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真実・一華
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私が祖父母の家に引き取られて暮らすことが決まったのは、冬休みが終わって学年最後の学期が始まったころだった。
私はある日の学校帰りに千尋の家に寄っていた。
夕方近くになるころで、庭でトマトに水をやる千尋を見ていた。
「一華。これからどうするか決まったら教えてね」
「うん」
私はまだ千尋に自分の身の処し方を話していなかった。
千尋への別れをいつ言おうか自分の中で踏ん切りがつかなかった。
「お母さんのことは残念だったけど、きっとお母さんは一華との生活に耐えられなかったと思う」
突然千尋が言い出した。
「ど、どういうこと?」
「お母さん、実は私に何回か相談に来ていたの。一華とのことを」
千尋によると、失踪届の件で私から唯一の友達と聞いたお母さんは、千尋に今まで知らなかった私のことを聞いたりしていたらしい。
「私、お母さんから頼まれたんだ。一華のことをよろしくお願いしますって」
初耳だった。お母さんが千尋と会っていたなんて。
「そのとき感じたの。この人は何故か一華を怖がっているって」
「なにか言っていたの?」
「ううん。一華にじゃなくて、自分の犯した罪について怖がっていたんだと思う。今まで一華を虐待していたこと。きっと、一華に償いたくても一緒にいると自分の罪と常に向き合うことになるから怖かったんじゃないかな」
今となっては確かめようがない。
水をやり終わると二人で家の中に入った。
千尋は私に紅茶を出してくれると、自分はトマトの観察ノートをつけ始めた。
「いつもなに書いているの?」
「へへ……記録。前にも言ったじゃない。これが趣味なんだから」
千尋が照れ臭そうに言う。
「見ていい?」
「ダメ!だって人に見せるように書いてないから恥ずかしいんだもん」
千尋は笑いながらノートを閉じると立ち上がった。
「そういえば昨日ケーキ買ってきてたんだ!一華はショートケーキとチョコレートケーキどっち食べたい?」
「じゃあチョコで」
「OK!ついでに紅茶も入れなおしてくるね!」
そう言って半分になったカップを持つと千尋は部屋を出て行った。
部屋の中には私が一人。目の前には千尋の観察ノート。
今迄、このノートがこんな無造作に私の前に置かれることはなかった。
いつも本棚にきちんと片付けられていたのに。
千尋は恥ずかしいと言っていたが、私は好奇心が勝ってしまい、悪いと思いながらもノートを開いてしまった。
事細かに写真と一緒に成長記録が書き込まれている。
でもトマトの横にある人の名前は何だろう?
ページをめくると、ある人物の名前が書いてあった。
高橋智花の名前だ。その横に自己顕示欲と書いてある。
「智花が見下している存在が智花より上だと聞かされたらどうなるか?」と、いう記述のあとに「一華の方が全然可愛い」とあり、これを噂にすると書いてあった。
その下には「いじめはじまる」とあり、「人は他人のことを自殺するまで追い詰められるか?」と書かれていた。
その下に「失敗」「智花は失敗作」と書かれていた。智花の記録はそこで終わっていた。
私は体が固まってしまった。
これはどういうことだろう?以前、由利が言っていた「智花が私をいじめるきっかけになった噂」というのは千尋が流したものだったのか。
しかも最初からこうなることを目的として。
体が震えてきた。なんだこれは?いったい何が書いてあるんだ?トマトの観察記録じゃないのか?
震える指でページをめくると、目に飛び込んできたのは私の名前だった。
「大発見!この子はとても強い共感力がある!」「この子はきっと私のことを理解できる」と、書いてある。
「智花たちから助けて私に依存させる。私が誰にも理解されないでいる一華を育てる」と、育成方針らしきものが書いてあり、その後は私が千尋に話したことがたくさん書かれていた。
家のことも事細かに書いてある。
「一華に必要な栄養→肯定。獲得。理解者。」「一華の育成を阻害する害虫→両親」と、あった。
「自分で害虫を排除させる。成功体験が一華に自信と成長を促す」ともある。
そして父親の失踪を相談した日の日付で「最高傑作か!?」と、記してあった。
ぞっとしたのは、文言はともかく、内容が極めて客観的で感情的なものが微塵も感じられないということだ。
本当に千尋は「観察」した記録をつけているだけなのだ。
体の震えを必死に抑えて耳を澄ます。
物音は聞こえない。ドアの外に気配もない。
次のページをめくるとお母さんの名前が書いてあった。
動悸が早まっていく。
胸が圧迫されるような息苦しさを感じる。
お母さんの名前の横に必要な栄養が書いてあった。
「贖罪と罰」とあり、お母さんが千尋に私のことを話しに来たことが書いてあった。
それから千尋は私の知らないところで。お母さんに私に対する虐待と父親の失踪に対する疑惑を突きつけて何度もなじっていたとある。
お母さんが千尋を見たときに私に見せて怯えはこれが原因だったのか……。
「必ず一華を裏切る」という記述。これはどういうことだろう?千尋が話していてそう感じたということだろうか?
そして智花たちの耳に入るように、お母さんが志望校へいじめを告発するといったうわさも千尋が流したものだと書いてあった。
観察対象は智花とお母さんで、結果的にどうなるかいくつか予想が書かれていて、お母さんが自殺した日に「収穫期・自殺」と、書いてあった。
お母さんを死に追いやったのは、私が憧れて、自分の太陽だと慕う千尋だったのだ。
最後に「一華には私だけ」と、書いてあった。
この恐ろしいノートの中で、この一行だけが千尋の感情を表していた。
千尋は私が千尋以外のものを持つことを許さなかった。
ましてや私を虐げてきた女を私が親として慕うなんて度し難いことだったのだ。
あのときの千尋の表情はこのためだったのだと理解した。
全てを知ってしまった。
どうしよう。震えが止まらない。
自分が混乱しているのがわかった。
そのとき、一階の方から物音がした。階段を上がってくる足音がする。千尋だ。
私は急いでノートを閉じた。
千尋の足音が近付くにつれて、私は震えながら泣き出していた。
「一華!お待たせ!ケーキと紅茶持ってきたよ!」
千尋が満面の笑みでドアを開ける。
「一華……!どうしたの!?」
泣いている私を見て千尋は驚くと、テーブルにケーキと紅茶が乗ったトレイを置いて私の横に来ると肩を抱いた。
「どうしたの!一華!」
千尋はとても優しい声で私に声をかける。
どうしてこんなにも私に優しいの?
「お母さん……お母さん……」
「一華……」
「ごめんなさい千尋。私、今日はちょっと変なんだ……帰るね」
千尋は私を家まで送ると言ったが、私はその申し出を断った。
私は千尋に見送られながら歩いて行った。
千尋は私を独占したがために、お母さんを自殺するように仕向けたのだ。
憎い。私の新しい人生を奪った千尋が憎い。
千尋に対する憎しみは智花たちへのものなど比較にならないものだった。
私の中では千尋に対する憎しみでいっぱいになった。他のものなんて考えられないくらいに。
千尋に対する憎悪が次から次へと湧き出してきて頭蓋骨の中を這いずり回るような感覚。
一晩中気が狂いそうだった。
それでも千尋に対する憧れと執着、愛しさが残っている。
まだ私の中に、憎悪の沼の中心にポツンと蓮の花のように愛しい感情がある。
私は愛しい千尋になろうと決めた。
彼女を理解できるのは私一人だけだ。なら理解して千尋になる。
そしていつか、私が力を持ったときに、私と同じように、千尋の中も私への憎しみだけで満たしてあげる。
あなたが私を独占したいと思ったように、私もあなたを独占する。
そうすれば私とあなたは、お互い以外は世界に存在しない同一の存在になる。
そう決心したころには涙は枯れて、窓からは朝日がさしていた。
私はこの日、生まれ変わった。
「私の心は決して折れない白銀の剣」「私は千尋になる」
私はある日の学校帰りに千尋の家に寄っていた。
夕方近くになるころで、庭でトマトに水をやる千尋を見ていた。
「一華。これからどうするか決まったら教えてね」
「うん」
私はまだ千尋に自分の身の処し方を話していなかった。
千尋への別れをいつ言おうか自分の中で踏ん切りがつかなかった。
「お母さんのことは残念だったけど、きっとお母さんは一華との生活に耐えられなかったと思う」
突然千尋が言い出した。
「ど、どういうこと?」
「お母さん、実は私に何回か相談に来ていたの。一華とのことを」
千尋によると、失踪届の件で私から唯一の友達と聞いたお母さんは、千尋に今まで知らなかった私のことを聞いたりしていたらしい。
「私、お母さんから頼まれたんだ。一華のことをよろしくお願いしますって」
初耳だった。お母さんが千尋と会っていたなんて。
「そのとき感じたの。この人は何故か一華を怖がっているって」
「なにか言っていたの?」
「ううん。一華にじゃなくて、自分の犯した罪について怖がっていたんだと思う。今まで一華を虐待していたこと。きっと、一華に償いたくても一緒にいると自分の罪と常に向き合うことになるから怖かったんじゃないかな」
今となっては確かめようがない。
水をやり終わると二人で家の中に入った。
千尋は私に紅茶を出してくれると、自分はトマトの観察ノートをつけ始めた。
「いつもなに書いているの?」
「へへ……記録。前にも言ったじゃない。これが趣味なんだから」
千尋が照れ臭そうに言う。
「見ていい?」
「ダメ!だって人に見せるように書いてないから恥ずかしいんだもん」
千尋は笑いながらノートを閉じると立ち上がった。
「そういえば昨日ケーキ買ってきてたんだ!一華はショートケーキとチョコレートケーキどっち食べたい?」
「じゃあチョコで」
「OK!ついでに紅茶も入れなおしてくるね!」
そう言って半分になったカップを持つと千尋は部屋を出て行った。
部屋の中には私が一人。目の前には千尋の観察ノート。
今迄、このノートがこんな無造作に私の前に置かれることはなかった。
いつも本棚にきちんと片付けられていたのに。
千尋は恥ずかしいと言っていたが、私は好奇心が勝ってしまい、悪いと思いながらもノートを開いてしまった。
事細かに写真と一緒に成長記録が書き込まれている。
でもトマトの横にある人の名前は何だろう?
ページをめくると、ある人物の名前が書いてあった。
高橋智花の名前だ。その横に自己顕示欲と書いてある。
「智花が見下している存在が智花より上だと聞かされたらどうなるか?」と、いう記述のあとに「一華の方が全然可愛い」とあり、これを噂にすると書いてあった。
その下には「いじめはじまる」とあり、「人は他人のことを自殺するまで追い詰められるか?」と書かれていた。
その下に「失敗」「智花は失敗作」と書かれていた。智花の記録はそこで終わっていた。
私は体が固まってしまった。
これはどういうことだろう?以前、由利が言っていた「智花が私をいじめるきっかけになった噂」というのは千尋が流したものだったのか。
しかも最初からこうなることを目的として。
体が震えてきた。なんだこれは?いったい何が書いてあるんだ?トマトの観察記録じゃないのか?
震える指でページをめくると、目に飛び込んできたのは私の名前だった。
「大発見!この子はとても強い共感力がある!」「この子はきっと私のことを理解できる」と、書いてある。
「智花たちから助けて私に依存させる。私が誰にも理解されないでいる一華を育てる」と、育成方針らしきものが書いてあり、その後は私が千尋に話したことがたくさん書かれていた。
家のことも事細かに書いてある。
「一華に必要な栄養→肯定。獲得。理解者。」「一華の育成を阻害する害虫→両親」と、あった。
「自分で害虫を排除させる。成功体験が一華に自信と成長を促す」ともある。
そして父親の失踪を相談した日の日付で「最高傑作か!?」と、記してあった。
ぞっとしたのは、文言はともかく、内容が極めて客観的で感情的なものが微塵も感じられないということだ。
本当に千尋は「観察」した記録をつけているだけなのだ。
体の震えを必死に抑えて耳を澄ます。
物音は聞こえない。ドアの外に気配もない。
次のページをめくるとお母さんの名前が書いてあった。
動悸が早まっていく。
胸が圧迫されるような息苦しさを感じる。
お母さんの名前の横に必要な栄養が書いてあった。
「贖罪と罰」とあり、お母さんが千尋に私のことを話しに来たことが書いてあった。
それから千尋は私の知らないところで。お母さんに私に対する虐待と父親の失踪に対する疑惑を突きつけて何度もなじっていたとある。
お母さんが千尋を見たときに私に見せて怯えはこれが原因だったのか……。
「必ず一華を裏切る」という記述。これはどういうことだろう?千尋が話していてそう感じたということだろうか?
そして智花たちの耳に入るように、お母さんが志望校へいじめを告発するといったうわさも千尋が流したものだと書いてあった。
観察対象は智花とお母さんで、結果的にどうなるかいくつか予想が書かれていて、お母さんが自殺した日に「収穫期・自殺」と、書いてあった。
お母さんを死に追いやったのは、私が憧れて、自分の太陽だと慕う千尋だったのだ。
最後に「一華には私だけ」と、書いてあった。
この恐ろしいノートの中で、この一行だけが千尋の感情を表していた。
千尋は私が千尋以外のものを持つことを許さなかった。
ましてや私を虐げてきた女を私が親として慕うなんて度し難いことだったのだ。
あのときの千尋の表情はこのためだったのだと理解した。
全てを知ってしまった。
どうしよう。震えが止まらない。
自分が混乱しているのがわかった。
そのとき、一階の方から物音がした。階段を上がってくる足音がする。千尋だ。
私は急いでノートを閉じた。
千尋の足音が近付くにつれて、私は震えながら泣き出していた。
「一華!お待たせ!ケーキと紅茶持ってきたよ!」
千尋が満面の笑みでドアを開ける。
「一華……!どうしたの!?」
泣いている私を見て千尋は驚くと、テーブルにケーキと紅茶が乗ったトレイを置いて私の横に来ると肩を抱いた。
「どうしたの!一華!」
千尋はとても優しい声で私に声をかける。
どうしてこんなにも私に優しいの?
「お母さん……お母さん……」
「一華……」
「ごめんなさい千尋。私、今日はちょっと変なんだ……帰るね」
千尋は私を家まで送ると言ったが、私はその申し出を断った。
私は千尋に見送られながら歩いて行った。
千尋は私を独占したがために、お母さんを自殺するように仕向けたのだ。
憎い。私の新しい人生を奪った千尋が憎い。
千尋に対する憎しみは智花たちへのものなど比較にならないものだった。
私の中では千尋に対する憎しみでいっぱいになった。他のものなんて考えられないくらいに。
千尋に対する憎悪が次から次へと湧き出してきて頭蓋骨の中を這いずり回るような感覚。
一晩中気が狂いそうだった。
それでも千尋に対する憧れと執着、愛しさが残っている。
まだ私の中に、憎悪の沼の中心にポツンと蓮の花のように愛しい感情がある。
私は愛しい千尋になろうと決めた。
彼女を理解できるのは私一人だけだ。なら理解して千尋になる。
そしていつか、私が力を持ったときに、私と同じように、千尋の中も私への憎しみだけで満たしてあげる。
あなたが私を独占したいと思ったように、私もあなたを独占する。
そうすれば私とあなたは、お互い以外は世界に存在しない同一の存在になる。
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