私の心臓をつかむあなたの手が冷たくも温かい~収穫祭~

秦江湖

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最後の晩餐

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智花との夕食には腕をふるった。

「凄いね!ずっと一華の手料理食べてきたけど、今日のは特に凄い!綺麗!」

席に着いた智花は上機嫌だ。


「喜んでもらえて良かった。でも見た目だけじゃなく、味も抜群だから」

リモコンのスイッチをいれて音楽をかけると、智花と自分のグラスにワインを注いだ。

「では智花の潔白に乾杯」

「ありがとう一華」

ワインに口をつけた智花は料理に手をつけると絶賛した。


「美味しい!こんな美味しい料理はじめて!」

智花の手は止まらない。

「そう言ってもらえると嬉しいわ」


これが最後の晩餐よ。

存分に味わいなさい。


「さっきから気になってたんだけど、これって一華が作ったの?」

智花はようやく私の作品に興味を示した。

「ええ。今度の個展に出すの。まだ途中だけどね」

「凄いねえ……」


智花は一言感想を漏らすと、再び料理に手をつけた。

そんな智花を私は微笑みながら見つめた。

楽しい晩餐を締めくくるデザートをテーブルに置いてから、智花に質問した。


「ねえ、智花。あなたが不倫していた相手ってどんな方?」

「ああ、なんか日本とフランスのハーフで年下の超イケメン!でも不倫がバレたら連絡取れなくなってさあ。ついてないよね」

デザートをパクつきながら返す智花。

「その方って、今キッチンに立ってる彼じゃない?」

「えっ」

振り向いた智花の視線の先にはにこやかに手を振っているルイがいた。


「智花さん久しぶり!」

「は、はあ?あなた……一誠じゃない!どうして?」

智花はおもしろいように驚いた。

「彼はルイ。私のパートナー。それより一誠ってなによ?あなたそんな名前使っていたの?」

半笑いでルイに聞く。

「ハハハ。歩いてるときに目についたホストクラブの看板からもらったんだ」

「えっ?えっ?ど、どういうこと?」

智花が私とルイを交互に見る。


「アハハハハ……アッハハハ」


笑い出す私を智花は呆気にとられたように見ている。

続いてルイも笑いだした。



私たち二人の笑い声につつまれた智花の顔には不安と恐怖が見てとれた。

その様が余計に私を笑わせてくれた。

「アハハ……フフッ……もう智花ったらそんな顔しないでよ。笑いが止まらないじゃない」

「どうしたの一華?どういうことなの?」

引き攣り気味の智花の顔を見て、また笑いだしそうになったが必死に堪えると居住まいを正した。


「じゃあ教えてあげる」

私は掌を拝むように顔の前で合わせると説明を始めた。

「ルイは私の指示であなたと男女の仲になったの」

「なにそれ?」

「私が日本へ帰るよりずっと先にルイを日本へ行かせた。何度もね。そしてあなたと関係を持ったという報告を受けてから、知り合いに二人で会っているところ、ホテルから出てくるところを写真に撮らせたの」


「じ、じゃあ、近所にばらまかれた私の不倫写真って……」

「その人から私に届いたものをルイにばらまかせたわ」

「そういうこと。ごめんね智花さん」

ルイが笑顔で言う。


智花は混乱しているのか、泣いているのか笑っているのかわからない顔になっていた。

「わからない……なんでよ?なんで?」

「あっ。ちなみに同窓会の日に智花さんのバッグに薬物仕込んだのも俺だよ。スープに入れたものと同じやつをね」

ルイは笑みを絶やさない。


「智花を犯人扱いした動画を作成して公開したのも私たち。不倫暴露と犯人扱いで精神的に追いつめて、家にいれなくなるようにする必要があったの」

「ふ、ふざけないてよ!だったら今日までなんで私を匿っていたの?なんで助けたの?」


「あなたが実家にも帰れずに、ルイに助けを求めたという連絡を受けて、私から由利に電話をさせたの。私に連絡すれば悪いようにならないってね」


「由利?由利もグルだったの?どうして私にそんなこと」


「決まってるじゃない。あなたには私のお母さんの苦しみを味わって欲しかったから。あなた達がネットに、お母さんがあの男、義理の父親を殺したと書き込んだおかげでお母さんは精神的に追い詰められた。なんの証拠もないのに殺人をやったと大勢の人間から指さされてね」


「わ、私をどうするつもりなの?警察に突き出すの?だったらあんた達が同窓会での薬物事件の犯人だと言うわよ!」

智花は語気を強めた。


「警察?なんの話をしているの?」

「さ、さっき言ったじゃない。私が大きな犯罪の容疑者になっているって」

「あれね。あんなの嘘よ。もっと言えば、最初からね。警察はあなたを逮捕しようなんてしていなかった」

「じゃあ、じゃあなんで私を?」


「殺すためよ」


智花の顔から一気に血の気が引いた。

「う、嘘でしょう?あんなに優しくしてくれたじゃない?どうして?」

「そういう顔を見たかったの。だから優しくして信用させた」

智花は席を立って逃げようとしたが、バランスを崩して床に倒れこんだ。


「あ、あれ?脚に力が入らない……どうなってるの?」


「薬が効いてきたの。グラスに仕込んでおいたのよ。あらかじめ少量の薬を少量の水と一緒にグラスの底に凍らせておく。すぐにワインを注げば気がつかれない。現にあなたも気がつかなかったでしょう?」


「ど、どうして私だけ?あなたをいじめていたのは由利も茉莉も紅音も同じじゃない……どうして私だけを?」

「勘違いしないでね。由利は私に謝罪してきた。お母さんの件には関わっていない。だから許したの」


「ごめんなさい。ごめんなさい」


「ククク……ずっと私と一緒にいて、ようやく今になって謝罪したね」

私は肩をゆすった。


「それにあなただけじゃないから。茉莉と紅音ならあなたより前からこの家にいるわ。福山先生も。しかも目の前に。さっきからずっとそこにいるわよ」

「はあ?」

手をついて体を起こしリビングを見まわす智花。

「ど、どこに?」

「鈍いわねえ。そこよ」

私は作成中の「蜘蛛の糸」を指した。

智花の目が見開かれて釘付けになる。


「あの子たちの肉や内臓は庭にいる犬の餌にした。髪の毛は焼いて、骨は細かく砕いてから粘土に混ぜて作品にしたの。無価値なあの子たちを価値のある作品に生まれ変わらせてあげたってこと」

「ひっ……ひっひっ……」

智花はなにか言葉を発するでもなく、顔を引き攣らせて声を上ずらせているだけだ。


「でもあなたは私の作品にしてあげない。あなたにはそんな価値も資格もない」

「い、いや、いや……」

「内臓は掻き出して犬の餌。それから死体は辱めて晒してやる」


智花はようやくあらん限りの声を出して叫びだした。

泣きわめくような声はリビングにかかっている音楽が聞こえなくなるほどの音量だ。


次は千尋だ。

愛しい千尋。

私はあなたの幸せをなにもかも滅ぼすために帰ってきたの。
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