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白銀の剣・一華
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私はいつも13年前のことを思い出す。
今の私がいるのは13年前の出会いがきっかけだったからだ。
あの頃の私は、家でも学校でも最下層の存在だった。
人の心に共感できてしまう私は、それゆえに影響を受けやすく、そのストレスから人に対して壁を作っていた。
自分で自分に魔法をかける。
小さいころに見たアニメでやっていた。
「私の心は決して折れない白銀の剣」
私は強い。
だからどんなことも耐えられる。
いつからだろう…… 私が他人と共感できることをはっきりとそれを自覚したのは……。
多分、きっかけは私が小学校五年生のころ。
お母さんの恋人が新しいお父さんの様に家に来た時からだったと思う。
私に向けられる口では言い表せないような感情に触れたとき、自分の中が真っ黒に染まっていくような感覚に襲われた。
足元かに広がった真っ黒いねばねばしたものが、ぬめぬめと波打ち私の体にミミズの様にまとわりついてくる不快感。
お母さんも尖った針先のような感情を私にぶつけてきた。
子供ながらに「これが悪意というものか」と感じた。
家は汚れ、私にとっては食事も風呂も贅沢なものだった。
嬲られないときは放置され、そんな生活がずっと続き、もともと人付き合いが苦手な私は学校でも孤立していった。
それはそうだろう。髪はぼさぼさで何日も洗っていない。
制服も汚れ、私からは絶えず異臭が漂っていた。
心に壁を作り、顔を伏せて過ごす私は学校でも「異質な存在」だった。
そして人間は「異質な存在」に容赦しなかった。
「相変わらずきたねーなー」
「髪洗ってますかー?」
「臭いんだよ!」
こんな言葉で毎日罵られた。
言葉だけでなく感情までが私の中に入ってくる。
そのうち一人が後ろから蹴飛ばす。
物理的な暴力は楽だ。
皮膚の外で終わってくれる。
中まで入ってくることはない。
そんな私を他のクラスメイトは見て見ぬ様だった。
「いじめられるほうに原因がある」と、言わんばかりの視線を向けてきた。
私にとっては「悲惨」というものが日常だった。
この日常は卒業まで変わらないだろう。
そう思っていた。
そんなある日。
私は人気のない場所に呼び出されクラスメイトから「綺麗にしてあげるから服を脱げ」と、言われた。
こういうことは、そのあと何が来るのかわかっていた。
裸の写真をアプリに投稿して買い手を見つける。要は売春だ。
彼女たちはどうか知らないが、私は性的な関係はこうなる前にすでに体験していた。
相手は母親の恋人だ。まあ、そんなことはそのときの私にとってはどうでもいいことだった。
意に反した相手とのセックスはなんの苦痛にもならない。
私はセックスで干渉されるタイプの精神を持ってはいないからだ。
そんなことは些事にすぎない。
そんなことで私の精神は干渉されない。
そうと知らずに、私に苦痛を与えていると思い込み、悦に浸っているこいつらが滑稽だった。
私は強い。
私の心は決して折れることのない白銀の剣。
今日二度目の魔法をじぶんにかける。
それがこの世の嫌いなことに対抗する手段だ。
こいつらは哀れで貧相なカエルだ。
いつでも殺せる弱い存在だ。
だから私は醜い哀れなカエルに対して寛容でいられる。
強者は弱者に対して寛容でなくてはならないからだ。
そう自分を戒めても、私とて完璧人間ではない。
だから心の中では何度となく殺戮する。
加害する。
爪を剥がして、口から焼けた鉄を流し込む。
食道も胃も腸も焼け溶かして、灼熱の鉄が下半身から地面に垂れる。
ジュ―ッ。
という音と煙を立てながら濁った銀色の塊になる。
そこに慈悲はない。
醜いカエルの手足を釘を刺して木に磔にする。
そうして白い腹を切り裂くのだ。
頭の中でイメージしながら、物理世界では命じられるまま制服を脱ごうとしたとき、一人の女生徒がその場に現れた。
「なにしてんの?」
私に向けられていた悪意が一瞬で消えたような気がした。
そこに現れた子は矢島千尋といい、クラスでも華やかで常に周りに人が絶えない、バスケ部のエースで同級生や下級生からも人気が高い、絶対的な影響力をもつ子だった。
千尋は制服を脱ごうとする私の手を掴んでもう一度言った。
「なにしてんの?」
私は答えることができなかった。
ただ固まってしまってなにも言えなかった。
こんなことは初めてだったから。
私がこういう場にいて、誰かが入ってきて止めると言うことが。
「もうこんなことしなくていいから」
そう言った千尋の笑顔はこの場には似つかわしくないほど明るかった。
そして千尋は私からいじめていたクラスメイトに顔を向けると「くだらないこと止めようよ」と、声を荒げるでもなく冷たい無機質な口調で言った。
いじめていたクラスメイトは困惑し、若干の怯えを滲ませたようにその場から去っていった。
今思い出しても感じるのは、そのときの千尋の口調は人間的なものではなかったと思う。
有無を言わせぬような威圧感から私が感じたのは、まるでカエルの群れに毒蛇が現れたような空気だった。
「行こうか」
振り向き満面の笑みで私に手を差し出す千尋はまぶしいくらいに輝いていた。
私に初めてさした陽の光が千尋だった。
今の私がいるのは13年前の出会いがきっかけだったからだ。
あの頃の私は、家でも学校でも最下層の存在だった。
人の心に共感できてしまう私は、それゆえに影響を受けやすく、そのストレスから人に対して壁を作っていた。
自分で自分に魔法をかける。
小さいころに見たアニメでやっていた。
「私の心は決して折れない白銀の剣」
私は強い。
だからどんなことも耐えられる。
いつからだろう…… 私が他人と共感できることをはっきりとそれを自覚したのは……。
多分、きっかけは私が小学校五年生のころ。
お母さんの恋人が新しいお父さんの様に家に来た時からだったと思う。
私に向けられる口では言い表せないような感情に触れたとき、自分の中が真っ黒に染まっていくような感覚に襲われた。
足元かに広がった真っ黒いねばねばしたものが、ぬめぬめと波打ち私の体にミミズの様にまとわりついてくる不快感。
お母さんも尖った針先のような感情を私にぶつけてきた。
子供ながらに「これが悪意というものか」と感じた。
家は汚れ、私にとっては食事も風呂も贅沢なものだった。
嬲られないときは放置され、そんな生活がずっと続き、もともと人付き合いが苦手な私は学校でも孤立していった。
それはそうだろう。髪はぼさぼさで何日も洗っていない。
制服も汚れ、私からは絶えず異臭が漂っていた。
心に壁を作り、顔を伏せて過ごす私は学校でも「異質な存在」だった。
そして人間は「異質な存在」に容赦しなかった。
「相変わらずきたねーなー」
「髪洗ってますかー?」
「臭いんだよ!」
こんな言葉で毎日罵られた。
言葉だけでなく感情までが私の中に入ってくる。
そのうち一人が後ろから蹴飛ばす。
物理的な暴力は楽だ。
皮膚の外で終わってくれる。
中まで入ってくることはない。
そんな私を他のクラスメイトは見て見ぬ様だった。
「いじめられるほうに原因がある」と、言わんばかりの視線を向けてきた。
私にとっては「悲惨」というものが日常だった。
この日常は卒業まで変わらないだろう。
そう思っていた。
そんなある日。
私は人気のない場所に呼び出されクラスメイトから「綺麗にしてあげるから服を脱げ」と、言われた。
こういうことは、そのあと何が来るのかわかっていた。
裸の写真をアプリに投稿して買い手を見つける。要は売春だ。
彼女たちはどうか知らないが、私は性的な関係はこうなる前にすでに体験していた。
相手は母親の恋人だ。まあ、そんなことはそのときの私にとってはどうでもいいことだった。
意に反した相手とのセックスはなんの苦痛にもならない。
私はセックスで干渉されるタイプの精神を持ってはいないからだ。
そんなことは些事にすぎない。
そんなことで私の精神は干渉されない。
そうと知らずに、私に苦痛を与えていると思い込み、悦に浸っているこいつらが滑稽だった。
私は強い。
私の心は決して折れることのない白銀の剣。
今日二度目の魔法をじぶんにかける。
それがこの世の嫌いなことに対抗する手段だ。
こいつらは哀れで貧相なカエルだ。
いつでも殺せる弱い存在だ。
だから私は醜い哀れなカエルに対して寛容でいられる。
強者は弱者に対して寛容でなくてはならないからだ。
そう自分を戒めても、私とて完璧人間ではない。
だから心の中では何度となく殺戮する。
加害する。
爪を剥がして、口から焼けた鉄を流し込む。
食道も胃も腸も焼け溶かして、灼熱の鉄が下半身から地面に垂れる。
ジュ―ッ。
という音と煙を立てながら濁った銀色の塊になる。
そこに慈悲はない。
醜いカエルの手足を釘を刺して木に磔にする。
そうして白い腹を切り裂くのだ。
頭の中でイメージしながら、物理世界では命じられるまま制服を脱ごうとしたとき、一人の女生徒がその場に現れた。
「なにしてんの?」
私に向けられていた悪意が一瞬で消えたような気がした。
そこに現れた子は矢島千尋といい、クラスでも華やかで常に周りに人が絶えない、バスケ部のエースで同級生や下級生からも人気が高い、絶対的な影響力をもつ子だった。
千尋は制服を脱ごうとする私の手を掴んでもう一度言った。
「なにしてんの?」
私は答えることができなかった。
ただ固まってしまってなにも言えなかった。
こんなことは初めてだったから。
私がこういう場にいて、誰かが入ってきて止めると言うことが。
「もうこんなことしなくていいから」
そう言った千尋の笑顔はこの場には似つかわしくないほど明るかった。
そして千尋は私からいじめていたクラスメイトに顔を向けると「くだらないこと止めようよ」と、声を荒げるでもなく冷たい無機質な口調で言った。
いじめていたクラスメイトは困惑し、若干の怯えを滲ませたようにその場から去っていった。
今思い出しても感じるのは、そのときの千尋の口調は人間的なものではなかったと思う。
有無を言わせぬような威圧感から私が感じたのは、まるでカエルの群れに毒蛇が現れたような空気だった。
「行こうか」
振り向き満面の笑みで私に手を差し出す千尋はまぶしいくらいに輝いていた。
私に初めてさした陽の光が千尋だった。
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