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喪失・一華
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その日から私と由利だけの秘密の交流が始まった。
二人だけの秘密というのもへんにスリルがあって面白い。
秘密の友人である由利を得てから一週間が経ったころだった。
その日、私はバスケ部が休みの千尋と一緒に帰っていた。
「最近の一華は楽しそうだね」
「楽しいっていうか嬉しいの。お母さんがちゃんとしてくれるから。ちゃんと私を見てくれるから」
「そうなんだ。お母さんは一緒にいていいの?今まで一華を男と一緒になって虐待してたんでしょう?いつか一華を裏切るよ。それに一華には私がいるじゃない」
「そうだけど。でもそれは逆らえなかったからだと思ってる。現にお母さんも同じように暴力受けていたし。でも今は違うの。やっぱりあの男がいなくなったから普通に戻ったんだよ。学校では千尋がいてくれる。家ではお母さんがいる。こんな素敵な日常がくるなんて考えてもみなかった。私、言ったんだよ。二人でやり直そうってお母さんに」
その瞬間だった。千尋は私に今まで見せたことのない表情をした。
「そうなんだ。優しいね一華は」
そう言って笑ったときはいつもの千尋だった。
それから数日後だった。お母さんが父親を殺したとネットに書き込みがされたのは。
教えてくれたのは由利だった。
いつものように夕食を作っていると由利から電話が来た。
「た、大変だよ一華!」
「どうしたの由利?」
由利の声からは只事でない切迫したものを感じた。
「一華のお母さんが、一華のお父さんを殺したってネットに書き込まれてる!」
「ええっ……嘘でしょう?」
「本当!名前と住所まで!写真まである!早く警察に届けないと!」
「どうやって!?」
「どうやって…… とにかくサイトを送るから、そこに書かれている被害者だって言えば警察が後は教えてくれると思う」
そう言って電話を切ると、由利はLINEでURLを送ってくれた。
私は目を疑った。父親はたんなる行方不明のはずだ。警察だって疑わなかった。
「なんで?なんでこんなことになっているの!?」
深呼吸しても動揺が消えない。
「どうしよう?どうしよう……?落ち着いて。落ち着いて……これから私は警察に届出を出す」
誰が一体こんなことを?
「家の住所までや写真まであるなんて!お母さんは殺していないのに!」
お母さんは殺そうとした。しかし殺したのは私だ。
私は急いで警察へ行った。
翌日になり私は千尋に事の顛末を話した。
千尋は驚き、そして心配してくれた。
お母さんが帰ってくるまで千尋は私の家にいてくれた。
帰ってきたお母さんは千尋と会うたびにどこか怯えていた。
由利と連絡を取り合うのはいつも千尋が帰った後だった。
由利も私のことを心配してくれた。
私にはこんなに心配してくれる友達が二人もいる。
そのことがこんな状況でも嬉しかったが、お母さんは私のように心配してくれるような友達はいるのだろうか?
日に日に精神的に追い詰められているようなお母さんが心配だった。
お母さんの不安と恐怖は私の中にも入ってきた。
いろんな色がぐちゃぐちゃして混ざり合ったような、黒いタールのような不快で苦痛に満ちていた。
いつの間にかマンションの塀には「人殺し」と、落書きがされ、この辺では見かけたことのない人を何人も見た。
警察は何の根拠もないネットの落書きでお母さんを殺人犯とはしなかった。
警察にとって私たちは誹謗中傷による被害者だった。
そして冬を前にしてお母さんは首を吊って死んだ。
それを見たのは私が学校から帰ってきて玄関を開けたときだった。
千尋が家に遊びに来るといって二人で一緒の帰ってきた日に、私はお母さんのぶら下がった死体を見たのだった。
やっと手に入れたのに……。
お母さんがちゃんと親をやってくれて、友達もできたのに……。
これからなにもかも始まると思っていたのに、死んでしまうなんて。
お母さんが死んでしまうなんて。
その時私はあまりのことに呆然自失となってしまった。
ふらふらとぶら下がっているお母さんの遺体に縋り付こうとした私を止めたのは千尋だった。
千尋は私の名前を呼びながら背中を思い切り叩いた。
我に返った私に、千尋は「絶対に部屋には入っていけない」「警察を呼ぶから自分の側から絶対に離れるな」と、今までにない強い口調で言った。
私は震えながら千尋に抱き着いた。
その後は警察が来ていろいろ聞かれた。
その中でも印象的だったのが、小野寺という刑事だった。
小野寺はお母さんの死が自殺と決まったのにも関わらず、しばらく私に話を聞きに来ていた。
以前の家庭環境のこと、今後の身の振り方など私にことを何かときにかけている風だった。
精神面でのケアも考えて専門の人間にカウセリングを受けてはどうかと勧められた。
千尋にそのことを話すと「それなら私が聞くよ。一華が少しでも楽になるように、前に進めるように私が話し相手になる。だから専門家なんて必要ないよ。ああいう人たちって自分の研究や手柄のために他人の頭をかきまわすんだから」と、言った。
警察にはカウセリングが必要なら自分で探すと言って、警察が進めるカウセリングを断った。
その後、ネットに書き込んだ奴らが逮捕されたと小野寺が報せてくれた。
どいつもこいつもいい大人で、そのくせ働いていないから賠償金も払えないとかいうダニみたいな連中だった。
さらに聞いた話だと、一番最初の書き込みは智花と紅音と茉莉によるものだった。
ただ、個人名や住所は伏せて書いてあったので三人は逮捕されなかった。
書き込みをした理由は、お母さんが智花たちが私をいじめていたことを志望校に報告するといううわさを聞いたからだと言っていた。
小野寺からそのことを聞かされて私は驚いた。
そんなことは、お母さんから聞いたことがないからだ。
そのことを調べたくても私にはもう時間がなかった。
両親がいなくなった以上、もうここに住んでいられない。
施設かお母さんの実家で祖父母と暮らす以外の選択肢はなかった。
二人だけの秘密というのもへんにスリルがあって面白い。
秘密の友人である由利を得てから一週間が経ったころだった。
その日、私はバスケ部が休みの千尋と一緒に帰っていた。
「最近の一華は楽しそうだね」
「楽しいっていうか嬉しいの。お母さんがちゃんとしてくれるから。ちゃんと私を見てくれるから」
「そうなんだ。お母さんは一緒にいていいの?今まで一華を男と一緒になって虐待してたんでしょう?いつか一華を裏切るよ。それに一華には私がいるじゃない」
「そうだけど。でもそれは逆らえなかったからだと思ってる。現にお母さんも同じように暴力受けていたし。でも今は違うの。やっぱりあの男がいなくなったから普通に戻ったんだよ。学校では千尋がいてくれる。家ではお母さんがいる。こんな素敵な日常がくるなんて考えてもみなかった。私、言ったんだよ。二人でやり直そうってお母さんに」
その瞬間だった。千尋は私に今まで見せたことのない表情をした。
「そうなんだ。優しいね一華は」
そう言って笑ったときはいつもの千尋だった。
それから数日後だった。お母さんが父親を殺したとネットに書き込みがされたのは。
教えてくれたのは由利だった。
いつものように夕食を作っていると由利から電話が来た。
「た、大変だよ一華!」
「どうしたの由利?」
由利の声からは只事でない切迫したものを感じた。
「一華のお母さんが、一華のお父さんを殺したってネットに書き込まれてる!」
「ええっ……嘘でしょう?」
「本当!名前と住所まで!写真まである!早く警察に届けないと!」
「どうやって!?」
「どうやって…… とにかくサイトを送るから、そこに書かれている被害者だって言えば警察が後は教えてくれると思う」
そう言って電話を切ると、由利はLINEでURLを送ってくれた。
私は目を疑った。父親はたんなる行方不明のはずだ。警察だって疑わなかった。
「なんで?なんでこんなことになっているの!?」
深呼吸しても動揺が消えない。
「どうしよう?どうしよう……?落ち着いて。落ち着いて……これから私は警察に届出を出す」
誰が一体こんなことを?
「家の住所までや写真まであるなんて!お母さんは殺していないのに!」
お母さんは殺そうとした。しかし殺したのは私だ。
私は急いで警察へ行った。
翌日になり私は千尋に事の顛末を話した。
千尋は驚き、そして心配してくれた。
お母さんが帰ってくるまで千尋は私の家にいてくれた。
帰ってきたお母さんは千尋と会うたびにどこか怯えていた。
由利と連絡を取り合うのはいつも千尋が帰った後だった。
由利も私のことを心配してくれた。
私にはこんなに心配してくれる友達が二人もいる。
そのことがこんな状況でも嬉しかったが、お母さんは私のように心配してくれるような友達はいるのだろうか?
日に日に精神的に追い詰められているようなお母さんが心配だった。
お母さんの不安と恐怖は私の中にも入ってきた。
いろんな色がぐちゃぐちゃして混ざり合ったような、黒いタールのような不快で苦痛に満ちていた。
いつの間にかマンションの塀には「人殺し」と、落書きがされ、この辺では見かけたことのない人を何人も見た。
警察は何の根拠もないネットの落書きでお母さんを殺人犯とはしなかった。
警察にとって私たちは誹謗中傷による被害者だった。
そして冬を前にしてお母さんは首を吊って死んだ。
それを見たのは私が学校から帰ってきて玄関を開けたときだった。
千尋が家に遊びに来るといって二人で一緒の帰ってきた日に、私はお母さんのぶら下がった死体を見たのだった。
やっと手に入れたのに……。
お母さんがちゃんと親をやってくれて、友達もできたのに……。
これからなにもかも始まると思っていたのに、死んでしまうなんて。
お母さんが死んでしまうなんて。
その時私はあまりのことに呆然自失となってしまった。
ふらふらとぶら下がっているお母さんの遺体に縋り付こうとした私を止めたのは千尋だった。
千尋は私の名前を呼びながら背中を思い切り叩いた。
我に返った私に、千尋は「絶対に部屋には入っていけない」「警察を呼ぶから自分の側から絶対に離れるな」と、今までにない強い口調で言った。
私は震えながら千尋に抱き着いた。
その後は警察が来ていろいろ聞かれた。
その中でも印象的だったのが、小野寺という刑事だった。
小野寺はお母さんの死が自殺と決まったのにも関わらず、しばらく私に話を聞きに来ていた。
以前の家庭環境のこと、今後の身の振り方など私にことを何かときにかけている風だった。
精神面でのケアも考えて専門の人間にカウセリングを受けてはどうかと勧められた。
千尋にそのことを話すと「それなら私が聞くよ。一華が少しでも楽になるように、前に進めるように私が話し相手になる。だから専門家なんて必要ないよ。ああいう人たちって自分の研究や手柄のために他人の頭をかきまわすんだから」と、言った。
警察にはカウセリングが必要なら自分で探すと言って、警察が進めるカウセリングを断った。
その後、ネットに書き込んだ奴らが逮捕されたと小野寺が報せてくれた。
どいつもこいつもいい大人で、そのくせ働いていないから賠償金も払えないとかいうダニみたいな連中だった。
さらに聞いた話だと、一番最初の書き込みは智花と紅音と茉莉によるものだった。
ただ、個人名や住所は伏せて書いてあったので三人は逮捕されなかった。
書き込みをした理由は、お母さんが智花たちが私をいじめていたことを志望校に報告するといううわさを聞いたからだと言っていた。
小野寺からそのことを聞かされて私は驚いた。
そんなことは、お母さんから聞いたことがないからだ。
そのことを調べたくても私にはもう時間がなかった。
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