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優しさ・1・千尋
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今日はスクールの日。いつものように始まる前の時間、私は下島さんと斉藤さんの三人でビルの一階にあるカフェに来ていた。
「お友達は残念だったけど、それでも橋本さんが元気で本当に良かった」
下島さんがしみじみと言う。
「ありがとう。最初はショックだったけど、今はもう大丈夫」
「早く警察に犯人捕まえてほしいですよ」
「そうよね」
斉藤さんの言うことに相槌を打った。
ニュースを見るとどうやら警察は最初の失踪事件と現在行われている連続殺人事件は別のものとして扱う方針になったらしい。
と、いうより失踪の方は本当に事件性のない「ただの失踪」という扱いなのだろう。
ニュースからはそんな感じを受けた。
滝川さんと話したときを思い出す。私のような素人の思い付きを滝川さんが捜査本部に反映させたなんて言うことはあり得ない。
きっと警察は以前からそうした流れに軌道を修正するつもりだったのだろう。
「それより来週は一華の個展が開かれるじゃない。みんなで行きましょうよ」
「それね。もちろん行くって」
「でも私の作品が一緒に飾られてるんですよね。高値で売れちゃったらどうしよう」
斉藤さんが幸せな妄想を膨らませた。
「それはないから安心していいよ」
下島さんがつっこむ。
三人笑いあった。
私には新しい友人がいる。大事にしないと。
スクールが始まると、まず最初に一華から来週開かれる個展の報告があった。
教室は拍手と喝采に包まれた。
その後で全員にチケットが配られた。
「みなさん。お忙しいとは思いますが、自分の作品が展示されているのを見るということは得難い経験になります。どうか時間を作ってこの機会を今後の創作に活かしてください」
一華の言葉を受けてまた拍手が起こる。
「そうそう。個展の初日には打ち上げがあるから、そっちだけの参加も大丈夫ですからね」
一華の言葉に最後はとても和やかな雰囲気になった。
授業が始まり、課題の作品を作っていると、私たちのグループに浩平がやってきた。
「どうですか皆さん」
下島さんと斉藤さん、それに私に声をかける。
みんなの手を見て浩平はそれぞれアドバイスを送っていた。
「大丈夫、ですか?」
「ええ」
笑顔で返す。浩平のこの言葉は、私が友人を亡くしたことへの言葉だと理解した。
あれから声は一度聞いていたが、こうして顔を見るのは今日がはじめてだ。
私たちが親しくしているのは他の人には内緒なので、ここでは講師と生徒の会話になる。
それが浩平にはちょっと物足りないのは雰囲気でわかっていた。
休憩時間になると浩平からLINEが来た。
「あとで連絡する」という内容に「待ってる」と、返しておいた。
スクールが終わって家に着くころに浩平からLINEの通知が届いた。
「今日は元気そうな顔が見れて安心した」
私がお礼を返すと、今度会いたいのでいつが空いているか尋ねる内容が来た。
私は明日と明後日の日中が空いていると返すと、明日の昼に会いたいと浩平は送ってきた。
なにか相談事があるので、食事しながら話したいらしい。
待ち合わせ場所は表参道駅の改札に決まった。
翌日になり、トマトへの水やりを終えた私は浩平との待ち合わせ場所へ向かった。
私は気楽に話せる方が良いと思って、通り沿いにあるファミレスに行くことを提案した。
浩平は最初、もっと洗練されたお店を提案したが、学生の懐では厳しくなるのは明らかだ。最終的に私が提案したファミレスで決まり、テーブルに着くと「実はお願いがあって」と、浩平から切り出した。
「モデル?私が?」
浩平の相談とは私に絵のモデルを頼みたいというものだった。
「そんな、私なんてダメだよ。無理無理」
笑って断る。
「俺は千尋だいいんだ。千尋の絵を描きたい」
真剣な目をしている。これは困ったな。
それより……私は浩平の服装に着目した。
良い生地を使ったブルーグレーのジャケット。
シャツもパンツも靴も真新しく、高級感がある。
系統も今までとは違い、どことなくシックなものだ。
「趣味変った?」
「えっ」
「服の趣味。なんだかお洒落でいいなって。それに似合ってる」
「そうかな?ありがとう」
照れたように笑いながら視線を落とす浩平。
なるほど。これは誰かに見繕ってもらったものに違いない。
その点をとやかく言うつもりはなかった。
もしもその件について問いただす時が来るなら、それは浩平次第になる。
「それよりモデルの件、なんとかお願いできないかな?」
「だって恥ずかしいよ。それに何時間も同じポーズで動けないんでしょう?」
「一日二時間でいいんだ。休憩ももちろんあるし、ただモデル料とかは払えないけど」
「お金なんて浩平に求めてないよ。でもどういう絵を描くつもりなの?もしかして服を脱いだりする?」
「大丈夫!服を着たままでいいから」
「う~ん……服を着たままか」
結局私は、浩平の熱意に押されてモデルを引き受けた。
私が絵のモデルか。そういうの初めてだな。
翌日も空いていた私は、さっそく浩平のモデルとして彼の家に行くことになった。
服装の指定はないか確認したところ、体の線が出るようなタイトな服装が良いとのことだった。
体の線が出るか……少し考えてタイトなワンピースを着ることにした。
浩平の住んでいるマンションに着くと、思ったよりもこざっぱりとした部屋だった。
玄関を入ったすぐ横にバスルーム。その横にトイレ、向かいに洗濯機。
今後必要になる可能性を考えて間取りを記憶した。
「意外ときれいにしてるのね。男の子の一人暮らしだからもっと散らかっているのかと思ってた」
「急いで掃除したんだよ」
1ldKの部屋には一番奥にベッド。そのすぐ手前にキャンパスが配置されて。キャンパスの前に椅子が置かれていた。
「そこに座ってくれればいいから」
「そこがクローゼット?見ていい?」
「いいけど。どうしたの?」
「ちょっとあなたの趣味が見たくなったの。服をプレゼントするときの参考にもなるでしょう?」
「俺にプレゼントを?」
「ええ」
微笑むと私はクローゼットを開けた。
すぐ目の前に昨日来ていたジャケットが吊るされている。
他にも似た感じのセンスのいいものが前列にあった。
後列には私と美術館に行ったときに見た服とかがある。
おそらくは後列にあるのが浩平の本来の服なのだろう。
前列の服はどれも新しい。真新しい服特有の臭いがした。
「センスいいね。私のセンスが邪魔しなければいいけど」
「そんなこと。千尋が選んでくれたものなら嬉しいよ」
「ありがとう。じゃあ始めようか」
上着を脱ぐと、置かれた椅子に座った。
浩平が側に来てポーズをとらせるために体に触れる。
「あれ?」
体をねじるポーズをとらせる際に、背中に触れた浩平は気がついたようだ。
「下着はつけてないの。この服はタイトだから線が出ると思って」
「そうなんだ」
浩平は若干驚いたようだった。そして少しの興奮を感じた。
「お友達は残念だったけど、それでも橋本さんが元気で本当に良かった」
下島さんがしみじみと言う。
「ありがとう。最初はショックだったけど、今はもう大丈夫」
「早く警察に犯人捕まえてほしいですよ」
「そうよね」
斉藤さんの言うことに相槌を打った。
ニュースを見るとどうやら警察は最初の失踪事件と現在行われている連続殺人事件は別のものとして扱う方針になったらしい。
と、いうより失踪の方は本当に事件性のない「ただの失踪」という扱いなのだろう。
ニュースからはそんな感じを受けた。
滝川さんと話したときを思い出す。私のような素人の思い付きを滝川さんが捜査本部に反映させたなんて言うことはあり得ない。
きっと警察は以前からそうした流れに軌道を修正するつもりだったのだろう。
「それより来週は一華の個展が開かれるじゃない。みんなで行きましょうよ」
「それね。もちろん行くって」
「でも私の作品が一緒に飾られてるんですよね。高値で売れちゃったらどうしよう」
斉藤さんが幸せな妄想を膨らませた。
「それはないから安心していいよ」
下島さんがつっこむ。
三人笑いあった。
私には新しい友人がいる。大事にしないと。
スクールが始まると、まず最初に一華から来週開かれる個展の報告があった。
教室は拍手と喝采に包まれた。
その後で全員にチケットが配られた。
「みなさん。お忙しいとは思いますが、自分の作品が展示されているのを見るということは得難い経験になります。どうか時間を作ってこの機会を今後の創作に活かしてください」
一華の言葉を受けてまた拍手が起こる。
「そうそう。個展の初日には打ち上げがあるから、そっちだけの参加も大丈夫ですからね」
一華の言葉に最後はとても和やかな雰囲気になった。
授業が始まり、課題の作品を作っていると、私たちのグループに浩平がやってきた。
「どうですか皆さん」
下島さんと斉藤さん、それに私に声をかける。
みんなの手を見て浩平はそれぞれアドバイスを送っていた。
「大丈夫、ですか?」
「ええ」
笑顔で返す。浩平のこの言葉は、私が友人を亡くしたことへの言葉だと理解した。
あれから声は一度聞いていたが、こうして顔を見るのは今日がはじめてだ。
私たちが親しくしているのは他の人には内緒なので、ここでは講師と生徒の会話になる。
それが浩平にはちょっと物足りないのは雰囲気でわかっていた。
休憩時間になると浩平からLINEが来た。
「あとで連絡する」という内容に「待ってる」と、返しておいた。
スクールが終わって家に着くころに浩平からLINEの通知が届いた。
「今日は元気そうな顔が見れて安心した」
私がお礼を返すと、今度会いたいのでいつが空いているか尋ねる内容が来た。
私は明日と明後日の日中が空いていると返すと、明日の昼に会いたいと浩平は送ってきた。
なにか相談事があるので、食事しながら話したいらしい。
待ち合わせ場所は表参道駅の改札に決まった。
翌日になり、トマトへの水やりを終えた私は浩平との待ち合わせ場所へ向かった。
私は気楽に話せる方が良いと思って、通り沿いにあるファミレスに行くことを提案した。
浩平は最初、もっと洗練されたお店を提案したが、学生の懐では厳しくなるのは明らかだ。最終的に私が提案したファミレスで決まり、テーブルに着くと「実はお願いがあって」と、浩平から切り出した。
「モデル?私が?」
浩平の相談とは私に絵のモデルを頼みたいというものだった。
「そんな、私なんてダメだよ。無理無理」
笑って断る。
「俺は千尋だいいんだ。千尋の絵を描きたい」
真剣な目をしている。これは困ったな。
それより……私は浩平の服装に着目した。
良い生地を使ったブルーグレーのジャケット。
シャツもパンツも靴も真新しく、高級感がある。
系統も今までとは違い、どことなくシックなものだ。
「趣味変った?」
「えっ」
「服の趣味。なんだかお洒落でいいなって。それに似合ってる」
「そうかな?ありがとう」
照れたように笑いながら視線を落とす浩平。
なるほど。これは誰かに見繕ってもらったものに違いない。
その点をとやかく言うつもりはなかった。
もしもその件について問いただす時が来るなら、それは浩平次第になる。
「それよりモデルの件、なんとかお願いできないかな?」
「だって恥ずかしいよ。それに何時間も同じポーズで動けないんでしょう?」
「一日二時間でいいんだ。休憩ももちろんあるし、ただモデル料とかは払えないけど」
「お金なんて浩平に求めてないよ。でもどういう絵を描くつもりなの?もしかして服を脱いだりする?」
「大丈夫!服を着たままでいいから」
「う~ん……服を着たままか」
結局私は、浩平の熱意に押されてモデルを引き受けた。
私が絵のモデルか。そういうの初めてだな。
翌日も空いていた私は、さっそく浩平のモデルとして彼の家に行くことになった。
服装の指定はないか確認したところ、体の線が出るようなタイトな服装が良いとのことだった。
体の線が出るか……少し考えてタイトなワンピースを着ることにした。
浩平の住んでいるマンションに着くと、思ったよりもこざっぱりとした部屋だった。
玄関を入ったすぐ横にバスルーム。その横にトイレ、向かいに洗濯機。
今後必要になる可能性を考えて間取りを記憶した。
「意外ときれいにしてるのね。男の子の一人暮らしだからもっと散らかっているのかと思ってた」
「急いで掃除したんだよ」
1ldKの部屋には一番奥にベッド。そのすぐ手前にキャンパスが配置されて。キャンパスの前に椅子が置かれていた。
「そこに座ってくれればいいから」
「そこがクローゼット?見ていい?」
「いいけど。どうしたの?」
「ちょっとあなたの趣味が見たくなったの。服をプレゼントするときの参考にもなるでしょう?」
「俺にプレゼントを?」
「ええ」
微笑むと私はクローゼットを開けた。
すぐ目の前に昨日来ていたジャケットが吊るされている。
他にも似た感じのセンスのいいものが前列にあった。
後列には私と美術館に行ったときに見た服とかがある。
おそらくは後列にあるのが浩平の本来の服なのだろう。
前列の服はどれも新しい。真新しい服特有の臭いがした。
「センスいいね。私のセンスが邪魔しなければいいけど」
「そんなこと。千尋が選んでくれたものなら嬉しいよ」
「ありがとう。じゃあ始めようか」
上着を脱ぐと、置かれた椅子に座った。
浩平が側に来てポーズをとらせるために体に触れる。
「あれ?」
体をねじるポーズをとらせる際に、背中に触れた浩平は気がついたようだ。
「下着はつけてないの。この服はタイトだから線が出ると思って」
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