【完結】完全無欠の悪女様~悪役ムーブでわがまま人生謳歌します~

藍上イオタ

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35・急転直下の悪女様-1

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 気がつけば、秋の文化祭の季節がやってきた。

 原作の流れだと、デステージョは婚約破棄され嫉妬に狂い、誘拐事件を起こしているはずなのだが、そもそも婚約をしていないため、婚約破棄も誘拐事件も起こっていない。

 おかげで、シエロは元気に学園生活を楽しんでいる。イービスとの仲も順風満帆のようで安心だ。

 少しの嫌がらせはあるようだが、そこはイービスがフォローし、大きな被害を受けることなく生活しているようだ。

 問題は、誘拐事件が起こらなかったせいで、シエロの聖女の力が覚醒しきっていないことくらいだ。

 学園で学ぶ内に、聖女の力をコントロールしつつあるシエロだが、まだ覚醒するまでには至っていないのだ。

(聖女の力はそのうちなんとかなると思うけど、問題は文化祭。荒れる予感がするわ)

 学園での活動はクラス単位が基本だが、文化祭は寮のグループを男女混合にしておこなう。

(女子アスールの監督生はフィロメラだものね……)

 私は小さくため息をついた。

 ここは、オラシオン学園の小さなホールだ。文化祭の打ち合わせのために、アスールグループの男女が集められていた。

 ちなみに、セリオンもテレノもイービスも、男子アスールグループである。

 文化祭では、グループごとに演劇と合唱をすることが決まっている。

 まず、演劇の演目と配役を決め、演劇の仕事がない生徒たちは合唱をする流れになっていた。

 私はボーッとしながらフィロメラと男子アスールグループの監督生を眺めていた。

(原作ではここで、ヒーロー役は満場一致でイービスに決まり、シエロとデステージョがヒロイン争いをする流れ。聖女だからと推薦されるシエロと、立候補するデステージョで、まぁ、お決まりのようにデステージョが負けるのだけれど)

 私は小さくため息をつく。

(デステージョはそれを逆恨みして、シエロを劇中で事故に見せかけ殺そうとするのよ)

 思い出してブルリと震える。

(さすが完全無欠の悪女デステージョ。学園内で殺人を犯そうなんて、デステージョしか考えないでしょうね。ま、私はヒロインに立候補しないので関係ないけど)

 正直、文化祭の演劇でヒロイン役だなんて荷が重すぎる。私は普通に合唱チームはいってお茶を濁したいところだ。

 他人事のように打ち合わせを見ていれば、原作どおりにイービスがヒーロー役に決まった。

(あとはヒロインがシエロに決まればおしまいね。早く終わらないかしら……)

 私は動物カフェの新メニュー案を手もとのノートに書きながら、打ち合わせが終わるのを待っていた。

「デステージョ様を推薦します!」

 いきなり私の名前が呼ばれて、ハッとする。

(なんてこと言ってくれるのよ!!)

 私の気持ちを知らない周囲は、ワイワイと盛り上がる。

 書記が私の名前を黒板に書き記す。

「イービス様のお相手と言えばデステージョ様ですものね!」

「婚約はされていないとはいえ、幼いころからのお知り合いで呼び捨てする仲ですもの」

 私はバッと立ち上がり反対した。

「やめて! 私とイービスはなんでもないわ!」

「そうです。婚約することもありません」

 イービスもはっきり否定する。

「そうは言いましても、ねぇ?」

「皆さんそう思っておりますし……」

 しかし、周囲は納得できない様子だ。

「これ以上変な噂を流したら承知しないわよ!」

 私が吠えると、皆、ビクリと縮こまった。

 そこへセリオンが手を挙げた。

「この作品のヒロインは可憐で儚げかと思います。ボクは、シエロ様を推薦いたします」

 セリオンの声に、皆がシエロに注目した。

(よくやったわ! セリオン! セリオンもシエロを可憐だと思っているのね! いい目をしてるわ!)

 私がグッと拳を握る。

「そう言われると、イメージはシエロ様のほうがピッタリね」

「イービス様ともよく一緒にいらっしゃるし」

 シエロはワタワタと慌てる。

「い、いえ、私なんか……」

 辞退しようとするシエロに、イービスが微笑む。

「シエロ嬢が引き受けてくれたら私はうれしいな」

「……!! イービス様」

 いきなりふたりの世界が形成されて、私はホッとして席に着いた。

「だめかい? シエロ嬢」

「イービス様が喜んでくれるのであれば、私一生懸命頑張りたいと思います」

 モジモジと答えるシエロ。

 教室はパチパチと拍手で満ちて、【Happy End】というテロップが出てきそうな甘い雰囲気になる。

 その空気を打ち破ったのは、フィロメラである。

 乱暴に音を立て黒板に書かれた私の名前に、大きく×を書いた。

「デステージョさんは辞退!! ほかに推薦はありませんか!!」

 書記はいそいそとシエロの名前を私の名前の横に書いた。

「……フィ、フィロメラ様を推薦します……」

 オドオドと手を挙げたのはフィロメラの取り巻きのひとりだ。

 フィロメラはフンと満足そうに腕を組み胸を張った。チラリ、イービスを見るがイービスはシエロばかり見ていて目もくれない。

 さすがのフィロメラも分が悪いと気がついたのか、スンと表情を消した。

「推薦、ありがたく受け取ります。でも、私は監督生として皆がいやがる仕事をしたいと思っておりますので、辞退させてくださいね」

 そう言って微笑むと、取り巻きたちがパチパチと拍手をする。

「さすが、フィロメラ様ですわ」

「なんと責任感のある!」

「他人に仕事を押しつける方とは人間性が違います」

 取り巻きたちは私を見るが、私はそんなことで傷ついたりしない。

「デステージョ様はそーゆーところ、あるよなぁ」

 テレノがボソリとつぶやき、セリオンがぷっと噴き出した。

「こら、テレノ。本当のことを言わないの!」

 私が注意すると、ホールの中が小さな笑いで満ちた。

 フィロメラは忌々しそうな顔で私を睨む。

「次は悪女役を決めたいと思います。立候補や推薦はありますか?」

 ホール内はシンとなる。さすがに悪女役は推薦しにくいのだろう。かといって、立候補までしてやりたい人もいない。

 そこで、フィロメラはニッコリと微笑んだ。

「皆様、やりたくない役のようですから……、私が引き受けますわ」

 フィロメラの言葉で拍手が湧き起こる。

 先ほどの言葉どおりフィロメラが行動して、私は意外に思いつつ感心した。

(原作のフィロメラは、陰でコソコソ意地悪をするだけの小物という感じがしたけれど、以外に責任感があるのね。見直したわ)

 主役級の役が決まれば、ほかの役は簡単に決まっていった。イービスやシエロ、フィロメラなどと関係を築きたい生徒たちが立候補するからだ。

 私とセリオン、テレノは無事に合唱に割り振られた。

(きっとこれでイービスとシエロも愛を育てられるでしょう)

 これで、私は一安心である。


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