処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖

文字の大きさ
68 / 72

魂を賭した決断

しおりを挟む
最後の希望と儀式の手順

大神官は瓦礫に体を預け、意識を保つのがやっとの状態だった。

私は彼の傍に膝をついた。


「大神官様。儀式の手順を、今一度」 

「聖石は失われたが、この聖堂の聖印と、私の生命力を使えば、貴方たちの意識を、奴の結界の深層まで送り込める」 

大神官は、苦しい息の下で儀式の手順を私に伝えた。
 
「だが、エリアーナ嬢。ルシアン公爵。忠告する。奴の結界の深層は、貴女の最も強い憎悪と、貴方の最も深い絶望を具現化した世界だ」 

「わかっているわ。憎悪に満ちた私の記憶こそが、彼の力の源泉」 

ルシアンは私の手を強く握った。

幻影の中で私たちを罵る民衆の声が聞こえる。

「もし、そこで貴女の憎悪が勝り、愛が敗れた場合。貴方たちの魂は結界に囚われ、悪魔王の永遠の糧となる」

大神官が警告した。

ルシアンは 剣を地面に突き立てた。

「俺は 帝国の王座など望まない。望むのはお前だ。お前がいない世界なら、魂などくれてやる」


*************


ルシアンとの別れ

 「ルシアン。待って」

私は彼の冷たい手に、自分の手を重ねた。

「ルシアンの役目は、私の『盾』ではないわ。悪魔王の領域に入るのは私一人で十分」 

「馬鹿を言うな」

ルシアンは鋭く私を制止した。

「俺は、お前の共犯者だ。最後まで共に戦う。憎悪の領域で、お前を支える盾が必要だろう」 「でも……」 

「もし、俺がそちらに引きずり込まれたら、お前が俺を斬れ。その剣はお前の憎悪を断つ武器になる」 

彼の真剣な目に、私は反論できなかった。

彼の存在こそが、私が憎悪に飲み込まれない唯一の希望だったからだ。

私は最後に、瓦礫の影に隠れているアンナと父の姿を探した。

「アンナ、お父様。 私たちの体が意識を失っている間、ここを守って」

「エリアーナ様……私たちは信じています」

アンナは涙を流しながら、強く頷いた。


*************


儀式の開始
 
大神官は、崩れ落ちた祭壇のわずかに残った聖石に、私たちの手を置かせた。
 
「さあ、始めよう。貴方たちの魂を分かち合うのだ」

 大神官が詠唱を始めると、聖石から穏やかな光が溢れ出し、帝都を覆う黒い瘴気と対立した 。

光と闇がぶつかり合う中、私とルシアンの体の感覚が薄れていった。
 
「エリアーナ」

ルシアンが私の名を呼んだ。

その声が遠い。
 
「俺は、お前を信じる。お前の中の愛を信じる」 

「私もよ。ルシアン。あなたの愛こそが、私を救う最後の武器だわ」


 光が強まる。

意識が深淵へと引きずり込まれる。

 ルシアンの温もりだけが、私を現実世界に留める最後の砦だった。


*************


魂の領域へ

意識が肉体から離脱した。

私は、まるで水の底に沈むように暗闇を漂った。

ルシアンの手に引かれ、二つの意識は一つに繋がっている。


目の前の闇が、晴れていく。

最初に感じたのは、肌を刺すような冷たさ。

鼻をつく血の匂い。

そして遠くから聞こえる狂気的な歓声。


そこは、憎悪の世界。

雪が降りしきる広場だった。

目の前には黒くそびえ立つ断頭台。

そして、観衆に囲まれた処刑台。

幻影の世界で再現された私の「始まりの景色」だった。

「ルシアン、見て。 あれが……」 


私が言葉を発するよりも早、 処刑台に横たわるのは 縄に縛られた「私」の姿だった。

そして、その横には憎悪と嘲笑に歪んだ顔をした、イザベラとアランが 立っていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

《完結》初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中ーー完結!!】 私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 二十年の裏切りの果て、その事実だけを抱え、離縁状を置いて家を出た。 そこで待っていたのは、凍てつく絶望――。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と縋られても、 死の淵を彷徨った私には、裏切ったあなたを許す力など残っていない。 「でも、子供たちの心だけは、 必ず取り戻す」 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔い、歪な愛でもいいと手を伸ばした彼女が辿り着いた先。 それは、「歪で、完全な幸福」か、それとも――。 これは、"石"に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

婚約破棄された公爵令嬢は冤罪で地下牢へ、前世の記憶を思い出したので、スキル引きこもりを使って王子たちに復讐します!

山田 バルス
ファンタジー
王宮大広間は春の祝宴で黄金色に輝き、各地の貴族たちの笑い声と音楽で満ちていた。しかしその中心で、空気を切り裂くように響いたのは、第1王子アルベルトの声だった。 「ローゼ・フォン・エルンスト! おまえとの婚約は、今日をもって破棄する!」 周囲の視線が一斉にローゼに注がれ、彼女は凍りついた。「……は?」唇からもれる言葉は震え、理解できないまま広間のざわめきが広がっていく。幼い頃から王子の隣で育ち、未来の王妃として教育を受けてきたローゼ――その誇り高き公爵令嬢が、今まさに公開の場で突き放されたのだ。 アルベルトは勝ち誇る笑みを浮かべ、隣に立つ淡いピンク髪の少女ミーアを差し置き、「おれはこの天使を選ぶ」と宣言した。ミーアは目を潤ませ、か細い声で応じる。取り巻きの貴族たちも次々にローゼの罪を指摘し、アーサーやマッスルといった証人が証言を加えることで、非難の声は広間を震わせた。 ローゼは必死に抗う。「わたしは何もしていない……」だが、王子の視線と群衆の圧力の前に言葉は届かない。アルベルトは公然と彼女を罪人扱いし、地下牢への収監を命じる。近衛兵に両腕を拘束され、引きずられるローゼ。広間には王子を讃える喝采と、哀れむ視線だけが残った。 その孤立無援の絶望の中で、ローゼの胸にかすかな光がともる。それは前世の記憶――ブラック企業で心身をすり減らし、引きこもりとなった過去の記憶だった。地下牢という絶望的な空間が、彼女の心に小さな希望を芽生えさせる。 そして――スキル《引きこもり》が発動する兆しを見せた。絶望の牢獄は、ローゼにとって新たな力を得る場となる。《マイルーム》が呼び出され、誰にも侵入されない自分だけの聖域が生まれる。泣き崩れる心に、未来への決意が灯る。ここから、ローゼの再起と逆転の物語が始まるのだった。

奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます

タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。 領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。 奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

『婚約破棄されたので王太子女となります。殿下より上位です』

鷹 綾
恋愛
「君は王太子妃に相応しくない」 その一言で、私は婚約を破棄されました。 理由は“真実の愛”。選ばれたのは、可憐な令嬢。 ……ええ、どうぞご自由に。 私は泣きません。縋りません。 なぜなら——王家は、私を手放せないから。 婚約は解消。 けれど家格、支持、実務能力、そして民の信頼。 失ったのは殿下の隣の席だけ。 代わりに私は、王太子女として王政補佐の任を命じられます。 最初は誰もが疑いました。 若い、女だ、感情的だ、と。 ならば証明しましょう。 怒らず、怯えず、排除せず。 反対も忠誠も受け止めながら、国を揺らさずに保つことを。 派手な革命は起こしません。 大逆転も叫びません。 ただ、静かに積み上げます。 そして気づけば—— “殿下の元婚約者”ではなく、 “揺れない王”と呼ばれるようになるのです。 これは、婚約破棄から始まる静かな逆転譚。 王冠の重みを受け入れた一人の女性が、 国を、そして自分の立場を塗り替えていく物語です。

処理中です...