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番外編
執事さんとしりとり
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番外編です。
第27話にて、結月が官能小説を読んでるところを、レオに見つかった次の日のお話。ほぼ会話文ばかりになってますが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
✣ ✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣ ✣
番外編『執事さんとしりとり』
✣ ✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣ ✣
「……はぁ」
朝、結月は学校へ向かうため、レオが運転する車に乗り込むと、窓の外を見つめ深くため息をついた。
昨日は、斎藤が、突然辞めてしまった。
しかも、それだけではなく、級友の有栖川が貸してくれた本が官能小説だったばかりか、それを読んでいたところを、見事、執事に見つかってしまったのだ。
それに
『お嬢様、私を愛してください』
あんなこと言われたのだから、まともに顔を合わせられるわけがなかった。
(……なんだか、気まづいわ)
後部座席から運転席に視線を送ると、慣れた手つきで運転する執事の後ろ姿が目に入った。
昨日、自分の前に膝まづいて手の甲にキスをした彼は、冗談と思えないくらい、真剣な表情をしていて──…
「……っ」
ダメだ!
今、思い出しても恥ずかしい!!
からかわれていたのも、小説を真似た演技なのも、ちゃんと分かっているはずなのに、改めて思い返すと恥ずかしくて仕方ない!!
(は……早く学校、つかないかしら)
二人きりの車内は、とてつもなく窮屈だった。
重い。とにかく重い!
神様、私は何かに悪いことでもしたのでしょうか?
斎藤がいきなり辞めて、執事にからかわれ、こんな重い空気の中、学校に行かなくてはならないなんて……!
「お嬢様」
「は、はい!?」
すると、突然声をかけられ、反射的に声が裏返った。
咄嗟に身構えた体は硬直し、ふと見つめた先では、鏡ごしに自分を見つめる執事と目が合った。
普段と何も変わらない、優しげな笑みを浮かべた執事。
きっと、昨夜のことで、こんなにも動揺しているのは、自分だけなのだろう。
「大丈夫ですか? お顔の色が優れないようですが」
(ッ……誰のせいで)
心の中で反論する。主人である自分が、こんな気持ちで学校に行かなくてはならないのは、全てこの執事のせいだ。
だが、そんなことを悟られたくはなく、結月はあくまでも毅然とした態度で接する。
「だ、大丈夫です。ただ、昨夜はあまり眠れなくて……」
「左様でございますか。では、今夜はお嬢様が眠るまで、ずっとお側で」
「結構です!!」
眠れなかった原因が、自分であることをわかっているくせに、更に困らせるようなことを言ってくる執事に結月は声を荒らげる。
ていうか、ずっと側でとか眠れる気がしない!
だが、どこか楽しそうに微笑む執事をみて、結月は再び顔を赤らめると
(絶対、からかわれてる……)
「お嬢様。しりとりでもしましょうか?」
「え?!」
すると、続けざまに放たれた言葉に結月は耳を疑った。
しりとり?
なんでいきなり、しりとり!?
「ふ、ふざけてるの?」
「まさか。ただ、今の重苦しい空気を和らげるには、ちょうどよいかと思いまして……」
「…………」
どうやら執事も感じ取っていたらしい。今、二人の間に流れる、とてつもなく重い空気を
「では、始めましょうか?」
すると、ニッコリと微笑んだ執事が、有無を言わさず、しりとりを開始する。
「え、ちょっと、本当にするの!?」
『はい。では、しりとりの「り」から……リス!』
「り、リス? えっと、す、す……すみれ!」
『レタス』
「すいか」
『カラス』
「水泳」
『イス』
「す……水晶」
『うぐいす』
「す……」
──す?
(あれ? さっきから「す」で終わる言葉しか来てないような?)
「お嬢様『す』ですよ?」
「え? あ……えっと、す……スペード!」
『ドライアイス』
「す、水筒」
『臼』
「す……」
す──!!?
待って、ホントに「す」しか来ないんだけど!?
「ちょっと、五十嵐! さっきから『す』ばっかりなんだけど!?」
「あはは。そうですか? もしかして、もうお手上げですか?」
「……ッ」
特段、悪びれた様子もなく笑う執事に、結月は悔しそうに眉を顰めた。
これは、絶対ワザとだ!
確実に、悪意がある!!
だが、お手上げか?……と言われると、こちらだって負けたくはなくなってくる。
「っ……えっと、す……すー……す?」
すると、再び『す』で始まる言葉を考えはじめた結月を見て、レオはクスクスとその口元を緩めた。
運転に集中しつつも、ミラー越しに結月を見れば、困りはてながらも必死に考えているのが見えた。
(さすがに、いじわる過ぎたかな?)
だが、その姿が思いのほか可愛くて、つい意地悪なことをしてしまった。
とはいえ、さすがに可哀想だな……とレオは反省すると、次は『す』から解放してあげようと、結月が放つであろう次の単語を待つ。
だが──
「すき!!」
「──ッ!?」
瞬間、キキッとブレーキの音が響いた!
予想だにしていなかった言葉に、手元が狂いそうになるのを必死に堪えると、なんとか体勢を立て直す。
だが、急に停りかけた車に、結月は顔を青くし
「ちょ、ちょっと、どうしたの!? 五十嵐、あなた本当に免許持ってる!?」
「大丈夫です、持ってます! 今のはちょっと動揺……猫が、飛び出してきまして!」
珍しく犯してしまった失態を、居もしない猫にな擦《なす》り付けると、レオは動揺する心を必死になって押さえ込む。
ビックリした。
いきなり、好きだなんて!
だが、落ち着け。今、結月に自分の記憶はない。ならば、今の「すき」は、絶対に、あの「好き」ではない!
「あの、お嬢様。鋤だなんて、よくご存知でしたね」
「あ、それはね。昔、"日本の道具"をたくさん集めた図鑑を読んだことがあって、それに餅つきの"臼"と一緒に"鋤"が載っていたのを思い出したの!」
「へー……左様でございますか。(そういえば、よく変な図鑑 読んでたな、結月のやつ)」
ちなみに『鋤』とは、農作業や土木工事などで使用される、地面を掘ったり、土砂などをかき寄せたりする木でできたスコップのような農具のことである。(わからない人は、検索してね!)
「それより、飛び出してきた猫は大丈夫なの?」
「え?……はい。ご心配なく(元々、飛び出してきてないし)それより、お嬢様は、猫はお好きですか?」
「えぇ、大好きよ。きっと動物の中で一番好きなんじゃないかしら」
「……そうですか」
穏やかに笑う結月を見て、レオは自身が飼う愛猫のことを思い出した。
猫が好きな所は、きっと八年経っても、変わっていない。
「あ、次は、五十嵐の番よ!」
「え? まだ続けるんですか?」
「えぇ、なんだか楽しくなって来ちゃったわ!」
無邪気に笑う結月に、レオは優しく微笑む。
そして、その後二人は、暫く「しりとり」を続けたのだが……
「す……推理」
『リース』
「す、す……スイス」
『す……ストラディバリウス』
「す、すす……す、ストレス」
何故か、その後も、ひたすら『す』で攻められ続けた結月は
(やっぱり五十嵐、私の事嫌いなんじゃ……)
と、少しばかり疑心暗鬼になりつつも、仲良くしりとりを続けながら、学校に向かったのでした。
✣ おしまい ✣
第27話にて、結月が官能小説を読んでるところを、レオに見つかった次の日のお話。ほぼ会話文ばかりになってますが、少しでも楽しんで頂けたら嬉しいです。
✣ ✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣ ✣
番外編『執事さんとしりとり』
✣ ✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣✣ ✣
「……はぁ」
朝、結月は学校へ向かうため、レオが運転する車に乗り込むと、窓の外を見つめ深くため息をついた。
昨日は、斎藤が、突然辞めてしまった。
しかも、それだけではなく、級友の有栖川が貸してくれた本が官能小説だったばかりか、それを読んでいたところを、見事、執事に見つかってしまったのだ。
それに
『お嬢様、私を愛してください』
あんなこと言われたのだから、まともに顔を合わせられるわけがなかった。
(……なんだか、気まづいわ)
後部座席から運転席に視線を送ると、慣れた手つきで運転する執事の後ろ姿が目に入った。
昨日、自分の前に膝まづいて手の甲にキスをした彼は、冗談と思えないくらい、真剣な表情をしていて──…
「……っ」
ダメだ!
今、思い出しても恥ずかしい!!
からかわれていたのも、小説を真似た演技なのも、ちゃんと分かっているはずなのに、改めて思い返すと恥ずかしくて仕方ない!!
(は……早く学校、つかないかしら)
二人きりの車内は、とてつもなく窮屈だった。
重い。とにかく重い!
神様、私は何かに悪いことでもしたのでしょうか?
斎藤がいきなり辞めて、執事にからかわれ、こんな重い空気の中、学校に行かなくてはならないなんて……!
「お嬢様」
「は、はい!?」
すると、突然声をかけられ、反射的に声が裏返った。
咄嗟に身構えた体は硬直し、ふと見つめた先では、鏡ごしに自分を見つめる執事と目が合った。
普段と何も変わらない、優しげな笑みを浮かべた執事。
きっと、昨夜のことで、こんなにも動揺しているのは、自分だけなのだろう。
「大丈夫ですか? お顔の色が優れないようですが」
(ッ……誰のせいで)
心の中で反論する。主人である自分が、こんな気持ちで学校に行かなくてはならないのは、全てこの執事のせいだ。
だが、そんなことを悟られたくはなく、結月はあくまでも毅然とした態度で接する。
「だ、大丈夫です。ただ、昨夜はあまり眠れなくて……」
「左様でございますか。では、今夜はお嬢様が眠るまで、ずっとお側で」
「結構です!!」
眠れなかった原因が、自分であることをわかっているくせに、更に困らせるようなことを言ってくる執事に結月は声を荒らげる。
ていうか、ずっと側でとか眠れる気がしない!
だが、どこか楽しそうに微笑む執事をみて、結月は再び顔を赤らめると
(絶対、からかわれてる……)
「お嬢様。しりとりでもしましょうか?」
「え?!」
すると、続けざまに放たれた言葉に結月は耳を疑った。
しりとり?
なんでいきなり、しりとり!?
「ふ、ふざけてるの?」
「まさか。ただ、今の重苦しい空気を和らげるには、ちょうどよいかと思いまして……」
「…………」
どうやら執事も感じ取っていたらしい。今、二人の間に流れる、とてつもなく重い空気を
「では、始めましょうか?」
すると、ニッコリと微笑んだ執事が、有無を言わさず、しりとりを開始する。
「え、ちょっと、本当にするの!?」
『はい。では、しりとりの「り」から……リス!』
「り、リス? えっと、す、す……すみれ!」
『レタス』
「すいか」
『カラス』
「水泳」
『イス』
「す……水晶」
『うぐいす』
「す……」
──す?
(あれ? さっきから「す」で終わる言葉しか来てないような?)
「お嬢様『す』ですよ?」
「え? あ……えっと、す……スペード!」
『ドライアイス』
「す、水筒」
『臼』
「す……」
す──!!?
待って、ホントに「す」しか来ないんだけど!?
「ちょっと、五十嵐! さっきから『す』ばっかりなんだけど!?」
「あはは。そうですか? もしかして、もうお手上げですか?」
「……ッ」
特段、悪びれた様子もなく笑う執事に、結月は悔しそうに眉を顰めた。
これは、絶対ワザとだ!
確実に、悪意がある!!
だが、お手上げか?……と言われると、こちらだって負けたくはなくなってくる。
「っ……えっと、す……すー……す?」
すると、再び『す』で始まる言葉を考えはじめた結月を見て、レオはクスクスとその口元を緩めた。
運転に集中しつつも、ミラー越しに結月を見れば、困りはてながらも必死に考えているのが見えた。
(さすがに、いじわる過ぎたかな?)
だが、その姿が思いのほか可愛くて、つい意地悪なことをしてしまった。
とはいえ、さすがに可哀想だな……とレオは反省すると、次は『す』から解放してあげようと、結月が放つであろう次の単語を待つ。
だが──
「すき!!」
「──ッ!?」
瞬間、キキッとブレーキの音が響いた!
予想だにしていなかった言葉に、手元が狂いそうになるのを必死に堪えると、なんとか体勢を立て直す。
だが、急に停りかけた車に、結月は顔を青くし
「ちょ、ちょっと、どうしたの!? 五十嵐、あなた本当に免許持ってる!?」
「大丈夫です、持ってます! 今のはちょっと動揺……猫が、飛び出してきまして!」
珍しく犯してしまった失態を、居もしない猫にな擦《なす》り付けると、レオは動揺する心を必死になって押さえ込む。
ビックリした。
いきなり、好きだなんて!
だが、落ち着け。今、結月に自分の記憶はない。ならば、今の「すき」は、絶対に、あの「好き」ではない!
「あの、お嬢様。鋤だなんて、よくご存知でしたね」
「あ、それはね。昔、"日本の道具"をたくさん集めた図鑑を読んだことがあって、それに餅つきの"臼"と一緒に"鋤"が載っていたのを思い出したの!」
「へー……左様でございますか。(そういえば、よく変な図鑑 読んでたな、結月のやつ)」
ちなみに『鋤』とは、農作業や土木工事などで使用される、地面を掘ったり、土砂などをかき寄せたりする木でできたスコップのような農具のことである。(わからない人は、検索してね!)
「それより、飛び出してきた猫は大丈夫なの?」
「え?……はい。ご心配なく(元々、飛び出してきてないし)それより、お嬢様は、猫はお好きですか?」
「えぇ、大好きよ。きっと動物の中で一番好きなんじゃないかしら」
「……そうですか」
穏やかに笑う結月を見て、レオは自身が飼う愛猫のことを思い出した。
猫が好きな所は、きっと八年経っても、変わっていない。
「あ、次は、五十嵐の番よ!」
「え? まだ続けるんですか?」
「えぇ、なんだか楽しくなって来ちゃったわ!」
無邪気に笑う結月に、レオは優しく微笑む。
そして、その後二人は、暫く「しりとり」を続けたのだが……
「す……推理」
『リース』
「す、す……スイス」
『す……ストラディバリウス』
「す、すす……す、ストレス」
何故か、その後も、ひたすら『す』で攻められ続けた結月は
(やっぱり五十嵐、私の事嫌いなんじゃ……)
と、少しばかり疑心暗鬼になりつつも、仲良くしりとりを続けながら、学校に向かったのでした。
✣ おしまい ✣
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