聖女の証

とーふ(代理カナタ)

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第63話『では、私とお友達になりましょう! 今日からお友達です』

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見た目だけは至って普通の扉であるが、私の目には重く苦しい扉に見える。

しかし、止まってはいられない。

私は大きく息を吸って、吐いて、扉をノックした。

「……」

だが、返事はない。

それから二度、三度と扉を叩いていたのだが、不意に扉が内側に勢い良く引っ込み、私はバランスを崩して倒れそうになってしまった。

しかしそんな体を部屋の中に居た人は受け止めてくれる。

「っ!」

「バンバンバンバン! うるさい!! っと、危ないわね……っ!?」

「ご、ごめんなさい」

「貴女……アメリア? いや、違う。誰!?」

キャロンさんは最初は戸惑った様な目で私を見ていたが、すぐにキッと睨みつける様な目になり、私を射抜いてから弾き飛ばし、魔術を使おうとしているのか、地面を強く蹴った。

その直後、キャロンさんの中から魔力が膨れ上がり、それが目に見える形になって空中に現れた。

攻撃魔術だ。

「キャロン! 落ち着け!」

「……っ! リアム? 何で、アンタが」

「何でと言われてもな。この子の護衛だよ」

「この子って、貴女は……」

「私は、リリィ。アメリアお姉ちゃんの妹です」

「いもうと」

キャロンさんは気の抜けた様な顔で、へなへなとその場に崩れ落ちた。

その姿は酷く弱弱しい物であり、思わず目を逸らしたくなってしまう様な物だった。

しかも、その瞳にはカーネリアン君の時以上に涙が溢れ、止まらない。

「わたし、私……貴女のお姉さんを、守るって、その為に、付いて行ったのに、結局守れなくて、それだけじゃなくて、守られて、助けられて、こんな筈じゃ無かったのに。こんな事になるなんて思って無くて、だから……ごめんなさい。謝って終わる様な問題じゃ無いけど、けど、ごめんなさい……!」

キャロンさんはこちらが可哀想になるほどに震えていて、これ以上責める様な事を言えるはずも無かった。

だから、私は何も言わず、一歩二歩と涙を流すキャロンさんに近づいた。

心の奥で、震える何かの気配に背中を押されながら。

「『キャロンさん。そんなに泣かないで下さい』」

「……っ、あめりあ? アメリアなの?」

「『はい。私は確かにアメリアです』」

「まさか」

「あの時のリリィと同じだ」

後ろからリアムさん達が驚いている様な気配を感じるが、今は目の前にいるキャロンさんに意識を集中する。

「アメリア! アメリアなのね!! どうなってるのか分からないけど、無事なのね!?」

「『無事か。と言われると微妙なんですが、まぁリリィに手伝って貰えばこうしてお話をするくらいは出来ますよ。とは言っても、そう長い時間は出来ませんが』」

「そう……なんだ」

「『はい。私は既にこの世界での命を終えていますからね。その様なものが長くこの地上に留まるのは良くない事でしょう』」

「そんな事ない!! そんな事、ない!」

キャロンさんは私を強く抱きしめて、涙ながらに訴える。

そしてそれは、私も頷く様な話であった。

しかしお姉ちゃんは静かに首を振る。

「『駄目ですよ。それは。世の理から外れる行為です。今は何故かリリィの体に意識が繋がってしまってますが、いずれ時間が過ぎれば絶たれるでしょう。それは自然な事なのです。だからキャロンさんも』」

「嫌よ!! 認めない!! 私はそんな終わり、認めない!!」

「『……キャロンさん』」

「貴女は魔法使いのお姫様だったんでしょ!? なら、普通じゃない事が起きたっておかしくない! それに、まだアメリアの意識が残ってるって事は、アメリアにだって未練があるんでしょ!? この世界で、この世界がどうなるのか、その行く末が見たいんじゃ無いの!? だから、こうして地上に残ってる! そうでしょ!?」

「『……』」

お姉ちゃんは何も言わない。

言わないが、多分キャロンさんの言っている事は間違っていないのだろう。

お姉ちゃんが何も言わない事がその証拠でもある。

だからこそ、私は頑固なお姉ちゃんを何とか説得するべく、また私の中に消えていくお姉ちゃんの意識に代わり、キャロンさんに話しかける事にした。

「キャロンさん」

「……リリィちゃん。だっけか」

「はい。よく分かりますね」

「これでも魔術師だからね。何となくだけど分かるんだ」

「なるほど……。では、改めてリリィとしてキャロンさんにお話させて下さい」

「……なに?」

警戒する様に私を見据えるキャロンさんに、私は大きく息を吸って、吐いて視線を返した。

そして口を開く。

「私と一緒に、空の果てへ行ってくれませんか?」

「空の果て?」

「はい。人が命を落とした後に行く場所だそうです。昔お姉ちゃんが言ってました。そして、お姉ちゃんは多分今そこにいて、まだギリギリ私と繋がっている状態だと思うんです。だから、そこから連れて来れば」

「何かしらの手段で、また生き返る事が出来る。って訳か」

「はい!」

キャロンさんの瞳に炎が宿る。

落ち込んでいた魂が再び燃え上がり、それが新しい行動の活力となった。

「分かった。付いて行くよ。リリィ」

「ありがとうございます!!」

「でもさ。一つだけ確認させて。私は、貴女のお姉さんを」

「キャロンさん!」

「っ!」

「もう止めましょう。過去の話をするのは! 私は、ただ未来だけを見て進みます。だから、キャロンさんも未来を見て下さい。お姉ちゃんが帰ってきて、みんなで笑い合える、そんな終わりを迎える事が出来る未来を」

「みんなで笑い合える未来、か。リリィはそれで良いの?」

「はい! 私はそれが良いです」

「そっか。じゃあリリィ。私と友達になりましょう? 聖人の仲間でもなく、憎み合う敵でも無く、一緒に旅をする仲間。そして、同じ夢を持った友達だ」

「同じ夢を持った友達……! そうですね。はい。良いと思います。では、私とお友達になりましょう! 今日からお友達です」

「よろしく。リリィ」

キャロンさんと握手をして、笑う。

そして、私はアッと思い出し振り向いた。

「そう言えば、リアムさんとフィンさんとはお友達になって無かった様な気がします!」

「要らん。俺はそういう関係を求めていない」

「あー。俺もパスかな」

「そんな!」

私は明るい希望が見えて、嬉しさのままに二人もお姉ちゃんを取り返そう同盟に誘うが、断られてしまった。

何と言う事だ。

お友達という響きが良くないのだろうか。

「キャロン。大丈夫か?」

「うん。悪いね。リアム。心配かけた」

「いや、構わん。立ち直ったのなら良いさ」

「そっか」

キャロンさんはそのまま笑って、リアムさんと拳をぶつけ合い、フィンさん、カーネリアン君とも拳をぶつけ合う。

多分、前の旅をしていた人達の儀式か何かなんだろう。

少しだけ羨ましいが、私はお姉ちゃんじゃないし……。

「リリィ」

「え?」

「ほら。気合、入れようよ」

「良いんですか? 私、お姉ちゃんじゃないですけど」

「何言ってるの。私たち、同じ夢を持った、仲間でしょ」

「っ! ありがとう、ございますっ!」

私も拳を作ってキャロンさんと軽くぶつけ合った。

始まる。

ここからだ。

かつてお姉ちゃんと一緒に旅をした人たちが集まり、お姉ちゃんと再び会う為に旅を始める。

ここから始めるんだ。

私はそう新たに決意して拳を強く握り締めるのだった。
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