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5 三種の神器
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次の日になると、お父さんとお母さんが長野の方から僕を迎えに来てくれた。
「和也、いったいどこに行っていたんだ?」お父さんは僕の顔を見ると真っ先にそう聞いた。
それはもっともな質問だったけれど、納得してもらえるような現実的な答えを僕は用意していなかった。
「美津子たちと……」
「どうやらお友達同士で家出ごっこをしていたみたいですね。それで化け物に襲われてしまったところを、うちの娘と出会ったみたいです」芹那のお父さんがそう言って助け舟を出してくれた。
「家出ごっこ? 二か月もの間か……」
「家出と言うのは、思春期の子供には憧れのようなものなんでしょう。反抗期や、親離れと言った、複雑で繊細な時期ですから、大人の思いもよらないことを思いつくようです。あ、いや、うちの娘もそう言う時期があったもので」芹那のお父さんが何を言っているのか僕にはよくわからなかったけれど、僕の味方をしてくれていることだけはわかった。
「それよりも和也、あなた美津子ちゃんと正人君がどこにいるかわかる?」とお母さんが唐突に聞いた。
美津子は、わかると言えばわかるし、わからないと言えばわからない……、けど、正人?
「正人がどうかしたの?」
「和也、一緒じゃなかったの? ちょうどあなたと美津子ちゃんがいなくなったころに、正人君もいなくなったのよ。学校の方から連絡があったの」
「わからないよ……」
「本当に?」
「うん。何も聞いてない」
「そう……、それなら仕方ないのだけど」
正人のことは、僕も気にしていたのだ。昨日の夜も何度かラインで呼び掛けてみた。けれど、一向に既読すら付く様子もなかった。一度、様子を見に行くしかない。けどもし、このまま僕はお父さんに長野の方に連れて行かれたら、もうこっちにいつ戻ってこれるかわからない。そんなことを考えていたら、「ところで和也君のお父さん、お母さん。もしよろしければの話なんですが……」と芹那のお父さんが、僕がまた元の学校に通えるよう、芹那の家に下宿してはどうかと提案してくれた。
「剣が欲しい……」
僕は結局、芹那の家に置いてもらえることになった。
学校までは少し遠いけど、バスを使えば通えないほどでもなかった。芹那ではないが、奈良県まで歩いたことを考えれば、バスと歩きで一時間の距離など、取るに足らない距離だった。
そしてその日の深夜、「これからの作戦会議をしましょう」と芹那が僕の部屋にやって来たので、僕はまず「剣が欲しい」と言ったのだ。
「剣?」
「うん。化け物を退治するために、剣がいるんだ。それに僕はもっと強くならなきゃいけない。そのためにも、練習しなきゃ」
「剣って、剣道の竹刀ならあるよ? 私、昔やってたから。すぐにやめちゃったけど」
「違うよ。本物の剣だよ。天叢雲剣があればいいんだけど、向こうの世界に置いてきちゃったから……」
「天叢雲剣? 草薙の剣だよね、あるよ?」
「へ?」
「その剣なら、熱田神社ってところにあるはずだよ」
「そ、そうなの!? どうして知ってるの?」
「だって三種の神器だもん」
「三種の神器?」
「そうだよ。知らないの? 持ってるくせに?」
「持ってる?」
「そうだよそれ、和也が首からかけてるの、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)でしょ?」
「え、こ、これが?」そう言って僕は首から八岐大蛇が化けた勾玉を取り出した。
「そうそう、それそれ。どうして和也が持ってるのか知らないけど、それってそうだよ。写真見たことあるもん」
「で、三種の神器ってなんなの?」
「日本に伝わる三つの宝だよ。天皇様が交代する時、皇位継承の一つとして受け継がれてきたんだ」
「三つって?」
「一つがその八尺瓊勾玉でしょ、もう一つが天叢雲剣、もう一つが八咫鏡だよ」
「じゃ、じゃあ、天叢雲剣は、天皇様が持ってるってこと?」
「ううん、持ってない」
「え?」
「本物じゃないってことだよ。レプリカなんだ」
「レプリカ?」
「そう。天皇様が持っているのは、本物に似せた偽物ってこと」
「じゃあ、本物はどこにあるの?」
「八咫鏡は三重県の伊勢神宮、天叢雲剣は愛知県の熱田神宮、そして八尺瓊勾玉は皇居……、にあるはずだけど、和也が持ってるからね。でもね、本物って呼ばれるそれらも、本当にそこにあるのかどうかはわからないよの」
「どう言うこと?」
「天叢雲剣は、壇ノ浦の戦いで海に沈められたまま見つけられず、いま天叢雲剣として保管されているものは別の剣だと言う話がある。八咫鏡にしても、何度も火事に遭ってて、今あるのは作り直されたものだと言われている。それにそもそも、天皇様でさえ本物を見ることは禁止されているの。だから確かめることすらできない」
「見た人がいないの?」
「そう。見ることが禁止されているの。天叢雲剣なんかは、それを見た人が祟られて、って話まであるわ」
「それじゃあいったい……」
「探すしかないわね」
「探すったって」
「まあまずは、熱田神宮にある天叢雲剣が本物かどうか確かめるって言うのはどうかしら」
「もし違ってたら?」
「そうね、わからないわ」
「はっきり言うね!」
「私の性格よ。けど、思い当たる場所はある」
「どこ?」
「壇ノ浦よ」
「壇ノ浦?」
「さっき話したじゃない。天叢雲剣は壇ノ浦の戦いで海に沈められたって。もし今あるのが偽物だとしたら、本物と入れ替わるのはそこしかないわ」
「海の底を探すのかい?」
「そうよ」
「どうやって?」
「わからない」
「そう言うと思ったよ」
「何とかなるわよ!」芹那はそう言ってにっこりと笑った。
「和也、いったいどこに行っていたんだ?」お父さんは僕の顔を見ると真っ先にそう聞いた。
それはもっともな質問だったけれど、納得してもらえるような現実的な答えを僕は用意していなかった。
「美津子たちと……」
「どうやらお友達同士で家出ごっこをしていたみたいですね。それで化け物に襲われてしまったところを、うちの娘と出会ったみたいです」芹那のお父さんがそう言って助け舟を出してくれた。
「家出ごっこ? 二か月もの間か……」
「家出と言うのは、思春期の子供には憧れのようなものなんでしょう。反抗期や、親離れと言った、複雑で繊細な時期ですから、大人の思いもよらないことを思いつくようです。あ、いや、うちの娘もそう言う時期があったもので」芹那のお父さんが何を言っているのか僕にはよくわからなかったけれど、僕の味方をしてくれていることだけはわかった。
「それよりも和也、あなた美津子ちゃんと正人君がどこにいるかわかる?」とお母さんが唐突に聞いた。
美津子は、わかると言えばわかるし、わからないと言えばわからない……、けど、正人?
「正人がどうかしたの?」
「和也、一緒じゃなかったの? ちょうどあなたと美津子ちゃんがいなくなったころに、正人君もいなくなったのよ。学校の方から連絡があったの」
「わからないよ……」
「本当に?」
「うん。何も聞いてない」
「そう……、それなら仕方ないのだけど」
正人のことは、僕も気にしていたのだ。昨日の夜も何度かラインで呼び掛けてみた。けれど、一向に既読すら付く様子もなかった。一度、様子を見に行くしかない。けどもし、このまま僕はお父さんに長野の方に連れて行かれたら、もうこっちにいつ戻ってこれるかわからない。そんなことを考えていたら、「ところで和也君のお父さん、お母さん。もしよろしければの話なんですが……」と芹那のお父さんが、僕がまた元の学校に通えるよう、芹那の家に下宿してはどうかと提案してくれた。
「剣が欲しい……」
僕は結局、芹那の家に置いてもらえることになった。
学校までは少し遠いけど、バスを使えば通えないほどでもなかった。芹那ではないが、奈良県まで歩いたことを考えれば、バスと歩きで一時間の距離など、取るに足らない距離だった。
そしてその日の深夜、「これからの作戦会議をしましょう」と芹那が僕の部屋にやって来たので、僕はまず「剣が欲しい」と言ったのだ。
「剣?」
「うん。化け物を退治するために、剣がいるんだ。それに僕はもっと強くならなきゃいけない。そのためにも、練習しなきゃ」
「剣って、剣道の竹刀ならあるよ? 私、昔やってたから。すぐにやめちゃったけど」
「違うよ。本物の剣だよ。天叢雲剣があればいいんだけど、向こうの世界に置いてきちゃったから……」
「天叢雲剣? 草薙の剣だよね、あるよ?」
「へ?」
「その剣なら、熱田神社ってところにあるはずだよ」
「そ、そうなの!? どうして知ってるの?」
「だって三種の神器だもん」
「三種の神器?」
「そうだよ。知らないの? 持ってるくせに?」
「持ってる?」
「そうだよそれ、和也が首からかけてるの、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)でしょ?」
「え、こ、これが?」そう言って僕は首から八岐大蛇が化けた勾玉を取り出した。
「そうそう、それそれ。どうして和也が持ってるのか知らないけど、それってそうだよ。写真見たことあるもん」
「で、三種の神器ってなんなの?」
「日本に伝わる三つの宝だよ。天皇様が交代する時、皇位継承の一つとして受け継がれてきたんだ」
「三つって?」
「一つがその八尺瓊勾玉でしょ、もう一つが天叢雲剣、もう一つが八咫鏡だよ」
「じゃ、じゃあ、天叢雲剣は、天皇様が持ってるってこと?」
「ううん、持ってない」
「え?」
「本物じゃないってことだよ。レプリカなんだ」
「レプリカ?」
「そう。天皇様が持っているのは、本物に似せた偽物ってこと」
「じゃあ、本物はどこにあるの?」
「八咫鏡は三重県の伊勢神宮、天叢雲剣は愛知県の熱田神宮、そして八尺瓊勾玉は皇居……、にあるはずだけど、和也が持ってるからね。でもね、本物って呼ばれるそれらも、本当にそこにあるのかどうかはわからないよの」
「どう言うこと?」
「天叢雲剣は、壇ノ浦の戦いで海に沈められたまま見つけられず、いま天叢雲剣として保管されているものは別の剣だと言う話がある。八咫鏡にしても、何度も火事に遭ってて、今あるのは作り直されたものだと言われている。それにそもそも、天皇様でさえ本物を見ることは禁止されているの。だから確かめることすらできない」
「見た人がいないの?」
「そう。見ることが禁止されているの。天叢雲剣なんかは、それを見た人が祟られて、って話まであるわ」
「それじゃあいったい……」
「探すしかないわね」
「探すったって」
「まあまずは、熱田神宮にある天叢雲剣が本物かどうか確かめるって言うのはどうかしら」
「もし違ってたら?」
「そうね、わからないわ」
「はっきり言うね!」
「私の性格よ。けど、思い当たる場所はある」
「どこ?」
「壇ノ浦よ」
「壇ノ浦?」
「さっき話したじゃない。天叢雲剣は壇ノ浦の戦いで海に沈められたって。もし今あるのが偽物だとしたら、本物と入れ替わるのはそこしかないわ」
「海の底を探すのかい?」
「そうよ」
「どうやって?」
「わからない」
「そう言うと思ったよ」
「何とかなるわよ!」芹那はそう言ってにっこりと笑った。
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