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19・一念発起の悪女様-2
しおりを挟む私は、王都とメディオディア公爵家のあいだにある山村にやってきている。
晴れていれば馬車で一日の場所だが、あいにく悪天候を挟み、来るのに二日かかってしまった。
もちろん、セリオンとテレノも一緒だ。ノクトゥルノ公爵家の護衛の騎士や使用人たちも同行している。
この村は小さすぎて宿屋がない。そのため、教会に宿泊させてもらうことになった。施設が古くて貧素なので、快適に過ごすため、事前にさまざまな物を持ち込み整えある。搬入した品物は持って帰るのが面倒なので、帰りに寄付することにした。
なぜ、こんなへんぴな場所に来たのか。それは、シエロを乗せた馬車が、そろそろこの山村を通過する予定だからだ。イービスから教えてもらったスケジュールから逆算した。
この村に入る山道で、原作のシエロは山賊に扮したノクトゥルノ公爵家のものに襲われるのだ。もちろん、今回ノクトゥルノ公爵家はそんなことを考えてはいない。
(でも、イービスの件もあったじゃない? 万が一、原作補正が働いたら困るもの。間違いが起きないように先回りしなきゃ!)
そう考え、食材探しを名目に近くの村におととい到着したのだが、昨日は大雨で村の中を回ることはできなかった。
今日になって晴れたので山を探索しているのだ。
「わー! 栗がいっぱい!」
山の中に分け入ると、足下にはイガグリがいっぱい落ちていた。雨に濡れ、イガがキラキラと光を放っている。
「これ拾えばいいの?」
テレノが尋ねる。
私はイガグリを踏んで見せ、中の栗を指し示した。
「こうやって足で踏んで、中だけを拾ってほしいの」
「デステージョ様はなんでも知ってるな!」
テレノが天真爛漫に褒めてくれるが、私はヒヤリとする。
(たしかに、齢十一歳の公爵令嬢は知らないわよね)
「勉強熱心ですからね」
セリオンが言い、私はギクリとした。
(セリオンはドンドン察しが良くなって、逆にどこまでわかっているのか怖くなるわ)
ソロリとセリオンを窺い見ると、相変わらず無表情でなにを考えているのかわかりにくい。
しかし、私と目が合うとニッコリと微笑んだ。
(っ! え? なに? その表情)
私はびっくりする。
「どうかされましたか?」
「う、ううん。なんでもないわ」
「そうですか。栗以外の植物も探しますか?」
「そうね。なにかあるか探してみましょう」
私は食材を探す振りをして、山の中を歩いて行く。
山道がよく見える場所にたどり着き、ホッと息をついた。
反対側は断崖絶壁の細い山道だ。馬車のすれ違いはギリギリといったところで、前後から山賊に挟まれたら逃げ場はない。
ここで見張っていればシエロの通過がわかるはずだ。無事にこの道を抜けるのを確認してから王都に帰る予定である。
(それに、こんなに山の中に人が入れば山賊だって仕事がしにくいはずよ)
私たちが山をウロウロすることで、事件が未然に防げるならそれにこしたことはないのだ。
「なにをごらんなのですか?」
セリオンに尋ねられ、ギクリとする。
「え、ああ、ここから道の様子がよく見えるなと思って」
「最近この村は山賊に悩まされているようです。きっと、山賊たちはここから様子を窺っているのかもしれませんね」
「なんで、そんなことがわかるの?」
「ええ、簡単にデステージョ様がたどり着いたことがよりの証拠です。きっと誰かが頻繁に通り、道ができていたということですから」
セリオンに教えられ納得である。
「さすがね、セリオン」
感嘆するとセリオンははにかむように笑う。
その様子が可愛らしくて、思わずセリオンの頭を撫でようと手を伸ばした。
すると、セリオンはビクリと体を震わせる。いまだに自分が汚れているとでも思っているのだろう。
私は苦笑いをしつつ、彼の頭を撫で繰り回した。
すると、セリオンはヘニャリと笑う。
「デステージョ様だけです」
「なにが?」
「ボクを怖がらないのは」
たしかに、セリオンは周囲から遠巻きにされている節がある。
親を殺し、デステージョを殺しかけるほどの魔力を持っているのだ。魔導師たちは、その能力に惹かれつついろいろ教えてはいるが、セリオンを畏怖の対象としている。
修道院の子どもたちも、テレノには懐いているがセリオンには同じように懐かない。
「そう? テレノだって怖がってないでしょ」
私が素っ気なく答えると、セリオンは笑った。
「テレノが怖いのはデステージョ様だけですよ」
「それも困ったわね。もうちょっと恐怖心を持ってほしいものだわ」
「そうですか?」
「怖いものがないと、死に急いでしまうから」
私は原作のテレノを思い出していた。
テレノにはシエロとセリオンしか怖いものがなかった。だから、彼はなんにでもむやみに立ち向かい、殺されてしまったのだ。
(私がデステージョである以上、そんなことさせないけど)
大きな鳥が空を旋回していく。クルクルと回りながら、山道の下へ向かって下りていった。
そうしてしばらくして、同じ鳥が空へと上がってくる。
「! なにか光ったわ!」
鳥の足を指さす。
セリオンは目をすがめて鳥を見た。
「なにか持っていますね……。光るもの……ガラスか、金属……それとも宝石でしょうか? もしかして崖下になにか落ちているのかも……」
そう言って私を見る。
「そうね。セリオン、村に戻ってこのことを伝えてくれる? もしかしたら崖下に馬車が落ちているかもしれないわ」
「でも、デステージョ様をおひとりにするわけには……」
セリオンが心配そうな顔で私を見た。
私は余裕の微笑みを向ける。
「あら? 私、結構強いわよ?」
「でも……」
「そんなに心配なら、サッサと行ってサッサと戻ってきなさい。私はここで待ってるから」
「なにかあったらこれを折ってください」
そう言ってセリオンは小さな木片を渡した。
これを折るとセリオンに私の危機が知らされるのだ。
「ありがとう」
私は快く受け取っていつでも折れるように手のひらに握り混んだ。
セリオンはそれを確認すると、急いで麓へと向かっていった。
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