私の心臓をつかむあなたの手が冷たくも温かい~収穫祭~

秦江湖

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這い寄ってきた過去・一華

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「おかしいですか?学生の頃に憧れる先生にお弁当やバレンタインのチョコを渡すのと同じですよ」

「あなたは学生時代に福山先生に憧れていたと」


ここで小野寺が口を開いた。


「そうですねえ……そういう傾向はあったと思います。福山先生はもててましたから。私以外にも先生に好意を持っている子はいましたし。今回は再会したことで懐かしさもあったからかな」


「そうですか……でもあなたの中学時代。特に福山先生と同じ学校にいたころは懐かしむようなものではなかったと思いますが。むしろ酷いことの方が多かった。できれば思い出したくも考えたくもないような過去だったのでは?言ってみれば福山さんはあなたの辛い状況の一部を解決できる力を持っていたのに傍観者だった。憧れというより否定的な感情の方が大きいのでは?」


「私がいじめられていた、それを福山先生は知りながら黙認していた。だから私は福山先生を憎んでいる。今回の事件に関わっている。そう仰りたいのですか?言われてみれば他の失踪者も小橋さん以外は私をいじめていた生徒ですものね」


「そこまでは言っていません。ただ、憧れを抱くような対象には思えなかったもので」

「それは人それぞれでしょうね」


笑みをたたえながら小野寺の目を見つめ返した。


「刑事さん。田島さんや小田さんが失踪した時期に関しては、私はフランスにいました。ですから二人に関しては関わりようがありません」

「それはわかっています」

小野寺はうなずきながら言った。


「福山先生ですが、お話をされていてなにかトラブルを抱えている、そういうような話はされましたか?」

再び仲間が聞いてきた。

「さあ……特には。そういえば先生のマンションは防犯カメラとかあったのかしら?」

「残念ながら福山さんが住んでいるマンションは古いもので、防犯カメラのようなものは設置されていませんでした。マンションに行かれたときにお気づきになりませんでしたか」

「ええ。だって人のお宅に行ったときに防犯カメラなんていちいちチェックするほうが変でしょう?それとも私が変なのかしら?」

「わかりました。では高橋智花さんと小橋愛さんにお会いしたことは?」

「同窓会のときに会いました。それ以外では会っていません」

「では帰国されてから会った中学時代の関係者は誰かいますか?」

次は小野寺。


「津島由利さんと橋本千尋さんです」

「津島さんは同窓会の幹事でしたね」


「はい。彼女から同窓会を開くという連絡をホームページのメールからもらいました。それで連絡を取り、帰国してから同窓会の前に何度か」

「その間、同窓会までの間に橋本千尋さんとは会われなかったのですか?」

「はい」

「橋本さんはあなたにとって非常に親しい方だったと記憶しています。むしろ真っ先に会う相手だと思いますが」

「ただのタイミングの問題ですよ」

「どんなタイミングでしょう?」

小野寺は食い下がる。


「忙しかったのと、あとは同窓会が迫ったのなら、むしろその日に会った方がサプライズ的で面白いかなって。おかしいですか?」

私は笑って聞き返した。

「いいえ」

小野寺は目を細めて首をふった。


「そういえば、津島さんは高橋さんと当時同じグループでしたね。どうして交流を?」

「交流はありません。同窓会の通知をもらったことで、私が会場を選んで一部食事を提供したいから何度か事務的なやり取りをしただけです」

「今回の会場は小川さんが費用を出したとか。どうしてそこまで?」

「私の原点の時代でしたから。あの時期だからこそ私のきっかけともいえる作品ができた。他の人間にはさほど大事でなくても私には大事なだけです」


「聞きにくいことなのですが、高橋さんはじめ、クラスメイトに恨みというかそう言った感情はなかったのですか?」

「はい。当時はともかく今は満ち足りています。私は成功しました。十数年前のことに囚われてるなんてバカバカしい」

「そうですか」



小野寺はなにか考えるように目を伏せたが、その後はなにも聞いてくることはなく、相棒の仲間が私に質問した。

その後、一通り聞き終わった刑事二人は帰ることになった。

席を立った小野寺はカップを片付けるルイをチラッと見ると部屋から出て行った。

玄関から出ると小野寺は不意に振り返った。


「あのう、一ついいでしょうか?」

「なにか?」

「昔、あなたが転校した際に、どうして橋本さんには連絡を取らなかったのです?」

「それが今回のことになにか関係あります?」

「いえ。個人的に疑問だったものですから」

「さあ。昔の私がなにを思って行動に反映したのか今ではわかりません」

「そうですか」

「ごめんなさい。あまり疑問に答えられなくて」

私が笑って言うと、小野寺も笑いながら顔の前で手を振った。


「転校してからのあなたは別人のように社交的で快活で、クラスの中心的な存在だったとか。そのことを橋本さんに話したら喜んでおられましたよ」

「千尋が。そうですか」

小野寺は私のことをあれからずっと考えていたのか。

それはおそらく、あのとき私から、あの事件から不審なものを感じ取ったからだろう。


「では。お忙しいところありがとうございました。ご主人にもそのようにお伝えください」

小野寺が頭を下げる。

「主人?私は独身ですけど」

「ああ、これは失礼。さっきの男の方がてっきりご主人かと」

「彼は私のパートナーです」

「パートナー?」

「恋人のようなものですね」

「はあ、そうですか。どうも私のような古い人間は最近の言葉に疎くて」

「私もです」

恥ずかしそうに笑う小野寺に同意しながら続けた。


「こういう説があるんですよ。人間の脳は石器時代から進化していないって。それ以降の時代にできた環境には適応できていないって。だから法律にも適応できない。犯罪者が常に後を絶たないのもそういう理由なんですって。ですから新しい言葉についていけなんて普通なんですよ」

「ほう。それは面白い話ですね」

「私もそう思います」

微笑みながら小野寺と視線を交わした。

「最後に一つだけいいですか?」

「どうぞ」

「あなたはお母さんが亡くなった後、警察が進めるセラピーは受けずに外でセラピーを受けたと聞きました。どちらの先生を選ばれたのですか?」


小野寺はどうしてそこが気になるのだろう?

私にはどうにも理解できない。


「どうしてそんなことを?今回の事件と何か関係が?」

「いえ。個人的な興味です」

「千尋です。千尋に話を聞いてもらいました。専門家といっても他人にはどうしても身構えてしまう性格なので、親しい友人の方がいろいろと話しやすいなと思いまして」

「そうですか。ありがとうございました」



刑事二人はお辞儀すると帰っていった。

なるほど。小野寺は昔のことから今のことまで私に疑惑を抱いている。


そう感じた。


過去がなめくじのように這い寄ってきたわけだ。

帰っていく刑事二人の背中を見ていると自然と笑みが漏れた。

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