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本編
7 三日目 昼
しおりを挟む僕は神官様のような、人々をさらりと救える神官になりたいのであって、アノンの言うような、レオン様たちのお顔やお金に惹かれている訳じゃない。アノンは誤解していると思う。
けれど、今のアノンに、どう言葉を繕っても届く気がしない。アノンの言った、僕を性奴隷にするだとか迷宮に捨てるだとかは、もしかしたら普通の冒険者パーティーならあるかもしれないけど、あの光り輝く聖剣を持つレオン様がなさる筈もない。
あの優しい光は、悪しき心を持つ人の周りにはないもの。
家の中は異様に静かで、どれだけ寝ていたのか。再び塞がれた窓から、既に昼のような明るい木漏れ日が差し込んでいた。
「……寝過ぎた」
自分のお尻に治癒をかけるなんて、なんて滑稽なのだろう。
薄暗いけど、板を適当に立て付けただけなので窓から外は少し、見えていた。
勇者様たちは、今日が最終日だ。明日の朝には、旅立ってしまう。
このまま、何も話せないままなのは嫌だ。
けれど、アノンが死んでしまうのも嫌だ。
ぐるぐるぐると考えながら、神官様から頂いた教本を取り出して、もう何度目かわからない文章を読み始めた。
けれど、全く頭に入らない。入ってはいるけど、文章が文字のまま理解出来ずにすり抜けていく。
窓の外では、見たこともない程巨大な脂猪をレオン様が掲げている。
脂猪なんて、産まれてから一度しか見たことがない。いつも子飼いの猪に守られているから討伐しにくい魔物のはずだ。その代わり、それはそれはもう、天に上ってしまう程に美味しいと聞く。僕なんか3、4歳ごろ、『子供にはまだ早い』と言われて親に食べられてしまったのをまだ根に持っている。
それも一撃で仕留めたのか、毛皮もつやつやと綺麗なまま。すごい。流石レオン様。
それを村人みんなに気前よく譲ってくれるようで、さすがの村長も嬉しさを抑え切れないのか、口角が上がっている。
今日はその脂猪があるからか、村の女の人たちがいそいそと飾り付けをしていた。男の人は解体するのに忙しそうだった。
夕方になり、宴が始まっても、僕はそこから動けないでいた。いいなぁ、なんて呟くだけで、自分から窓を壊して出ていく勇気もない。
ここから村の中心は、よく見える。広場になっているそこに焚き火をして、村の男も女も、じい様もばあ様もみんな踊っている。
勇者様たちもそれを見て楽しげに酒を飲んでいた。レオン様の両脇には女の人がくっついて、あっ、サラ姉さんがお酌をして、おっぱいが腕に……なんてことを!
恋人であるオーキッド兄さんはと目を動かせば、ヴァネッサ様に絡み酒をして、負けたみたい。ぐったりとひっくり返っていた。
再び目を戻すと、レオン様が腕にくっついたおっぱいを、苦笑しながら引き剥がしている所だった。残念そうな顔をするサラ姉さん。サラ姉さんのそんな姿、見たくなかったな……。
お母様とお父様、僕の弟は、控えめに広場の隅に居た。冷えた脂猪のステーキを皿に持って周囲に気を配っているのは、僕に持ってきてくれるのだろうか。立ち上がりかけると別の村人に声をかけられ、引き攣った笑顔でまた座り直すのを、繰り返している。
アノンは……笑っていた。
僕がいない時のアノンは、久しぶりに見たんじゃないだろうか。
両隣に女の子。二人とも、一度はアノンを取り合って喧嘩したこともある子。その時は、アノンが僕を庇ってくれたけど。
これほど快活に笑えたのか、と思うくらい、アノンは楽しくて仕方ないみたいに笑っていた。
そのうち、ララがアノンの頬にちゅっとキスをした。
「ーーーー!」
ガタッ、と窓枠に張り付く。なんで。嫌、そんなこと。
振り払って欲しい。その願いは叶わなかった。
アノンはお返しとばかりに、ララの頬へキスを送り返した。そして手が、彼女の腰に回って、色っぽく笑ったアノンは、あの子の唇に。
バッ、と目を逸らした。限界だった。
目から涙がこぼれ落ちる。
僕は?
僕は、一体、何なんだ?
微かに聞こえる黄色い声。男たちの囃し立てる喧騒も、聞きたくない。
座り込んで耳を塞いで、泣き続けて。
気付いた時には、もう宴は終わっていた。
アノンは、あのあとどうしたのだろう。
ララは、前からアノンを気に入っていた。アノンが村長の息子だから、将来有望!と言って。
そんな子にアノンを渡せるものか。そう思っていたのは、僕の独り善がりだったらしい。
なんだか、疲れたな。
僕は、何でこんな頑張ったような気がするのだろう。
何にも出来ていないのに……。
トントン、と音がする。
手足を投げ出していた僕は気付かなかった。
その音はどんどん大きくなって、バキッ、メキョッ、という異音になってようやく顔を上げた。
「やぁ、フェリスくん」
レオン様だった。
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