230 / 289
第21章 神隠し
母親
しおりを挟む「この家、レオが、子供の頃に住んでいた家なんだよ」
「え?」
その言葉に、結月は驚きつつ、ルイを見つめた。
レオが、幼い頃に住んでいた家。結月が、出会ったあの8年前、レオは、この家で暮らしていたのだと──
「レオが? この家で?」
「そうだよ。8年前に、お父さんとおばあちゃんと一緒に暮らしていた家。その後、空き家になっていたこの家を、僕が買い取ったんだよ」
歩きながら話せば、廊下の柱に、文字が刻まれているのが、うっすら見えた。
『れいじ 10才』と書かれた古い線の横に『レオ 10才』と書かれた文字。
それは、父親の代から、息子へと受け継がれた成長の証だった。
自分が、あの屋敷を手放したように、レオもまた、愛すべき我が家を手放していたのだと、その刻まれた文字を見て、結月の胸には、言われもない切なさが宿る。
何もかも捨てさせて
何もかも捨てて
私たちは、新しい未来へ進む。
でも、できるなら
捨てることなく叶えたかった。
お父様とお母様に認められて
友人たちや生まれ育った故郷を捨てることなく、愛する人と結ばれたかった。
でも、それは、どうしても──叶わぬ夢だった。
「ルイさんが、この家を引き取ってくれて、きっと、レオは喜んでますね」
結月が柔らかく微笑むと、ルイは、どこかくすぐったそうに答える。
「あはは、そうかな?」
「そうですよ。口にはしなくても、絶対に、そう思ってます」
「そっか。レオのこと、よくわかってるんだね。君が記憶を思い出してくれて、本当によかったよ」
記憶をなくしていた時のことを思い出し、ルイが喜びを込めて微笑む。
ルイが、初めて結月と会った時、結月は、レオに恋心を抱きながらも諦める気でいた。
女装をして現れたルイを、レオの恋人だと疑わず、その叶わぬ恋を受け入れ、忘れようとすらしていた。
そして、あの日『五十嵐には言わないで』と言う結月の思いを、ルイは踏みにじってしまった。
「あの時は、ゴメンね。絶対に言わないでって言われたのに」
知られたくなかった思いを、レオに話してしまったことを謝れば、結月はフルフルと首を振りながら
「いいえ。そのおかげで、今の私たちがあります。ルイさんには、本当に、ご迷惑ばかりおかけしました」
「ご迷惑か……確かに、レオには、かなりのワガママを言われたかな~。女装して彼女になりすませって言われた時は、どうしようかと思ったけど、迷惑だとは思ってなかったよ。僕は、ずっとレオの夢を応援してたからね。それに、今は、みんな同じなんじゃないかな? 君たちの幸せを心から願ってる。奥の部屋で、矢野さんと斎藤さんも待ってるよ」
「え、二人も来てるんですか?」
「うん。斎藤さんは、奥さんも連れてね」
「奥様も? 本当に!? 私たち、斎藤の奥様から、ご実家を譲り受けることになったので、できるなら、しっかりご挨拶をしておきたかったんです」
「そっか。じゃぁ、丁度よかったね。斎藤さんの奥さんも、一目会ってお礼を言いたかったって」
「お礼?」
「うん、斎藤さんが辞められたのは、レオのおかげだからね。それと、もう一人来てるよ」
「もう一人?」
だが、その言葉に、結月は首を傾げた。
斎藤に矢野に、恵美に愛理。
使用人は、レオ以外、みんな揃ってる。
──じゃぁ、誰が?
そう思ったが、ルイは『会ってからの、お楽しみ』なんて言いながら、結月を奥の客間へ通した。
客間は、二間続きの和室で、ストーブが焚《た》かれていた。
暖かな空気に満ちたその場所には、斎藤夫婦と矢野が座っていて、そして、その隣にもう一人、誰がが座っているのが見えた。
長い髪をした、30代後半くらいの女性。
「……っ」
そして、その姿を見た瞬間、結月は、大きく目を見開いた。
そこにいたのは、結月が
『会いたい』と思っていた人だった。
会って、謝りたいと
ずっとずっと、思っていた人。
「白木……さん?」
声を震わせながら、結月が問いかける。
すると、その人物は、ゆっくりと立ち上がり、あの頃と変わらない、優しい声を発した。
「お久しぶりです。結月お嬢様」
そこにいたのは、結月が幼い頃、母親のように慕っていた人。
元・メイドの──白木 真希だった。
1
あなたにおすすめの小説
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる