神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第8章 遭遇

第107話 鏡と成長

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 カツン……

 買い物を終えて、自宅マンションに戻ってきた飛鳥は、エレベーターに乗ると、7階のボタンを押した。

 腕を組み、壁に寄りかかれば、そのまま7階につくのをジッと待つ。

 ふと視線を上げれば、エレベーター内の鏡に自分の姿が映っているのが目に入った。

 鏡の中には、金色の髪に、きめ細やかな肌…すれ違えば誰もが振り返るような美青年が立っている。

 女性にも見違えるほどの端正な顔立ちと、青く透き通るような美しい瞳。さらりと長い髪は、腰元まで伸びて、その姿は一切の無駄なく、美しいものだった。

「髪……伸びたな」

 いつ、切ろうか。

 飛鳥は、自分の髪を見てふとそんなことを考える。誰もが絶賛する、自分のこの容姿は、全て「あの人」から授かったものだ。

 鮮やかな金色の髪も、人形のように端正な顔立ちも、白くきめ細やかな肌も、長い睫毛も、青い瞳も、スラリと長い四肢も

 その全てが「あの人」と同じ作りでできている。

 性別は違うのに、まるで生き写しのような姿。

 克服しようと髪を伸ばし始めて、もう何年になるのか?

 どんなに顔立ちが似ていようと
 どんなに瞳の色が同じだろうと

 もう、自分の容姿を見て「あの人」を重ねることはなくなった。

 鏡を見るたび脅えることも、もうない。

 あの頃を思い出しわ悪夢にうなされることも

 もう、ない。

 だけど、未だに、鏡を見れば、鏡の中の自分が
「あの人」の声で語り掛けてくる。


『飛鳥の……その綺麗な顔が大好きよ』




「……顔……ね」

 鏡の中の自分を睨みつけ、飛鳥は呆れたように苦笑する。


 思い出したくないのに

 忘れたいはずなのに

 似ているからなのか

 忘れることができない。



 このまま、一生

 思い出し続けるのだろうか?



 自分の顔を見るたびに────





 ピンポン!


 エレベータが7階についた。
 飛鳥は、ため息とともち気持ちを切り替えると、エレベーターから下り自宅へと足を進める。

 玄関のカギを開けて中に入れば、華と蓮の声が聞こえてきて、飛鳥は首を傾げた。

 華はともかく、蓮は部活があると思っていたのだが、二人とも今日は帰宅が早いらしい。

 それに、買い出しをしてきたのも、これから自分が夕飯を作るつもりでスーパーにいってきたのだが、なぜかそこには、おいしそうな料理の香りがほのかに立ち込めていた。

「あ、飛鳥兄ぃ、おかえり~」
「お帰りー」

 リビングに入ると、華と蓮に声をかけられた。

 飛鳥が二人を見れば、蓮はリビングのカーペットの上で洗濯物をたたんでいて、華はエプロンをして、どうやら料理をしているようだった。

「……今日、早かったの?」

「うん! だって、今日から期末テストだよ! だから、授業も早く終わったの!」

「あと、部活もしばらくは、休みだって……」

「あぁ……」

 だからか……そういえば、もうすぐテストだとか言ってたな?

 飛鳥は、先日華たちから聞いていた話を思い出すと、なるほどと納得する。

 桜聖高校は、6月末~7月上旬にかけて、二週間にわたり期末テストが行われるのだが

「てか、二人とも勉強しなくていいの?」

「もう終わったの! 時間余ったし、今日は私が夕飯作ろうと思って」

「へー……」

 また、気が利くことで……

 飛鳥は、少し前までの二人を思い返し、ここ最近の急成長に眉を顰めた。

 自炊も家事も、ある程度覚えてきた。
 自分の負担も大分軽くなった。

 なのに……

「兄貴、ゆっくりしてていいよ。風呂も俺が掃除して、沸かすし」

「え? あぁ……うん。ありがとう」

 そういうと、蓮はたたんだ洗濯物を手にして、飛鳥の横を横切り、リビングから出て行った。

「飛鳥兄ぃ~これ、味見してみてよ!」

 すると、今度はキッチンから、華が高らかに声をかけてきた。よほど自信があるのか、満面に笑みを浮かべていた。

「華が、一人で作ったの?」

「うん、そうだよーこの前、教えてもらったやつ!」

 飛鳥は、言われるままキッチンに入ると、買ってきた食材を冷蔵庫に収め始める。その後、鍋の前でお玉を持つ華の側までくると、何を作ったのかと、鍋の中を覗き込んだ。

 みれば、今日の夕飯は和食なのだろう。先日教えてあげた魚の煮つけが、程よくおいしそうに出来上がっていた。

「味、濃くないかな?」

「うん、上出来。美味しいよ」

 味見をしてみれば、申し分ない出来栄えだった。飛鳥は、ニコリと笑うと「よくできたね」と、妹の頑張りを褒めてあげた。

 見れば、もう一つの鍋には、お吸い物も出来上がっていた。その上、これから副菜も作るらしい。

「テストあるんだろ? 無理しなくていいよ。平日は俺が作るし、華は勉強に専念してろ」

「大丈夫だよ! それに、料理って始めてみると案外面白くてね。今は、もっと色々覚えたいなーって思ってるの!」

 横に立つ華が、飛鳥を見つめて笑顔で言葉を放つ。

「ねぇ、私も蓮も大分しっかりしてきたでしょ?」

「…………そうだね」

 少しばかり言葉をつまらせると、飛鳥は華から視線を反らし、歯切れの悪い返事を返した。

 確かに、二人ともしっかりしてきた。

 家事も、料理も、勉強も

 だけど──


「これなら私たち、もう飛鳥兄ぃがいなくても、大丈夫だよね!」

 瞬間、一瞬だけ静かになったリビングに再び華の声がこだまして

「あ、そうだった! 私帰ってくるときにポストの中見るの忘れてた! ちょっと行ってくるね」

 そういうと、華はエプロンを取り鍵を持つと、パタパタとリビングから出ていった。

「………」

 広いLDKには、飛鳥一人が残された。

 シンと静まり返ったリビングは、なぜか、いつもと違う我が家のように感じた。

 飛鳥は、キッチンで一人立ち尽くすと、小さく小さく言葉を発する。


「そっか……俺、もう……いらない……のか」


 その声は、今にも消えてしまいそうな

 そんな、弱く小さな



 声だった。


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