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侍女の救出
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エリアーナの違和感
北のルシアン公爵の居城に、仮の住まいを移して数日。
私は、帝都のリステン家に残してきた父や、侍女のアンナと、秘密のルートで毎日連絡を取り合っていた。
塩の流通は、今のところ順調だ。アランは、私たちの流通ルートを特定できず、焦っていることだろう。
だが、ここ数日、私には奇妙な「違和感」があった。
(……胸騒ぎがする)
1周目の処刑台の記憶が、私に警告している。
(イザベラが、皇宮で大人しくしているはずがない)
アランの寵愛を受け、夜会で私を「悪女」に仕立て上げた彼女が、塩の一件で黙っているはずがない。
1周目、彼女は私を陥れるために、何をしていた?
(……そうだ。彼女は、私の周りから、信頼できる人を奪っていった)
(真っ先に狙われたのが、アンナだった)
私は、アンナがイザベラに「横領」の濡れ衣を着せられ、リステン家を追い出された日のことを、鮮明に思い出した。
(あの時も、今と同じ……私が大きな成功を収めた(皇妃に内定した)直後だった)
私は、すぐさまルシアンの元へ向かった。
「ルシアン。帝都にいるあなたの密偵に、至急、リステン家の屋敷の様子を探らせて」
「……どうした。何かあったか」
玉座で執務をしていたルシアンが、怪訝な顔で私を見る。
「イザベラが、動く気がする。狙いは、私の侍女、アンナよ」
※※※※※※※※※※※※※※※
アンナへの罠
ルシアンの密偵(影)は、優秀だった。
半日後、私は帝都からの緊急報告を受け、血の気が引いた。
「……やはり」
報告書には、信じがたい、しかし予想通りの内容が記されていた。
「本日、バートン伯爵が皇太子の近衛兵を引き連れ、リステン侯爵邸を訪問」
「名目は『リステン家内部のスパイ容疑の捜査』」
「捜査は、エリアーナ様の元侍女、アンナの部屋に集中」
「アンナの部屋から、ヴァレリウス公爵家の金貨(偽造)と、リステン家の機密書類(偽造)が『発見』される」
「アンナは、現在、屋敷の一室に軟禁状態。リステン侯爵は、皇太子(アラン)側近の強引な捜査に激怒するも、動かぬ『証拠』を前に、対応に苦慮している」
(……間に合わなかった)
1周目と、まったく同じ。いや、1周目よりも手が込んでいる。
今回は、私とルシアンの関係を裂くため、「ヴァレリウス公爵のスパイ」として仕立て上げたのだ。
「ルシアン!」
私は報告書を握りしめ、再びルシアンの元へ走った。
「報告は聞いた。どうする」
ルシアンは、すでに事態を把握していた。
「アンナを助け出すわ。今すぐに」
※※※※※※※※※※※※※※※
ルシアンの「一手」
「無茶だ」
ルシアンが、私の計画を即座に否定する。
「帝都はアランの庭だ。今、リステン家の屋敷にヴァレリウスの兵を送れば、それこそ『リステン家が北と通じていた』という、アランの筋書き通りの証拠を与えることになる」
「では、アンナを見殺しに?」
「……」
ルシアンは、黙って地図を広げた。
「アンナは、まだ『容疑者』だ。バートン伯爵も、リステン侯爵の手前、すぐにアンナを皇宮に連行することはできん。屋敷で軟禁したまま、侯爵に『娘と縁を切れ』と圧力をかける材料に使うだろう」
「……つまり、アンナはまだ屋敷にいる」
「ああ。だが、明日にはどうなるか分からん」
ルシアンは、帝都の地図の一点を指差した。
「リステン家の屋敷は、ここだ。皇宮からは遠い。だが、バートン伯爵の屋敷とは目と鼻の先だ」
「……」
「今夜、リステン家の屋敷を、バートン伯爵の『私兵』が襲うとしたら、どうだ?」
「え……?」
「表向きは『盗賊』だ。盗賊が屋敷に押し入り、混乱の中で『スパイ容疑者』のアンナが殺害される。……アランやイザベラなら、やりかねん手だ」
私は、ルシアンの言葉の真意を測りかねた。
「だが」
ルシアンは、冷たい笑みを浮かべた。
「その『盗賊』を、我がヴァレリウスの『影』が捕らえ、リステン侯爵に突き出したら?」
「……!」
「リステン侯爵は、アンナを殺そうとした『盗賊』が、バートン伯爵の手の者であることを知る。そして、アンナの『無実』を確信するだろう」
ルシアンの策は、イザベラとバートンの罠を、逆手に取るものだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
公爵邸への引き抜き
ルシアンの計画は、完璧に実行された。
その夜、リステン家の屋敷を「盗賊」が襲撃した。
しかし、屋敷に侵入する前に、待ち構えていたルシアンの「影」たちによって、全員無力化された。
捕らえられた「盗賊」は、バートン伯爵の私兵であり、彼らの懐には「アンナの殺害」と「バートン伯爵からの報酬」を示す証文が入っていた(もちろん、ルシアンが用意させた偽物だが、本物以上に本物らしかった)。
リステン侯爵は、娘の婚約者が送った「影」に屋敷を救われ、同時に、皇太子の側近が侍女を殺そうとした事実を突きつけられた。
父は、激怒した。
翌日、父は皇宮に対し、「屋敷が盗賊に襲われた。スパイ容疑者の侍女も恐怖で錯乱している。これ以上の捜査は、リステン家への侮辱とみなす」と、強硬に抗議した。
バートン伯爵は、自らの私兵が捕らえられたことで、何も言い返せなかった。
そして、その日のうちに。
アンナは、父の「護衛」という名目で、帝都を脱出し、北の黒鷲城へと送られてきた。
「エリアーナ様……!」
私を見て泣き崩れるアンナを、私は強く抱きしめた。
「よく、戻ってきてくれたわ、アンナ!無事で良かった!」
私は、1周目で失った、最も信頼できる侍女を、今度こそ守り抜いたのだ。
(イザベラ。あなたの負けよ。あなたは、わたくしから、もう誰も奪えない!)
北のルシアン公爵の居城に、仮の住まいを移して数日。
私は、帝都のリステン家に残してきた父や、侍女のアンナと、秘密のルートで毎日連絡を取り合っていた。
塩の流通は、今のところ順調だ。アランは、私たちの流通ルートを特定できず、焦っていることだろう。
だが、ここ数日、私には奇妙な「違和感」があった。
(……胸騒ぎがする)
1周目の処刑台の記憶が、私に警告している。
(イザベラが、皇宮で大人しくしているはずがない)
アランの寵愛を受け、夜会で私を「悪女」に仕立て上げた彼女が、塩の一件で黙っているはずがない。
1周目、彼女は私を陥れるために、何をしていた?
(……そうだ。彼女は、私の周りから、信頼できる人を奪っていった)
(真っ先に狙われたのが、アンナだった)
私は、アンナがイザベラに「横領」の濡れ衣を着せられ、リステン家を追い出された日のことを、鮮明に思い出した。
(あの時も、今と同じ……私が大きな成功を収めた(皇妃に内定した)直後だった)
私は、すぐさまルシアンの元へ向かった。
「ルシアン。帝都にいるあなたの密偵に、至急、リステン家の屋敷の様子を探らせて」
「……どうした。何かあったか」
玉座で執務をしていたルシアンが、怪訝な顔で私を見る。
「イザベラが、動く気がする。狙いは、私の侍女、アンナよ」
※※※※※※※※※※※※※※※
アンナへの罠
ルシアンの密偵(影)は、優秀だった。
半日後、私は帝都からの緊急報告を受け、血の気が引いた。
「……やはり」
報告書には、信じがたい、しかし予想通りの内容が記されていた。
「本日、バートン伯爵が皇太子の近衛兵を引き連れ、リステン侯爵邸を訪問」
「名目は『リステン家内部のスパイ容疑の捜査』」
「捜査は、エリアーナ様の元侍女、アンナの部屋に集中」
「アンナの部屋から、ヴァレリウス公爵家の金貨(偽造)と、リステン家の機密書類(偽造)が『発見』される」
「アンナは、現在、屋敷の一室に軟禁状態。リステン侯爵は、皇太子(アラン)側近の強引な捜査に激怒するも、動かぬ『証拠』を前に、対応に苦慮している」
(……間に合わなかった)
1周目と、まったく同じ。いや、1周目よりも手が込んでいる。
今回は、私とルシアンの関係を裂くため、「ヴァレリウス公爵のスパイ」として仕立て上げたのだ。
「ルシアン!」
私は報告書を握りしめ、再びルシアンの元へ走った。
「報告は聞いた。どうする」
ルシアンは、すでに事態を把握していた。
「アンナを助け出すわ。今すぐに」
※※※※※※※※※※※※※※※
ルシアンの「一手」
「無茶だ」
ルシアンが、私の計画を即座に否定する。
「帝都はアランの庭だ。今、リステン家の屋敷にヴァレリウスの兵を送れば、それこそ『リステン家が北と通じていた』という、アランの筋書き通りの証拠を与えることになる」
「では、アンナを見殺しに?」
「……」
ルシアンは、黙って地図を広げた。
「アンナは、まだ『容疑者』だ。バートン伯爵も、リステン侯爵の手前、すぐにアンナを皇宮に連行することはできん。屋敷で軟禁したまま、侯爵に『娘と縁を切れ』と圧力をかける材料に使うだろう」
「……つまり、アンナはまだ屋敷にいる」
「ああ。だが、明日にはどうなるか分からん」
ルシアンは、帝都の地図の一点を指差した。
「リステン家の屋敷は、ここだ。皇宮からは遠い。だが、バートン伯爵の屋敷とは目と鼻の先だ」
「……」
「今夜、リステン家の屋敷を、バートン伯爵の『私兵』が襲うとしたら、どうだ?」
「え……?」
「表向きは『盗賊』だ。盗賊が屋敷に押し入り、混乱の中で『スパイ容疑者』のアンナが殺害される。……アランやイザベラなら、やりかねん手だ」
私は、ルシアンの言葉の真意を測りかねた。
「だが」
ルシアンは、冷たい笑みを浮かべた。
「その『盗賊』を、我がヴァレリウスの『影』が捕らえ、リステン侯爵に突き出したら?」
「……!」
「リステン侯爵は、アンナを殺そうとした『盗賊』が、バートン伯爵の手の者であることを知る。そして、アンナの『無実』を確信するだろう」
ルシアンの策は、イザベラとバートンの罠を、逆手に取るものだった。
※※※※※※※※※※※※※※※
公爵邸への引き抜き
ルシアンの計画は、完璧に実行された。
その夜、リステン家の屋敷を「盗賊」が襲撃した。
しかし、屋敷に侵入する前に、待ち構えていたルシアンの「影」たちによって、全員無力化された。
捕らえられた「盗賊」は、バートン伯爵の私兵であり、彼らの懐には「アンナの殺害」と「バートン伯爵からの報酬」を示す証文が入っていた(もちろん、ルシアンが用意させた偽物だが、本物以上に本物らしかった)。
リステン侯爵は、娘の婚約者が送った「影」に屋敷を救われ、同時に、皇太子の側近が侍女を殺そうとした事実を突きつけられた。
父は、激怒した。
翌日、父は皇宮に対し、「屋敷が盗賊に襲われた。スパイ容疑者の侍女も恐怖で錯乱している。これ以上の捜査は、リステン家への侮辱とみなす」と、強硬に抗議した。
バートン伯爵は、自らの私兵が捕らえられたことで、何も言い返せなかった。
そして、その日のうちに。
アンナは、父の「護衛」という名目で、帝都を脱出し、北の黒鷲城へと送られてきた。
「エリアーナ様……!」
私を見て泣き崩れるアンナを、私は強く抱きしめた。
「よく、戻ってきてくれたわ、アンナ!無事で良かった!」
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