私の心臓をつかむあなたの手が冷たくも温かい~収穫祭~

秦江湖

文字の大きさ
21 / 75

恩師の死

しおりを挟む
 アトリエで作品を作りながらニュースを聞いていた。


 福山の失踪を扱っていた。

 福山に加えて高橋智花、小田茉莉、田島紅音の失踪も一連のものとして、連続失踪事件と仰々しく扱っていたのは滑稽だった。


「福山先生は……福山はここにいるのにね」


 作品を見ながら笑みが漏れた。




 あれは今から十日前、福山と会うようになって三回目のことだった。

 私は福山の奴にそろそろ限界だった。

 今日殺してしまおうと来たら思ったのだ。


 「ルイ。今日やるから」

 「わかった」

 いつでもいいように準備はしていた。


 福山には明日が休みだろうから、私の家でディナーを一緒にと招待した。

 学校の最寄り駅の隣にある駅を待ちあわせ場所に指定して、時間になるとルイに迎えにやらせた。



 玄関にポカンとした顔の福山と笑顔のルイが立っている。

 二人をボディーラインが強調される服を着て出迎えた。


 「では小川様。お客様をお届けしました」

 「ありがとう」


 私が微笑むとルイは「失礼します」と折り目正しく礼をして玄関から出て行った。


 「小川、あの人は」

 「送迎サービスの人です。それより早く上がってください。先生」

 福山をリビングに案内する。

 「す、すごい家だな」

 「そうですか?」

 私の家を見た福山は口をあんぐり開けてキョロキョロしていた。



 音楽をかけて二人でディナーを楽しむ。

 福山は私の料理を絶賛した。


 食事も終わり、ワインを二人で飲むことにした。


 「シュヴァリエモンラッシェです。お口に合えばいいですけど」

 黄金色の液体をグラスに注ぐとかすかな柑橘系の香りが立ち上る。

 一つを福山の前に出した。


 乾杯して一口含むと、滑らかな舌触りと共に、甘酸っぱい果実味が広がる。ミネラルの塩気と、蜂蜜のような甘さが複雑に絡み合った奥深い味わいを堪能した。

 「これ高いんじゃないのか?」

 この味わいを前に金の話。

 下世話な男だ。

 「先生。こういうときにお金の話は野暮ですよ」

 やはり、こいつにはもったいなかった。

 でも私が飲みたかったから仕方ないか。

 さっさと殺してやりたい。


 福山はさらにワインを飲む。

 杯を重ねて福山は饒舌になってきた。


 「お前が成功して嬉しいよ」

 「ありがとうございます」

 「こんな広い家に一人で住んでるのか?」

 「はい」

 福山にルイのことは話していない。

 「寂しくないのか?」

 「なら先生、私と一緒に住みます?」
 「おい、冗談はよせよ」

 「先生。私、実の父親は誰か知りません。物心ついたときには離婚していて母はシングルでしたから。二番目の父は先生もご存知のように失踪しました」

 「そうだったな。今でも行方知れずなのか?」

 「はい。生きているのか死んでいるのかもわかりません」

 少し寂し気に笑った。

 「そのせいか、私は歳上の男性に惹かれるんです。こんなこと言うと恥ずかしいんですけど、中学のとき先生のこと好きでした。包容力があって快活で。できれば在学中にお伝えしたかったけど、それも叶いませんでした」


 「あんなことがあったからな……お母さんは本当にお気の毒だった」

 「でもこうして再会して、私の気持ちも再燃してきたんです」

 「小川……」

 「先生さえよろしかったら、私と一緒に住んで欲しいんです。失礼だけど、今のお宅は先生に似つかわしくありませんし。先生はお嫌ですか?私なんかと住むのは」

 「いや、嫌じゃない。嬉しいよ。ただ、おまえみたいな素敵な女性が俺なんかに声をかけてくれるのが夢のようで……現実味が感じられないんだ」


 「ふふふ。夢じゃありません。それに夢ならもっと素敵なものを見せて差し上げますよ」

 福山のグラスにワインを注ぐ。


 それにしても、さっきから福山の目は、餌を前にした豚のようだ。

 「先生は性に開放的ですか?それとも保守的?私は開放的なんです。いろいろ楽しみたいから。こういうのも相性が大事ですよね」

 「俺はどちらかと言えば開放的かな……大した経験はないけど」

 なにを言ってる。おまえは破滅的だろう。

 浮気と借金で離婚したくせに。

 嘲りたい衝動を抑えるようにワインを口にした。


 「なら経験させてさしあげます。今日は遅いし、泊まってください。準備もしていますし。明日はお休みでしょう?」

 「本当にいいのか?俺で」


 福山は虚ろな目を擦りながら言った。

 「私は先生が良いんです。さあ」

 立ち上がって福山に手を伸ばす。

 「あれ?おかしいな……立てない……」

 椅子から立とうとした福山は、テーブルに手をついた途端にバランスを崩して倒れた。
グラスに仕込んだ薬が効いたようだ。


 「フフ……先生。夢見心地はこれからですよ」


 福山が眠っているのを確認してから、一旦外に出た後に戻って二階にいるルイを呼んだ。

 「よく効いてるね。どんな夢を見ているのやら」

 床で眠る福山を見てルイが笑う。

 「はじめるわよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

せんせいとおばさん

悠生ゆう
恋愛
創作百合 樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。 ※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

処理中です...