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第6章 転校生と黄昏時の悪魔【過去編】
第50話 転校生と黄昏時の悪魔 18
しおりを挟む自室のローテーブルの上に、例のウサギのぬいぐるみを置くと、華はスマホに耳を傾け、電話をかけた。
「あ、葉月。ちょっと相談なんだけど、ぬいぐるみを供養してくれる神社とか仏閣とか、どこか知らない?」
電話の相手は、友人の中村 葉月。コール音がやみ葉月が電話に出ると、華は足早にそう問いかける。
『供養したい、ぬいぐるみ?』
「うん。子供の時に大切にしてたぬいぐるみ……」
『大切にしてたなら、まだ置いとけばいいのに? 手放していいの?』
「うん……うちには、もう置いておきたくないの」
──これ以上お兄ちゃんに、あの時のこと、思い出させたくない。
心の中だけで、そう呟くと、電話口の葉月が『わかった』と明るい声を発した。
《うちの母親が、そういうの詳しいから、今夜にでも聞いとくよ!》
「うん、ありがとう。宜しくね?」
暫くして話を終えると、華は電話を切ると、手にしていたスマホを、ぬいぐるみの横にそっと置く。
「……」
誰もいない部屋の中、華は目を細め、そのぬいぐるみを見つめた。
もう10年も前のものなのに、このぬいぐるみは、まるで時が止まったみたいに
あの日のまま、変わらない姿をしている。
「華。ぬいぐるみ……なんとかなりそう?」
「!」
すると、シンと静まり返った部屋の中に、突然、蓮の声が響いた。
入口から覗き込む弟の姿を確認するて、華は一瞬蓮を見たあと、また視線を落とした。
「……蓮、聞いてたんだ」
「そりゃ、あんな顔して部屋に入っていけばな?」
酷く暗い顔をして部屋に入っていく華。その原因が、手にしたぬいぐるみだと理解した蓮は、どうやら部屋の外で、話を聞いていたらしい。
蓮は、その後華の部屋の中に入り、その斜め向かいに座ると、うつむいている華の顔を覗きこむ。
「……大丈夫か?」
「……」
その言葉が、なにを気遣っているのをさっすると、華は呆然と目の前にあるぬいぐるみを見つめたまま、蓮に問いかけた。
「……ねぇ、やっぱり、あの日私がぬいぐるみを忘れてなかったら……お兄ちゃん、あんなことには、ならなかったよね?」
「……」
華の震えた声を聞いて、蓮はあの日のことを思いだした。
──あの日
自分達は、泣いている兄をはじめてみた。
人に弱みなんてほとんど見せず、いつも優しく笑っていた兄が、父にしがみつき声をあげて泣く姿に、兄に起こった出来事の恐ろしさを垣間見た気がして、とても怖くなった。
そして、それからだ。華は、このぬいぐるみを避けるようになり、一緒には遊ばなくなった。
ひっそりとおもちゃ箱の奥にしまわれて、触れることすらほとんどなくなるくらいに……
だが、それをたまたま、兄が見つけてしまった時があって
何も言わなかったけど、兄はとても悲しそうな顔をしていて
そんな兄を見た父が、きっと、そのぬいぐるみを、目の届かない所に隠したのだろう。
いつしか箱の奥に追いやられたぬいぐるみは、そのうち自分達の記憶からも消えていった。
でも、それでも華は、あの日ぬいぐるみを忘れてしまったことを
今でもずっと、後悔してる──
「華、俺達がその時の兄貴くらいになったときに、親父から聞いた話覚えてるか?」
「……」
「あの時の犯人は、兄貴に異常なまでに執着してた。仮にお前がぬいぐるみを忘れなくても、きっとまた別のどこかで、兄貴は同じような目にあってたかもしれない…」
「……」
「確かにあの日、兄貴が家を出たのは、お前のぬいぐるみが原因だったよ。でもそれ以上に、色んな偶然が重なって、あの日、兄貴は助かったんだ。」
もし、あの時──
隆臣さんが喫茶店にむかってないかったら
俺達が美里さんと出くわしていなかったら
逃げてきた隆臣さんを、昌樹さんが見つけていなかったら…
ほんの少しでも、兄貴のもとに駆けつけるのが遅かったら…
きっと、兄貴はここにはいない。
「お前の『忘れなければ』よりも、そっちの『偶然』の方がはるかに多いんだよ。だから……あの日だからこそ兄貴は救われて、今ここにいるんだと、俺はそう思ってる」
「……」
「だから、華がそれを一人で抱え込む必要はないし、兄貴だってそれは望んでないよ……心に傷は出来たかもしれないけど、それ以上に……いっぱい笑ってきただろ? 兄貴だって、俺達だって──」
いっぱい泣いた。
でもそれ以上に、いっぱい笑って、いっぱい笑わせて…
過去の傷も、家族の絆で埋めて乗り越えきた。
「っ…ぅん…ありがとう…っ」
華はじわりと涙を浮かべると、唇をぐっと噛み締めた。
──あの日だからこそ
その言葉に少しだけ救われた気がしたから…
「ほらほら、泣くなって!ウサギさん心配してるぞ~」
「あはは」
泣き出す華を蓮が茶化すように慰めると、その後、華は涙を拭い小さく笑う。
「……ウサギさんごめんね。ずっと暗いところに閉じ込められてて、やっと出してあげられたのに……やっぱりあなたとは、お別れしなくちゃ……」
そっと、テーブルに置いたウサギのぬいぐるみを手に取ると、その後、10年分の思いを込めてギュッと抱きしめた。
「さようなら、ウサギさん…」
中学最後の春──
私は過去にひとつ区切りをつけて
また、一歩未来へと進む。
「華、蓮。ただいま~」
「あ、兄貴おかえり」
お兄ちゃんが笑ってくれる。
でも、きっとそれは
色んな偶然と
色んな人の支えがあって
今に繋がっている。
「飛鳥兄ぃ、おかえり~書斎早く片付けてよね!」
「…っ、帰って早々、それかよ…」
「まーまー、私と蓮も手伝うから!」
「えー俺も~」
例え、どんなに時間がたっても
あの日、負った傷が消えることはないのかもしれない。
でも、それでも
私たちは、それを乗り越えて
今こうして、ここにいる。
家族みんで笑って過ごせる
今じゃ、当たり前の日常
でも、それは
『当たり前』だけど
決して『当たり前』じゃない
「奇跡」に等しい
私の大切な大切な「宝物」──
第一部 ~完~
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