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懐かしい訪問者・1・千尋
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あの後、愛の実家に連絡をしてみたところ、ご両親は驚いていた。
もともと私たちのように頻繁にやり取りをしていたわけではないので、愛の電話がつながらないということも知らなかったようだ。
ご両親の方から会社に問い合わせると、愛は二週間前に退職していた。
と言っても上司にメールで一方的に病気療養のために辞めると送ってきただけであった。
私は愛が最近病気なんて聞いたこともなかった。
もちろん持病等の話もない。
ご両親も愛がここ最近に病気になったとかは聞いていないと言っていた。
愛は今の会社に入って日が浅いので退職金等はないものの、それでも会社の方は何度か愛に連絡を取ってみようと試みたがつながらなかった。
そして今に至る。
ご両親は警察に捜索願を届け出た。
これで連続失踪事件の失踪者は五人になった。
しかも高橋さんから福山先生に愛と、立て続けに三人が行方不明になっている。
それもここ二カ月くらいの間に。
愛の失踪は電話がつながらなくなった時期と仮定してみると、その直前に会社の上司にメールをしたことになる。
もしこれが愛の手によるものでなく、第三者によるものなら失踪ではなく誘拐になるのではないだろうか?
そして誘拐だとしたら、他の四人も本当に失踪なのか?もしかしたら全員が誘拐されたという可能性も出てくるのではないだろうか。
愛の無事を祈りつつも、私と果歩は同級生や愛のSNSから親しくしていた人を探しては何か知らないか聞いたりしていた。
しかし、何の成果もないまま時間だけが過ぎていった。
親友がいなくなったとしても、時間は止まってはくれない。
私たちは日常を変わらずに過ごしていかなければならない。
一華もスクールの友達である下島さんと斉藤さんも心配してくれたが、私は大丈夫だからと返した。
一華やみんなに余計な心配はさせたくない。
愛の行方は依然としてわからないまま、私は家事と家庭菜園、スクールを両立させた日々を変らず過ごしていた。
そして合間を見て、果歩と連絡を取り合い、彼女の不安を和らげるよう努めていた。
そんなある日のことだった。
インターホンが鳴った。
モニターを見ると初老の男が笑顔を向けている。
この男を私は覚えていた。
小野寺だ。
13年前に一華の母親が自殺したときに来た刑事だ。
「目白警察署の小野寺です。ちょっとお話をお聞かせください」
小野寺は警察手帳をかざしながら笑みを絶やさず柔らかい口調で要件を告げた。
後ろにもう一人若い刑事がいるが滝川刑事ではない。
小野寺と同じように名前を告げてきた。
「はい。ただいま」
なんの件で来たのかおおよその察しはつく。
玄関のドアを開けて私が顔を出すと二人の刑事は会釈した。
「小野寺さん。お久しぶりですね」
「ああ、これはこれは。私のことを覚えておいでで。矢島千尋さん。いや、今はご結婚されて橋本さんでしたな。失礼しました」
短く刈り込んだ頭の上に手をのせて口許だけで笑う小野寺。
その目は私の微小な反応や変化を見逃すまいとしている。
13年前のままだ。
相対していて懐かしいものを感じた。
「私、記憶力はいいんです」
笑顔で返した。
「それで警察の方がどういったご用件でしょう?私になにか?」
「実は、もうご存知かと思いますが連続失踪事件についてお話をお聞きしたくて参りました」
「ああ……あの」
「小橋愛さんが新たに連続失踪事件の失踪者として認定されました」
「愛が……」
深いため息をついた。
愛の行方はあれからわからなかったのだ。
「あなたは小橋さんと特に仲が良かったとうかがいました。中学卒業から現在に至るまで交流があったようですね」
「はい。私と果歩は同じようバスケ部で」
「果歩というのは関本さんですね」
「はい。あのう、刑事さん。立ち話もなんですから中にどうぞ」
「いえ、お構いなく」
小野寺は誇示したが、こちらは困る。
「いえ、家の前だと……こういうところはなにかと噂が立ちますから」
「ああ、これは気付きませんでした。申し訳ありません」
大の男二人と家の前で深刻な顔をして話していたら、なにを言われるかわかったものではない。
滝川さんが来たときも、どこで見ていたのか、噂好きのご近所から後日探りを入れるように聞かれた。
小野寺たちをリビングに通すとコーヒーを煎れようとした。
「あ、本当にお構いなく。お話を聞いたらすぐに退散しますので」
小野寺は恐縮しながら片手をあげて制するように言った。
小野寺がチラッと庭に目をやった。
「見事な家庭菜園ですね。トマトですか」
「ええ。唯一の趣味です」
私は刑事二人とテーブルを挟んで相対するように座った。
小野寺は居住まいを正すと話し始めた。
「我々のいる目白署に小橋愛さんのご両親から失踪届が出されました。そうした経緯で我々所轄の人間が話をうかがいに来たわけです。早速ですが小橋さんのご両親から娘さんの失踪を知ったのは、あなたと関本さんからだとうかがいました。間違いありませんか?」
「はい」
「その、あなた方はなぜ失踪に気がついたのですか?関本さんにもお聞きしましたが、あなたからもお聞かせ願いませんか」
先に果歩に会ったのか。
「きっかけは果歩からの電話でした。愛の電話が何日もつながらないって、かなり取り乱していて……」
「すみません。何日もというと、具体的な日数はわかりますか?」
「果歩は一週間旅行に行っていて、帰ってから三日もつながらない、旅行に行く前からもつながらなかったと言っていましたから……私も細かくは聞かなかったのですが、だいたい十日以上だと思います」
私はそこまで話してから気がついた。
「あのう……なぜ私に聞くのです?」
「えっ」
小野寺は意外という顔をした。
「もしかして果歩を疑っています?だから私に果歩が言っていたことを確認してるいのでは」
「いやいや、そういうわけではありません。我々の仕事というのは細かいことでも裏を取らなければいけないのですよ。あのときみたいに」
「ああ……そうでしたね。なんだかすみません」
そうだった。あのときもそうだった。
どんどん昔を思い出してくる。
「橋本さんの方は、小橋さんと最後に連絡を取ったのはいつだったかわかりますか?」
「ああ、それなら」
LINEの画面を開いてテーブルに置くと、愛との履歴を見せた。
二人の刑事がのぞき込むように見る。
「これは……小橋さんの失踪がわかる一月ほど前ですね」
小野寺が日付をメモしながら言う。
「これが最後ですか?電話とかはなかったと?」
若い方の刑事が聞いてきた。
「はい。電話で話したということもなかったです。このころ、といいますか最近ちょっと生活サイクルが変わって忙しくて。果歩とも連絡を取ったのは彼女が旅行へ行く少し前でした」
「普段はもっと頻繁に?」
小野寺が聞きながら手帳を閉じた。
「はい。だいたい週に二三度はなにかしらLINEや電話で話していました」
「これまでに小橋さんからなにか相談されたり、悩みを聞いたりとかはありませんでしたか?」
「仕事の愚痴とかは聞いたことはありますけど。でもあれが深刻な悩みや相談とかとは思えなくて」
もともと私たちのように頻繁にやり取りをしていたわけではないので、愛の電話がつながらないということも知らなかったようだ。
ご両親の方から会社に問い合わせると、愛は二週間前に退職していた。
と言っても上司にメールで一方的に病気療養のために辞めると送ってきただけであった。
私は愛が最近病気なんて聞いたこともなかった。
もちろん持病等の話もない。
ご両親も愛がここ最近に病気になったとかは聞いていないと言っていた。
愛は今の会社に入って日が浅いので退職金等はないものの、それでも会社の方は何度か愛に連絡を取ってみようと試みたがつながらなかった。
そして今に至る。
ご両親は警察に捜索願を届け出た。
これで連続失踪事件の失踪者は五人になった。
しかも高橋さんから福山先生に愛と、立て続けに三人が行方不明になっている。
それもここ二カ月くらいの間に。
愛の失踪は電話がつながらなくなった時期と仮定してみると、その直前に会社の上司にメールをしたことになる。
もしこれが愛の手によるものでなく、第三者によるものなら失踪ではなく誘拐になるのではないだろうか?
そして誘拐だとしたら、他の四人も本当に失踪なのか?もしかしたら全員が誘拐されたという可能性も出てくるのではないだろうか。
愛の無事を祈りつつも、私と果歩は同級生や愛のSNSから親しくしていた人を探しては何か知らないか聞いたりしていた。
しかし、何の成果もないまま時間だけが過ぎていった。
親友がいなくなったとしても、時間は止まってはくれない。
私たちは日常を変わらずに過ごしていかなければならない。
一華もスクールの友達である下島さんと斉藤さんも心配してくれたが、私は大丈夫だからと返した。
一華やみんなに余計な心配はさせたくない。
愛の行方は依然としてわからないまま、私は家事と家庭菜園、スクールを両立させた日々を変らず過ごしていた。
そして合間を見て、果歩と連絡を取り合い、彼女の不安を和らげるよう努めていた。
そんなある日のことだった。
インターホンが鳴った。
モニターを見ると初老の男が笑顔を向けている。
この男を私は覚えていた。
小野寺だ。
13年前に一華の母親が自殺したときに来た刑事だ。
「目白警察署の小野寺です。ちょっとお話をお聞かせください」
小野寺は警察手帳をかざしながら笑みを絶やさず柔らかい口調で要件を告げた。
後ろにもう一人若い刑事がいるが滝川刑事ではない。
小野寺と同じように名前を告げてきた。
「はい。ただいま」
なんの件で来たのかおおよその察しはつく。
玄関のドアを開けて私が顔を出すと二人の刑事は会釈した。
「小野寺さん。お久しぶりですね」
「ああ、これはこれは。私のことを覚えておいでで。矢島千尋さん。いや、今はご結婚されて橋本さんでしたな。失礼しました」
短く刈り込んだ頭の上に手をのせて口許だけで笑う小野寺。
その目は私の微小な反応や変化を見逃すまいとしている。
13年前のままだ。
相対していて懐かしいものを感じた。
「私、記憶力はいいんです」
笑顔で返した。
「それで警察の方がどういったご用件でしょう?私になにか?」
「実は、もうご存知かと思いますが連続失踪事件についてお話をお聞きしたくて参りました」
「ああ……あの」
「小橋愛さんが新たに連続失踪事件の失踪者として認定されました」
「愛が……」
深いため息をついた。
愛の行方はあれからわからなかったのだ。
「あなたは小橋さんと特に仲が良かったとうかがいました。中学卒業から現在に至るまで交流があったようですね」
「はい。私と果歩は同じようバスケ部で」
「果歩というのは関本さんですね」
「はい。あのう、刑事さん。立ち話もなんですから中にどうぞ」
「いえ、お構いなく」
小野寺は誇示したが、こちらは困る。
「いえ、家の前だと……こういうところはなにかと噂が立ちますから」
「ああ、これは気付きませんでした。申し訳ありません」
大の男二人と家の前で深刻な顔をして話していたら、なにを言われるかわかったものではない。
滝川さんが来たときも、どこで見ていたのか、噂好きのご近所から後日探りを入れるように聞かれた。
小野寺たちをリビングに通すとコーヒーを煎れようとした。
「あ、本当にお構いなく。お話を聞いたらすぐに退散しますので」
小野寺は恐縮しながら片手をあげて制するように言った。
小野寺がチラッと庭に目をやった。
「見事な家庭菜園ですね。トマトですか」
「ええ。唯一の趣味です」
私は刑事二人とテーブルを挟んで相対するように座った。
小野寺は居住まいを正すと話し始めた。
「我々のいる目白署に小橋愛さんのご両親から失踪届が出されました。そうした経緯で我々所轄の人間が話をうかがいに来たわけです。早速ですが小橋さんのご両親から娘さんの失踪を知ったのは、あなたと関本さんからだとうかがいました。間違いありませんか?」
「はい」
「その、あなた方はなぜ失踪に気がついたのですか?関本さんにもお聞きしましたが、あなたからもお聞かせ願いませんか」
先に果歩に会ったのか。
「きっかけは果歩からの電話でした。愛の電話が何日もつながらないって、かなり取り乱していて……」
「すみません。何日もというと、具体的な日数はわかりますか?」
「果歩は一週間旅行に行っていて、帰ってから三日もつながらない、旅行に行く前からもつながらなかったと言っていましたから……私も細かくは聞かなかったのですが、だいたい十日以上だと思います」
私はそこまで話してから気がついた。
「あのう……なぜ私に聞くのです?」
「えっ」
小野寺は意外という顔をした。
「もしかして果歩を疑っています?だから私に果歩が言っていたことを確認してるいのでは」
「いやいや、そういうわけではありません。我々の仕事というのは細かいことでも裏を取らなければいけないのですよ。あのときみたいに」
「ああ……そうでしたね。なんだかすみません」
そうだった。あのときもそうだった。
どんどん昔を思い出してくる。
「橋本さんの方は、小橋さんと最後に連絡を取ったのはいつだったかわかりますか?」
「ああ、それなら」
LINEの画面を開いてテーブルに置くと、愛との履歴を見せた。
二人の刑事がのぞき込むように見る。
「これは……小橋さんの失踪がわかる一月ほど前ですね」
小野寺が日付をメモしながら言う。
「これが最後ですか?電話とかはなかったと?」
若い方の刑事が聞いてきた。
「はい。電話で話したということもなかったです。このころ、といいますか最近ちょっと生活サイクルが変わって忙しくて。果歩とも連絡を取ったのは彼女が旅行へ行く少し前でした」
「普段はもっと頻繁に?」
小野寺が聞きながら手帳を閉じた。
「はい。だいたい週に二三度はなにかしらLINEや電話で話していました」
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