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ルイとの過去と盗聴・一華
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ルイとの出会い。
あれは私がパリにきて五年ほどの頃だった。
当時の私は名前も作品も売れ出して、パトロンも何人かつき、生活には全く困らずに創作に没頭できる環境にいた。
私が女を武器に賞をとり、パトロンを籠絡したという噂もあったが、そんなことは全く気にならなかった。
褒貶は人にあり。他人はあれこれ勝手気ままに言えばいい。
あの頃の私は、いろんなことに負けまいとしていた。
ある雨の日、街を歩いていると路地に人が倒れているのを発見した。
それが僅かに這うように無駄を動かしている。
恐る恐る近付くと、男性だとわかった。
髪も服もずぶ濡れで、手もふやけている。
長時間雨に打たれていることは容易にわかった。
そして後ろ頭から出血している。
殴られたのか。倒れて打ったのかはわからない。
急いで救急車を呼んだ。
それが私とルイの出会いだった。
それを話すと千尋は驚いたように口に手を当て、言葉もないといった風だった。
「要するに行倒れていたのを最終的に私が保護したの」
「行倒れって?どういうこと?」
千尋はカップを置くと、背もたれに体を預けた。
「彼、重度のアル中だったのよ。自分の名前も思い出せないくらいの記憶障害までなってた。警察でも調べてくれたんだけど身寄りもないみたいだったの」
「それでどうしたの?」
「私が引き取ったわ」
然るべき治療を受けさせ、ある程度回復してきたところで私の家へ連れて行った。
「名前がわからなかったから「ルイ」という名前は私がつけたの」
「その名前に何か意味があるのかしら?」
「原義は「名高き戦士」の意よ。それにフランス王家には「ルイ」という名前が多くついているから」
「戦士かあ……騎士ね」
千尋は私を見て微笑みながら一旦言葉を区切った。そしてすぐに「かっこいいよね。それにルイ君美形で王子様みたいだから王族っていうのもしっくりくる。騎士で王子様!素敵じゃない!」と、絶賛した。
「ありがとう。伝えておくわ」
私はそう言うと紅茶に口をつけた。
千尋の雰囲気が微妙に変わってきているのを感じた。
この感覚は最初に会っていたころのものだ。私が話していて千尋が聞いている。そして質問してくる。
時間がたつと私は千尋になにもかも自分のことを話していて、千尋は私という人間を把握していった。
目の前の千尋はいつものような笑顔を向けている。
このままでは予期できない方向に流れるような気がした私は、話題を打ち切った。
「それからはずっとルイは私のパートナーなの」
するとふいに千尋が立ち上がる。
「ちょっと見てほしいものがあるの」
そう言って千尋は立ち上がると、バッグを持ってきた。
「これ。知らない間に入っていたの」
バッグから取り出したのは厚さが数ミリ程のカード型盗聴器だった。
私が入れておいたものだ。
「これどうしたの?」
「わからない。何の気なしにバッグの中を整理していたら見つけたの。調べたら盗聴器だって…… それからね」
言いながら今度はバッグから白い封筒をいくつか取り出した。
「見て。ポストに入っていたの。差出人の名前もないし、これって切手もないのよ。直接投函してきたってことだよね」
なんだこれは?
「見ていい?」
「いいけど……中はなにも書いていない白紙なの」
千尋は自ら封筒の中身を取り出して渡してくれた。
本当にただの白紙だ。
それともなにか特殊な方法で見れる文字でも書いてあるのだろうか?
「もしかしてストーカーってやつかな?」
千尋からはさっきまで感じた雰囲気は消えていた。
「これ、明さんには話したの?」
「いいえ。心配かけたくないし」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。ヤバいよこれ。失踪事件や智花の事件もあるし、早く手を打った方がいいよ」
「そうだよね。明さんに話して、警察にも相談してみる」
「それがいいわ」
盗聴器は私が仕掛けたものだ。受信機はルイが破棄したから大丈夫。
誰がどう調べても私までは辿り着かない。
しかし、この封筒はなんだ?
私は知らない。
ルイが勝手にやったのか?確認しないと。
もし、千尋に執着している者がいるなら排除しないと。
千尋は私だけのものだから。
話しているとスマホが鳴って、ルイから迎えを報せる通知がきた。
「もう来たみたい」
「そっか。気をつけて帰ってね」
千尋と二人で玄関から出ると、ルイが運転する車が来ていた。
「時間通りじゃない。デートは楽しめた?」
「まあね」
「でもルイ君は一華が一番なんでしょう」
「もちろん」
千尋を抱きしめた。
「一華……?」
「千尋。なにかあったら連絡してね」
戸惑う千尋の耳元で囁く。
「うん。ありがとう」
私を抱き返す千尋の腕に力がこもったのを感じた。
あれは私がパリにきて五年ほどの頃だった。
当時の私は名前も作品も売れ出して、パトロンも何人かつき、生活には全く困らずに創作に没頭できる環境にいた。
私が女を武器に賞をとり、パトロンを籠絡したという噂もあったが、そんなことは全く気にならなかった。
褒貶は人にあり。他人はあれこれ勝手気ままに言えばいい。
あの頃の私は、いろんなことに負けまいとしていた。
ある雨の日、街を歩いていると路地に人が倒れているのを発見した。
それが僅かに這うように無駄を動かしている。
恐る恐る近付くと、男性だとわかった。
髪も服もずぶ濡れで、手もふやけている。
長時間雨に打たれていることは容易にわかった。
そして後ろ頭から出血している。
殴られたのか。倒れて打ったのかはわからない。
急いで救急車を呼んだ。
それが私とルイの出会いだった。
それを話すと千尋は驚いたように口に手を当て、言葉もないといった風だった。
「要するに行倒れていたのを最終的に私が保護したの」
「行倒れって?どういうこと?」
千尋はカップを置くと、背もたれに体を預けた。
「彼、重度のアル中だったのよ。自分の名前も思い出せないくらいの記憶障害までなってた。警察でも調べてくれたんだけど身寄りもないみたいだったの」
「それでどうしたの?」
「私が引き取ったわ」
然るべき治療を受けさせ、ある程度回復してきたところで私の家へ連れて行った。
「名前がわからなかったから「ルイ」という名前は私がつけたの」
「その名前に何か意味があるのかしら?」
「原義は「名高き戦士」の意よ。それにフランス王家には「ルイ」という名前が多くついているから」
「戦士かあ……騎士ね」
千尋は私を見て微笑みながら一旦言葉を区切った。そしてすぐに「かっこいいよね。それにルイ君美形で王子様みたいだから王族っていうのもしっくりくる。騎士で王子様!素敵じゃない!」と、絶賛した。
「ありがとう。伝えておくわ」
私はそう言うと紅茶に口をつけた。
千尋の雰囲気が微妙に変わってきているのを感じた。
この感覚は最初に会っていたころのものだ。私が話していて千尋が聞いている。そして質問してくる。
時間がたつと私は千尋になにもかも自分のことを話していて、千尋は私という人間を把握していった。
目の前の千尋はいつものような笑顔を向けている。
このままでは予期できない方向に流れるような気がした私は、話題を打ち切った。
「それからはずっとルイは私のパートナーなの」
するとふいに千尋が立ち上がる。
「ちょっと見てほしいものがあるの」
そう言って千尋は立ち上がると、バッグを持ってきた。
「これ。知らない間に入っていたの」
バッグから取り出したのは厚さが数ミリ程のカード型盗聴器だった。
私が入れておいたものだ。
「これどうしたの?」
「わからない。何の気なしにバッグの中を整理していたら見つけたの。調べたら盗聴器だって…… それからね」
言いながら今度はバッグから白い封筒をいくつか取り出した。
「見て。ポストに入っていたの。差出人の名前もないし、これって切手もないのよ。直接投函してきたってことだよね」
なんだこれは?
「見ていい?」
「いいけど……中はなにも書いていない白紙なの」
千尋は自ら封筒の中身を取り出して渡してくれた。
本当にただの白紙だ。
それともなにか特殊な方法で見れる文字でも書いてあるのだろうか?
「もしかしてストーカーってやつかな?」
千尋からはさっきまで感じた雰囲気は消えていた。
「これ、明さんには話したの?」
「いいえ。心配かけたくないし」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。ヤバいよこれ。失踪事件や智花の事件もあるし、早く手を打った方がいいよ」
「そうだよね。明さんに話して、警察にも相談してみる」
「それがいいわ」
盗聴器は私が仕掛けたものだ。受信機はルイが破棄したから大丈夫。
誰がどう調べても私までは辿り着かない。
しかし、この封筒はなんだ?
私は知らない。
ルイが勝手にやったのか?確認しないと。
もし、千尋に執着している者がいるなら排除しないと。
千尋は私だけのものだから。
話しているとスマホが鳴って、ルイから迎えを報せる通知がきた。
「もう来たみたい」
「そっか。気をつけて帰ってね」
千尋と二人で玄関から出ると、ルイが運転する車が来ていた。
「時間通りじゃない。デートは楽しめた?」
「まあね」
「でもルイ君は一華が一番なんでしょう」
「もちろん」
千尋を抱きしめた。
「一華……?」
「千尋。なにかあったら連絡してね」
戸惑う千尋の耳元で囁く。
「うん。ありがとう」
私を抱き返す千尋の腕に力がこもったのを感じた。
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