32 / 50
32・不撓不屈の悪女様-4
しおりを挟む
「無駄ではありませんわ。原因となった証拠がありますので。私に遅れた時間を指示したメモです」
私はそう言い、メモ用紙を見せた。
(フィロメラから言われたことを言えばいいのだろうけれど、口で言ったところでねつ造といわれたら意味がないもの)
顔面が蒼白になるのはフィロメラである。
「この筆跡を見れば誰かわかるでしょう?」
パハロスの眼鏡の奥が光る。不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「……数字だけで特定できるとでも? あなたが言い逃れをするために真似して書いた可能性も捨てられないでしょう」
パハロスが答える。
かたくなに否定するのはすでにフィロメラと結託しているからだろう。
「そうですか? 犯人はこの中にいるのでしょうから、私たちが食事をしているあいだに先生たちで、同じメモ帳を持っている方を今から探せばいいだけではありませんこと? 今であれば、証拠を隠すこともできませんし」
私が微笑むと、周囲の生徒たちはザワつく。
「たしかにそうよね」
「なぜ、デステージョ様の提案を聞かないのかしら?」
パハロスはカッと顔を赤らめた。
「そ、そもそも! あなたがメモ帳を誰かの部屋に仕込んだ可能性だってあるでしょう!!」
「そこまでして遅刻する理由があります?」
「誰かを嵌めようとしてるのでは? きっとそうよ、あなたは悪女で有名ですからね!」
私は憤るパハロスの鼻先にメモ帳を突きつけた。
「特徴的な香りするのがわかりますよね?」
そう言いながら、フィロメラを流し見る。フィロメラの使っている香水は、彼女の領地で採れる希少な香料を使い、オリジナルの調香がされたものだ。フィロメラにとって自慢の一品で、ひけらかしていたから多くの人々がフィロメラの香りとして認識している。
フィロメラとその取り巻きたちは顔を青くして、縋るような目でパハロスを見つめる。
「さすがに同じ香水を使っていたら、私にもその香りが残っているはずだと思いますけど……嗅ぎます?」
私はひるむパパロスに畳みかけ、ズイと一歩前に出た。
「な。同じ学び舎に集う生徒に、は、犯人だなんて言い方、よろしくないですよ。きっと、この件で学び、自身で反省してくれるはずです。一度の過ちで断罪し、人生を棒に振らせるのでは教育の意味がありませんから、犯人捜しのような下品なことはいたしません!」
そう言い切ると、私の前に立ち生徒たちに優しげに微笑んでみせる。
「私は生徒たちを信じていますから」
私はその白々しい態度に笑えてしまう。
(私のことは散々悪役に仕立てておいてよく言うわ……)
呆れて言葉も出ない。
「今回の件は、心当たりのある方が自省し、同じ間違いを繰り返さないようにすればよいことです。皆さんわかりましたか? それでは、食事を始めましょう!!」
パパロスはパンパンと両手を打ち鳴らした。
私には目もくれない。どうやら犯人捜しをうやむやにしたいようだ。
(まぁいいわ。寮内でイジメをさせないことが目的だし、これで釘を刺せたでしょう)
私はこのあたりで追撃をやめることにした。そして、フィロメラに視線を投げる。
「このように誰かを嵌めようとするような悪意、私は許さなくってよ」
ドスをきかせた声で宣言し、一息ついてから艶然と微笑む。
「では、皆様、食事をなさってくださいませ」
私が柔らかな声で告げると、生徒たちのあいだから安堵のため息が漏れた。
私はパハロスに後ろから近づいて、低い声で囁いた。
「先生……。犯人をかばうのがあからさますぎましてよ? 時流を読んだほうが身のためですわ」
パハロスは、「ヒッ」と悲鳴をあげて顔を真っ青にした。
「……あ、悪女め」
漏れるつぶやきを私は無視し、自分の席に着いた。
(これくらい牽制しておけば、彼女たちも軽率な行動はしないでしょ)
私が食事に手をつけると、皆も続いてカトラリーを持つ。パワーバランスが私に傾いたのだろう。
周囲に座る女生徒が小声で話しかけてくる。
「今日の件はスカッとしました」
「私もです。イジメがあると噂を聞いていたので学園生活が不安だったのですけれど、デステージョ様がいらっしゃれば安心です」
私は思いもしない言葉に面食らった。
「はぁ? 私がいて安心? 怖いのではなくて?」
先輩にも教師にも従わず、食事の場を荒らすようなものは苦手意識を持たれてもしかたがないと思っていた。
「はい! 頼もしかったです!!」
キラキラした目を向けられて私は決まりが悪い。
(ムカついたから言い返しただけなのに……)
私は照れを隠すように、フォークで肉を突き刺した。
「そ、勝手になさって」
そう冷たく答え、食事を始めた。
そんな私のことをシエロは離れたところからニコニコと見守っている。
目が合ったと思ったら軽く手を振ってくる始末だ。
私は苦笑いしながら、小さく手を振り返した。
私はそう言い、メモ用紙を見せた。
(フィロメラから言われたことを言えばいいのだろうけれど、口で言ったところでねつ造といわれたら意味がないもの)
顔面が蒼白になるのはフィロメラである。
「この筆跡を見れば誰かわかるでしょう?」
パハロスの眼鏡の奥が光る。不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「……数字だけで特定できるとでも? あなたが言い逃れをするために真似して書いた可能性も捨てられないでしょう」
パハロスが答える。
かたくなに否定するのはすでにフィロメラと結託しているからだろう。
「そうですか? 犯人はこの中にいるのでしょうから、私たちが食事をしているあいだに先生たちで、同じメモ帳を持っている方を今から探せばいいだけではありませんこと? 今であれば、証拠を隠すこともできませんし」
私が微笑むと、周囲の生徒たちはザワつく。
「たしかにそうよね」
「なぜ、デステージョ様の提案を聞かないのかしら?」
パハロスはカッと顔を赤らめた。
「そ、そもそも! あなたがメモ帳を誰かの部屋に仕込んだ可能性だってあるでしょう!!」
「そこまでして遅刻する理由があります?」
「誰かを嵌めようとしてるのでは? きっとそうよ、あなたは悪女で有名ですからね!」
私は憤るパハロスの鼻先にメモ帳を突きつけた。
「特徴的な香りするのがわかりますよね?」
そう言いながら、フィロメラを流し見る。フィロメラの使っている香水は、彼女の領地で採れる希少な香料を使い、オリジナルの調香がされたものだ。フィロメラにとって自慢の一品で、ひけらかしていたから多くの人々がフィロメラの香りとして認識している。
フィロメラとその取り巻きたちは顔を青くして、縋るような目でパハロスを見つめる。
「さすがに同じ香水を使っていたら、私にもその香りが残っているはずだと思いますけど……嗅ぎます?」
私はひるむパパロスに畳みかけ、ズイと一歩前に出た。
「な。同じ学び舎に集う生徒に、は、犯人だなんて言い方、よろしくないですよ。きっと、この件で学び、自身で反省してくれるはずです。一度の過ちで断罪し、人生を棒に振らせるのでは教育の意味がありませんから、犯人捜しのような下品なことはいたしません!」
そう言い切ると、私の前に立ち生徒たちに優しげに微笑んでみせる。
「私は生徒たちを信じていますから」
私はその白々しい態度に笑えてしまう。
(私のことは散々悪役に仕立てておいてよく言うわ……)
呆れて言葉も出ない。
「今回の件は、心当たりのある方が自省し、同じ間違いを繰り返さないようにすればよいことです。皆さんわかりましたか? それでは、食事を始めましょう!!」
パパロスはパンパンと両手を打ち鳴らした。
私には目もくれない。どうやら犯人捜しをうやむやにしたいようだ。
(まぁいいわ。寮内でイジメをさせないことが目的だし、これで釘を刺せたでしょう)
私はこのあたりで追撃をやめることにした。そして、フィロメラに視線を投げる。
「このように誰かを嵌めようとするような悪意、私は許さなくってよ」
ドスをきかせた声で宣言し、一息ついてから艶然と微笑む。
「では、皆様、食事をなさってくださいませ」
私が柔らかな声で告げると、生徒たちのあいだから安堵のため息が漏れた。
私はパハロスに後ろから近づいて、低い声で囁いた。
「先生……。犯人をかばうのがあからさますぎましてよ? 時流を読んだほうが身のためですわ」
パハロスは、「ヒッ」と悲鳴をあげて顔を真っ青にした。
「……あ、悪女め」
漏れるつぶやきを私は無視し、自分の席に着いた。
(これくらい牽制しておけば、彼女たちも軽率な行動はしないでしょ)
私が食事に手をつけると、皆も続いてカトラリーを持つ。パワーバランスが私に傾いたのだろう。
周囲に座る女生徒が小声で話しかけてくる。
「今日の件はスカッとしました」
「私もです。イジメがあると噂を聞いていたので学園生活が不安だったのですけれど、デステージョ様がいらっしゃれば安心です」
私は思いもしない言葉に面食らった。
「はぁ? 私がいて安心? 怖いのではなくて?」
先輩にも教師にも従わず、食事の場を荒らすようなものは苦手意識を持たれてもしかたがないと思っていた。
「はい! 頼もしかったです!!」
キラキラした目を向けられて私は決まりが悪い。
(ムカついたから言い返しただけなのに……)
私は照れを隠すように、フォークで肉を突き刺した。
「そ、勝手になさって」
そう冷たく答え、食事を始めた。
そんな私のことをシエロは離れたところからニコニコと見守っている。
目が合ったと思ったら軽く手を振ってくる始末だ。
私は苦笑いしながら、小さく手を振り返した。
232
あなたにおすすめの小説
猫に転生(う)まれて愛でられたいっ!~宮廷魔術師はメイドの下僕~
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
ブラック企業で働きに働き、過労による事故で死んだ三十路OLの愛良。もう社畜なんてこりごりだから、来世は金持ちの飼い猫にでも生まれ、ただ可愛がられて食っちゃ寝生活を送りたい……。と、死に際に願ったのもむなしく、異世界のとある王国の王宮メイド・アイラに転生してしまう。
そして、そこでもお局メイドにこき使われて疲れ果てる毎日。現実逃避からなのか、ある夜眠った際、夢の中で一匹の猫に変身し、王宮で人気のイケメン宮廷魔術師・アトスにひたすら可愛がられる夢を見た。
それから時折そうした夢を見るようになるのだが、何度目かでなんとアトスの膝の上で人間に戻ってしまい……!? 「えっ、これって夢じゃないの!?」「あなたはまさに理想の猫……いいえ、理想の女性です。逃がしませんよ」
なにがなんだかわからないうちに、外堀をどんどん埋められて……!?
腹黒エリート魔術師と猫に変身できちゃう転生社畜メイドとの、ドタバタラブストーリー&ファンタジー。
勇者パーティーの保父になりました
阿井雪
ファンタジー
保父として転生して子供たちの世話をすることになりましたが、その子供たちはSSRの勇者パーティーで
世話したり振り回されたり戦闘したり大変な日常のお話です
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ
柚木 潤
ファンタジー
実家の薬華異堂薬局に戻った薬剤師の舞は、亡くなった祖父から譲り受けた鍵で開けた扉の中に、不思議な漢方薬の調合が書かれた、古びた本を見つけた。
そして、異世界から助けを求める手紙が届き、舞はその異世界に転移する。
舞は不思議な薬を作り、それは魔人や魔獣にも対抗できる薬であったのだ。
そんな中、魔人の王から舞を見るなり、懐かしい人を思い出させると。
500年前にも、この異世界に転移していた女性がいたと言うのだ。
それは舞と関係のある人物であった。
その後、一部の魔人の襲撃にあうが、舞や魔人の王ブラック達の力で危機を乗り越え、人間と魔人の世界に平和が訪れた。
しかし、500年前に転移していたハナという女性が大事にしていた森がアブナイと手紙が届き、舞は再度転移する。
そして、黒い影に侵食されていた森を舞の薬や魔人達の力で復活させる事が出来たのだ。
ところが、舞が自分の世界に帰ろうとした時、黒い翼を持つ人物に遭遇し、舞に自分の世界に来てほしいと懇願する。
そこには原因不明の病の女性がいて、舞の薬で異物を分離するのだ。
そして、舞を探しに来たブラック達魔人により、昔に転移した一人の魔人を見つけるのだが、その事を隠して黒翼人として生活していたのだ。
その理由や女性の病の原因をつきとめる事が出来たのだが悲しい結果となったのだ。
戻った舞はいつもの日常を取り戻していたが、秘密の扉の中の物が燃えて灰と化したのだ。
舞はまた異世界への転移を考えるが、魔法陣は動かなかったのだ。
何とか舞は転移出来たが、その世界ではドラゴンが復活しようとしていたのだ。
舞は命懸けでドラゴンの良心を目覚めさせる事が出来、世界は火の海になる事は無かったのだ。
そんな時黒翼国の王子が、暗い森にある遺跡を見つけたのだ。
*第1章 洞窟出現編 第2章 森再生編 第3章 翼国編
第4章 火山のドラゴン編 が終了しました。
第5章 闇の遺跡編に続きます。
竜皇帝陛下の寵愛~役立たずの治癒師は暗黒竜に今日も餌付けされ中!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリリアーナ・アンシーは社交界でも醜い容姿故にアザラシ姫と呼ばれていた。
そんな折、敵対する竜の国との平和条約の為に生贄を差し出すことになった。
その相手は純白の聖女と呼ばれるサンドラだったが国の聖女を差し出すわけにも行かず、リリアーナが身代わりを務めることになった。
辺境伯爵令嬢ならば国の為に働くべきだと泣く泣く苦渋の選択をした婚約者だったが体よくリリアーナを国から追い出し、始末する魂胆が丸見えだった。
王も苦渋の選択だったがリリアーナはある条件を付け了承したのだ。
そして決死の覚悟で敵国に迎えられたはずが。
「君が僕のお嫁さんかい?とりあえず僕の手料理を食べてくれないかな」
暗黒竜と恐れられた竜皇帝陛下は何故か料理を振る舞い始めた。
「なるほどコロコロ太らせて食べるのか」
頓珍漢な勘違いをしたリリアーナは殺されるまで美味しい物を食べようと誓ったのだが、何故か食べられる気配はなかった。
その頃祖国では、聖女が結界を敷くことができなくなり危機的状況になっていた。
世界樹も聖女を拒絶し、サンドラは聖女の地位を剥奪されそうになっていたのだった…
異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる