お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第10章 餅津木家とお嬢様

ドレスと手紙

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「五十嵐さん、見てください。お嬢様、とってもお似合いですよ!」

「……!」

 すると、奥の部屋から恵美の声が聞こえて、レオは顔を上げた。

 見ればそこには、真っ赤なドレスに身を包んだ結月が、すこし恥ずかしそうにして、カーテンの奥から出てくるのが見えた。

 肩出しのマーメイドラインのドレスだ。

 赤一色と一見派手にも見えるが、その深みのある赤は、結月の白い肌と茶色がかった黒髪を見事に引き立て、不思議と上品で落ち着いた印象に仕上がっていた。

 細部まで施された刺繍は、とても華やかで、広く開いた胸元と美しいデコルテのライン。

 そして、細い腰から太ももにかけて沿うように流れるドレスは、まさに人魚のように艶やかで、とても美しい。

 今は髪を下ろしているが、これで髪を上げ、ネックレスやイヤリングなどを付ければ、きっと、どこのお嬢様にも引けを取らないだろう。

(……綺麗だ)

 普段とは、全く違う結月の姿に、レオはただ呆然と、その姿に見つめた。

 いつもは、ゆったりとしたブラウスに、ロングスカートというスタイルが多い結月。

 あまり身体のラインが出ない服を着ているせいか、その色気のある姿には、自ずと鼓動が早まった。

 なにより、とても綺麗だと思った。
 まさに、目もくらむほど──

「……あの、どこか変?」
「あ、いえ……滅相もございません!」

 黙ったまま、何も言わない執事に結月が不安げに尋ねると、レオは慌てて言葉を発した。

 レオだって、まさかここまで色っぽい姿で出てくるとは思っていなかったのだ。

「とても、お綺麗です。お嬢様」
「そう……ありがとう」

 恥じらいながらも嬉しそうに笑う結月に、自然と頬が緩みそうになった。

 だが、今のレオは、あくまでも執事でいなくてはならない。
 恵美もいるこの状況で、お嬢様に好意を抱いているそぶりなんて、一ミリたりとも見せてはいけない。

 そう思うと、高鳴る感情を必至に押さえ込み、レオはいつも通り振る舞う。

「サイズや着丈はいかがですか?」

「それが、まるで測ったみたいにピッタリなの!」

(そりゃ、俺たちが……)

(しっかり調べましたからね)

 すると恵美とレオは、夏休み、お嬢様のスリーサイズを調べるために奮闘した日を、懐かしく思う。

 だが、バレないようにと、頑張ったかいもあり、そのドレスは、結月のスタイルの良さを最大限に引き出し、とてもよく似合っていた。

「でも、驚いたわ。まさかお母様が、私にドレスをプレゼントして下さるなんて」

「ホントですよ! よかったですね、お嬢様! なにより、とってもお綺麗です!」

「ありがとう、恵美さん。でも、このドレス、少し露出が高くないかしら?」

 すると、結月は大胆に開いた自分の胸元を、手で隠すようにして押さえた。

 赤いドレスに、赤いピンヒール。

 大人の色気を押し出すようなそのドレスは、確かに、若干露出度が高い。

 胸元は谷間までしっかり見えているし、スカートには深いスリットが入っていて、細く柔らかそうな太股が、ちらりと覗く。

 身体のラインがしっかり出ているのもあってか、正直そのドレスは──とても"際どい"。

(確かに、似合ってはいるけど、この姿を他の男には見せるのはな……)

 そして、その姿を見て、レオは改めて考える。

 できるなら、あまり肌を晒さない清楚なドレスにしてほしかった。
 まぁ、あの派手な母親が、好みそうなデザインでもあるが……

「お嬢様。胸元が気になるのなら、ショールで隠すというのはいかがでしょうか? それでも抵抗があるなら、あえて着る必要は」

「それは、ダメよ。せっかくお母様が選んでくださったのに」

「そうですよ、五十嵐さん! それに、お嬢様なら大丈夫です! スタイルいいんですから、どんどん見せていきましょう!」

(だから、見せなくていいって……)

 自分とは真逆の提案をする恵美に、軽く苛立ちつつも、これ以上、私情を挟むわけにはいかない──と、レオは気持ちを切り替えると、先程、手にした手紙を結月に差し出す。

「お嬢様、こちらは、奥様からのお手紙のようです。袋の底に入っておりました」

「……え? 手紙まであるの?」

 その手紙を手に取ると、結月は封を切り、中を確認する。すると

「モチヅキ──」

「え?」

「あ、手紙に書いてあるの。今月末、"餅津木もちづき 幸蔵こうぞう様"のご子息、春馬はるまさんの誕生パーティーが開かれるから、このドレスをきて出席するようにって」

「…………」

 結月がレオに手紙を渡すと、レオもまた、その中身を確認する。

 手紙の中には、美結が書いた手紙と一緒に、パーティーの招待状が入っていた。

 だが、その『餅津木』という名前を見て、レオは目を細めた。

 大型商業施設を中心に、数多くの総合レジャー施設を手がける『餅津木グループ』は、ここ10年ほどで、大きく躍進してきた企業だ。

 そのチェーン店は全国に渡り、今一番勢いのある企業。
 そんな企業の次期社長でもある春馬の誕生パーティーに招かれたとなれば、気合いが入るのも頷ける。

 だが──

(どうやら、素直に娘へのプレゼントってわけじゃなさそうだな)

 このタイミングで、早急にドレスを仕立てたということは、やはり何か裏があるのだろう。

 多少、懸念していたが、どうやら的中したらしい。

(一体、何を企んで……)

 赤いドレスを着た結月を見て、レオは招待状を握る手に微かに力を込めた。

 その『餅津木もちづき』という名に、一抹の不安を宿しながら──
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