリレラに一瞬意識を向けた。

その瞬間、発砲音が聞こえ、目の前の岩が大きく抉れる。細かな破片が頬に突き刺さる。

「どこ見てやがる」

「星狩りのジールバード」がまだ銃口から煙を立ち上らせたまま、次の弾を装填する。

「お前の相手は俺だろうが」

弓兵も覚悟を決め、静かに矢をつがえる。

指から矢へ魔力が込められる。

次の瞬間、二者の飛び道具が同時に発射される。

一本の矢と一つの弾丸は偶然にも空中で衝突し、角度の違いや込められた魔力が要因となって、弾丸は砕け散り、矢だけが予定通りの軌道を描く。

ジールバードはそれを咄嗟に鉤爪で弾いたが、爪四本の内一本の先端が大きく欠ける。

(こんなところで”こいつ”をこれ以上無駄に損耗したくはねぇ。仕方ねえ、防御より回避主体でやるか)

間髪入れずに二射目が飛んでくる。横に大きく曲線を描く変則的な軌道だが、ジールバードは身体を後ろに反らして最小限の動きで躱す。

「俺は鈍足なんでな。これ以上は撃たせねえ」

そう言いながら、姿勢を完全に戻さないまま無造作に発砲し、弾丸は明後日の方向へ飛んでいく。

ミスを感じ取った弓兵は、素早く射撃体勢を取った。だが、その刹那、紅葉して数が少なくなった晩秋の葉々の間から大きく曲がった軌道を描きつつ弾丸が飛び出し、その脳天を正確に貫く。

「知らなかったか? 『曲がる』のは弓矢だけの特権じゃないんだぜ。悪いな、経験だけはたっぷり積んで来たんだ。その差が勝負を分けたな」

ジールバードは敵を撃破した。


 リレラは森の奥で敵と睨みあっていた。

白い毛皮を髪のように取り付けた、恐ろしい表情の赤い鬼のような仮面を被り、手足や下半身には鎧を着用しているが、気温10℃前後で上半身裸だ。その姿勢は常に猫背気味で、両手に質素な造形の片刃剣を持っている。

(典型的な「八星流」のスタイルだな…)

リレラの見解は正しかった。彼は「八星流」、即ち大陸南方の島嶼部発祥のトリッキーな戦い方で知られる剣術流派をバックグラウンドに持つ剣士だった。

先程まで素早く動き回り、ぬらりくらりと攻撃を避けていた敵は、睨みあいに入ってからはピクリとも動かなくなった。

(「お前から仕掛けて来い」って? 舐められてるな)

リレラは全身に力を込めた。

(でも乗ってやる。あんたの「得意」に乗っかった上で倒してやる)

「白巌流」のモットーの一つは「正々堂々」。「白巌流」の「優等生」たる彼女がこうするのは当然といえば当然であった。

しかし、リレラが地面を蹴ろうとしたその瞬間、攻撃を繰り出そうとする「最も無防備な」その瞬間、敵がより早く地面を蹴り、身軽に飛び込みながら斬りかかる。

「八星流」:「猿跳び」。

リレラは辛うじて防御が間に合うものの、完全にリズムを崩され、後に続く連撃を防ぎきれず腕や肩を斬られながらどんどん後方へと押し戻されて行く。

(落ち着け、落ち着け、落ち着け。傷は浅い)

「すうっ」

鋭く呼吸したリレラは敵の攻撃を冷静に弾き返し、左の剣を手から吹き飛ばす。

敵も流石に狼狽し、地面を蹴って距離を取ろうとした。

この一瞬を好機と見たリレラは素早く「白巌流」の名物技法「岩砕」の体勢を取って敵に接近した。

だがその「最も無防備な」時に、敵は今空いたばかりの左手で仮面の鼻を掴んで引き抜くと、その中身ーー極めて刺激性の高い香辛料を粉末にしたものーーを相手の顔に振りかけた。

「あっ!?」

リレラは思わず目を閉じた。あまりの痛みに涙が止まらず、一旦距離を取ったところでくしゃみが止まらなくなる。

「八星流」:「香薬撒き」。

無理やり両目を開け、歪み切った視界の中に微かながら敵を捉える。

距離を取った甲斐あって、敵の間合いからは余裕を持って脱出できている。

(今のうちに体勢を出来る限り整えよう)

そう思った矢先、敵の右腕が伸び、リレラの腹に刃が突き刺さる。

「八星流」:「水蛇咬スイジャコウ

リレラは腹を押さえながら、ようやく満足に見えるようになった両目で敵を見据えた。

敵は腕の関節を意図的に外すことでリーチを伸ばしていた。腕を元に戻しながら先程弾き飛ばされた剣を拾い上げる。

傷は浅い。だが腹部の嫌な感覚…それには覚えがあった。

「なるほど、毒ね。もしかしてそれが狙い?」

毒、それも恐らく麻痺毒。

(解毒剤はウロが持ってる。だから、今はただ毒が回りきる前に決着を着けよう)

リレラは再び剣を構えなおした。素早く接近し、目にも止まらぬ連撃を繰り出す。

得意技である「白巌流」:「吹雪」だ。

敵は最初の数撃こそ完璧に回避できていたが、徐々に間に合わなくなり、咄嗟に防御した。

剣と剣がぶつかり合い、片方が熱によって変形して使い物にならなくなる。

焦る敵は一瞬反応が遅れ、次の一撃を不安定な姿勢のままもう一本の剣で受けようとした。

だが剣はへし折られ、それごと敵本人も一刀両断された。

防御や回避といった戦術の根幹となる技術を全て正面から破壊していく、理不尽で暴力的で鈍感なスタイルが「炎刃のリレラ」の真骨頂。

彼女のペースに乗せられた戦士に希望はない。

「お前、中々工夫の効いた剣士だったよ。こんなに苦戦するとは思わなかった。でも、もう少し攻撃に『重み』があると良かったな」

さて、と彼女は踵を返した。


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