私の心臓をつかむあなたの手が冷たくも温かい~収穫祭~

秦江湖

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願望・千尋

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 翌日。スクールに行く前にいつものように下島さんと斉藤さんと私の三人でカフェに行った。

 「心配ね。警察はなんて言ってたの?」

 下島さんがいたわるような眼を私に向ける。

 「まだなにも手掛かりはないって」

 いつもはケーキも頼むのに、私は食欲がないと言ったので二人はニュースになっている連続失踪事件のことだと察したようだった。

 失踪者の共通点が同じ中学校ということはニュースでやっていた。

 その中学校が私と一華の母校であることを二人は知っていた。


 「お友達の小橋さん、無事に見つかるといいですね」

 「うん。それより斉藤さん元気出して。そんなに落ち込まないでよ」

 「だって、橋本さんのことを考えたら心配だし可哀そうで」

 我がことのように気にしてくれる。

 可愛い子だと心底思った。


 「ありがとう」

 そう言って微笑むと、斉藤さんの頭をなでた。

 「でもこれってただの失踪なの?こんなに連続してるなんて誰かが意図的にやってるんじゃない?誘拐とか」

 そういえば下島さんはミステリーやサスペンスが好きだったな。

 こういう事件になるといろいろと考えが巡るのだろう。


 「それも含めて捜査中なんですって」

 「そうなんだ。早く解決してほしいわね。なんだか気持ちの悪い事件ね」

 下島さんはそう言うとカフェラテを一口飲んだ。

 「私もそう願ってる」


 私はそう言うとカップに着いたリップの跡を指で拭った。

 スクールが始まる時間だ。



 その日はスクールに行くと一華に呼ばれた。
 別室に行くと一華は「大丈夫?」と、声をかけた。

 「私は大丈夫よ」

 「ならいいんだけど……小橋さんのこと心配ね」

 「ええ。でも心配ばかりもしていられないから」


 心配していても日常は繰り返される。

 適応しなくてはいけない。

 「私に何かできることがあったら言ってね。千尋」

 「ありがとう。一華」

 力なく微笑む私を見る一華の目から慈愛を感じた。

 「そういえば一華、個展の準備は進んでいる?」

 「ええ。新しい作品ももうすぐできるわ。あと一息ってところね」

 「そっか。頑張ってね!絶対観にいくからね」

 「うん。ありがとう」

 微笑む一華の顔は美しかった。



 最近の私は、彫刻の方は調子が良かった。

 以前出された課題。三日かかるものを一日で仕上げる。

 それが今日はできた。

 できたのだが、受講時間内には終わらなかった。

 あと少しなので居残って仕上げることにした。


 スクールには私と一華、村重先生しか残っていない。

 私の居残りに付き合わせてしまい、申し訳ない気がした。


 「やったじゃない!千尋!お疲れ様」

 完成した作品を見て一華は労ってくれた。

 「ごめんなさい。私のせいで居残りさせて」

 「いいの。どうせ私は片付けやらですぐには帰らないから」

 一華は笑って言った。

 「村重先生もすみません。他の先生は引き上げたのに」

 私にずっと教えてくれている村重先生だけは最後まで制作過程を見ていてくれた。


 「いいの。彼はあなたの受け持ち講師なんだから。ねえ?」

 「ええ。一華先生の言う通りです。だから橋本さんが気になさることはありませんよ。僕も橋本さんがどんどん上達するので見ていて楽しいですし」


 まだ初心者に怪我は得た程度のレベルということは自覚している。

 でも上達したと言われるのは嬉しかった。



 一華はまだやることがあると言うので、私と村重先生で先にスクールを出た。

 「彫刻って楽しいですね!先生のおかげです」

 「僕の?」

 「教えるの上手いから。それに楽しいし。先生じゃなかったら一華との付き合いはあってもスクールは辞めていたかも」

 「そう言っていただけると嬉しいです」


 村重先生は若干照れたように笑った。

 西日が眩しくて目を細めていると、村重先生が私の名前を口にした。


 「橋本さん……」

 「はい」

 「このあとちょっとお時間ありますか?良かったらそこのカフェで少し」

 「すみません。この後、夕飯の支度でスーパー行ったりしないといけないんで……」

 「そ、そうですよね。こちらこそすみません」

 「気になさらないでください。またスクールで」


 笑顔でお辞儀すると村重先生と別れた。



 家への帰路、スーパーの袋を下げて歩きながら考えた。

 お誘い断っちゃったけど気まずくならないといいなぁ……。

 頭に浮かぶ村重先生の顔。

 自然と口許に笑みが出る。

 「久しぶりだったな……ああいうの」


 あの時の私は新鮮な気分だった。まるで学生時代に若返ったような。

 でも帰宅した後はいつもと同じように夕食を作る。

 いつもと同じ時間の繰り返しに戻るんだ。

 だからといって不満なんてない。


 ないけど、なにか今までにないものを希求する思いがこのとき頭をもたげていた。


 家に着くとポストを見て見る。

 封筒が一つ入っていた。

 手に取った白い封筒には宛先に私の名前。

 差出人の名前は書いていない。

 切手も消印もない。

 この前と同じだ。


 周囲を見るが自転車に乗った親子連れと、下校中の小学生が歩いているだけだった。

 封筒をバッグに入れると家に入った。

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