神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜 あやめ

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第10章 お兄ちゃんの失恋

第427話 不便と不完全

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「あかり!」
「っ!?」

 瞬間、飛鳥が、あかりを抱き寄せた。

 手早く引き寄せられた身体は、あっさり飛鳥の腕の中に収まり、突然のことに、あかりは目を丸くする。

(な、なに?)
 
 何が起こったのか、分からなかった。

 だが、触れたその熱は、確かに彼のもので、その状況に、頭が真っ白になる。

 なんで、抱きしめられてるの?
 しかも、こんな車が行き交う道端で!!

「か、かみッ」

 ──チリンチリン

「すみませーん」

 だが、その瞬間、あかりの背後を自転車が通り過ぎた。

 ベルを鳴らして、走り去っていく自転車は、あかりが通って来た道を上書きするように走りさる。

 そして、その自転車をみて、飛鳥がなぜ抱き寄せたのかを理解したあかりは、咄嗟に言葉をつぐんだ。

(じ、自転車が来てたの?)

 全く、気づかなかった。
 だが、前にも、こんなことがあった。

 ベルを鳴らされているにも関わらず、背後から迫る自転車に気づかなくて、神木さんが、咄嗟に引き寄せて、守ってくれた。

 そして、あの時、気づかれたんだ。

 私の耳が、聞こえないということに──

「やっぱり、聞こえないって便だね」
「……っ」

 すると、抱きしめたまま、飛鳥が声を発した。
 どこか、ほっとしたような優しい声。

 だが、不便と言ったその言葉に、あかりは、悲しげに瞳を伏せた。

 確かに、この身体は『不便』だ。
 音が、よく聞き取れない。

 だから、どこから聞こえるのかすら、よく分からなくて、聴き逃しや聞き間違いも多い。

 そして、な私は、いつも、こうして誰かに迷惑をかけてしまう。
 
 聞きたいのに、聞こえない。
 迷惑をかけたくないのに、かけてしまう。

 そんな自分が、たまらなく──嫌い。

「ごめん、なさい……っ」

 聞こえないことで、これまでに、何度、謝っただろう。あかりが、小さく謝れば、飛鳥は、呆れたように口を開く。

「こういう時は『ごめん』じゃなくて『ありがとう』だろ。聞こえなかったからって、別に、責めてるわけじゃないよ」

「ん……っ」

 聞こえる方の耳に、わざと唇を寄せて、飛鳥が耳元で囁く。息が肌にかかるせいか、身体は自然と熱を持って、甘い声に、心が震えた。

 その言葉は、泣きたくなるほど嬉しかった。
 このまま、離れたくないと思ってしまうほどに。 

 でも──

「やめてください!」

 そんな飛鳥を突き放し、あかりは、必死に声をはりあげた。

「もう……こんなことしないでください……ッ」

 距離を取り、あかりは必死になって拒絶する。
 すると飛鳥は、にっこり笑って

「え? 自転車に轢《ひ》かれそうになってる子を助けるなってこと? それは、ちょっと無理かな」

「ち、違います! そういうこといいたいんじゃなくて! あの、アレです! いきなり抱き寄せたり、手を握ってきたり、壁ドンしたり! そういうのをやめてくださいって言ってるんです!!」

「あぁ、そういうのね。俺に抱きしめられるのは、嫌だった?」

「い──」

 だが、その瞬間、なぜか言葉に詰まった。

 な、何聞いてくるの、この人は!?
 だいたい、前に抱きしめた時は、菓子折りもってお詫びしに来たくせに!

 それに、嫌な……はずだ。
 だから、はっきりといえばいいわけで

「い、嫌……です…っ」

「そう。でも、それホントかな? 顔、真っ赤だけど」

「え!? うそ! こんなに暗いのに、わかるわけ」

「うん、わかんない。ちょっとカマかけてみただけ」  

「最低ッ!」

 ──なんて人だ!?
 人をおちょくるのも、たいがいにして欲しい!

 だが、そう怒りつつも、あかりの頬は、赤みを隠せているとは言いがたかった。

 月明かりが照らす、あかりの表情は、こんな暗がりの中でも、ひどく動揺しているのが、飛鳥の目にはよくわかる。

 すると、飛鳥は

「ねぇ、俺の気持ち、気づいてるよね?」

「え?」

 瞬間、飛鳥の青い瞳が、あかりを囚える。

 海のように澄んだ綺麗な瞳は、真っ直ぐに、あかりに注がれて、ずっと見ていたら、溺れてしまいそう。

「な、なにを……いって」

「ついでに言うと、俺も気づいてるよ。あかりの気持ちに」

「なッ」

「だって、ちょっと攻めてだけで、あんな可愛い反応してさ。わかりやすいったらなかった」

「っ……」

 
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