お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第3章 独占欲の行方

執事と親

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「すごーい! 五十嵐君、手際いいね!」

 その頃、レオはキッチンで、冨樫とがしの手伝いをしていた。

 少し買い物に手間どってしまったらしく、冨樫がディナーの準備に、一人あたふたしているところにレオが声をかけた。

 燕尾服のジャケットだけ脱ぎ、袖を七分丈になるまで捲り上げると、エプロンをしてキッチンに立つレオ。

 冨樫が与える指示に、難なく応えていくレオの料理のスキルは、なかなかなもので、包丁を握りスルスルとリンゴの皮をむくレオを見て、冨樫が感心する。

「五十嵐君て、料理も得意なんだね」

「はい。学生時代に高級レストランでアルバイトをしていたので、料理の仕込みから盛りつけまで一通り学びました」

「学生時代って、フランスにいる時?」

「はい。まぁ、イギリスに渡って執事バトラーの養成学校に通う前の下準備みたいなものでしたが……」

「へー、本気で執事なるためにイギリスにいったんだ! 日本にはないからわからないけど、執事の学校ってどんな感じなの?」

「そうですね。俺が通ってた学校は、城でしたよ」

「城!?」

「はい。使われなくなった古城を学校にして、実際に結婚式や会議などの貸会場としても使われていたので、そのセッティングを生徒達が行っていました。あとは、お盆に水の入ったグラスを乗せて、階段を上る試験とか」

「あはは! なにそれ、運動会の競技みたい」

「他にも、着替えは3分以内に終わらせないといけないとか、お辞儀の角度は何度とか、結構、細かいルールがあって、全寮制で寮生活でしたが、俺のように若い人は少なかったので、友人は年上の人ばかりでした」

「そうなんだ。ねぇ、やっぱり執事って男性ばっかりなの?」

「いいえ、女性もいますよ。国によっては、親族以外の男性が女性に触れることを許さない地域もありますから、女性の執事も必要ですしね」

「はー、なんか知らない世界ってかんじ~。でも、わざわざ執事になるためバイトしたり留学するなんて、五十嵐君は本当に執事になりたくて頑張ったって感じだね!」

「そうですね」

 冨樫が、鍋のビーフシチューを煮込みながら問いかけると、レオは柔らかく微笑む。

「そっか~。私もね、子どもの時からシェフになるのが夢で、いつか自分のお店持ちたいなーとか思ってたの!」

「そうなんですね」

「うん……あ、そういえば、五十嵐くん、親は今どうしてるの? フランスに住んでたってことは、今もフランスにいるの?」

 だが、冨樫のその問いに、リンゴを剥いていたレオの手がピタリと止まる。

「……えぇ、まぁ」

「そうなんだー。海外にいるなら、あまり干渉されないからいいね! うちなんてさー、最近会う度に『いつ、結婚するんだー』だよ! そりゃ、29だし言いたくなる気持ちはわかるけどさ、流石に耳ダコっていうか!」

「彼氏は、結婚する気がないのですか?」

「わかんない。すれ違ってばっかりだし。なんか、最近アイツが、何考えてるのか分からなくなっちゃった。でも、結婚したら夢を諦めなくちゃいけなくなるし、なら、このまま仕事に生きるのもいいかなーって、おもったりもして……まぁ、仕事に生きたら生きたで、また結婚は~とか、孫の顔が~とか、くどくど言われんだろうけどね?」

「大丈夫ですよ、30過ぎたら言われなくなりますから。気を使って」

「ぅ……五十嵐くんて、たまに毒吐くよね?」

「そうですか?」

「そうだよー。でも、五十嵐君が、料理得意なのは助かる! 今度から、私が休みの時とか五十嵐君に頼んじゃおうかな~。いつもは、恵美か矢野さんに頼んでるだけど、難しい注文まではできなくて」

「どうぞ。一通りのスキルは身につけてますので、俺で良ければ、どんなことでもお応えしますよ」

「頼もしい~」

「五十嵐さん」

「……!」

 すると、雑談を繰り返している最中、入口から、矢野やのの声が聞こえた。

「お嬢様のお勉強は、もう終わりですか?」

「はい。今日は早めに切り上げました。あと、お嬢様にお茶をお持ちしたいなですが、五十嵐さんが忙しいなら、私が代わりに行きますが」

「あー大丈夫だよ、矢野さん! 五十嵐くん、もういいよ! あとは『前菜』と『リンゴのコンポート』作るだけだから!」

「わかりました。では、私が、お嬢様にお茶をお持ちします。お嬢様からなにかご所望はありましたか?」

「いいえ、特には」

「そうですか」

 エプロンを外し、再びジャケットに袖を通したレオは、その後、食器棚からカップとソーサーを取り出した。

 そして、その後、丁寧に豆をくと、キッチンには、香り豊かなコーヒーの香りが漂いはじめる。

「コーヒー……ですか? お嬢様は、いつも紅茶をご所望になることが多いですが」

「えぇ、なんとなく、コーヒーが欲しくなりそうだなと」

「?」

 甘いものを食べた後は、コーヒーが欲しくなる。

 レオはそう思い、いつもより楽しそうな笑顔を浮かべながら準備を整えると、いそいそとキッチンから出ていった。

 そして、残された冨樫と矢野は

「ねー! 矢野さん、聞いて! 五十嵐くん料理も出来るのー! なに、あのイケメン! 超ハイスペックなんだけど!!」

「バカ言ってないで、早く仕事をしなさい。ディナーの時間まで、あと一時間ないですよ! あと、言っておときますが、使用人同士の恋愛もご法度ですから!」

「もう、わかってるよ! てか、私も五十嵐くんも恋人いるし!!」

 それから暫くキッチンの中は、そんな二人の声で騒がしかったとか?
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