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映画後、カフェにて
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「ねぇ、聞いてる?」
「──えっ?」
そう言われて、ぼうっとしていた意識が覚醒する。
目の前に座っている女性──、会社の同僚でもある陽奈の顔を見ながら、雪乃は適当に答えた。
「聞いている、聞いてる」
「本当に~~っ?」
訝しげな顔で、アイスティーを飲み始めた陽奈を眺めながらつくづく思う。
(なんで、私この子と一緒に出掛けてるんだろう)
明るい、もはやオレンジ色に近い茶髪を両サイドに分けた、パーマがかったふわふわのツインテールと、バサバサと長いまつ毛に少し濃いめのメイク。爪もおしゃれなデザインに塗られていて、服は胸元が大きく開いており、タイトなスカートもかなり短めだ。いわゆるギャルっぽい陽奈に比べ、雪乃はただほどいただけの肩まで伸びた黒髪に、シンプルなシャツと細身のズボンを履いているだけの、いたって地味な格好である。
(………どう見ても、一見合わなそうなんだけどなぁ)
そんなことを思いながら、雪乃は陽奈と出会ったときのことを思い返していた。
◇◆◇◉◇◆◇
幼い頃からシングルマザーの家庭で育った雪乃の家はあまり裕福と言えるものではなく、雪乃は高校卒業とともにすぐに働き出した。
幸い、就職にも力を入れている高校だったため、高卒でも割と大きな企業に入ることができ、これで少しは母を楽にさせてあげられると思ったのも束の間、雪乃は約三年でこの会社を辞めてしまった。
ただ三年というのは我ながらよく持った方だと思う。
社員の人数が多ければ多いほど、いろんな人間がいる訳で。何故か雪乃は気づかないうちに一部の人間に目をつけられてしまい、過酷な仕事を押し付けられたり、書類を通してもらえなかったり、数え始めればキリがないのだが、中でも体調を崩した際に、何故か医務室ではなく倉庫で休めと言われ、そのまま放置されたのは辛かった。自力で起き上がることもできないし、意識が飛びそうな中、たまたま気づいてくれた親切な人がいてなんとか助かったものの、さすがに命の危険を感じ始めたので、思い切って辞めることを決意したのだ。
次は絶対に人数の少ない会社にしようと思い、中途で入社した今の会社で雪乃は陽奈と出会った。
アットホームな雰囲気の会社らしく、陽奈の見た目は少し派手だったが会社の人は容認しているようだった。陽奈は短大卒業後、新入社員としてこの会社に入社して約一年というところで、雪乃とは同い年だった。また、同じ事務職なので、一年先輩の陽奈に仕事を教えてもらうことが多く、自然と会話が増えていった。
ただ元々雪乃は人と積極的に話すようなタイプではないため、仕事以外では必要最低限話すこともなかったのだが、会社での仕事にも慣れてきて、昼休みに趣味である読書を楽しんでいると、不意に声をかけられた。
「ねぇ、それ何読んでるの?」
前の会社と違って、今の会社には食堂のような場所はないため、各自のデスクで昼食をとるのが主なのだが、陽奈とはデスクが隣同士だったため、自然と雪乃が読書をしていることに気づいたようだった。
「……えっと、ミステリー小説、みたいな」
(みたいなってなんだ、みたいなって!)
急に声を掛けられたことに驚き、思わず曖昧な返事をしてしまったことに自分自身でツッコんでしまう。
「へぇーっ! なんてタイトル? それ面白いの!?」
「えっ……、ぁ」
その勢いに押されて、上手く言葉が出てこなかったため、なんとかブックカバーを外して表紙を見せた。
「こ、こんなやつ……」
「へぇーっ! 知らないけど面白そう!」
「……興味あるなら、読み終わったあと貸してもいいけど……」
「本当っ! 嬉しい!! ありがとうっ!」
そう言って喜ぶ、陽奈の笑顔が眩しくて。
気が付けば、普段なら絶対しないであろう本の貸し借りが始まった。
陽奈は見た目に反して、読書好きのようだった。貸した本を次々に読破し、その度に本の感想で盛り上がった。
そんな中、貸した本の中の一冊が映画化されることになり、今回一緒に見に行くことになったのだった。
◇◆◇◉◇◆◇
そして現在──、映画の後、近くのカフェに入って一通り映画の感想を言い合った後ことだ。
陽奈が突然こんなことを言い出したのは。
「ねぇ、雪乃って彼氏いるんだっけ?」
「ん、ぐぅっ……っ!?」
まさかの質問に、陽奈と同じく頼んでいたアイスティーが口からこぼれそうになった。
「な、何で……」
「えーっ、だって雪乃美人だし、普通にいそうだなって思って」
「美っ……!? いっ、いないけど」
(び、美人って、私そう見えてるの!? いや、落ち着け。そんな訳ない。自分の地味さは一番良く知っているし、つまりあれだ、これはお世辞ってやつで……! いや、そもそも私彼氏いるように見えるの!?)
そんな雪乃の内心の動揺に気付かず、陽奈は話を進める。
「そうなの!? 意外~! でも、そっかぁ。もし、経験豊富だったら、色々相談乗ってもらおうと思ったんだけどなぁー」
「けっ……、いや、まぁ、別に話を聞くくらいなら私にもできるけど」
「本当!? 聞いてくれる~!」
かくして、何故か恋愛経験ゼロの雪乃は陽奈の恋愛相談に乗ることになってしまった。
「──えっ?」
そう言われて、ぼうっとしていた意識が覚醒する。
目の前に座っている女性──、会社の同僚でもある陽奈の顔を見ながら、雪乃は適当に答えた。
「聞いている、聞いてる」
「本当に~~っ?」
訝しげな顔で、アイスティーを飲み始めた陽奈を眺めながらつくづく思う。
(なんで、私この子と一緒に出掛けてるんだろう)
明るい、もはやオレンジ色に近い茶髪を両サイドに分けた、パーマがかったふわふわのツインテールと、バサバサと長いまつ毛に少し濃いめのメイク。爪もおしゃれなデザインに塗られていて、服は胸元が大きく開いており、タイトなスカートもかなり短めだ。いわゆるギャルっぽい陽奈に比べ、雪乃はただほどいただけの肩まで伸びた黒髪に、シンプルなシャツと細身のズボンを履いているだけの、いたって地味な格好である。
(………どう見ても、一見合わなそうなんだけどなぁ)
そんなことを思いながら、雪乃は陽奈と出会ったときのことを思い返していた。
◇◆◇◉◇◆◇
幼い頃からシングルマザーの家庭で育った雪乃の家はあまり裕福と言えるものではなく、雪乃は高校卒業とともにすぐに働き出した。
幸い、就職にも力を入れている高校だったため、高卒でも割と大きな企業に入ることができ、これで少しは母を楽にさせてあげられると思ったのも束の間、雪乃は約三年でこの会社を辞めてしまった。
ただ三年というのは我ながらよく持った方だと思う。
社員の人数が多ければ多いほど、いろんな人間がいる訳で。何故か雪乃は気づかないうちに一部の人間に目をつけられてしまい、過酷な仕事を押し付けられたり、書類を通してもらえなかったり、数え始めればキリがないのだが、中でも体調を崩した際に、何故か医務室ではなく倉庫で休めと言われ、そのまま放置されたのは辛かった。自力で起き上がることもできないし、意識が飛びそうな中、たまたま気づいてくれた親切な人がいてなんとか助かったものの、さすがに命の危険を感じ始めたので、思い切って辞めることを決意したのだ。
次は絶対に人数の少ない会社にしようと思い、中途で入社した今の会社で雪乃は陽奈と出会った。
アットホームな雰囲気の会社らしく、陽奈の見た目は少し派手だったが会社の人は容認しているようだった。陽奈は短大卒業後、新入社員としてこの会社に入社して約一年というところで、雪乃とは同い年だった。また、同じ事務職なので、一年先輩の陽奈に仕事を教えてもらうことが多く、自然と会話が増えていった。
ただ元々雪乃は人と積極的に話すようなタイプではないため、仕事以外では必要最低限話すこともなかったのだが、会社での仕事にも慣れてきて、昼休みに趣味である読書を楽しんでいると、不意に声をかけられた。
「ねぇ、それ何読んでるの?」
前の会社と違って、今の会社には食堂のような場所はないため、各自のデスクで昼食をとるのが主なのだが、陽奈とはデスクが隣同士だったため、自然と雪乃が読書をしていることに気づいたようだった。
「……えっと、ミステリー小説、みたいな」
(みたいなってなんだ、みたいなって!)
急に声を掛けられたことに驚き、思わず曖昧な返事をしてしまったことに自分自身でツッコんでしまう。
「へぇーっ! なんてタイトル? それ面白いの!?」
「えっ……、ぁ」
その勢いに押されて、上手く言葉が出てこなかったため、なんとかブックカバーを外して表紙を見せた。
「こ、こんなやつ……」
「へぇーっ! 知らないけど面白そう!」
「……興味あるなら、読み終わったあと貸してもいいけど……」
「本当っ! 嬉しい!! ありがとうっ!」
そう言って喜ぶ、陽奈の笑顔が眩しくて。
気が付けば、普段なら絶対しないであろう本の貸し借りが始まった。
陽奈は見た目に反して、読書好きのようだった。貸した本を次々に読破し、その度に本の感想で盛り上がった。
そんな中、貸した本の中の一冊が映画化されることになり、今回一緒に見に行くことになったのだった。
◇◆◇◉◇◆◇
そして現在──、映画の後、近くのカフェに入って一通り映画の感想を言い合った後ことだ。
陽奈が突然こんなことを言い出したのは。
「ねぇ、雪乃って彼氏いるんだっけ?」
「ん、ぐぅっ……っ!?」
まさかの質問に、陽奈と同じく頼んでいたアイスティーが口からこぼれそうになった。
「な、何で……」
「えーっ、だって雪乃美人だし、普通にいそうだなって思って」
「美っ……!? いっ、いないけど」
(び、美人って、私そう見えてるの!? いや、落ち着け。そんな訳ない。自分の地味さは一番良く知っているし、つまりあれだ、これはお世辞ってやつで……! いや、そもそも私彼氏いるように見えるの!?)
そんな雪乃の内心の動揺に気付かず、陽奈は話を進める。
「そうなの!? 意外~! でも、そっかぁ。もし、経験豊富だったら、色々相談乗ってもらおうと思ったんだけどなぁー」
「けっ……、いや、まぁ、別に話を聞くくらいなら私にもできるけど」
「本当!? 聞いてくれる~!」
かくして、何故か恋愛経験ゼロの雪乃は陽奈の恋愛相談に乗ることになってしまった。
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