お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第5章 二人だけの秘密

夢の中

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✣✣✣

『ねぇ、また来てくれる?』

 幼い姿の結月が、静かに問いかける。

 大きな瞳で、まっすぐに見つめる先にいるのは、結月よりも幾分いくぶんか身長の高い『男の子』

 その男の子は、まだ幼い結月に視線をむけると、少しぶっきらぼうに言葉を返す。

『嫌だって言ったら、泣くくせに』

 それはまるで、断ったら結月が泣き出すのを分かっているかのように……

『泣かないわ』

『じゃぁ、来ない』

『……っ』

『ほら、泣きそう』

 そう言って、クスリと笑った少年は、その後、そっと結月に、小指を差し出してきた。

『……なに?』

『指切り。知らない?』

『し、しってるけど……でも私、指切りなんてしたことなくて』

『……そう』

 すると少年は、結月の手を引きよせ、自分の指と結月の指を絡ませた。

 まだ肌寒い季節。繋がった小指は、少しずつ熱を持ち、二人の指が、しっかりと触れ合っているのがわかった。

『顔、赤いけど』

『っ……あ、赤くないわ』

『赤いよ。俺と指切りするのが、そんなに恥ずかしい?』

 目の前にいるはずなのに、その男の子の姿はまるでモヤがかかったように、どこか朧気だった。

 だけど、その声は、なんだか、とても落ち着く声で……

『また、来る。だから、泣くなよ』

『──うん』

 ぎゅっと小指に力がこもると、結月も返事をするように力を込めた。

 交わした約束に、自然と心も身体も温かくなる。

 だけど───




 ──ピシャ!!

「ん……っ」

 瞬間、結月は外から響いたかみなりの音に、ハッと目を覚ました。

 ベッドの中からちゅうを仰げば、外には激しい雨と、雷の音が不気味に鳴り響いていた。

(……朝?)

 その雷の音を聞きながら、重い体をゆっくりと起こす。すると、昨日の晴れ間が、嘘のような荒模様に、結月は、スっと目を細めた。

(昨日は、あんなに晴れてたのに……)

 昨日の学校帰り、五十嵐と公園にいった時のことを思い出して、結月は、自分の小指にそっと視線を落とす。

 自分を気遣い、連れ出してくれた五十嵐は、またあの公園に連れていってくれると約束してくれた。

 それは、まるで、結月の心にぽっと明かりをともすような、温かな約束だった。

(きっと、五十嵐と、あんな約束にしたからね)

 その指を見つめながら、先程の夢のことを思い出し、結月は、幸せそうに微笑む。

 見知らぬ男の子と、指切りを交わす夢──

 久しぶりにみた、その記憶に残る夢は、甘くて優しくて、それでいて、とても居心地のよい夢だった。

(あれ? そういえば私、男の人と指切りするの初めてだったんじゃ……?)

 だが、夢の中の自分が、とても恥ずかしがっていたのを思い出し、結月は、その夢に、引きづられるように頬を赤くする。

 昨日、五十嵐に小指を差し出されて、なんの躊躇ためらいもなく指を絡めてしまった。

 だが、よく考えたら、男性と指切りをするのは、初めてのことで……

(私、なんで……)

 なんの躊躇ちゅうちょもなく、男性と指切りなんて、今になって、すごく恥ずかしくなってきた。

「お嬢様」
「ひゃッ!?」

 だが、その瞬間、突然、部屋の外からノックの音が聞こえて、五十嵐に声をかけられた。

 結月は、ビクリと身体を弾ませると、慌てて時刻を確認する。

 どうやら、もう6時を過ぎていたらしく、五十嵐はいつも通り、起こしに来てくれたようだった。

(あ、私まだ着替えてない……!)

 だが、寝坊をしたせいか、朝の支度が何も出来ていなかった。

 それに、昨日の指切りのことを思い出していたせいか、今は五十嵐と顔を合わせづらい。

「い、五十嵐、私まだ着替えてなくて……だから、まだ入って来ないでね!」

 夜着姿のまま、結月は、慌てて扉の外に話しかける。すると外からは、いつもと変わらない、執事の声が返ってきた。

「また、お手伝い致しましょうか?」

「な、なにいってるの!?」

「はは、冗談ですよ。では、身支度が整いましたら、またお声かけください。モーニングティーをお持ち致します」

「う、うん……わかったわ……っ」

 外はあいにくの雨で、今日は、両親だって尋ねてくる。

 だが、不思議と今の結月の心は、意地悪な執事のことで、いっぱいになっていたのだった。

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