170 / 289
第17章 恋人たちの末路
繋がれた鎖
しおりを挟む
「あなた方は、本当にそんな人生が、結月にとって幸せだと言えますか?」
その言葉に、誰もが息を詰めた。
自分達が仕えたお嬢様のこの先の未来が、あまりにも辛く過酷なものであることに、身が震える思いがした。
好きでもない相手と結婚をさせられるだけでなく、子供が出来なければ、また別の男に宛てがわれる。
心と身体をひたすら酷使し、すり減らすだけの人生に、どんな夢や希望があるのだろう。
「お嬢様……っ」
その先に待つのは、果てしない暗闇だけな気がして、恵美が、涙目になり結月を見つめた。
そして、その後は、もう誰一人として、レオに反論する者はいなかった。
レオは、そんな使用人たちを一瞥すると、その後、席から立ち、床に座り込み放心状態になった結月の傍に膝まづいた。
知らされていなかった事実。
それも、あまりにも悲惨な未来を告られた。今の結月の心境を思うと、胸が張り裂けそうになる。
だが、ここまで来たら、もう後には引けない。
レオは、結月の手を取り、静かに立ち上がらせると、次に、使用人たちに向き直り、改めて頭を下げた。
「これまで、あなた方を欺いていたこと、深くお詫び申し上げます。ですが、結月のことを少しでも大切に思って下さるなら、どうか俺に、彼女を拐うことを許してください」
真摯に頭を下げ、許しを乞う姿に、4人は息を詰めた。
言っていることは、決してまともではない。娘を一人、拐うと言っているのだから。
だけど、その姿には、不思議と胸を打たれた。
彼の誠実さが、否応にも、伝わってくる。この執事は、本気でお嬢様を、この屋敷から連れ出そうとしている。
この阿須加という柵を解いて、お嬢様に繋がれた鎖を、必死の思いで断ち切ろうとしてる。
だけど、本当に上手くいくのだろうか?
もし、連れ戻されたりしたら、その先に待つのは──更なる絶望だけ。
「許してって、言われても……っ」
すると、その姿に困り果てが恵美は
「斎藤さん、斎藤さんも、何か言ってください……!」
そう言って、斎藤に助けを求めた。
ずっと黙っていた斎藤は、一度、恵美に目を向けた後、改めて、結月とレオに目を向けた。
深く頭を下げる執事と、その横で立ち尽くすお嬢様。
きっと、この二人の未来は、自分のこの言葉で、決まってしまう。
人の未来を左右する一言。その最後の判断を任されるのは、あまりにもコクだった。
でも……
「……そうだな。私は、嬉しいかな」
「嬉しい……?」
瞬間、斎藤が微笑みつげたことばは、意外なもので、皆は首を傾げた。
「……嬉しいって」
「私は、お嬢様が生まれた時から、ずっとお傍に仕えてきた。お嬢様は、幼い頃とても無邪気でね。よく私に行きたい場所や、やりたいことを、色々話してくれた。だけど、私は、それを叶えてやることができなかった。旦那様からの命令があったから……それに、白木さんが辞めさせられてからは、小さなワガママですら、ぱったり言わなくなってしまってね……だから、また、こうしてワガママを言ってくれたことが、私は嬉しくてね」
「っ……」
変わらない眼差しで、まるで、父のように暖かな言葉をかけてくれた斎藤に、結月の胸はいっぱいになった。
駆け落ちをしたいなんて世迷言を、まるで可愛いワガママだとでも言うように、嬉しいと言ってくれる。
やはり、自分の父は、斎藤だけだと思った。例え、血が繋がらなくても、使用人だったとしても……
だが、それは斎藤も同じだったらしい。斎藤は、優しく結月を見つめると
「お嬢様、今はもう使用人でないから、言えますが、私はあなたを本当の娘のように思っていました。無邪気に笑いかけてくれるのが嬉しくて、微笑ましく思いながらも、あなたの将来を、ずっと案じていました。せめて、優しく清廉な男性が、お嬢様の婚約者になってくれたらと……ですが、その婚約者も、どうやら、そうではないらしい。なら、私は例え向かう先が茨の道でも、お嬢様の気持ちを優先させてあげたい」
「……私の」
「はい。好きな男となら、茨の道もまた変わって見えるかもしれない。それで、五十嵐くん。なにか策はあるのかい?」
すると、斎藤は、次にレオを見つめた。
「矢野さんの言う通り、駆け落ちなんて簡単なことじゃない。警察が動き出せば、見つかるのは時間の問題。なにより、連れ戻されれば、お嬢様は今以上に監視が厳しくなって、二度と会う事は出来なくなるだろう。だが、君のことだ。なんの策もなく駆け落ちをしようなんて、思ってはいないだろう。もし、お嬢様を救う手立てがあるのなら、どうか、私にも──手伝わせてほしい」
「え?」
手伝う──その言葉に一驚する。
「手伝う……?」
「あぁ、うちのお嬢様は、いい子すぎて、張合いがなくてね。だが、そんなお嬢様の最後のワガママくらい叶えてやりたいだろう。夢は、見るだけで終わらせてはいけないよ」
「……っ」
斎藤の言葉は、レオの心に深く深く響いた。
幼い頃の結月には、たくさんの夢があった。
だけど、その夢は、成長するにつれ、一つ一つ失われていった。
親に傷つけられ、涙を流す度に、心を殺し、人形のように生きていた結月。
だが、そんな結月を見てきたからこそ、斎藤は、結月の夢を叶えたいと言ってくれる。
お嬢様の
人生をかけたワガママを
ただ『好きな人と家族になりたい』
そんな
普通の女の子らしい夢を……
「私も手伝います!」
すると、その斎藤を筆頭に、使用人たちが次々と声を上げ始めた。
恵美は、結月の側まで駆け寄ると
「お嬢様! 餅津木家になんて、絶対に行っちゃダメです!」
「そうだよ! いくらなんでも酷すぎる!! 私も手伝うから、みんなで駆け落ち成功させよう! ねぇ、矢野さん!!」
「え! 私は……っ」
愛理が詰めよれば、ずっと反対していた矢野もまた、結月を見つめ目を細めた。
矢野だって、ずっと結月に仕えてきた。
まるで自分の娘のように、彼女の幸せを願ってきた。
「ッ……私が、お嬢様の幸せを願わないはずがないでしょう!」
「ふふ、だよね~」
すると、場の雰囲気は、まるで冬が終わりを告げたように温かくなった。
初めの殺伐とした空気が、嘘のように和らぎ、結月は、そんなみんなの姿を見て、また、目に涙をうかべた。
「ぅう、みんな……っ」
「ちょ、お嬢様、泣かないでくださいよ!」
「ッ……だって」
恵美が心配し声をかければ、結月の頬にはまた涙がつたった。
止まるはずがない。
こんなに、嬉しい涙が……
「ありがとう、みんな……っ」
泣きながら感謝の言葉を伝えれば、使用人たちは、その後、温かく微笑んだ。
絶対に、成功させよう。
大切な大切な、お嬢様のために──…
そして、そんな彼らの決意を前には、レオもまたその意志を強くする。
一時は、どうなることかと思った。
最悪の場合、今夜にでも結月を連れて屋敷を離れるべきかも考えた。
だが、そうならずにすんだのは、この使用人たちが、本気で結月の幸せを願ってくれたから……
「それで、本当に策はあるんですか?」
すると、矢野が問いかけてきて、レオは、視線をあげた。
策──そう言われ、レオは不敵に微笑むと
「はい。ですが、その前に……」
久しぶりに、使用人たちが集まった屋敷の中は、これまでとは違う空気に包まれていた。
それはまるで、二人の未来に小さな小さな光が灯されたかのような、そんな優しく晴れやかなものだった。
その言葉に、誰もが息を詰めた。
自分達が仕えたお嬢様のこの先の未来が、あまりにも辛く過酷なものであることに、身が震える思いがした。
好きでもない相手と結婚をさせられるだけでなく、子供が出来なければ、また別の男に宛てがわれる。
心と身体をひたすら酷使し、すり減らすだけの人生に、どんな夢や希望があるのだろう。
「お嬢様……っ」
その先に待つのは、果てしない暗闇だけな気がして、恵美が、涙目になり結月を見つめた。
そして、その後は、もう誰一人として、レオに反論する者はいなかった。
レオは、そんな使用人たちを一瞥すると、その後、席から立ち、床に座り込み放心状態になった結月の傍に膝まづいた。
知らされていなかった事実。
それも、あまりにも悲惨な未来を告られた。今の結月の心境を思うと、胸が張り裂けそうになる。
だが、ここまで来たら、もう後には引けない。
レオは、結月の手を取り、静かに立ち上がらせると、次に、使用人たちに向き直り、改めて頭を下げた。
「これまで、あなた方を欺いていたこと、深くお詫び申し上げます。ですが、結月のことを少しでも大切に思って下さるなら、どうか俺に、彼女を拐うことを許してください」
真摯に頭を下げ、許しを乞う姿に、4人は息を詰めた。
言っていることは、決してまともではない。娘を一人、拐うと言っているのだから。
だけど、その姿には、不思議と胸を打たれた。
彼の誠実さが、否応にも、伝わってくる。この執事は、本気でお嬢様を、この屋敷から連れ出そうとしている。
この阿須加という柵を解いて、お嬢様に繋がれた鎖を、必死の思いで断ち切ろうとしてる。
だけど、本当に上手くいくのだろうか?
もし、連れ戻されたりしたら、その先に待つのは──更なる絶望だけ。
「許してって、言われても……っ」
すると、その姿に困り果てが恵美は
「斎藤さん、斎藤さんも、何か言ってください……!」
そう言って、斎藤に助けを求めた。
ずっと黙っていた斎藤は、一度、恵美に目を向けた後、改めて、結月とレオに目を向けた。
深く頭を下げる執事と、その横で立ち尽くすお嬢様。
きっと、この二人の未来は、自分のこの言葉で、決まってしまう。
人の未来を左右する一言。その最後の判断を任されるのは、あまりにもコクだった。
でも……
「……そうだな。私は、嬉しいかな」
「嬉しい……?」
瞬間、斎藤が微笑みつげたことばは、意外なもので、皆は首を傾げた。
「……嬉しいって」
「私は、お嬢様が生まれた時から、ずっとお傍に仕えてきた。お嬢様は、幼い頃とても無邪気でね。よく私に行きたい場所や、やりたいことを、色々話してくれた。だけど、私は、それを叶えてやることができなかった。旦那様からの命令があったから……それに、白木さんが辞めさせられてからは、小さなワガママですら、ぱったり言わなくなってしまってね……だから、また、こうしてワガママを言ってくれたことが、私は嬉しくてね」
「っ……」
変わらない眼差しで、まるで、父のように暖かな言葉をかけてくれた斎藤に、結月の胸はいっぱいになった。
駆け落ちをしたいなんて世迷言を、まるで可愛いワガママだとでも言うように、嬉しいと言ってくれる。
やはり、自分の父は、斎藤だけだと思った。例え、血が繋がらなくても、使用人だったとしても……
だが、それは斎藤も同じだったらしい。斎藤は、優しく結月を見つめると
「お嬢様、今はもう使用人でないから、言えますが、私はあなたを本当の娘のように思っていました。無邪気に笑いかけてくれるのが嬉しくて、微笑ましく思いながらも、あなたの将来を、ずっと案じていました。せめて、優しく清廉な男性が、お嬢様の婚約者になってくれたらと……ですが、その婚約者も、どうやら、そうではないらしい。なら、私は例え向かう先が茨の道でも、お嬢様の気持ちを優先させてあげたい」
「……私の」
「はい。好きな男となら、茨の道もまた変わって見えるかもしれない。それで、五十嵐くん。なにか策はあるのかい?」
すると、斎藤は、次にレオを見つめた。
「矢野さんの言う通り、駆け落ちなんて簡単なことじゃない。警察が動き出せば、見つかるのは時間の問題。なにより、連れ戻されれば、お嬢様は今以上に監視が厳しくなって、二度と会う事は出来なくなるだろう。だが、君のことだ。なんの策もなく駆け落ちをしようなんて、思ってはいないだろう。もし、お嬢様を救う手立てがあるのなら、どうか、私にも──手伝わせてほしい」
「え?」
手伝う──その言葉に一驚する。
「手伝う……?」
「あぁ、うちのお嬢様は、いい子すぎて、張合いがなくてね。だが、そんなお嬢様の最後のワガママくらい叶えてやりたいだろう。夢は、見るだけで終わらせてはいけないよ」
「……っ」
斎藤の言葉は、レオの心に深く深く響いた。
幼い頃の結月には、たくさんの夢があった。
だけど、その夢は、成長するにつれ、一つ一つ失われていった。
親に傷つけられ、涙を流す度に、心を殺し、人形のように生きていた結月。
だが、そんな結月を見てきたからこそ、斎藤は、結月の夢を叶えたいと言ってくれる。
お嬢様の
人生をかけたワガママを
ただ『好きな人と家族になりたい』
そんな
普通の女の子らしい夢を……
「私も手伝います!」
すると、その斎藤を筆頭に、使用人たちが次々と声を上げ始めた。
恵美は、結月の側まで駆け寄ると
「お嬢様! 餅津木家になんて、絶対に行っちゃダメです!」
「そうだよ! いくらなんでも酷すぎる!! 私も手伝うから、みんなで駆け落ち成功させよう! ねぇ、矢野さん!!」
「え! 私は……っ」
愛理が詰めよれば、ずっと反対していた矢野もまた、結月を見つめ目を細めた。
矢野だって、ずっと結月に仕えてきた。
まるで自分の娘のように、彼女の幸せを願ってきた。
「ッ……私が、お嬢様の幸せを願わないはずがないでしょう!」
「ふふ、だよね~」
すると、場の雰囲気は、まるで冬が終わりを告げたように温かくなった。
初めの殺伐とした空気が、嘘のように和らぎ、結月は、そんなみんなの姿を見て、また、目に涙をうかべた。
「ぅう、みんな……っ」
「ちょ、お嬢様、泣かないでくださいよ!」
「ッ……だって」
恵美が心配し声をかければ、結月の頬にはまた涙がつたった。
止まるはずがない。
こんなに、嬉しい涙が……
「ありがとう、みんな……っ」
泣きながら感謝の言葉を伝えれば、使用人たちは、その後、温かく微笑んだ。
絶対に、成功させよう。
大切な大切な、お嬢様のために──…
そして、そんな彼らの決意を前には、レオもまたその意志を強くする。
一時は、どうなることかと思った。
最悪の場合、今夜にでも結月を連れて屋敷を離れるべきかも考えた。
だが、そうならずにすんだのは、この使用人たちが、本気で結月の幸せを願ってくれたから……
「それで、本当に策はあるんですか?」
すると、矢野が問いかけてきて、レオは、視線をあげた。
策──そう言われ、レオは不敵に微笑むと
「はい。ですが、その前に……」
久しぶりに、使用人たちが集まった屋敷の中は、これまでとは違う空気に包まれていた。
それはまるで、二人の未来に小さな小さな光が灯されたかのような、そんな優しく晴れやかなものだった。
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
魚人族のバーに行ってワンナイトラブしたら番いにされて種付けされました
ノルジャン
恋愛
人族のスーシャは人魚のルシュールカを助けたことで仲良くなり、魚人の集うバーへ連れて行ってもらう。そこでルシュールカの幼馴染で鮫魚人のアグーラと出会い、一夜を共にすることになって…。ちょっとオラついたサメ魚人に激しく求められちゃうお話。ムーンライトノベルズにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる