お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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第21章 神隠し

ルナ

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「ルナ?」

 結月が小さく名を呼べば、ルイの腕の中にいた黒猫が、ピクリと耳を動かした。

 白木から離れ、結月は恐る恐るルナに近づき、そっと頭に触れてみる。

 すると──

「ふにあぁぁぁ!!」

「ひゃ! ご、ごめんなさい!!」

「ちょっと、ルナちゃん!?」

 触ろうとした結月にむけて、突如、毛を逆立たせたルナ。それを見て、ルイが慌てふためく。

 こちらも感動の再会になるかと思いきや、どうやらそうでもないらしく、警戒するルナは、フーフーと威嚇していて、結月は、思った以上のショックを受ける。

(ルナ……私の事、忘れちゃったの?)

 だが、もう8年も会っていないのだ。
 忘れられていたとしても、なんら、おかしくはない。

「ルナちゃん。結月ちゃんだよ。君のお母さん」

「いいんです、ルイさん。8年もたってしまったんだもの。きっと、もうわからないんだわ」

 哀愁を心を秘め、それでも結月は、ルナに微笑みかけた。

 あの頃は、まだ幼かったが、今はもう違う。

 大人になったが故に、見た目は、すっかり変わってしまった。だから、分からないのも無理はない。

 だが、そう理解していても、やはり、寂しさは拭えなかった。

 もしかしたら、あの日のレオも同じような気持ちだったのかもしれない。

 はじめて屋敷に来た日、結月はレオに『初めまして』といった。

 忘れられたと知り、どれほど、落ち込んだことだろう。だけど、それでもレオは、諦めずに笑いかけてくれた。

 どんなに辛くても、決して諦めず、二人の思い出を一つ一つ繋ぎ合わせて、私の記憶を思い出させてくれた。

 なら──

「ありがとうございます、ルイさん。私、また一から始めます。ルナに思い出してもらえるように」

 今日からは、毎日一緒。
 なら、もう離れることはない。

 幼い頃、私は、この子達のお世話をするのが、大好きだった。誰かに必要とされるのが嬉しくて、必死に手を焼いていた。

 側にいて、じゃれつくこの子達は、とても可愛いくて、そして、いつしかレオが加わり、私たちは家族になった。

 それに、あの頃は、手に収まるくらいの小さな子猫が、今は、こんなにも立派に育っていた。

 色つやもよく、毛並みも美しく、健康的で愛らしい黒猫。

 その姿をみれば、レオが愛情をかけて育ててきてくれたのだと、よくわかった。

 そしてそれは、レオが執事として働く間、代わりに育ててくれた、ルイだって──

「ルイさん。ルナのこと、今日までありがとうございました」

 心からの感謝をこめて、ルイに頭を下げた。
 この子の母親として、ありったけ思いを込めた。

 ──ガララッ

 すると、その瞬間、玄関から音がした。
 引き戸を開ける古風な音。するとルイが

「どうやら来たみたいだね。最後の一人が」

 最後の──そう言われ、結月が和室の入り口を目をやれば、そこには、息を切らしながら、愛しい人が入って来るのが見えた。

 最後の仕上げをすると言って屋敷に残った、最愛の人──

「レオ!」
「結月」

 レオの帰還に、結月が安心したようにほころべば、レオもまた、深く息をつき、結月を抱きしめた。

「よかった、無事で」

「レオこそ、よかったわ。ちゃんと出てこれて……っ」

 この優秀な執事に失敗など、ありえない。
 だが、それでも万が一のこともあったら?

 そう思う心が、結月を不安にしていた。

 でも、これで、やっと、みんなが揃った。
 大切な人たちが、誰一人、欠けることなく──

「本当に……よかった……っ」

 屋敷から無事に抜け出せたことを実感し、結月は、レオの腕の中で涙を流した。

 安心したからか、一気に力が抜ける思いがした。

 だが、まだ気を抜くのには、早いのも分かってる。この町を、無事に抜け出さなくては、すべて終わったとは言いきれない。

 だが、最大の難所を越えたからか、皆が一堂に会するその場所は、つかの間の休息を促すように、息をつかせた。

「結月」

「あ、ごめんなさい。私、さっきから泣いてばっかりで……っ」

 レオの言葉に、結月が涙をふきながら離れれば、レオが、目線を上げた先で、ふと白木と目が合った。

 泣いてばかりと言った結月の言葉を、すぐに理解すると、レオは白木に向け軽く頭を下げ、白木もまた小さく会釈する。

 そして、各々が顔を見合わせ言葉を交わすと、それから暫くして、別れの時がやってきた。
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