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第11章 執事の誘惑
甘やかし
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日曜の昼下がり──
その後、結月とレオは、前に二人で訪れたあの公園に来ていた。
前に来たときには、学校帰りだったため人も少なかったが、今日は日曜日だからか、カップルだけでなく、家族づれに、ジョギングをする人たちも見受けられた。
フリルつきの清楚なワンピースの上に、薄手のコートを羽織った結月は、執事に連れられるまま、また池の傍までやってくる。
水面には、赤や黄色など、季節の移り変わりと共に変わった葉の色が、ゆらゆらと反射していた。
静かで、厳かで、まるで絵画でもみているような美しい景色──
「綺麗……」
「……そうですね」
風景に見とれ、その後、ゆっくりと池の中を覗き込めば、並んでいる二人の姿が見えて、結月は頬を赤らめた。
(……散歩っていったけど、やっぱり少し恥ずかしいわね)
今、自分の隣には、好きな人がいる。そう思うと、やはり意識せずにはいられなかった。
(落ち着かなきゃ……)
「お嬢様」
「ひゃ!? な、なに!?」
瞬間、近い距離で声をかけれ、思わず変な声が出た。
はしたないとばかりに、結月はそっと口元を押さえるが、横にいる執事は、ある場所を指さしながら、また結月に語りかける。
「また、パン屋に行きますか?」
「え?」
みれば、その先には、前にメロンパンをかったあの移動販売のパン屋が、ちょうど公園の中に入ってきたところだった。
「た、食べていいの?」
「もちろん」
そう言って問いかければ、執事は優しく微笑み、その後、結月の手をとった。
「え……っ」
不意に、執事に手を引かれ、パン屋へ歩きだす。だが、先程の話を思い出してか、結月は軽く躊躇いを持ってしまった。
本来、手を繋ぐのは、恋人同士がすることだと聞いたから
「あ、あの! 私、今日は一人で買ってみたい!」
「え?」
「ほ、ほら、ちゃんとお金も持ってきたし、社会勉強にもなるし……!」
とっさに手を離して、結月は、あたふたとそういった。いつもの事だが、この執事は主との距離が、やたらと近い。だが、こんなことがしょっちゅうあっては、正直身が持たない。
というか、好きなのがバレる!
「い、五十嵐はどんなパンがいい?」
「お嬢様が買ってきてくださるのですか?」
「うん。二人分買ってくるから、食べたいもの言って」
その可愛らしい姿に、レオはクスリと笑みを浮かべた。執事がいるのに、わざわざお嬢様みずから、パンを買いに行くと言うのだから……
(食べたいもの……か)
そして、レオは暫く考え込むと
「お嬢様、私の事はお気になさらず、どうぞ、お嬢様が食べたいものを二つ選んできてください」
「え? でも、それじゃぁ、五十嵐が食べたいものではないかもしれないじゃない」
「いいんです。お嬢様が食べたいと思うものを私も食べたいので……ですから、違う種類のものを1つずつ選んできてくださいね」
そう言われ、結月は、しぶしぶパン屋へ向かった。
(五十嵐は、いつも私に甘すぎるわ)
そして、パン屋の前に一人でたった結月は、言われた通りパンを選びながら、執事のことを考えていた。
うちの執事は、色々と甘すぎる。
なんでも、お嬢様優先。
まぁ、執事なのだから、それも当たり前なのかもしれないけど……
(五十嵐って、どんなパンが好きなのかしら?)
この前、食べたメロンパンはもう一度食べてみたいと思っていた。だから、すぐにきまったのだが、あとひとつがなかなか決まらなかった。
それに、できるなら、五十嵐が食べたそうなものをと思うのだが……
(うーん、フランスにいたみたいだし、フランスパンとか?……でも、フランスパンは愛理さんが焼いてくれるし、あまり珍しくもないし…それに五十嵐って、一応、日本人なのよね?)
フランスに行く前は、日本にいたのだろうか?
考えてもみれば、自分は執事のことをあまりよく知らない。
あっちは自分のことを、なんだって知っているのに……
「あ、私これがいい~」
「おじさん! これとこれ、ひとつずつください」
「!」
すると、そこに、もう一組客が来て、結月は視線を向けた。
自分と同じ年頃の高校生くらいのカップルだ。
彼氏と腕を組んで、女の子がピッタリとくっついている姿は、見ているこちらが恥ずかしくなるほどで、結月はあわてて視線をそらすと、見てはいけないとばかりに、小さくうつむく。
(こ、恋人同士って、腕を組んだりもするのね)
それも、人前であんなに大胆に。
すると、それから暫くして、パンをかったそのカップルは、また仲良さげに立ち去っていって、結月は、その後ろ姿を見て、ふと思う。
(五十嵐も……彼女とあんなふうに、腕を組んだり、してるのかな?)
将来を誓いあった恋人がいるなら、それは当然のことなのかもしれない。
分かっているはずなのだ。
五十嵐には、彼女がいる。
彼が、あんなにも自分を大切に扱ってくれるのは、あくまでも「お仕事」だから──
それは、分かってるはずなのに、五十嵐が、ほかの女の子と腕を組んだり、手を繋いでいる姿を想像するだけで、こんなにも胸が傷んで
息も出来なくなるほど、苦しくなる。
でも──
(あー、ダメダメ! こんな気持ち忘れなきゃ!)
結月はフルフルと頭をふると、必死に邪念を打ち払った。
今日、ここでのことは、思い出として胸の奥にしまって、あとは、しっかり忘れよう。
結月は、すっと気持ちを切り替えると、その後、パン屋の店主を見つめた。
「あの、フランス人と日本人に人気のパンは、ありますか?」
「……え?」
そんな結月の質問に、パン屋の店主が暫く考え込んだのは言うまでもない。
その後、結月とレオは、前に二人で訪れたあの公園に来ていた。
前に来たときには、学校帰りだったため人も少なかったが、今日は日曜日だからか、カップルだけでなく、家族づれに、ジョギングをする人たちも見受けられた。
フリルつきの清楚なワンピースの上に、薄手のコートを羽織った結月は、執事に連れられるまま、また池の傍までやってくる。
水面には、赤や黄色など、季節の移り変わりと共に変わった葉の色が、ゆらゆらと反射していた。
静かで、厳かで、まるで絵画でもみているような美しい景色──
「綺麗……」
「……そうですね」
風景に見とれ、その後、ゆっくりと池の中を覗き込めば、並んでいる二人の姿が見えて、結月は頬を赤らめた。
(……散歩っていったけど、やっぱり少し恥ずかしいわね)
今、自分の隣には、好きな人がいる。そう思うと、やはり意識せずにはいられなかった。
(落ち着かなきゃ……)
「お嬢様」
「ひゃ!? な、なに!?」
瞬間、近い距離で声をかけれ、思わず変な声が出た。
はしたないとばかりに、結月はそっと口元を押さえるが、横にいる執事は、ある場所を指さしながら、また結月に語りかける。
「また、パン屋に行きますか?」
「え?」
みれば、その先には、前にメロンパンをかったあの移動販売のパン屋が、ちょうど公園の中に入ってきたところだった。
「た、食べていいの?」
「もちろん」
そう言って問いかければ、執事は優しく微笑み、その後、結月の手をとった。
「え……っ」
不意に、執事に手を引かれ、パン屋へ歩きだす。だが、先程の話を思い出してか、結月は軽く躊躇いを持ってしまった。
本来、手を繋ぐのは、恋人同士がすることだと聞いたから
「あ、あの! 私、今日は一人で買ってみたい!」
「え?」
「ほ、ほら、ちゃんとお金も持ってきたし、社会勉強にもなるし……!」
とっさに手を離して、結月は、あたふたとそういった。いつもの事だが、この執事は主との距離が、やたらと近い。だが、こんなことがしょっちゅうあっては、正直身が持たない。
というか、好きなのがバレる!
「い、五十嵐はどんなパンがいい?」
「お嬢様が買ってきてくださるのですか?」
「うん。二人分買ってくるから、食べたいもの言って」
その可愛らしい姿に、レオはクスリと笑みを浮かべた。執事がいるのに、わざわざお嬢様みずから、パンを買いに行くと言うのだから……
(食べたいもの……か)
そして、レオは暫く考え込むと
「お嬢様、私の事はお気になさらず、どうぞ、お嬢様が食べたいものを二つ選んできてください」
「え? でも、それじゃぁ、五十嵐が食べたいものではないかもしれないじゃない」
「いいんです。お嬢様が食べたいと思うものを私も食べたいので……ですから、違う種類のものを1つずつ選んできてくださいね」
そう言われ、結月は、しぶしぶパン屋へ向かった。
(五十嵐は、いつも私に甘すぎるわ)
そして、パン屋の前に一人でたった結月は、言われた通りパンを選びながら、執事のことを考えていた。
うちの執事は、色々と甘すぎる。
なんでも、お嬢様優先。
まぁ、執事なのだから、それも当たり前なのかもしれないけど……
(五十嵐って、どんなパンが好きなのかしら?)
この前、食べたメロンパンはもう一度食べてみたいと思っていた。だから、すぐにきまったのだが、あとひとつがなかなか決まらなかった。
それに、できるなら、五十嵐が食べたそうなものをと思うのだが……
(うーん、フランスにいたみたいだし、フランスパンとか?……でも、フランスパンは愛理さんが焼いてくれるし、あまり珍しくもないし…それに五十嵐って、一応、日本人なのよね?)
フランスに行く前は、日本にいたのだろうか?
考えてもみれば、自分は執事のことをあまりよく知らない。
あっちは自分のことを、なんだって知っているのに……
「あ、私これがいい~」
「おじさん! これとこれ、ひとつずつください」
「!」
すると、そこに、もう一組客が来て、結月は視線を向けた。
自分と同じ年頃の高校生くらいのカップルだ。
彼氏と腕を組んで、女の子がピッタリとくっついている姿は、見ているこちらが恥ずかしくなるほどで、結月はあわてて視線をそらすと、見てはいけないとばかりに、小さくうつむく。
(こ、恋人同士って、腕を組んだりもするのね)
それも、人前であんなに大胆に。
すると、それから暫くして、パンをかったそのカップルは、また仲良さげに立ち去っていって、結月は、その後ろ姿を見て、ふと思う。
(五十嵐も……彼女とあんなふうに、腕を組んだり、してるのかな?)
将来を誓いあった恋人がいるなら、それは当然のことなのかもしれない。
分かっているはずなのだ。
五十嵐には、彼女がいる。
彼が、あんなにも自分を大切に扱ってくれるのは、あくまでも「お仕事」だから──
それは、分かってるはずなのに、五十嵐が、ほかの女の子と腕を組んだり、手を繋いでいる姿を想像するだけで、こんなにも胸が傷んで
息も出来なくなるほど、苦しくなる。
でも──
(あー、ダメダメ! こんな気持ち忘れなきゃ!)
結月はフルフルと頭をふると、必死に邪念を打ち払った。
今日、ここでのことは、思い出として胸の奥にしまって、あとは、しっかり忘れよう。
結月は、すっと気持ちを切り替えると、その後、パン屋の店主を見つめた。
「あの、フランス人と日本人に人気のパンは、ありますか?」
「……え?」
そんな結月の質問に、パン屋の店主が暫く考え込んだのは言うまでもない。
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