お嬢様と執事は、その箱に夢を見る。

雪桜 あやめ

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最終章 箱と哀愁のベルスーズ

箱と哀愁のベルスーズ ㉚ ~ 復讐 ~

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 真実を知ってから、私は、五十嵐の動向を細かく観察していた。

 この子は、なにを企んでいるのか?
 そして、結月のことを、どう思っているのか?

 でも、阿須加家にきた目的については、すぐに検討がついた。

 あの子は、父の死を事故だなんて思ってない。
 だから、五十嵐がここにいるのは、きっと阿須加一族に復讐するため。

 だけど、分からないのは、結月に対する態度だった。

 五十嵐は、婚約者に逆らってまで、結月を助け出してくれた。

 だけど、そんなことをすれば、クビになるのは目に見えてる。そして、クビになれば、五十嵐は、復讐という目的を果たせなくなる。

 それなのに、五十嵐は、自分の立場よりも、結月を優先してくれた。

(もしかして、結月が妹だとしってるの?)

 自分の妹だから、守ってくれたの?

 だけど、あの男(玲二)が、わざわざ、自分の女性関係を、息子に話すとは思えなかった。

 いくら妻が亡くなっていたとしても、腹違いの妹がいるかもしれないなんて、まだ小学生の子供に話すような内容じゃない。

 なにより、結月の父親が、彼であるかどうかは、母親の私ですら分からないことだった。

 なら、五十嵐は、きっと知りもしないだろう。

 自分が仕えているお嬢様が、もしかしたら、妹かもしれないなんて──

(でも、もしあの二人が、本当に兄妹だったら……私は、どうすればいいの?)

 闇夜に浮かぶ月を見つめながら、私はひたすら二人のことを考えた。

 結月にふさわしいと思って、五十嵐を執事として選んだ。二人が恋に落ちて駆け落ちでもしてくれたら、私の望みが叶うと思ったから。

 だけど、あの二人が兄妹なら、話は変わってくる。
 血の繋がった兄妹の恋なんて、禁忌もいいところだ。

 あの子たちは、なにも知らないだろうけど、知ってしまった以上、二人を恋人同士にするわけにはいかなかった。

 でも、その件に関しては、まだ大丈夫だと思った。

 だって、五十嵐は、結月のことをとしか見ていなかったから。

 あれだけ女として意識するよう仕向けても、五十嵐は、一切揺らがなかった。

 だが、それも当然だったのしれない。

 親を阿須加家に殺された五十嵐にとって、結月は、私たちと同じように、復讐の対象者でしかなかったのかもしれない。

 でも、もしそうだとしたなら、五十嵐は、いずれ結月のことも裏切る気なのだろうか?

 なら、五十嵐を、ここに置いておくわけにはいかない。

 だけど、阿須加家の人間としては、そう判断できても、もう一人の自分が、それを否定する。

(復讐したいわよね。大切な人を殺されたなら)

 そう思うのは、きっと私が、望月玲二に救われたから。

 だから、五十嵐の気持ちは、痛いほどよくわかった。

 彼は、阿須加家の犠牲になったのだろう。
 悪しき風習の餌食にされて、命まで絶ってしまった。

 どうして、あんなにも優しい人が、死ななければならなかったのだろう?

「ユヅキ……私は、どうすればいいのかしら?」
「にゃー」

 ペルシャ猫のユヅキを撫でて、私は力なく呟いた。
 これ以上、五十嵐を、ここに置いてはおけない。

 どけど、それと同時に悪魔が囁く。

 いっそ、こんな一族、なくなってしまえばいいのに──と。

 人の気持ちを考えず、まるで道具のように扱う一族。
 はっきりいって、復讐されて当然の一族だった。

 なら、このまま五十嵐に、潰してもらえばいい。

 だけど、そうなれば、今度は、結月まで地獄に落ちてしまう。

 悪しき一族の娘として、あの子まで不幸にされてしまう。

「違う。違うの、あの子は……っ」

 あの子は、違う。
 私たちのことは、いくらでも地獄に落とせばいい。

 だけど、あの子は、結月は違う。

 だって、あの子は、なにも悪くない。
 だから、復讐に、巻き込まれていい子じゃない。

 だから、お願い。
 どうか、結月だけは──

「にゃー」

 瞬間、またユヅキが一鳴きして、私は、膝の上のユヅキを見つめた。

 ユヅキの滑らかな毛並みは、少し濡れていて、いつの間にか泣いていたのに気付いた。すると私は、ユヅキを抱きしめながら

「ゴメンね……もう、わからないの……どうすれば、結月あの子が幸せになれるのか……っ」

 娘代わりの猫を抱きしめて、私は、ひたすら涙を流した。

 必死に、希望を掴もうとしてるのに、箱の中からでてくるのは、絶望ばかりだった。

 パンドラの箱には、本当に希望なんて残っていたのだろうか?

 もしかしたら、絶望しか入っていない箱に、勝手に、希望が残っていると信じたかっただけなのかもしれない。

 その証拠に、絶望は更に続いた。

 それは、秋が終わりを告げようとする11月末。
 結月が、冬弥くんと正式に付き合うことになった。

 そして、高校を卒業したとあと、結月は、餅津木家で暮らすことが、正式に決まってしまった。
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