処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖

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北への旅立ち

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二つの「出立」


アランの「国賊討伐」の勅命が北の黒鷲城に届く、まさに前日。

城は静かな、しかし異様な熱気に包まれていた。

「……エリアーナ様。本当によろしいのですか」

アンナが、心配そうに私の旅支度を手伝ってくれている。

「ええ。大丈夫よ、アンナ」

私は、帝都の華やかなドレスを全て脱ぎ捨て、北の民が着るような質素だが動きやすい乗馬服に着替えていた。

「あなたは、お父様と共に南の中立派の元へ、安全に行ってちょうだい」

「しかしエリアーナ様こそ……!」

「わたくしにはルシアンがいます」

私は、アンナの手を握った。

「あなたは、わたくしの『目』であり『耳』よ。南からアランの動向を探り、わたくしたちに情報を送って。……それが一番重要な任務よ」

「……はい。……必ずや!」

アンナは涙をこらえ、力強く頷いた。

帝都にいるお父様も、今頃は南へ向かって脱出しているはず。



※※※※※※※※※※※


北の「陽動」


夜。黒鷲城の城門。

ルシアンは北の全軍の指揮官たちを集め、最後の指示を出していた。

「……いいか。俺とエリアーナは、これより『帝都』へ向かう」

「……!」

指揮官たちが、息を呑む。

「だが俺たちの『本隊』は、ここ(北)を動かん」

「……公爵様。それはどういう……」

「アランは、俺たちが『北』で籠城するか、あるいは『帝都』に攻め込むか、それしか考えていない」

ルシアンは、地図を叩いた。

「アランは必ず帝国の正規軍を、ここ(北)との国境線に集結させる。……それが奴の狙いだ」

「……」

「だから貴様らは、その『正規軍』を、この国境線に釘付けにしろ」

「……はっ!」

「戦闘にはなるな。だが、いつでも攻め込めるぞ、という『脅し』を最大限にかけ続けろ。……アランの目を北に集中させ続けろ」

「……承知!」

指揮官たちが一斉に敬礼する。

ルシアンは彼らに北の守りを任せると、私の方へ向き直った。

「……準備はいいか。エリアーナ」

「ええ。いつでも」

私たちは公爵家の紋章を捨て、顔をフードで深く隠した。

ルシアンと私。そして彼が選んだ十数名の「影」と呼ばれる少数精鋭の部下たち。

これが、アランの目を盗んで帝都の「南門」を目指す、私たちの全戦力だった。


※※※※※※※※※※※※※※※※


アランの「勝利」宣言(帝都)


エリアーナたちが北の城を密かに出立した、まさにその日。

帝都の皇宮では、アランが高らかに「勝利」を宣言していた。

「……リステン侯爵、逃亡! 屋敷は全焼!」

「……ヴァレリウス公爵、北の城に籠城を開始!」

アランの元には、続々と「吉報」が届いていた。

(……フン。愚かな奴らめ)

アランは、玉座で、満足そうに笑っていた。

「リステン侯爵は、全てを捨てて逃げ出した。……事実上、余の勝利だ」

「ルシアンめ。城に閉じこもったか。……北の民と共に、飢え死にするがいい」

アランは、イザベラの手を握った。

「イザベラ。見ていろ。俺は帝国正規軍の全てを、北の国境線に送る」

「……アラン様」

「ルシアンが二度と帝都に逆らえないよう、あの城ごと、包囲してやる」

アランは、ルシアンとエリアーナが、すでに城を「脱出」していることなど夢にも思っていなかった。

彼の目は、完全に「北」に釘付けにされていた。

イザベラだけが、隣でなぜか胸騒ぎを覚えていた。

(……エリアーナ様が、あんな簡単に籠城を選ぶ?)

(……いいえ。あの女は、もっと狡猾なはず)

だが、悪魔王の力に精神を蝕まれ始めた彼女は、その「違和感」をアランに上手く伝えることができなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※


帝都への道


おそらくアランは舞い込んでくる吉報を聞いて、今頃は勝利宣言をしているだろう。

そんな頃、私とルシアン、そして「影」たちは、アランの軍が駐留する「北」とは真逆の、帝国の「東部」の山岳地帯を馬で疾走していた。

「……ルシアン。アランの軍は、北の国境線に、集結を始めたようね」

ルシアンが、斥候(せっこう)の「影」からの報告を私に伝える。

「……ああ。お前の、筋書き通りだ」

「……」

私たちは、北から東へ大きく迂回し、アランの軍が完全にいなくなった帝国の「南部」から、帝都を突く計画だった。

「……疲れたか?」

ルシアンが、馬を並走させながら私に尋ねた。

「いいえ。……大丈夫」

「……嘘をつけ。顔に泥がついてるぞ」

彼が私の頬の泥を無造作に指で拭う。

「……!」

「……アランの勅命は、もう帝都を出た。……俺たちは急がねばならん」

「ええ」

「だがエリアーナ。……決して無茶はするな」

「……あなたこそ」

私たちは互いの顔を見合わせ、小さく笑った。

1周目、私が処刑された、あの「帝都」へ。

私は今、私の意志で、私の最強の「共犯者」と共に、帰るのだ。




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