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警部補滝川隆一
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最初こそ無差別テロかと、一課全体が色めき立っていた。
しかし、日にちが経つにつれて、どうもこれはテロとかそんな大きなヤマではないという捉え方が主流になってきていた。
まず、テロにある犯行声明が一向に出てこない。
使用された薬物も致死性のあるようなものではなかった事、被害者の症状も極軽度だったことが理由にあげられる。
だが大規模な薬物テロの予行演習という可能性も捨てきれない。
捜査本部は縮小しながら捜査を続けるという方針に決まった。
滝川は捜査担当に名乗りを上げた。
それはこの事件になにかを感じたからだ。
これはテロではないかもしれない。しかし普通の事件とも違う。漠然とだがなにか嫌なものを感じる。
事件発生時に薬物を所持していた高橋智花。
しかし彼女はそんなものに覚えはないと言う。
容器からは指紋が一切でてこなかった。
そして、高橋智花は同窓会が始まってから常に友人と一緒にいて、問題のスープの傍に近寄ってすらいない。
事前に仕込んだ可能性も調べてみたが、防犯カメラにそれらしい姿は見られなかった。
状況的に見て高橋智花に薬物を混入することは難しいというのが、かなり早い段階で捜査本部の考えになった。
その矢先に、ネットに薬物混入事件の犯人は高橋智花だという動画が流れた。
そして彼女は失踪してしまった。
滝川は高橋智花の周辺を調べるうちに、中学時代の友人が二人失踪していることがわかった。
橋本千尋からの聞き込みを終えた、滝川と佐山は豊島区にある目白署に向かって車を走らせていた。
小川一華の父親が失踪した記録を見るためだ。
警視庁内の人身安全課・行方不明者対策第一係で調べると当時の失踪届は豊島区の目白警察署に出されていた。
届人は小川美沙。おそらく小川一華の母親だろう。
この母親も後に自殺している。
「滝川さんは、薬物混入事件と高橋智花を含めた、三人の失踪がなにか関係あると考えているのですか?」
ハンドルを握る佐山が問いかけた。
「可能性の問題だ。同窓会、そして出席者が過去を含めて三人失踪している」
滝川は視線を佐山に向けることなく、前を見ながら答えた。
「しかも、その全てに共通しているのが小川一華ですからね。でも捜査本部は彼女をリストから外していますね」
「当然だ。薬物混入事件では彼女は被害者だ。高橋智花以外の二名が失踪したとき、彼女はパリにいた。常識的に考えれば、三人の失踪が同じ犯人だと仮定した場合、小川一華は容疑者足り得ない」
「では、どうして小川一華を調べるんです?それも十三年前の父親の失踪と、母親の自殺について」
「少なくとも、高橋智花の失踪時に彼女は日本にいた。事件が繋がっていなかったとしても、高橋智花の件には関わっている可能性がある。だから一つずつ潰していく必要がある」
滝川は思案していた。
薬物混入事件と三人の失踪が繋がっているのだとしたら、小川一華には強力な動機がある。
彼女は、中学時代に高橋智花たちにいじめられていた。
それは多くのクラスメイトが証言している。
そんな彼女を唯一助けたのが、さきほど対面した橋本千尋だ。
その橋本千尋にも、なにか引っかかるものを感じた。
あの菜園と彼女の表情。
橋本千尋に会うのは二回目だったが、最初は気にならなかった。
だが、二回目に会ったときに、菜園と彼女を見て自分の奥底がざわついている。
どこか人を魅了してしまう不思議な魅力を感じる笑顔。
そしてはつらつとした健康的な美を感じた。
だが、どこか不自然なものを感じたのだ。
完全に過ぎる……。あの菜園も彼女も。
異様に完全なのだ。
あんな人間をこれまで見たことがない。
滝川は、頭をふると橋本千尋のことを一旦、頭から追い出した。
「小川一華はほとんど日本へ帰っていなかったそうだな」
前を見ながら滝川は佐山に問いかけた。
父親の失踪と母親の自殺。
相次ぐ不幸により、彼女は母方の祖父母の家で暮らし、芸術の才能を認められて高校を中退してパリへ留学。
「そうですね。留学してから芸術家として大成しても、その間は一度も帰国していません。ただ、芸術家として成功してからは祖父母の口座へ定期的に小川一華名義で、二人が昨年亡くなるまで入金がされていました」
「最初の帰国は、祖父母が亡くなったときだったな」
「はい。さすがにそのときは帰国していますね。しかし、葬儀を済ませると財産やその他のことは代理人に任せて急ぐようにパリへ帰っています。まるで日本にいたくないような感じがしますね。考えてみれば悲惨な思いでしかありませんからね」
「だが、その日本に彼女は帰ってきた」
小川一華が日本に帰国しなかった理由――
滝川も佐川と同じように考えた。
あまりにも悲惨な思いでしかない。
そんな故郷に帰るよりも、新天地で新しい人生を歩む。
現に彼女はそうしてきた。
「それなのに、なぜだ?なぜわざわざ日本で生活しようと考えた」
滝川は佐山に問いかけるでなく、自身に問いかけた。
小川一華が次に帰国したのは、日本で住む家の購入のとき。
現在は都内の郊外に邸宅を構えているが、この邸宅購入の際も契約やそういったことは代理人任せで日本に帰ってきたのは不動産屋と物件を見に来たときと、完成した邸宅を見に来たとき。
いずれも滞在は一日程度だ。
そして同窓会の一カ月前に帰国して現在に至る。
二人の失踪はそれよりも前だ。
滝川は小川一華と一度だけ面識があった。
それは薬物混入事件のとき、警察署で取り調べを受けている橋本千尋の潔白を証言したときだった。
これまで見たことのないような美貌の持ち主で、所作や話し方も非常に洗練されていたことが強く印象に残っている。
だが、一瞬垣間見せる瞳の奥に、猛禽類のような鋭さを感じた。
しかし、日にちが経つにつれて、どうもこれはテロとかそんな大きなヤマではないという捉え方が主流になってきていた。
まず、テロにある犯行声明が一向に出てこない。
使用された薬物も致死性のあるようなものではなかった事、被害者の症状も極軽度だったことが理由にあげられる。
だが大規模な薬物テロの予行演習という可能性も捨てきれない。
捜査本部は縮小しながら捜査を続けるという方針に決まった。
滝川は捜査担当に名乗りを上げた。
それはこの事件になにかを感じたからだ。
これはテロではないかもしれない。しかし普通の事件とも違う。漠然とだがなにか嫌なものを感じる。
事件発生時に薬物を所持していた高橋智花。
しかし彼女はそんなものに覚えはないと言う。
容器からは指紋が一切でてこなかった。
そして、高橋智花は同窓会が始まってから常に友人と一緒にいて、問題のスープの傍に近寄ってすらいない。
事前に仕込んだ可能性も調べてみたが、防犯カメラにそれらしい姿は見られなかった。
状況的に見て高橋智花に薬物を混入することは難しいというのが、かなり早い段階で捜査本部の考えになった。
その矢先に、ネットに薬物混入事件の犯人は高橋智花だという動画が流れた。
そして彼女は失踪してしまった。
滝川は高橋智花の周辺を調べるうちに、中学時代の友人が二人失踪していることがわかった。
橋本千尋からの聞き込みを終えた、滝川と佐山は豊島区にある目白署に向かって車を走らせていた。
小川一華の父親が失踪した記録を見るためだ。
警視庁内の人身安全課・行方不明者対策第一係で調べると当時の失踪届は豊島区の目白警察署に出されていた。
届人は小川美沙。おそらく小川一華の母親だろう。
この母親も後に自殺している。
「滝川さんは、薬物混入事件と高橋智花を含めた、三人の失踪がなにか関係あると考えているのですか?」
ハンドルを握る佐山が問いかけた。
「可能性の問題だ。同窓会、そして出席者が過去を含めて三人失踪している」
滝川は視線を佐山に向けることなく、前を見ながら答えた。
「しかも、その全てに共通しているのが小川一華ですからね。でも捜査本部は彼女をリストから外していますね」
「当然だ。薬物混入事件では彼女は被害者だ。高橋智花以外の二名が失踪したとき、彼女はパリにいた。常識的に考えれば、三人の失踪が同じ犯人だと仮定した場合、小川一華は容疑者足り得ない」
「では、どうして小川一華を調べるんです?それも十三年前の父親の失踪と、母親の自殺について」
「少なくとも、高橋智花の失踪時に彼女は日本にいた。事件が繋がっていなかったとしても、高橋智花の件には関わっている可能性がある。だから一つずつ潰していく必要がある」
滝川は思案していた。
薬物混入事件と三人の失踪が繋がっているのだとしたら、小川一華には強力な動機がある。
彼女は、中学時代に高橋智花たちにいじめられていた。
それは多くのクラスメイトが証言している。
そんな彼女を唯一助けたのが、さきほど対面した橋本千尋だ。
その橋本千尋にも、なにか引っかかるものを感じた。
あの菜園と彼女の表情。
橋本千尋に会うのは二回目だったが、最初は気にならなかった。
だが、二回目に会ったときに、菜園と彼女を見て自分の奥底がざわついている。
どこか人を魅了してしまう不思議な魅力を感じる笑顔。
そしてはつらつとした健康的な美を感じた。
だが、どこか不自然なものを感じたのだ。
完全に過ぎる……。あの菜園も彼女も。
異様に完全なのだ。
あんな人間をこれまで見たことがない。
滝川は、頭をふると橋本千尋のことを一旦、頭から追い出した。
「小川一華はほとんど日本へ帰っていなかったそうだな」
前を見ながら滝川は佐山に問いかけた。
父親の失踪と母親の自殺。
相次ぐ不幸により、彼女は母方の祖父母の家で暮らし、芸術の才能を認められて高校を中退してパリへ留学。
「そうですね。留学してから芸術家として大成しても、その間は一度も帰国していません。ただ、芸術家として成功してからは祖父母の口座へ定期的に小川一華名義で、二人が昨年亡くなるまで入金がされていました」
「最初の帰国は、祖父母が亡くなったときだったな」
「はい。さすがにそのときは帰国していますね。しかし、葬儀を済ませると財産やその他のことは代理人に任せて急ぐようにパリへ帰っています。まるで日本にいたくないような感じがしますね。考えてみれば悲惨な思いでしかありませんからね」
「だが、その日本に彼女は帰ってきた」
小川一華が日本に帰国しなかった理由――
滝川も佐川と同じように考えた。
あまりにも悲惨な思いでしかない。
そんな故郷に帰るよりも、新天地で新しい人生を歩む。
現に彼女はそうしてきた。
「それなのに、なぜだ?なぜわざわざ日本で生活しようと考えた」
滝川は佐山に問いかけるでなく、自身に問いかけた。
小川一華が次に帰国したのは、日本で住む家の購入のとき。
現在は都内の郊外に邸宅を構えているが、この邸宅購入の際も契約やそういったことは代理人任せで日本に帰ってきたのは不動産屋と物件を見に来たときと、完成した邸宅を見に来たとき。
いずれも滞在は一日程度だ。
そして同窓会の一カ月前に帰国して現在に至る。
二人の失踪はそれよりも前だ。
滝川は小川一華と一度だけ面識があった。
それは薬物混入事件のとき、警察署で取り調べを受けている橋本千尋の潔白を証言したときだった。
これまで見たことのないような美貌の持ち主で、所作や話し方も非常に洗練されていたことが強く印象に残っている。
だが、一瞬垣間見せる瞳の奥に、猛禽類のような鋭さを感じた。
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