10 / 30
対面
しおりを挟む
対面の場
帝都の中立地帯に指定された、古い貴族の屋敷。
ルシアン公爵からの会談受諾の返信は、驚くほど早かった。
私は今、父(リステン侯爵)と共に、その屋敷の応接室に座っている。
屋敷の周囲は、ルシアン公爵が連れてきた北の兵士たちによって、完璧に封鎖されていた。
父が連れてきた護衛たちも、そのあまりの練度の高さと殺気に、緊張を隠せずにいる。
「……本当に、大丈夫なのだろうな、エリアーナ」
父が、小声で私の耳元に囁く。
「大丈夫です、お父様。彼は、話が通じる相手ですから」
1周目の記憶では、彼はアランの失政のせいで北の領地が疲弊し、その怒りからアランと対立していた。
彼は冷酷だが、合理的だ。 その時、重い扉が開く音がした。
※※※※※※※※※※※※※※※
冷血公爵の入場 入ってきたのは、一人の男。
闇色の黒髪、長身、そして鍛え上げられた体躯。
彼が部屋に入った瞬間、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚に陥った。
彼こそが、北の「冷血公爵」、ルシアン・ヴァレリウス。
1周目、私は彼とまともに話したことはなかった。
彼は常にアランと対立し、社交界でも孤立していたからだ。
ルシアンは、私と父を一瞥(いちべつ)すると、護衛の者を一人だけ残して、大股で歩き、私たちの真正面のソファに深く腰を下ろした。
その金色の瞳が、私を射抜く。
「……リステン侯爵。そして、エリアーナ嬢。本日は、俺のために茶番を演じていただき、感謝する」 声まで凍てつくようだ。
「公爵様、本日はお時間いただき……」
父が挨拶をしようとするのを、ルシアンは手で制した。
※※※※※※※※※※※※※※※
最初の牽制
「時間の無駄だ、侯爵」
ルシアンの視線は、私から外れない。
「俺が話したいのは、あんたじゃない。そこに座っている、皇太子殿下の手を振り払ったという、勇気ある(あるいは愚かな)令嬢だけだ」
父が侮辱に息を呑んだが、私は動じない。
「……公爵様。わたくしが、愚かかどうかは、この後の話でお分かりになるかと」
「ほう。言うな」
ルシアンは、初めて私の目をまともに見た。
「では、聞こう。皇太子殿下の手を振り払ってまで、俺に会いに来た理由は?」
「……」
「アランの差し金か? 俺の情報を探るために、お前という『貢物』が送られてきたのか?」
「違います」 私は即答した。
「では、なんだ。アランに飽きられたか? だから、次の権力者として、俺に乗り換えようと?」
私は、彼の挑発に乗らず、静かに答えた。
「わたくしがここに来た理由は、ただ一つ」
私は、父ではなく、ルシアン公爵だけを真っ直ぐに見つめて言い放った。
「貴方様が、皇太子殿下を憎んでいることを、存じ上げております」
※※※※※※※※※※※※※※※
変化する視線 ルシアンの金色の瞳が、わずかに見開かれた。
彼の後ろに控えていた側近が、剣の柄に手をかける気配がした。
不敬、ということなのだろう。
父が「エリアーナ!」と私の名を呼ぶ。
だが、ルシアンは再び手を挙げて、二人を制した。
彼は、初めて私を「値踏み」する視線から、「興味」の対象として見始めた。
「……続けろ」
「わたくしの目的は、アラン殿下への復讐です」
私は、はっきりとそう告げた。
応接室の空気が、完全に凍りついた。
ルシアンは、驚きを通り越し、ふ、と鼻で笑った。
「復讐、か。侯爵令嬢の、おままごとにしては、随分と物騒だな」
しかし、その金色の瞳は、もう私から逸らされていなかった。
帝都の中立地帯に指定された、古い貴族の屋敷。
ルシアン公爵からの会談受諾の返信は、驚くほど早かった。
私は今、父(リステン侯爵)と共に、その屋敷の応接室に座っている。
屋敷の周囲は、ルシアン公爵が連れてきた北の兵士たちによって、完璧に封鎖されていた。
父が連れてきた護衛たちも、そのあまりの練度の高さと殺気に、緊張を隠せずにいる。
「……本当に、大丈夫なのだろうな、エリアーナ」
父が、小声で私の耳元に囁く。
「大丈夫です、お父様。彼は、話が通じる相手ですから」
1周目の記憶では、彼はアランの失政のせいで北の領地が疲弊し、その怒りからアランと対立していた。
彼は冷酷だが、合理的だ。 その時、重い扉が開く音がした。
※※※※※※※※※※※※※※※
冷血公爵の入場 入ってきたのは、一人の男。
闇色の黒髪、長身、そして鍛え上げられた体躯。
彼が部屋に入った瞬間、部屋の温度が数度下がったかのような錯覚に陥った。
彼こそが、北の「冷血公爵」、ルシアン・ヴァレリウス。
1周目、私は彼とまともに話したことはなかった。
彼は常にアランと対立し、社交界でも孤立していたからだ。
ルシアンは、私と父を一瞥(いちべつ)すると、護衛の者を一人だけ残して、大股で歩き、私たちの真正面のソファに深く腰を下ろした。
その金色の瞳が、私を射抜く。
「……リステン侯爵。そして、エリアーナ嬢。本日は、俺のために茶番を演じていただき、感謝する」 声まで凍てつくようだ。
「公爵様、本日はお時間いただき……」
父が挨拶をしようとするのを、ルシアンは手で制した。
※※※※※※※※※※※※※※※
最初の牽制
「時間の無駄だ、侯爵」
ルシアンの視線は、私から外れない。
「俺が話したいのは、あんたじゃない。そこに座っている、皇太子殿下の手を振り払ったという、勇気ある(あるいは愚かな)令嬢だけだ」
父が侮辱に息を呑んだが、私は動じない。
「……公爵様。わたくしが、愚かかどうかは、この後の話でお分かりになるかと」
「ほう。言うな」
ルシアンは、初めて私の目をまともに見た。
「では、聞こう。皇太子殿下の手を振り払ってまで、俺に会いに来た理由は?」
「……」
「アランの差し金か? 俺の情報を探るために、お前という『貢物』が送られてきたのか?」
「違います」 私は即答した。
「では、なんだ。アランに飽きられたか? だから、次の権力者として、俺に乗り換えようと?」
私は、彼の挑発に乗らず、静かに答えた。
「わたくしがここに来た理由は、ただ一つ」
私は、父ではなく、ルシアン公爵だけを真っ直ぐに見つめて言い放った。
「貴方様が、皇太子殿下を憎んでいることを、存じ上げております」
※※※※※※※※※※※※※※※
変化する視線 ルシアンの金色の瞳が、わずかに見開かれた。
彼の後ろに控えていた側近が、剣の柄に手をかける気配がした。
不敬、ということなのだろう。
父が「エリアーナ!」と私の名を呼ぶ。
だが、ルシアンは再び手を挙げて、二人を制した。
彼は、初めて私を「値踏み」する視線から、「興味」の対象として見始めた。
「……続けろ」
「わたくしの目的は、アラン殿下への復讐です」
私は、はっきりとそう告げた。
応接室の空気が、完全に凍りついた。
ルシアンは、驚きを通り越し、ふ、と鼻で笑った。
「復讐、か。侯爵令嬢の、おままごとにしては、随分と物騒だな」
しかし、その金色の瞳は、もう私から逸らされていなかった。
0
あなたにおすすめの小説
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ
神々廻
恋愛
「天使様...?」
初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった
「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」
そうですか、なら婚約破棄しましょう。
私を婚約破棄した国王が処刑されたら、新しい国王の妃になれですって? 喜んで…と言うとでも?
あんど もあ
ファンタジー
幼い頃から王子の婚約者だったアイリスは、他の女性を好きになった王子によって冤罪をかけられて、田舎で平民として生きる事に。
面倒な貴族社会から解放されて、田舎暮らしを満喫しているアイリス。
一方、貴族たちの信頼を失った王子は、国王に即位すると隣国に戦争を仕掛けて敗北。処刑される。
隣国は、アイリスを新しい国王の妃にと言い出すが、それには思惑があって…。
婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!
みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。
幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、
いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。
そして――年末の舞踏会の夜。
「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」
エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、
王国の均衡は揺らぎ始める。
誇りを捨てず、誠実を貫く娘。
政の闇に挑む父。
陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。
そして――再び立ち上がる若き王女。
――沈黙は逃げではなく、力の証。
公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。
――荘厳で静謐な政略ロマンス。
(本作品は小説家になろうにも掲載中です)
壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~
志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。
政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。
社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。
ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。
ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。
一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。
リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。
ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。
そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。
王家までも巻き込んだその作戦とは……。
他サイトでも掲載中です。
コメントありがとうございます。
タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。
必ず完結させますので、よろしくお願いします。
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる