48 / 52
正人の話 其の壱伍
しおりを挟む
近江大橋を渡ると、そこはもう顛倒結界の中にいるのではないかと思うほどの化け物がうろつきまわっていた。だが一番厄介なのは、やはり土蜘蛛か。
「そういや京都の顛倒結界の中には、土蜘蛛が多いって聞いたことがあるな」俺は最初の一匹を見ながらそう言った。
香奈子は竹刀を構え、何やら嫌な記憶でもあるのか、少し震えながら土蜘蛛を睨みつけている。
「さて。俺がこいつらを始末するのは簡単だが、月読尊、お前、こいつら倒してみろよ」
「えっ、私が!? 剣も使えないのにどうやって!?」
「そんなんでよく俺のことを殺すとか言ってたな」と言って俺は笑った。
「それとこれとは別よ」
「月の力を借りろよ」
「月の力?」
「そうだ」
「月に何ができるって言うの?」
「めんどくせー奴だなあ。いいか? 月ってのはな、破滅と復活の象徴なんだ」
「月の満ち欠けね、聞いたことあるわ」
「だがお前はまだ、復活の力しか使ってねーのさ。つまり、まだ半分だ」
「月に、破滅の力もあるって言うの?」
「物分かりがいいじゃねえか」
「それだけが取り柄よ」
「知らねーよ、そんなこと。とにかくやってみろよ」
「やってみるったって……」
「委員長の傷を治した時、いったいどうやった?」
「ただ抱きしめて、思いを込めたのよ」
「なんだかよくわかんねーが、その逆をやってみろよ」
「その逆!? それしか教えてくれないわけ?」
「俺がお前の力の出し方なんか知るわけねえだろ。ほら、来るぞ!」俺がそう言うが早いか、こちらに狙いを定めた土蜘蛛が、大きく口を開けて威嚇し飛び掛かってきた。香奈子は構えていた竹刀で土蜘蛛の牙を防ごうとしたが、逆に吹き飛ばされてしまった。
「ほら、早くしねえとやられちまうぞ」
「そ、そんな!」
八岐大蛇が助けに入ろうとしたが、「やめろ! 邪魔すんじゃねえ!」と言って俺がそれを制した。
月読尊は歯を食いしばり、拳を握って必死に土蜘蛛を睨んでいたが、特に何も起こる様子はない。
と、後ろからもう一匹土蜘蛛が現れた。それだけではなく、琵琶湖の方から無数の河童も現れた。巨大な足の生えただるまが怒り狂ったように駆け寄り、空からは炎に包まれた鬼の顔が迫り、瀬田の唐橋へと続く道路からは巨大な蜈蚣(むかで)が現れ、それ以外にも無数の見たこともない化け物がわらわらと集まってきた。
「どうすんだよ? 和也はいねーぜ。俺は助けねえ。ほら、委員長が食われちまう」
香奈子はあおむけになって土蜘蛛に両手を押さえつけられ、今にもその牙に噛みつかれそうになっている。だが唐突に香奈子の体から光の粒子が舞い始め、握り締めた竹刀を白い靄が覆い、微かに金色の光も見えた。
「いやああああああ!!!」と香奈子が土蜘蛛に向かって叫び声をあげると、それに怯んだのか土蜘蛛は香奈子の竹刀を持つ右手を離した。その隙に香奈子は竹刀で土蜘蛛の顔を打ち、浅くはあるが傷を負わせた。
「やるじゃねえか」
香奈子は土蜘蛛がたじろいだ瞬間、何とか自由になり、逃げるようにこちらに戻ってきた。そして俺は香奈子の首根っこを掴むと、もう一度土蜘蛛のいる方に高々と放り投げた。
「おまええええ!!! なにやってるんだあああああああああああ!!!!」と月読尊の叫び声が聞こえた。その瞬間、まるで次元と次元の狭間に体を捩じられるように「ぐわんっ!」と視界が歪んだ。そして体中のありとあらゆる場所がぶちぶちと音を立てるようにねじ切れ、体中の骨がぼきぼきと折れる音を聞いた。
ふと視界に入った月読尊の体は真っ黒な靄に覆われ、まるで黒い炎を吹きだしているようだった。視界に入る化け物がうめき声をあげ、黒い体液を吐き出しながらばたばたと死んでいった。
「こりゃ……、俺も駄目だ……」そう考えながら仰向けに倒れ見上げた空には、やはり視界を覆いつくすような巨大な月が浮かび、その月は早送りの動画でも観るようにみるみる欠けて鋭い三日月になり、あっという間に漆黒の月となった。
「このおおおおお!!! 殺してやるううううう!!!」と月読尊は叫ぶと、俺にさらなる鉄槌を振り下ろした。まるで月が俺の真上に落ちて来たかのように体が地面に押し付けられた。残っていた体の骨が全て砕け、頭蓋骨がメリメリと音を立てるのが聞こえた。
「へっ……、さすがだぜ……」俺は目に映るものが徐々に真っ黒になり、痛みも苦しみも何も感じなくなった。そしていよいよ死を覚悟したその瞬間、「芹那さん、やめて!!!」と香奈子の声を聞いた。
「駄目! 正人を殺しちゃ!」そう言って香奈子は俺に覆いかぶさった。
「香奈子! のきなさい!」
「いや! 正人は和也を助けてくれると言ったわ! その人を殺させるわけにいかない!!!」
俺は薄れる意識の中で、頬に落ちる香奈子の涙を温かいと思った。
「そういや京都の顛倒結界の中には、土蜘蛛が多いって聞いたことがあるな」俺は最初の一匹を見ながらそう言った。
香奈子は竹刀を構え、何やら嫌な記憶でもあるのか、少し震えながら土蜘蛛を睨みつけている。
「さて。俺がこいつらを始末するのは簡単だが、月読尊、お前、こいつら倒してみろよ」
「えっ、私が!? 剣も使えないのにどうやって!?」
「そんなんでよく俺のことを殺すとか言ってたな」と言って俺は笑った。
「それとこれとは別よ」
「月の力を借りろよ」
「月の力?」
「そうだ」
「月に何ができるって言うの?」
「めんどくせー奴だなあ。いいか? 月ってのはな、破滅と復活の象徴なんだ」
「月の満ち欠けね、聞いたことあるわ」
「だがお前はまだ、復活の力しか使ってねーのさ。つまり、まだ半分だ」
「月に、破滅の力もあるって言うの?」
「物分かりがいいじゃねえか」
「それだけが取り柄よ」
「知らねーよ、そんなこと。とにかくやってみろよ」
「やってみるったって……」
「委員長の傷を治した時、いったいどうやった?」
「ただ抱きしめて、思いを込めたのよ」
「なんだかよくわかんねーが、その逆をやってみろよ」
「その逆!? それしか教えてくれないわけ?」
「俺がお前の力の出し方なんか知るわけねえだろ。ほら、来るぞ!」俺がそう言うが早いか、こちらに狙いを定めた土蜘蛛が、大きく口を開けて威嚇し飛び掛かってきた。香奈子は構えていた竹刀で土蜘蛛の牙を防ごうとしたが、逆に吹き飛ばされてしまった。
「ほら、早くしねえとやられちまうぞ」
「そ、そんな!」
八岐大蛇が助けに入ろうとしたが、「やめろ! 邪魔すんじゃねえ!」と言って俺がそれを制した。
月読尊は歯を食いしばり、拳を握って必死に土蜘蛛を睨んでいたが、特に何も起こる様子はない。
と、後ろからもう一匹土蜘蛛が現れた。それだけではなく、琵琶湖の方から無数の河童も現れた。巨大な足の生えただるまが怒り狂ったように駆け寄り、空からは炎に包まれた鬼の顔が迫り、瀬田の唐橋へと続く道路からは巨大な蜈蚣(むかで)が現れ、それ以外にも無数の見たこともない化け物がわらわらと集まってきた。
「どうすんだよ? 和也はいねーぜ。俺は助けねえ。ほら、委員長が食われちまう」
香奈子はあおむけになって土蜘蛛に両手を押さえつけられ、今にもその牙に噛みつかれそうになっている。だが唐突に香奈子の体から光の粒子が舞い始め、握り締めた竹刀を白い靄が覆い、微かに金色の光も見えた。
「いやああああああ!!!」と香奈子が土蜘蛛に向かって叫び声をあげると、それに怯んだのか土蜘蛛は香奈子の竹刀を持つ右手を離した。その隙に香奈子は竹刀で土蜘蛛の顔を打ち、浅くはあるが傷を負わせた。
「やるじゃねえか」
香奈子は土蜘蛛がたじろいだ瞬間、何とか自由になり、逃げるようにこちらに戻ってきた。そして俺は香奈子の首根っこを掴むと、もう一度土蜘蛛のいる方に高々と放り投げた。
「おまええええ!!! なにやってるんだあああああああああああ!!!!」と月読尊の叫び声が聞こえた。その瞬間、まるで次元と次元の狭間に体を捩じられるように「ぐわんっ!」と視界が歪んだ。そして体中のありとあらゆる場所がぶちぶちと音を立てるようにねじ切れ、体中の骨がぼきぼきと折れる音を聞いた。
ふと視界に入った月読尊の体は真っ黒な靄に覆われ、まるで黒い炎を吹きだしているようだった。視界に入る化け物がうめき声をあげ、黒い体液を吐き出しながらばたばたと死んでいった。
「こりゃ……、俺も駄目だ……」そう考えながら仰向けに倒れ見上げた空には、やはり視界を覆いつくすような巨大な月が浮かび、その月は早送りの動画でも観るようにみるみる欠けて鋭い三日月になり、あっという間に漆黒の月となった。
「このおおおおお!!! 殺してやるううううう!!!」と月読尊は叫ぶと、俺にさらなる鉄槌を振り下ろした。まるで月が俺の真上に落ちて来たかのように体が地面に押し付けられた。残っていた体の骨が全て砕け、頭蓋骨がメリメリと音を立てるのが聞こえた。
「へっ……、さすがだぜ……」俺は目に映るものが徐々に真っ黒になり、痛みも苦しみも何も感じなくなった。そしていよいよ死を覚悟したその瞬間、「芹那さん、やめて!!!」と香奈子の声を聞いた。
「駄目! 正人を殺しちゃ!」そう言って香奈子は俺に覆いかぶさった。
「香奈子! のきなさい!」
「いや! 正人は和也を助けてくれると言ったわ! その人を殺させるわけにいかない!!!」
俺は薄れる意識の中で、頬に落ちる香奈子の涙を温かいと思った。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
社畜のおじさん過労で死に、異世界でダンジョンマスターと なり自由に行動し、それを脅かす人間には容赦しません。
本条蒼依
ファンタジー
山本優(やまもとまさる)45歳はブラック企業に勤め、
残業、休日出勤は当たり前で、連続出勤30日目にして
遂に過労死をしてしまい、女神に異世界転移をはたす。
そして、あまりな強大な力を得て、貴族達にその身柄を
拘束させられ、地球のように束縛をされそうになり、
町から逃げ出すところから始まる。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる